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7の扉 グロッシュラー
光の相談
しおりを挟む次の日起きた時には気焔はもう、居なかった。
何だか少し寂しかったけど、身体の内側がキラキラしている気がして心強かった。
多分、私は一人でも行ける。
そう、今日はウェストファリアにお願いに行くつもりだから。
あの後、私は「もう、寝るぞ。」と自分で言った割にはボソボソと本来のお願いを呟いていた。
だって何となく、「今ならきっと聞いてもらえる」という感触があったからだ。
「多色の光を降らせたい」
という事と
「ウェストファリアにお願いして、実験の程を整えてもらう事」
だ。
私のそのつらつらとした計画を聞いて、気焔はずっと何かを考え込んでいたが最終的には頷いてくれた。
もしかしたら、それもあって何か手回しをしに行ったのかも知れない。一応、レシフェにも伝えておいて欲しいと私が言ったから。
多分、この件は私がウェストファリアにお願いする事によって、もし実施される事になればグロッシュラー全体に伝えなければならない筈だ。
今迄には有り得なかった、光が、降る。
きっと初めて見た人々は物凄く、驚くと思う。
いや驚くだけで済むといいけど。
それに、絶対、嬉々としてやってくれると思うんだよね………。
朝の礼拝中にそんな考え事をしながらやっていたら、ローブを踏ん付けて危うく顔から転びそうになった。
みんな見ないフリしてくれてたけど、絶対、バレてるよね………。
何だかいつもより見られている気がしたのは、その所為かな?
もしかしたらあのモヤモヤが気になって、背後を気にしていたからかもしれない。
そう、私はいつも一番前にいるので普段はどうなっているのか見られないのだ。
今度、午後の礼拝に忍び込もうかな…………。
「で?結局ヨルは何が知りたかったの?」
「私も思ったよ。結構な人数に訊いたのだろう?」
その礼拝の帰りにブリュージュに呼び止められ、今日はビクトリアも交えて久しぶりに三人での朝食だ。
銘々好きな物をトレーに乗せ、奥の席を目指す。
二人が歩きながら「食事が美味しくなった」と話をしているのを聞き一人ほくそ笑む。
うんうん、テトゥアン頑張ってるな…。
席に着くと、一応二人には何となく説明しておいた。確かに、訊きっぱなしだったから。
「ここって、娯楽とか無いじゃないですか。みんな、綺麗なものを見たり、楽しい場所?遊び?みたいな事ってあるのかなぁと思ったんです。私は全然知らないから…。」
そう、私が話すと二人は顔を見合わせている。
そして、ビクトリアが少し声を落として訊いてきた。
「ヨル。それ、男子生徒にも訊いたな?」
「はい。何人かは。」
「まぁ、殆ど男しかいないから仕方が無いんだが。」
また、二人は顔を見合わせる。
今度はブリュージュだ。
「で?何か変な事言われなかったか?あの、青の彼は?」
凄く、心配そうだ。
なんかまずい質問だった?秘密??あるの?
「はい、何人かに訊いて回ったらすぐ怒られました。それからは少し知り合いに聞いた程度ですけど………。」
「なら、良かった。あのね、ここで娯楽、って言っちゃうと………。」
「なぁ?」
「ええ。」
「え?」
くるりとブリュージュが私を正面に据えて真剣な顔で話し始める。
私も思わず、フォークを置いた。
「ちょっと………ヨルにはまだ早いかもしれないけど。気落ちしないで聞いてね?みんながみんな、そうな訳じゃ、ないんだけど。」
うん??なんだろう?
「あのね、ここには「貴石」って言う女の人が集められている所があって。」
…………知ってる。
でも、デヴァイの女性である二人が貴石をどう捉えているのか知りたかった私は、そのまま「ふむふむ」話を聞く。
少し、躊躇った後ブリュージュは私の様子を見ながら話し始める。
「私達も、なんと言っていいのか…。あんなもの、無くしてしまえばいいと思うのだけど。」
おっ。
結構ズバリ、「無い方がいい」という意見。
ブリュージュがこんな言い方をするのは、珍しい。
しかし、この前の女子のお茶会で「行かれたら嫌だ」と答えた私としては、その気持ちは分からなくもない。
ただ、この大人の女性から見て「無い方がいい」という意見は私のヤキモチと同じものなのか?
もっと、理由があるんじゃない?
少し、辺りを見渡す。
食堂で話す内容なのか、微妙だから。
私のその様子を見ていたビクトリアはきっと、言いたい事が解ったのだろう。
声を潜めて話し始めた内容は、思った通りやはりもう一歩踏み込んだ内容の話だった。
「大きな声では言えないし、公になっていない事も多いが。」
(貴石の女に子を産ませる奴がいるんだ。まじない力が高い女が集められているからな。デヴァイも、力の事でかなり困っている家もある。だが、そのやり方は………上手くない。)
口に手を添えて囁かれた、その内容。
小声でビクトリアが語った内容は、きっと、もっと続きがあるのだろう。
表情の苦さがそれを物語っていて、ビクトリアを見るブリュージュも複雑な表情だ。
やはり、二人とも良くは思っていないのだろう。
でも……………。
そうなんだ。
私はその話が、意外だった。
だって、デヴァイの人達って他所の世界を「穢れてる」って思ってるんじゃなかった?
ベオ様もそれで「レナとは結婚出来ない」とか言ってたよね?
でも?
子供は力の為に作るって?
なにそれ。
やば………。駄目駄目。抑えるんだ。
自分の中のモヤモヤが燃え上がりすぎない様、意識して抑える。
とりあえず、二人にはびっくりした様な顔を見せておき、ゆっくりとお茶を飲む。
きっと私にこの話は早いと、そんなに深くは話す気がないのだろう。
もう、ビクトリアが話題を切り替えて私達は食事を進めた。
朝食タイムはそう、長くない。
二人はこの後も忙しい筈だ。
うーーーーん。
それにしても。
モヤモヤしながら食事を終えた私。
忙しそうな二人と別れ、図書室へ行くべく深緑の廊下をトボトボと歩いて行った。
実は今日、アポは取っていない。
そもそもどうやって約束するのか、というのもあるが一応教師なのだから、私が突然質問に行くのは構わないだろうと思ったのも、ある。
後は約束しておいても、きっとあの人の都合で居ない時はきっと居ないだろう事が分かるからだ。
それなら突然行く方がいい。
都合が悪ければまたにすればいいだろう。
でも、よっぽど手が離せない状態でなければ彼がこの話に乗ってくるであろう事が分かっている私は、余裕でフンフン言いながら本棚の間を進んでいた。
「あっ。」
「おや。どうです?解釈は進みましたか?」
ヤバ。
会わない様にしてたけど、無理だったか………。
振り向いた先に見えた青ローブ。
ネイアがいなそうな通路をぐるりと廻ったつもりだったが、やはりここはラガシュのホームだ。
会わない様にしようという考えが甘かった。
私は、光の如何によっては祝詞が変化すると漠然と感じていた。
だって。
ちょっとアレして歌った位であの、光。
「今迄に見た事のないくらい美しい光」を出そうと思って舞ったなら、祝詞に込める意味合いも変わってきそうだしそれを確かめてからラガシュの所へ行こうと思っていたから。
今、会ってしまうと若干気まずいのだ。
結構、待たせてるし。
ラガシュがどう思っているのかは、分からないけど。
「すみません。もう少しなんですけど。」
私の言い訳を聞きながら近づいてきたラガシュは嬉しそうにニコニコしている。
「いえ、いいんです。ゆっくりで。通り一遍の解釈ではなくあなたの解釈を期待していますので。」
?
「私の」解釈?
所謂普通の祝詞の翻訳と、何が違うのかは分からない。けれどもラガシュの表情からして、多分私があの「青の本の関係者としての翻訳」を期待されているのが分かる。
でも別に私は彼の期待に応えなきゃいけない訳じゃないし、そもそも何を期待されているのかも分からない。
まぁ、普通に結果を報告するしか無いのだけれど。
少し、困った様な笑みになったと思う。
でもとりあえず笑って誤魔化して、「頑張ります。」と言っておいた。
さて、ウェストファリアの所へ行ったらどんな結果になるか。
なんだか私もちょっと楽しみになってきたぞ?
そうしてやっと禁書室の扉の前で、咳払いをしてからノックをした。
「あれ?」
見慣れた金髪、青いローブ。
何故だかビロードの長椅子には、既に気焔が座っていた。
「遅かったな。」
来てくれたんだ。
きっと私が昨日つらつら話していた内容を聞いて、用事を済ませてから待っていてくれたのだろう。
でも既に部屋の中に居るのは意外だったけど。
私の事、迎えに来そうなのに。
いやいや、過保護か。
でも気焔がいるなら話は早い。
私が昨日話した内容で、多分気焔が一番心配しているのは「多色の光」の部分だ。
勿論、ウェストファリアは光を降らす事は賛成してくれると思う。
なんだか、以前「実験したい」みたいな事言ってたし。
多分、その多色の光を降らすための理由付けが気になってやってきたに違い、無い。
確かに私もその理由が思い付かなくて、ここに来る事にしたのだ。
その、「世にも美しい光が降ってもおかしくない状況」の想像がつかなかったから。
私が部屋へ入るとウェストファリアもいつもの奥の机から移動して来る。
見ると、いつの間にか長椅子の隣には1人掛けのビロードの椅子があった。
本でも片付けたら出てきたのだろうか?
まぁ確かにこの部屋に長椅子一つじゃ、少ないとは思ってたけれど。
その、空いている1人掛けに腰掛けた白い魔法使いは私と気焔を交互に見ながら髭を弄び待っていた。
この感じだと、まだ何も話していないのだろう。
まぁ、お願いするのは私だからそれは当然なのだけど、もしかしたら先に根回ししていそうな気焔をチラリと見てから、私もビロードの上に座った。
多分、このまま話していいんだよね?
チロリと動く、金の瞳。
私を見る時だけ一瞬変化した、その何か作り物の様な潤んだ曲線に、つい見惚れてしまう。
何だか、昨日から私は少しおかしいのだ。
本当に美しくて、少し怖いその輝きと動きにドキッとしたが促された様な気がしたので気を取り直して、そのまま話し始めた。
「今日はお願いがあって、来ました。」
「ふぅむ?」
「あの、今度の雪の祭祀で今までに見た事のない様な、この世のものとは思えない美しさの光を降らせたいんです。」
「うむ。分かった。」
「えっ?!」
ウソ?なんで?
いや、お願い聞いてくれた方がいいんだけど。
え?
出来るの?
勿論、私は100%やる気だ。
しかし、こうもあっさり返事が来るとは思っていなかったので、ちょっとズッコケそうになったのも、事実。
危なく旧いリアクション取って突っ込み不在になるとこだったわ………そう、朝は今日一緒じゃないから。
思わず隣の気焔を見る。
もしかしてやっぱり、根回ししていたのかと思ったのだ。
しかし、彼は目が合うと首を横に振った。
えっ。違うの?
また、向かい側の白い魔法使いを見ると彼は既にまた奥の机に移動して何やらガサガサ探している様に見える。
暫くブツブツ言っていたかと思うと、お目当てのものが見つかった様だ。
「どこへやったか………あったあった。」
そうして白い魔法使いが持って来たのは、意外なものだった。
それは、この前色の話をした時に見せてくれた、人々のチカラの色を調べた、書類だった。
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