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7の扉 グロッシュラー

まじないの色

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何となくの大円団で、地上に帰って来た私。

もしかしたらクルシファーが仕事をしたのかもしれないなぁと思いながら、一人、ぐるぐると考えを巡らせていた。




あの後、始め私が寝ている間に朝が手回ししてくれていたらしく、ロウワと子供達は午後からの造船所に出掛けて行った。

「こういう時の、身分でしょ。まぁあのモジャモジャは怒らないと思うけど。」

そう、朝に言われて安心した。
けど、シュレジエンをモジャモジャ呼ばわりは可哀想だと思う。あの人、いい人だし。



みんなを見送って、私は何だかぐるぐるを整理したくて礼拝堂にやって来た。

と言うか、ボーッとしながらトボトボ歩いていたら気が付くと礼拝堂だったのだ。


そうして今、隅のベンチに座っているという訳。


礼拝堂に入り、一人でゆっくり考える為に「お願い。」と言うとビクスが請け負ってくれた。
だから、私は今、透明の私だ。
こっそり考え事をするには、丁度、いい。

きっともうすぐ午後の礼拝の時間だろうから。
色々話し掛けられると面倒だし?

準備を整えた私は、またぐるぐるの中に沈んで行った。






えーと。
ブランの事。
これは、とりあえず保留でもしかしたら臙脂の袋の中で元気になるかもしれない。は確か、ウイントフークとレシフェのまじないで出来ているから。もしかしたら、力が貰えるかも。
うん。
何かあの二人の力………いやいや、大丈夫、多分。


地階の勉強は。
先生、要るな………レナは?レシフェ…は多分無理だから………。
レナって、あの子達と知り合い?………でも、そうだよね?貴石見習いだと場所、あっちなのかな?
始めから?
でも、レナなら適任かも。私とも近くに居られるし。これって誰許可?ミストラスさん??
コッソリやったらバレるよね………まぁレシフェに聞けば分かるかな?うん。名案。
お店もアレだよね、私の世界みたいにずっと開けてる訳じゃ無いよね?うーん。どうだろう。
完全予約制とか?
でも電話とかメール無いからな………そんな時こそまじないじゃん!
いや、でもとりあえずレナに相談だな。
無理なら何とかしてもらお。
うん?テトゥアンとかどうかな?読み書きならいけるよね?こっちがいいかな………。
でもレナ入れたら刺激になっていいと思うんだよね………色んな意味で。


それで、とりあえず私のやる事は………。
取り急ぎは祝詞の解釈………。宿題全然やってないわ。
でも何だかんだでヒントが集まって来たよね?
何か「剣」とか。

えっ。
それだけじゃん。

んで?
「氷の刃」だから、「斬り裂く」んでしょ?
それであの「剣」がきて………どっから?
そもそも、「氷の剣」って事?
益々、どっから???


祝詞に関して言えば、私が気になっているポイントが、他にも、ある。

通常、毎日私達が祈りを捧げる祝詞の最後にくる
「解放しろ  開放しろ」

そして雪の祭祀の祝詞の最後が
「開放しろ  解放しろ」


気になるよね?これ。
順番が違うんだよ…………。
訳す時、めっちゃこんがらがったもん。

始め私は、通常の祝詞と同じく訳していた。
しかし、一文字だけ文字が違って、そうすると意味が少し、違ってくる。
これで合っているか、最終的にはラガシュに確かめないと判らないが「開け放つ」と「解き放つ」があるのだ。
迷った挙句の、この翻訳。

何か順序は関係あるのだろうか。
普段の祝詞は何を解き放って、雪の祭祀では何を開け放つのか。



でもさ。
「何を開け放つか」
と言われれば。

しかないでしょうよ。
よ、

だって、「斬り裂く」んだよ?
そして「開け放ちたいもの」。


そんなの、「空」に決まってる。


何故だか、最初からそう思えるもの。
それが「空」だ。


だからさ、やっぱり「剣」が必要なのよ。
あの、厚い雲たちをバサーーーっと斬り裂ける、ものが。

どこから調達する?
レシフェ?白い魔法使い?うーーーーーん?
ウイントフークさんのお母さんとか?
でも、まだ会ってないしな………。

しかも私は雪の祭祀で「光の色」をみんなに見せると約束した。
正直、光の色だけで良ければ、朝飯前だと思う。
何なら、これから歌えば多分、光は降りるだろう。


でも。
多分駄目って言われるんだよね………。

さて。
どこから切り崩すか。

でもとりあえず光が降る事自体は決定だから、とりあえず気焔でしょ?
あ、じゃあ気焔石に戻らなくてもいいじゃん。
一石二鳥!ん?何か意味違うな?まぁいいか。

多分………これは白い魔法使い案件だな。
何か上手く「実験をしたい」とか言って、出来ないかな?
フフッ。本人は絶対、やりたがると思うけど。

問題は…………あそこだな…後は根回しをどうするか。


ふと、考える。

もし、気焔が駄目だと言っても。
これは、私の矜持にかけて止められない事に、違いないのだ。


だって、他に思い付かない。
難しいよ。希望を抱かせるなんて。
夢を、見せるなんて。

その後の、責任を取る事だって。


でも、「私が」出来る事で自信を持って、やれる事。

それは、美しい色を見せること。
夢の様に美しい世界は存在するのだという事を、示すこと。
そうして光の先には、「空」があると言う事を証明すること。


希望ってさ、美しいものだと思うんだよね…。
何となくだけど。

だって、最後、箱の中に残っていたものはきっと、光っていたに違いないよ。


何色にしよう?
七色?みんなの、髪の色?
…………いやぁ、やっぱオーロラでしょ。

決めた。





辺りが騒めいてきた。
私がぐるぐるに沈んでいる間に、礼拝の準備が整った様で正に今、始まろうかという所。

やば。今更、出れない。
後で怒られるかな…………。


しかし私は後から聞いたのだが、「毎日ある」と言われていた礼拝は確かに毎日あるのだけれど、参加自体は一日おきでもいいらしい。
ミストラス曰く「そんなに力を吸ったらセイアにはキツイでしょう」とか、怖い事言われたけど。
とりあえずこの時はまだそれを知らなかったので、今更出て行く訳にもいかずじっと隠れていた。
うん、見えないんだけど。



いつものミストラスの声で祝詞が始まる。

あの、少し怖い話を聞いてからも何だか好きな、この声と抑揚、不思議なリズム。
だから多分、この礼拝自体悪いものでは無いのだろう。
「あれ」に祈っている事は間違い無いんだけど、祈り自体は厳粛な儀式の筈だ。
「祈る」という「行為」。
それにも、力があると私は思う。


私は礼拝堂後方の隅に座っているので、普段は見えない礼拝の後ろが見える。

後方はみんな、セイア達だ。

今日は黄色と赤が目立つかな?
うん?でもどれもどれかなぁ………。
あ。ガリアがいる。ダーダネルスも背が高いからすぐ分かる。フフッ。
運営で見た人が何人かいるな………。
あっ。エンリルだわ………オルレアンもいる。

こうして見ると、見た事ない人の方が少ない………かな??


祝詞も後半に入ってきた。

ミストラスにも力が入り、「あの絵」に捧げているのだと思うと微妙な気分になる私。


その時、変化は起きた。


何あれ………。

えっ?
オバケ?
いやいや……………。


ある、一定の場所にだけ立ち昇る、靄の様な、もの。

人々の頭上に出ている「それ」は立ち昇った後、一定の高さまで上がるとスッと吸い込まれていく。


あれだ!

瞬間、ブルッとした。

解ってはいたけれど実際見るとやはり少し、恐ろしい、もの。
力が引き出されて、石に吸い込まれていく、その様。

やっぱり、怖い。

あれは…………違う。


直感だけれど、奉納だったらもっと美しい筈だ。
あの、靄の雰囲気。
瞬時に感じた、恐怖。
それは多分、本能的なものだ。


だって嫌だよ…………あんな勝手に………みんな、何か感じないのかな?
私からは引き出されてないんじゃない?
流石に、分かるよ………あんなの。

今度ミストラスに訊いてみるしかない。



そのまま、じっと見ていた。

む?
あれ?
あの、靄………。

その靄は、殆ど見えない人もいれば濃い人も、いる。
ちょっと怖いのが、ネイアの色が聞いていた通り同じな事。薄い、黄色だ。
濃淡はあれど、ほぼ同じ色。

セイアはあまり見えない人も半分くらい、いる。
エンリルやガリア、オルレアンなんかはほぼ、見えない。

その代わり運営で見た黄ローブの人と、ダーダネルスが濃い、靄。後二人、セイアで濃い人がいる。
黄土や茶、水色が立ち昇る中、ダーダネルスからは銀灰の美しい靄が立ち昇り、目立つ、色。

勿体無い。

でも、分からない。
もしかして本当に、必要なのかもしれないからだ。


あの、旧い神殿に行ってから。
あの時間を体験して、「ここ」が保たれているのが本当に「あの人」のお陰なら。


うーー………ん。


分からない。



私がまたぐるぐるの中にすっぽり入ったと共に、礼拝も終わりを告げる。

人々が礼拝堂を後にし、上級生のセイアが何人かそのままベンチで何やら話し出した。

その事に気が付いたのは、暫くぐるぐるして「いや、もうこれは白い魔法使いに訊こう!」と顔を上げた時だったのだけど。


そのまま静かに席を立ち、フワリとローブを翻す。

姿は見えなくとも音は、出る。

コッソリとベンチの間を抜けると、そのまま足早に礼拝堂を立ち去った。











「おい。見たか?!」
「幽霊?」
「ンなわけないだろ!人だよ!多分。」
「しかし、髪が赤かったぞ?そんな奴いない筈だ。」
「変装か?しかし、あの艶………。」
「顔見たか?」
「いや、見えなかった。」
「だが………。」
「うん。」
「まぁ。」
「そう、思うか?」
「それしか無いだろう。」
「また、見れるかな?」
「どうだろうな。何か、理由があってあの様子なのかもしれない。」
「見たかったな、顔。赤い髪なんて、良くないか?貴石には、居るのか?そんな髪を持つ女は。」
「どうだろうな?今度ニュルンベルクに訊いてみるよ。」
「俺も行きたいなぁ。」
「それ、みんな思ってる。」
「しかし向こうに帰ってからでないと、基本は駄目なのだろう?」
「まぁ。そういうルールですね。」
「つまらん。今ならいつでも行けるのに。」
「でも、何も持ってない。タダじゃないだろう。」
「そうだろうな。しかしいざとなれば融通してもらえないか………。」
「叱られるだろ!ちょっと一回言ってみろよ?」
「無理無理。連れ戻される。」
「まぁな。とりあえずの自由を楽しむしかないさ。」
「「「だな。」」」









ポケットから鍵を取り出して、カチリと扉を鳴らす。

「ベイルートさん、何処だろ。」

ローブを掛けて、いつもの様にお湯の支度をしようとして「あ。夕飯前だわ………。」と洗面室での独り言。

ん?
何か………。

「えっ!ビクス!これ。」
「あら。いいえ、見えないからいいかと思ってね?」
「うん、まぁ。そうかもだけど。久しぶりだね………赤。」


鏡に映った私は、あの艶めくピンクに赤い影の大人っぽい私になっている。
いつの間に。
全然、気が付かなかった。


「とりあえずご飯に行けないから、戻して?」
「はぁい。」

また、鏡で確認する。
いつもの白水色なのでアキに触れて、起こす。
寝ているんじゃない?
ビクスがやってくれてたから。



そうしていつもの銀髪に戻すと、丁度夕方の鐘の音が流れて、きた。

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