透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

未来のはじまり

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うん?

何だろ、この感じ。



朝に言われて、片付けをしている皆の所に行く。
しかし、私が来た事が分かると一斉にザッと何かが、引いた。
何だろ、あの礼拝堂でのモーセ現象に似た感じ………。

もしかして、避けられてる???



朝の適当な説明で納得したのだが、実は事実は全く違うのでは無いだろうか。
そのくらい、みんなの反応が違う。
少し、奇異なものを見る瞳が鈴なりで私を見て、いる。

どうしよう。
私の力は、多分、心に大きく左右される。この、怖れが多い目の中できちんと壁が作れるだろうか。


その時、パン!と大きな音がした。


「はい。みんな、言ったよね?」

シリーだ。
何か、私がいない間に話されていたのだろう。
それをもう一度、示す形でみんなに言ったシリー。一体、何の話をしたのだろうか。

「きっと、綺麗よ。心が、綺麗だから。」

全く持って、何の話か分からない。
多分、シリーの心は綺麗だろうけど。



シリーが何か合図して、ハリコフがやって来た。

少し、彼も何か言いたそうだけれどシリーに小突かれている。
ん?この目…………もしや。
だから?壁、作りたいの??
ハリコフの他に、年が上のロウワっていたっけ?

ハリコフから出る空気で何かを悟った私は、俄然やる気が湧いて来た。

「そういう事なら、任せて。」
「は?」
「で、どんな、何を作ればいいの?」

急に張り切り出した私に呆れた声を出しながらも、ハリコフは細かい要求をしてくる。
えっ。
これ、私だけで出来るかな?っていう難易度だ。


「まず、お前達の館と同じ様に男女を分ける事。ここはそのままでいいが、寝る部屋から下は頼みたい。」
「うん。」
「あとはチビ達の玩具とか。あの朝が「直してもらえ」って言ってたから。それも。」
「うん。」
「もし………多少、広くなったり…は、しないか。綺麗には、なるか?」
「それは多分大丈夫。」

ここの雰囲気が嫌いじゃない私は、残念に思ったけれどまた余計な事は言わない方が、いい。
私が好きな、綺麗な木の部屋で、いいかな?
それなら出来そう。

「あとは?」

「そうだな………そんなものか?」

シリーとグラーツに訊く、ハリコフ。
二人は顔を見合わせて、シリーが頷いた。

「あの、欲を言えば………。」
「うん?」
「お風呂が。」
「えっ!無いの?!」

「いえ、あるんですけどシャワーだけだし、狭いし、お湯の出は微妙で時間がかかるし…。」

「えっ。ちょっと待って。とりあえず、誰か、紙。」

こうなったら、本格的にやった方がいい。
テトゥアンも呼んできて貰い、食堂と調理場の意見も聞く事にした。

うん?そんなに出来るのかって?
そうなんです。
私、朝に凄い石、貰っちゃったから。
どこから拾って来たのかな?
ウイントフークさんかな??

とにかく、その素晴らしく透明な水晶を手にした私は何でも作れそうな、気がしていた。
そう、「作れる」と私が思っていれば大丈夫なのだ。
この、石の助けがあれば。きっと。






「じゃ、こんな感じかな?みんな、いい?あと何か意見がある人~。」

遊び場でガヤガヤと相談し出した私達。

少し壊れた長机に、最初は私、朝、シリーに、ハリコフ。
グラーツ、テトゥアンだった新しい地階計画。

ああでもない、こうでもないと話し合う声が段々大きくなってきて子供達が少しずつ混ざり始めた。
みんな、「あれが欲しい」「これも欲しい」と言い出したのだ。

うんうん、めっちゃいい傾向よ。
言いたい事、言わないといけない、特に、子供は。


そんなこんなでちょっとお母さん、いや、お姉さん気分の私は出来るだけみんなの意見を取り入れた設計図を書き上げた。
とは言っても、アレよ?
四角の中にアレコレ書いてあるだけの、簡単な、紙だ。

「これで大丈夫なの?」

「うん。あとは私のイメージだから。」

朝にも突っ込まれ、そう答える。
そりゃ、より詳細な写真や設計図が有ればもっと良いかもしれないけどそんな物はここには無いし、それを書くのに時間を使うくらいなら私が綺麗なものでも見て、想像力を膨らませる方が建設的だ。
よし。
何か、綺麗なものはないかな?



ぐるりと、遊び場を見渡す。

基本的には薄暗く、古い、木の地下室。
紅い灯がいくつも灯る、この子達の暖かい空間。
殺風景だけど、人の温もりはきちんと、感じられる。

うーん。
テーマカラーはやっぱり木と暖色かな………。
暖かみね。うん。
統一もいいけど………。

茶、紺、灰、赤茶、青、アルルのアッシュ。

どれも落ち着いた色で、馴染みそうだ。
部屋に入れようかな………。
ベッドもいいな?広さ?ここってどういう「造り」なんだろう?
でも、まじないだよね?

それなら。

多分、干渉出来るのではないだろうか。

くるりとテトゥアンに向き直る。

「ここ、長いですか?」
「ああ、一応。」
「でも、知る限りずっと、こうですよね?」
「そうだな………うん。」

そうか。
「核」は何処だろう。
きっとシャットの地下通路の様に「核」になっている石があるのだと思う。

祈れば、分かるだろうか。

でもな。
多分。

私が左手に握る、そう、大きくない石はずっと話し掛けている。
何だかチカラが漲っている様に見える、透明の石は言う。

「私、出来るよ。」と。

そっか。
じゃあ、お願いするのが「吉」だ。




「では。みんなの要望も出揃った所で、実行したいと思います。大丈夫ですか?他に、言い忘れた事は?」

「「「ない。」」」「「無いです。」」
「「「はーい。」」」

何だか、みんなのノリが良くなってきた。
このまま、ここでやっていいかな?
光ったり、どうなっちゃうか、分かんないけど。

朝をチラリと、見る。

何だか「今更よ」みたいな顔をしているので、多分大丈夫だという事だろう。
そう、解釈しておく。



期待を胸に、石に願う。


「呪文とか無いけど。」
「いいよ。」

「多分、願えば大丈夫よ。」
「具体的にね?チカラは、有り余ってる。」
「姫様、地階に薄く張るのです。護りも、付けて。」
「それはいいね。じゃあ僕はみんなの団結を。」
「え。じゃあ私は常に美しく、皆が誇れる様に。」
「私は勿論、癒し。この子達には必要ね。少しずつ、癒しましょう。」
「わたくしに打ってつけのこの環境。皆を本来の目的に向かえるよう、思い出させましょう。」
「私は勿論、愛。フフ。芽吹きが見えるわ?」

石達が協力してくれる。
其々が、其々の役割を、最適な方法でみんなに働きかけてくれるだろう。
こんないい事、ない。

私は、私の役目を。

創るよ?
素敵な前を向ける棲家を。



えーと。
まず、食堂ね。
雰囲気はあのまま、清潔で木の温もり。カウンターは子供達に合わせて低め。
人が少ない時はカウンターでも食べられるように椅子。背凭れがある方が危なく無いね…。

調理場ね。
火の石。確かにこれ、重要。火力調整が楽な様になんか上手いことよろしく。
水も清浄な水を豊富に。いい仕事してね?
シンクも広めよ?お湯も出るようにしちゃう。
導線を広く取って。仕事し易くして、水捌けと滑り難く。こんなもんかな?

階段もあのままでいいな………少し、段差を歩き易く小さい子と大人のバランスを取る。

踊り場にはちょっと飾りとか付けちゃお。
殺風景だからね………。灯りを装飾のランプにして。アイアンにしよう。私の趣味だけど。
ま、それはいいよね………。

扉もちょっとアンティーク風にしよう。
取手は子供も引き易く。軽い、木の扉。
少し明るい木がいいな。廊下の壁をワントーン明るくして、床は汚れが目立たない濃い色。
黄色の灯りに白木でかなり雰囲気が変わる筈。
わぁ。絶対、可愛い。

部屋部屋…………。
シリーは落ち着いた感じがいいって………でもアルルは可愛いのがいいってさ………仕切るか。二人だしね?壁を弄って………。

ん?
誰?
私に干渉して来ているのは。

「お前。久しぶりだな。」
「えっ。誰?」
「忘れたのか?まぁ、だいぶ昔だからな。まだ、旅をしているのか?」
「……そうだね?」
「そうか。楽しそうだ。私は長い事、ここに在り過ぎてな…。」

うん?これ、何だろう?
古い。……………石、かな…。

「一緒に、行く?」
「私は、ここから動けない。この、可哀想な子達を置いては行けない。」

やっぱり。
きっと、ここの「核」だ。

「大丈夫。新しい子が、代わってくれるよ?長い事、ありがとう。外を、見てみない?久しぶりに。違う世界に、行ってみようよ。手伝って?今、創ってるから。きっと、一緒にやればもっと、素敵な家が出来る。」

「そうさな、青の姫よ。あいわかった。」


その、石が返事をした途端、空間が拡がったのが判る。
私が弄れる範囲が拡がったのだ。多分、部屋自体、広く出来る。

やった!ありがとう!

ん?でも個室の方がいいの?どう?

「ロウワは小さくても個室で良かろう。小さな子は同じくで。」

オッケー。
じゃあ………えーっと、多いな………。


それから順に、部屋を作っていく。
基本的には同じ間取りで、小さな石を配置した暖炉、ベッドに小さなクローゼット、お風呂と洗面台は二部屋に一つ。

「まじないの窓って、作れる?外は………ここととりあえず同じでいいけど。」

「それなら容易いこと。」

窓があると、全然違う。
ラピスの様な空にしてあげたいけど、現実と乖離しすぎると何だか良くない気がした私は、雲の窓にしてもらう。
夢は持って欲しいけど、私達で、空を斬り開かなきゃ、いけないのだ。

其々の髪色を思い浮かべながら、部屋のテーマカラーを決め、瞳と同色の差し色を入れていく。

アルルなんかアッシュ系の薄い色を基調に、金茶がポイントの渋いけどお洒落な部屋になった。
可愛さが足りないと、怒られるかも知れないけど。

シリーは茶髪に茶の瞳なのでポイントに赤を差しておく。うん、大人っぽいし、可愛い。

グラーツ、ハリコフ、ルガ、カフカス、ティルス、モラバ、バーグ………。


やば。そろそろ終わりにしないと…………。

外は、大丈夫か?



私は完全に自分の内側に入っていたので、外の状況が分からない。
思ったよりも時間が掛かっているので、もしかしたら心配してるかもしれないのだ。

「オッケー、あなたの名前は?古い、石よ。」
「名は、無いのだよ。付けておくれ。」

そうか。
なんだろう。
地階。家。ホーム?土?暗い。でも、あったかいよね。

今迄、この子達を守ってくれてありがとう。
一緒に、行こう。

「暖かく包むだから、ブランにしよう。」




「あんたのネーミングセンスはやっぱり親譲りよね…………。」

え。

そう、名前を決めると私は朝によって現実に引き戻されたのだった。
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