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7の扉 グロッシュラー

無から 有へと誘なうもの

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ヤバい!

完全にマズい事だけは一瞬で悟ったけど、どうしよう?!
気焔もいないし、レシフェ?

ああ、ぐるぐる回るしか出来ない!



シリーの話をのんびりと満腹のお腹で聞いていた私は、足元でダレていたの。

そしたら。
いや、ちゃんとね、ちゃんとよ?シリーは前置きしてた。依るの事、よく解ってる。
でもさ、内容がマズかったのよ………。

ただでさえ、あの子、自分が地階の子達を傷付けたと思って落ち込んでたからね………。
そこに、あの話。
平常時ならまだマシだったかもしれな………いや、同じだわ。多分。


兎に角、シリーが一言、言い切った後の依るはヤバかった。






「力を石に移されて、消えます。」


瞬間、風が巻き起こって子供達のおもちゃが飛んで。
巻き上げられるローブと髪、小さな屑が目に入ったのか子供達は泣いちゃうし。
少しずつ大きな物も風で動き出して。

オロオロ回るうちに長机もズリズリと動き出した。

益々、風は強くなる。


「なんなんだ!これは!!」
「下がって!子供達を集めて!」
「机を固めろ!」

ルガが子供達を端に集め、グラーツとハリコフは長机を風に抗いながら盾にしようと動かしてるけど、全然進まない。
シリーは指示を出しながらも依るの様子を見て心配して、離れない。

いや、かなり飛ばされそうにはなってるけど。


当の本人は静かな瞳で周りを見ている。

いや、見てはいないのかもしれない?
何も映っていなそうな水色の瞳を見て「やっぱり」と思ったけど、どうしよう。
誰か、気が付いたかな………。


そう、依るは多分シリーの言葉でどっかに行っちゃって今は多分、姫様だ。
まだ喋ってないから大丈夫そうだけど、姫様は結構、過激だ。正直、どう出るか全く判らない。
今は、寝起きみたいなものなのだろう。

しかし、私がオロオロしている間にも事態は悪化していった。

あの、青い球が出てきちゃったのだ。



「えっ。」

シリーが気が付いた時にはもう、その球は人間の頭位の大きさ。
みるみるうちに大きくなる青い光に子供達は泣いているし、グラーツ達はやっと長机を盾にして頭だけ出してるけどもう、どうしようも無いのが伝わる。
隠れてくれてた方がいいのでそこは放っておいて、眩しくなる光に目を戻すとそれはもう、依るをも飲み込みそうな、大きさだった。


「まずい!このままじゃ………全部吹っ飛ばされてみんな埋まっちゃう!ど、どうしよ?」
「あの力、仕舞って貰えませんかね?!」

一人だけ依るの側に残るシリーは何とか、しようとしてくれているけど正直、只人にどうにか出来るものでも無い。
しかし本当この子は…依るの事怖く無いのかしら。

ん?「力を仕舞う」?

アレだ!

私、天才!
でも私じゃ出来ない!!

「シリー!依るに近づける?気を付けて、ポケットから臙脂の袋を取って!」
「はい!」

依るの前に大きな光の球がある。
シリーは背後から近づいてポケット目掛けて手を伸ばし、私は背後に控える。
もし、姫様が怒ったらシリーも消えるしそれは、後から依るが、ヤバい。


でも、やっぱり気付かれた。


「「何してる?…お前か。」」

「今、ここでは駄目なんです。お願いします。「ここ」はあの子が守りたいもの。」

「「ふん?消したいのだろう?」」

「いいえ。ここでは、無い。一度移します。」

「「………。」」


私と話しているうちに、ちゃんとシリーは臙脂の小袋を取り出していた。でも、中身に触れる事は出来ず、私を見る茶の瞳。

もう、顔を突っ込んで一か八か、…………あった!!


「シリー、これをあの光に投げて!姫様、お願いします!」


正直成功するか、分からない。
でもそれしか思い付かないなら、やるしか無い!


もう、天井にも届こうかというあの光を納めきれるかなんて、分からない。


シリーが青い光の球に水晶を放って、姫様に願って。

お願い!
入って!



後は、全員、目を瞑っていたと思う。











何だかザワザワしてるな………。
ここどこ…私は………うん?


少し暗い、木造の建物。薄汚れた木の天井。

何か薄い布がかかっている身体は、硬い床に寝せられているのが判る。
あちこち、何だか痛い気がする。

少し離れた所で人が動いている、気配。
人数は多そうだ。軽い、足音。子供…………?

子供?

「あっ。」

うっ。起き上がれない………?

「あら?気が付いた?」

私を覗き込む、金茶の瞳。
この子は…………。

「アルル?」
「正解。馬鹿じゃないのね。」
「……………。」

これって………どういう状況?

少し冷えた身体がブルリと震えて、掛けてある布をギュッと引き寄せる。


段々、思い出してきた。確か、私は地階に来てて部屋を見て、グラーツ達と喧嘩して………?
うん?喧嘩…じゃあないな?
いや、それでご飯を食べて?その後?

記憶が
無い



「うーん?」

「とりあえず、大丈夫そうね。それにしても派手にやったわね。何してこんなに怒らせたのよ?」

アルルがそう言うという事は、やはり揉めたのだろうか。

とりあえず何だか身体が怠くて、すぐには起きられそうに無い。そのまま続く、アルルの独り言なのか話しかけているのか、淡々と続く話を聞いていた。
脈絡無しに始まった、その話。

「私は、あんたの事嫌いじゃないけどね。」

えっ。ちょっと嬉しい。

「だって食事の事とか、生活の事言ってくれたのはあんただって聞いたし。そういうヤツには付いといた方が、得だし。」

えっ。
損得。……………でも、そんなものなのかも?
この子達は人を信用していない。いや、「人」なのか、「ネイアやセイア」なのか……。
私達だけであれば、その方がいいのだけど。


「何よ。不満そうね。」

「いや、そういう訳じゃないけど………。」
「だってどうせ、無駄だし?出来るだけ、生きてるうちに楽に暮らせれば、それでいい。それしか、無いし。」
「…………。」

そうだ。
シリーに、話を聞いていたんだった。

ロウワの、将来の、事。

散々力を使った後、彼等がどんな扱いをされるのか。
どの位、立場が弱いのか。
生きていく為には、どう、しないと生き残れないのか。

そう、彼等に自分の未来を自分で決める事は、許されていない。
役に立たなければ、消される。
「モノ」の様な扱い。
でもきっと、あいつらからすれば。


胸がギュッとする。
苦しい。
けれどこの子達の苦しみは、こんなものじゃ、ない。
きっと、考えなかった訳ではないのだ。

好きなもの、やりたいこと、行きたいところ、当たり前の、未来。
しかし、持ち続ける事で、自分が壊れてしまうかもしれない、小さな夢。
ほんの少しの、希望。
もしかしたら、という小さな想いすら。

空も外すらも見えない、この地階で。

抗えない道、どうしようもない思い、憤り、悔しさ、諦めからの処世術。

そう、アルルから感じるのは「それ」。


そこまで考えた所で、沸沸と湧き上がる衝動。
騒めく薄暗い埃の中で静かに薄布を握りしめる。


どうしよう。

この、居た堪れない気持ち。
モヤモヤ、ゾワゾワ、する感じ。

全部、ぶっ壊して、やり直したい、この感じ。
手っ取り早く、全てを、飲込み流してしまいたい衝動。


今なら、レシフェの言ってた事がよく、解る。


悔しいけど、今、私がすぐに何か出来る事は無いに、等しい。


力が、欲しい。

でも。

それは押し通す為の力ではなくて、私達みんなが、未来を、前を、向いて進める「チカラ」だ。
無理矢理形だけ整えても、この子は………。


視線を古い木の床から、フワリとしたアッシュの髪に移す。

こうして、ここに「居て」紛れもなく「生きて」いる、一人の女の子。

みんな、一人一人、「居る」んだよ。


彼等も一人一人、尊重されるべきなんだ。


「アルル。」

「なに?」

「光を、見せるよ。今度。」

「は?光?」
「うん。今すぐ私は、あなた達を開放する事は出来ない。多分、その方法じゃダメだから。「その時」はいいかもしれないけど…多分、すぐ駄目に、なる。」
「うん?」
「でも。これだけは、言っとく。」

ちょっと身体が痛いけど、もう、起き上がれる。

アルルの正面にズリズリと移動して、金茶の瞳をしっかり見る。
アッシュの髪に縁取られた、勝気な大きい、瞳。

どんなに、未来が見えなくても。

どれだけ何かを諦めても。

やっぱりここに、命はあって、彼女の中にも「想い」はある筈なんだ。

「思う」通りに「生きる」。

それは本来、何者にも侵されてはならない。

この子の眠ったままの「想い」がそのまま消えて無くなって。

それで、いい事なんて、一つも、無い。


変わらず騒めく薄暗い、部屋の中。
じっと、見つめる私に何も、言わないアルル。


美しいな。

この、美しい光の宿る、瞳を消せるか?

否。


きっと、もっと、美しい筈なのだ。
夢、希望、未来を見る事。
言葉にするのは簡単だけど、「感じて」「信じて」もらわなきゃ、湧き上がらないもの。


この子達に希望を抱かせるには、どうする?
それを実現する為には?
残酷な、結果にはさせやしない。

その為に、何を、する?


とりあえず、私が出来る事は?


「パーっと、やろうよ?先ずは、光を見る事。そうしよう。世の中には、美しいものが沢山、信じられないくらい、ある。」

「はぁ?」
「いいのいいの、私がとりあえず始めに頑張るから。みんなはとりあえず元気で仕事して、あ。勉強は?何か、本とか要る?」
「何言ってんのあんた。いや、………読めないよ。」

「………成る程。オッケー、やる気出てきた。目的発見!本も、文字もね?大丈夫、私も覚えたの最近だから。とりあえずちょっと待ってて。…………うーん。そうすると黄色だけじゃ美しくないな………でも怒られるよな………。」

「何言ってんの………アハ。」


「あ、起きた?」

アルルが苦笑している所に、朝がやって来る。
私の事を一頻り嗅いで、ため息を吐いていたけど何だろう、心配してくれたのかな?


「張り切ってる所にとりあえず、やる事一つあるわよ。」
「うん?何?」
「で?大丈夫なの?歩ける?」
「て言うか、どういう状況?私、倒れたの?喧嘩したって?」

少し、考える朝。

なに?そんな考えるような事、あったの?

「まぁ、シリーの話を聞いて依るが怒って、ちょっと喧嘩になったのよ。ちゃんと仲直りしたから大丈夫よ。」
「え?そうなの?!」

何だか雑な説明だけど、とりあえず解決してるなら、良かった………のか???


立ち上がれるか、ゆっくり確かめながら灰色のローブを叩く。何があったのか、そんなに大きな喧嘩だったのか。
結構、埃まみれの私はお風呂に入りたくて仕方なくなってしまった。

でも、「やる事」があるって………何だろう。


「朝、とりあえず大丈夫そう。何すればいいの?何か、直す??」

何だか筋肉痛みたいになってるけど、私机でも投げたのかな………。いやいや、まさか。



すると朝が言ったのは、私が倒れる前にシリーに聞いたハリコフのお願いの事だった。

「何かよく分かんないんだけど、壁を作るって言ってたわよ?本人に聞いた方がいいかもね。」
「あー。」

確かに、言ってた。必要なやつだ。

そう言えば、嫌な話を聞いた筈なのに、何だかスッキリしている気も、する。
どうしてだろう?ぐるぐる、したっけ??


少し、考えたが思い当たらない。
とりあえずローブを直し、おかしな所が無いか確認する。髪留めも、付いてる。大丈夫。

「じゃ、アルルまたね。ありがとう。」


座ったまま少し考え込んでいるアルルをおいて、私達は片付けの人混みの中へ、向かった。
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