透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

楽しいこと ワクワクすること 美しいこと

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最近、おかしな事を始めたあの娘。

それは勿論、ヨルだ。

まぁ、以前からおかしな事は散々やっているが最近は特に酷い。
何故かって?

だってそれは噂になる程だからだ。



あまりにもあいつが派手に動いているから、最近の俺は神殿の廊下をパトロールする事に忙しい。

大体、あそこにいれば噂話の大概は耳に入るからな。





「ああ。俺も訊かれたぜ?あの、銀の子だろう?」
「そう。俺も。初めて話したんだけどその内容がそれ。どう思う?」
「いや、どうって………なぁ?」
「まぁな。」


こうしていきなり初対面の男に話しかけたり…。


「ねぇ。ヨルに訊かれた?」
「勿論。君はなんて答えたんだ?」
「私はねぇ………。「ここ」ではあまり、無いわよね?向こうに帰れば、子供達がいるけれど。とりあえず「神殿の窓」とか言っちゃった。」
「ああ、分かる。私なんか全く思い付かなくて「アイプの色」とか言ったら喜んでたぞ?」
「ああ、それは喜ぶかもね…あの子のツボが謎だけど。」
「違いない。」


まぁ、この二人に訊くのは良しとしよう。
そう、知り合いに訊け、知り合いに。


「ダーダネルスもか?」
「はい。クテシフォンも?」
「そうだ。造船所でも訊きまくってたぞ?大丈夫か?あれは。」
「出来るだけ気を付けますが、どうでしょうか。図書室以外は………。」
「まぁ、あいつにも言っておくよ。一応、婚約者だしな。おかしな誤解を招く前に。」
「そうですね。お願いします。」


うん、この辺なら大丈夫だろう。
しかし、気焔は知らないのか?
これだけ派手に動いていれば耳に入るだろうに?


しかし俺の心配は数日後に解消した。

流石に怒られたらしい。ヨルが。気焔に。
そりゃそうだよな?
ただでさえ「知らない奴と話すな」と言われているのに、片っ端から声を掛けたんだから。

まぁ、少し落ち込んでいたが仕方が無い。
少し強めに叱っておかないと、またやるかもしれないからな………。あの、じゃじゃ馬は。


しかしその後もヨルの聞き込みについての噂は囁かれていた。だが、意外とこぼれ話の方が本音が出るものだ。
結構あいつに答え難い話も、そりゃあるからな。


「あれさ、俺。」
「うん?」
「やっぱりここと言えば「あそこ」だろ?」
「まぁな。外観も、他に見ない色なんだろう?見た事あるか?」
「いや。俺は無いけど、トゥールーズがチラッと見たって話!まじない館なんじゃないかって。」
「へぇ。今度、計画してみるか。祭祀で家から来るだろう?」
「まぁ、兄さん方なら気持ちは分かるだろうな。」
「ああ。」
「よっしゃ、決まり。」


うん?祭祀で誰か来るのか?
聞いていないぞ?
とりあえず他に何か知ってそうな奴は…………。
ああ、いたいた。


「…………今年は二人揃います。よりにもよって、今年ですか………。」
「何かまずい事でも?」
「あなたが呼んだ訳じゃ無いですよね?シュマルカルデン。」
「………いいえ?」
「とりあえずアリスの面倒は見て下さいよ?私はあの子のお守りで忙しい。」
「…………ヨル、ですよね?」
「ええ。祭祀に舞があると伝えるのを失念していました。すっかりいつも通りに…いや。これから急いで仕込まなくては。」
「では、彼方には?」
「ああ、新しい銀がいる事は通達済みです。」
「………そうですか。分かりました。」

「おかしな気を起こさないといいのですが………。」


おいおい、ミストラスさんよ。
それを何とかするのがお前さんの役目なんじゃないのか?
頼むよ?
それにしても「二人が揃う」って、誰と誰だ?
一人はあの嫌味な奴、シュマルカルデンの身内だとして…。でも揃うとマズいって事はもう片方も銀の可能性が高いな。
何だかヨルのお披露目会みたいになってないか?
大丈夫なのか、あいつ。

しかもさっきのセイア達の話。あれもこれ絡みだろうな。銀以外からも誰か来るのか?
もう少し情報を集めないと………。




そうして何日か、白い廊下を飛び回っていた。

そしたらまた厄介な噂が飛び込んできたぞ?


「おい、聞いたか?」
「何が。」
「「赤い髪の幽霊」の話!」
「ああ!聞いた!この前、礼拝堂から出て行ったのと、また別のやつか?」
「そうだ。今度は館で出たんだよ~。俺達男子の範囲の筈なのに、長~い髪が見えたんだと…!俺、ちょっと怖くなってきたわ………。」
「確かに夜は会いたくないかもな。」
「でもさ、それ本当に女だったらどうするよ?」
「まぁ。そりゃ。」
「やっぱり?いいと思う?」
「いいんじゃね?どうせ貴石………はあり得ないだろうがロウワか、まじないで紛れ込んだヤバい奴だろ?捕まえてもバレないだろ。」
「やっぱり?」
「ああ。捕まえたら教えろよ?」
「お前もな?独り占めするなよ?」
「これ、どの位の奴が知ってる?」
「いや………男連中………ってほぼみんな男だけど。知ってんじゃね?」
「そうだよな………。早いよな。多分。」
「間違いない。」


「赤い髪」の件で留まりたかったが、手頃な留まる場所が無かったので頭上を旋回する。
疲れるんだが。
しかし何だかヤバい話になっていて、離れる訳にはいかない。

そもそも、赤い髪はあの日ビクスが出来心でやっただけ、と聞いているが?
何故こんなに目撃者が多い?
只の、噂か……………?
何しろもう少し調べる必要がある。そしてあいつらの話した内容も、気になる。
「目耳」は飛んで無いな?アレはヨルに付いてるか…。
あの金色にバレたらこいつら消えそうだからな…。とりあえず事件が起こる前に、芽は摘んでおけばいい。
噂の出所は、何処だ?


ん?
久しぶりだな………。
普段何してるんだ、あいつ。
大体事情は聞いてるが、協力者なんだよな?一応。全然姿を見ないから、本当に協力者なのか微妙だけどな。あの、白い髪。

ん?俺に気が付いてるな。
ふぅん?
………あいつ普通じゃない、と。
とりあえず赤い髪を見かけたらちゃんと注意してくれよ?本当に居るとしたらだけどな。





この数日中、ヨルはずっと暇を見てはミストラスに「舞い」を教わっていて、忙しそうだ。
まだ祝詞の解釈で唸っているし、図書室、たまに造船所、そして祭祀の準備。
舞はそう難しいものではなさそうだが、何だか「失敗出来ない」とかで本人は緊張気味だ。

レシフェと気焔も祭祀の準備と、ヨルがこの前作った石の話で何だかバタバタしている。
どうやっているのか知らんが、ウイントフークに送ったりしている様だ。もしかしたらあの、ブラックホールをまた作ったんじゃないかと俺は思っている。
アレはレシフェの思う通りにものを送ったり出来るらしいから。以前は俺も送られそうになったけどな…。


そうして沢山の噂話や、主に下らない話、下世話な話、愚痴、企み等を俺が収集している間。

あいつが収集しているのは、何だかフワフワしたもの、だった。



「ベイルートさんは、何してる時が一番楽しいですか?この世の中で、一番綺麗だと思うものは?」
「あ?」
「ちょっと考えてみて下さい?綺麗な景色でもいいし………。」
「ふぅん?」

一番楽しいこと…………?何だろうな。
やっぱり………アレか?

「あっ!分かった!」
「ん?何がだ?」
「あれですよ、計算してる時でしょう?あの時のベイルートさん、キラキラしてるし。楽しそう。」

そんな風に見えているのか?それは知らなかったな…。

「悔しいが、正解だ。計算が一番、落ち着くしな。」
「確かに、落ち着く、とか安心もいいですよね………。」
「………お前は一体何をそんなに探しているんだ?ん?探してる、のか?」


ヨルはしばらく例の「ぐるぐる」というやつをしていた様だが、ふと、気が付いた様に戻ってきた。

「まだ、気焔に怒られて途中なんですけど。」
「ああ。」
「みんなが、何をしている時が一番楽しいのかと思って。やっぱり人によって違うじゃないですか。一人で考えるにはやっぱり限界がありますよね………それに年齢とか性別が違うと、また全然違うし。私じゃハリコフやグラーツが何すれば喜ぶのか、全然分かんないんですもん。」
「成る程。この前地階に行った時の話からこうなってるという訳か。」

一体何を始めたのかと思っていたが、そういう事か。それなら納得だな。
ヨルらしい。

「色々、考えたんですけど私に出来ることってやっぱりそんなに無くて。言葉で伝えても、まず入っていかないと駄目なんですよね………。多分、まだ土台が出来てないというか………。」
「解るよ。まぁ、そうだろうな。今迄の事がある。」


俺ですら子供の頃は拐われたりした事がある。
無事保護されたから(まぁ逃げ出したんだが)良かったが、そもそも拐われたり、なんなら親に売られた奴も多い。

心の隙間を埋めるのは、容易い事じゃ、ない。

そもそもの前提の事実から既にマイナスなのに、更に奴等に未来は無いに等しい。

「生きて」いる事は出来るかも知れんがさて、「意志のない」「生きる」がどれだけのものだろうか。
それでも「毎日、寝て起きて食べれる事が幸せ」と思えるだろうか。

俺には、分からん。

「そう」思える奴もいれば、思えない奴も、いる。
それだけの事だ。

大体、色んな奴に話を聞いて、そしてそれを実行して。
それでもしかし、奴等が希望を持てるかは判らない。無駄かもしれない。
そもそも、セイアとは基準が違うだろうしな。
そこ分かってんのか?

まぁ、それでもそれしか無いなら「やってみる」のがあいつのいい所だけどな。

もしかしなくても「何を貰ったか」という結果よりも、「どうやってそれをもたらしたか」という過程の方が今のあいつらには必要だろうよ。
あいつらの為に、奔走する奴がいる、その「事実」こそがな。

「もの」とか「ことば」じゃなくてここで重要なのは「行動」だ。


空虚なものが多い、偽りの多い、この世界で。

あいつらに示せるものと言えば、一つ。


それが「光」だと、あいつは言う。


そう言うあいつだから、俺も虫になった甲斐があるんだけどな。
さて、また情報収集にでも行くか。

あいつ、人に訊いといてまた自分の世界に入ってるし。


予言の事があっても無くても、俺達の、姫よ。
そのまま真っ直ぐ、進んでくれよ?


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