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7の扉 グロッシュラー

沁み渡るチカラ

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「さ、お昼も食べて行きなさい。皆おいで。凄いぞ。」


私が現実に戻ると、もう、昼ご飯の時間だった。


さっき朝ごはんを食べた気がするが、私は少し寝ていたみたいだし、みんなは大変な片付けをして、まじないで家も創った。
そこそこ、いい時間がかかった様だ。


ゾロゾロと子供達が歩きながら、口々に変化した地階に歓声を上げている。

「「「わぁ!」」」「凄い!」
「「綺麗!」」「見て!」「ここも凄い!」

子供達の声に、私も辺りを見回す。


「確かに。」


遊び場は生まれ変わっていた。

私が思い描いた部屋よりやや明るめなのは、あの石が透明だからかも、知れない。

自分が子供の頃に遊んだ原色がカラフルなおもちゃが並ぶ、遊び場スペース。
天井からは可愛いブランコが下がっていて、私も後で乗りたいな、あれは。きっと楽しいに違いない。
壁にもカラフルな石が付いていて、多分登れる様になっている。
外で遊べないこの子達には最適だろう。

長机は木肌を生かしたまま、一皮向けて綺麗になった感じだ。
全体を包む暖かい灯りと雰囲気はそのままに、子供達を見守りながら寛げる落ち着く場所に仕上がっている。

「うわ。凄いね?」

丸い、感触がある私の手の中。
チラリと手を開いて見る。

「見るのは、初めてだね…。ようこそ、外の世界へ。」

ん?
返事が、無い。

まじまじと、その石を見つめた。

「これって…………。」


遊び場はもう、私と朝しか残っていない。
子供達はガヤガヤと食事に行ったし、グラーツ達は下を見に行った様だ。

「どれ?」
「これ…………。」

床に座り、朝に石を見せる。


もう、話さないその石。
ブランはその名の通り、ふわりとした茶色の石に変化していて、ただ透明度が殆ど、無かった。

「嘘でしょ…………。」

何故かは、容易に想像がつく。
多分、チカラを使い過ぎたんだ。若しくは、長い事ここに在り過ぎたか。
よく、仕事をしたからか角も無くツルリと丸い、優しい茶の石。
私の手のひらの上で艶々と収まっている。まるで、やっと落ち着く場所を見つけたかの様に。


「でも、そんなのって無いよ…。折角、これから外を見に行けるのに。」

少し涙ぐんでいる私に、諭す朝。
茶の石に鼻を付けて挨拶をしている。

「依る。でも、この子はここにちゃんと在って無くなった訳じゃ、ない。話さないだけよ。あの池に入れれば或いは、また話すかも知れないけど。でも、少し休ませてあげたら?きっと、話は聞いていると思うけど?」

「そっか…………。」

朝の言う事も、解る。

確かにこの子にお喋りして欲しいのは、私の我儘なんだ、きっと。

少し、ゆっくりお休みさせて、もしかして話したくなったら急に話すかも知れないしね?

「よし。じゃあここに入れておこう。いつも、一緒に居れば色々見れるしね。」


そうして茶のブランを臙脂の袋に仕舞った私。

上を見上げて一つ頷くと、また部屋をぐるりと見渡す。

「いい仕事したよね………。ありがとう、透明のあなた。名前は………秘密基地にしよう。」
「あんたそれ、名前じゃ無いわよ………。」

「だって、呼びやすいのが一番だよ。何か、秘密基地っぽくない?ここ。」
「それはあるけど。ま、期待するだけ無駄ね。行きましょ。」
「失礼な………。」

朝はもう扉に歩き出していて、私もそれに続く。

綺麗になったアンティーク調の扉を閉めながら、「これから、よろしくね、秘密基地。」と言っておいた。







食堂へ行くと、子供達は既に食事を終え嬉々として地下へ降りて行ったらしい。

下を見てから食事に来た、シリー達と丁度一緒になって感想を聞きながら食事だ。

「厨房も、最高。」と言うテトゥアンの喜びの声を聞きつつ、私も嬉しくなって更にご飯も美味しく感じる。
でも実際、火加減が細かく調整出来る様になりかなり仕上がりに差が出たのだと言う。
何しろ、ご飯が美味しくなったのなら大成功だ。



「兎に角、可愛かった………ありがとうございます、みんな大喜びで今日は興奮して寝られないかも。あの子達。」
「それはあるな。」
「私の部屋、渋すぎない?まぁ………窓が良かったけど。」
「そうね。まさか、窓が出来るなんて。あれは、まじないですか?」

二人は窓をいたく気に入ってくれた様だ。
やはり作って正解。雲ばかりだけど、あるのと無いのとでは大違いだ。

「青空にするか、迷ったんだけど。でもそれはもっと頑張って、上にも空が見える様になってからかなぁと思って。まず一つずつ、やって行かないとね。」

少し、静かになった食堂にカチカチと食器とスプーンの音。
お茶の香りがやって来て、テトゥアンが支度してくれているのが分かる。

食べ終わり、さてお茶の種類は何かと楽しみに片付けているとポツリとハリコフが話し始めた。

「お前は。」

うん?私?

振り返って、グラーツと座る彼を見る。

食堂は白っぽい木に変化して、清潔感のある空間。背もたれのある椅子で寛ぎながら、お茶も出来る。
私のトレーに白いシンプルなお茶セットを乗せてくれるテトゥアン。トレーには人数分の、カップ。

彼の意を汲んだ私は、そのままハリコフ達のテーブルに触り、シリーとアルルも手招きする。

さて。お茶会の支度は整った。
話を聞きましょうか。

ハリコフの青い瞳を見つめて、つい関係無い話がまたツルリと口から出た。

「お部屋、どうだった?青、効いてた?」

その、青の瞳はくるくると彷徨ったけれどきちんと戻ってきて答える。
どうやら、気に入ってはくれた様だ。

「ああ。…………凄かったよ。」

「それは、良かった。あ、ごめん。それで………?」

満足してニコニコとお茶を注ぐ私をおかしなものを見る目で見る、ハリコフ。
いや、グラーツもか。

しかし私はおかしなもの扱いされることに慣れているのだ。自慢じゃ無いけど。
そのままカップを配り、話が始まるのを待った。



「お前は。空が見れると思っているのか?」

真っ直ぐな、質問。

その声色からは今迄感じられていた卑屈さや、侮蔑の意図は感じられない。

ただただ、素直に出て来たであろう、その言葉に少しの希望が見えた気がして、私は嬉しくなった。
だって、今迄だったら、そんな事思ってもすぐに自分自身で打ち消して、いただろうから。
そんな思い、持つだけで、辛いものだったろうから。


「うん。出来るよ。」


彼の目を真っ直ぐに見て、真っ直ぐに応える私。

それは、私の役目。

出来るかどうか、分からない。そうも、思う。

でも、出来るとも、思う。そう、思えるのだ。

ニヤッと笑って、言う。

「そんなにすぐは多分、出来ないけど。とりあえず、今度の祭祀で光を届けるよ。みんなは、何処で祈るの?」

楽しそうなシリーが教えてくれる。

「私達はあの、二階の小さな礼拝室です。」
「それもいいね!あそこはいいよ。正直、大きい方よりね…………。」

うーん、本音が。
正直、私も二階で祈らせて欲しいくらいだ。
でも。
多分。
何処でも出来る筈なんだ。

それは、多分、この子達も同じ筈。

「ここで。ゆっくり、生活して少しずつ、チカラを溜めて。それで、やりたい事を見つけて。癒しもお願いしておいたし、多分前より広くもなってる。あ、でも前の子も頑張ってくれてたのよ?でも次の子は何か凄くてね………うん。」

「なんだかよく分からないけど、とりあえず環境が変われば少しはマシになるかもね。」

まだ少し投げやりなアルルの言葉。
でも「マシになるかも」とだけ、少しでも上向きの言葉が出るだけ、いい。

あとはジワジワと、お願いしとこ。
きっとこの秘密基地は私の石達と繋がった筈だから。


ハリコフとグラーツはそれ以上何も言わなかったけど、とりあえず以前よりは僅かだが、歩み寄る雰囲気が伝わってくる。

静かに、お茶を飲む私たち。

多くは語らないけれど、まず同じ時間を共有する事。
少しずつ、出来るところからだ。



そして少し心配していた、私の事を恐れる雰囲気も既に無くなっている事に気が付く。

足元の朝もなんだか寛いでいるし、もしかしたらこれからはここにも遊びに来るんじゃないかな…。


誰も喋らないけれどゆっくりをお茶を飲むこの時間。新しい、私達の秘密基地が暖かくて、凄く安心した。

私も時々、遊びに来ていいかな……………。
少しずつ、時間作れるかな?




いや、上に帰ったらやる事結構あるな…………。

現実に戻るのが、少し億劫になりそうだ。


そうして私は、カップに残った澱もぐっと飲み込んだ。

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