透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

きっかけ

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「実はこの前、力の色の話をしたじゃろう?その時に考え始めたら止まらんくなっての。」


そう言って白い魔法使いは、書類を以前はテーブルだった筈の本の山の上に置いた。
前に見た、力の色を調べた物だ。
でも、この前見せてもらったのはもっと多かった気がする。今日は、二枚だけだ。

本の上で反り返る、少し厚みのある古い紙。
白い魔法使いが使っている紙は、所謂物語に出てきそうな生成色の漉き紙。部屋の中を占める本の山と同じくらい部屋を占領しているのはその、厚い漉き紙が嵩張っているからではないかと思うのだけれど。
チラリと隣の山を見てそう思うのだけれど、この雰囲気は嫌いじゃない。

それもまた、魔法使いっぽいポイントなのかもね…。


そんな事をつらつら考えていると、白い魔法使いは彼が考えていたという、その、結論を話し始めた。

「色々考えたんだが、を実行するには石を使うか、人を使うかなんじゃよ。」

「石と、………人??」

「左様。まじない力を出す、もしくは光を受けるにはそれは人か、石か。その、どちらかしか無い。」

確かに。

もしかしたらあるのかも知れないが、白い魔法使いが知らないものは私も知る筈がない。
頷いて続きを聞く。

「石は、ここでは明度のいいものを調達するのが難しい。」

……………。
めっちゃ、隣の金の瞳を確認したかったけれど、多分私が気焔を見たら何だかバレそうだ。
とりあえず、我慢我慢。

「しかし、人なら、いる。」
「えっ。」
「ほれ。これじゃ。」

そう言ってウェストファリアが指したのは、名簿の中でもここ、グロッシュラーのロウワや子供達の欄だった。


「お前さんは読んだか知らんが、昔は今よりも多色の光が降った。まぁ、私が生まれるよりずっと、前の事だが。」

………これはトリルが言ってたやつだね?

「祭祀も、その程を整え「実験」と称して多色の光をお前さんが降ろす、それは可能じゃろうよ。それが、もしかするとこの子らの色なのか、お前さんの色なのか。それが各々のまじない力にどう影響するのか、それともしないのか。やってみんと分からんけどな。」

そんな事を言いながら、キラキラした瞳をくるりと回しながら「どうすればその実験を確実に効率良くできるか」を計算しているであろう、白い魔法使い。
助手でも、使いそうな勢いである。
実際、私も手伝いたいけど多分舞があるからなぁ………無理だよね…。




確か以前見せてもらった時は、デヴァイとグロッシュラーが大半だった、その名簿。
そしてラピス出身者、それも子供の方が色が違う者が多かった筈だ。
また改めて目を通していく。

「しかしミストラスは首を縦に振らんじゃろうて、如何にして………使えるものは…。」

白い魔法使いは一人、ボソボソと言いながらウロウロし始めた。きっと、第一の関門ミストラスをどう懐柔するのか悩んでいるのだろう。
でもきっと、あの人のツボは「あれ」の筈だ。
「まじない力が沢山集まりますよ」なんて言えばイチコロな気がするんだけど。

まぁ、私よりも付き合いが長い彼に任せておけば大丈夫だろう。


目線を名簿に戻し、名前と色をチェックしていく。
確か、ロウワは二階の礼拝室で祈るとシリーは言っていた。私達と同じく、下の礼拝堂で祈る許可が下りるのか。それは微妙だ。

名簿に見知った名前を幾つか見つけて、指で辿っていく。
そうして下の方に行くにつれて、女性の名前ばかりになる事に気が付いた。
まぁ、私の読み方が合っていればだけど。


「何でだろう?…………でも、結構色が、ある…。あの、神殿の下働きの人かな?」

気焔に指して見せながら確認しようとすると、背後から白い魔法使いが教えてくれる。

「それは貴石じゃよ。…………しかしな………。」

一言投げ、また独り言に戻る白い魔法使い。

ん?
貴石?
そこも、調べたの??
流石だな…………この人の前では、ロウワも貴石も関係無いのね………。

うん?
貴石?盲点かも………。だって、色が…。


でもさ、ロウワ………いや、駄目かな………。
でもまぁ何事もやって(言って)みないと分かんないよね?

チラリと部屋の中を歩き回る白いローブを目で追う。
さっきより遠くまでぐるりと歩いているウェストファリアを見て、「この人は大丈夫でも、その他が難しいかも」と思う。
さっきのブリュージュとビクトリアの反応も、気になるし。

でも、言うだけタダだ。

とりあえず、言ってみよ?


「あの………。」


「あの~?」


案の定、聞こえていない。
しかしそれも想定内だ。

まさか叫ぶ訳にもいかないので、仕方無く彼の側まで行く。
意外と歩くのが速くて、ちょっとおかしな追いかけっこみたいになっているが、本の隙間を先回りしてやっと捕まえた。

「あ、の。………フゥ、あの?」
「?どうした?」

私がだいぶ追いかけていたのにもやはり気が付いていないらしい。
まぁそうだと思ってたけど。

「ロウワの参加を考えてくれてるんですよね?それって…………貴石の人達は無理ですかね?」

青緑の瞳を大きくした後、少し顎に手を当て髭を撫で始める。
考え始めたと言う事は全くの無理、という事では無さそうだ。でも、この人の中では、だけど。


どう考えても、ギリギリロウワはセーフでも、きっと貴石は無理な気もする。
でも、やってみたい。

何故かと言うと、さっきの名簿の中に「紫」の色の人がいたから。

珍しくない?紫だよ?

もしかしなくても、降る光に違いが出るのは私の所為なのだろう。
ちゃんと、その人のまじないの色が降るのかは検証していないし、レナは「みんな同じ色」だと言っていた。

でも、「そう」願えばもしかしたらその人の色が降るかもしれない。
そうでなくても、ちょっと会ってみたいというのも、ある。紫の色を持つ人に。
言ったら、なんだか怒られそうだけど。

主に、あの金の石に。


チラリと長椅子の方を見る。

多分、私の提案は聞こえていた筈だ。
しかし彼の目線はそのまま名簿に注がれていて、何を見ているのだろうと私はそっちが気になってしまった。

女の人名前、見てるのかな…………。


何だかモヤモヤし始めた所で、返事が来た。
それは流石というか何というか。
ウェストファリアらしい、返答だったのだけど。


「やはり気が付いたか。お前さんも「紫」が気になったのじゃろう?」

青緑の瞳がキラキラしている。
うん、これはやる気になってくれた様だ。それは何よりなんだけど。

私は気になっている事を訊ねる。

「でも、やっぱり許可が出ませんかね?ロウワまでは何とかなっても……………。」

そう、言ったものの既に白い魔法使いの瞳にはやる気の色が浮かんでいる。
多分、どうすれば「それ」が実現出来るのか頭の中では物凄い計算が行われているに違いない。

固まった彼を少し眺めて動かない事を確認すると、私はまた金の彼に視線を戻す。
既にいつもの様に私を見ているその外用の茶の瞳を見て安心すると、さっきのモヤモヤを思い出して首を傾げた。

何だったんだろう?あの、モヤモヤ………。



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