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7の扉 グロッシュラー
レッツ地階作戦
しおりを挟む「おはようございます。」
ノックの音と共に聞こえる、声。
「う…………ん?」
「後で。」
「気焔…………?」
私を包んでいた暖かいものが消えて、目が覚める。
「おはよう………?うん…??」
女の人の、声。
「あっ。」
シリーだ。
パッと思い出して、ガバリと起き上がる。
朝はいつも私の起きるのが早いので、あまり来てもらう事は無い。
でも今日は確か、祭祀で使うローブが出来上がるので仕上げに合わせたいと言っていた筈…。
うーん、忘れてた。
しかも、寝坊したわ………。
多分、あの赤ローブの事があってから疲れていたのかもしれない。
気焔に昨日、癒された私はきっとぐっすり眠っていたのだろう。珍しくシリーが来るまで部屋にいてくれた気焔は、そのまま消えたに違いない。
もしかしたら、朝の礼拝終わっちゃったかも。
そう思いつつも手早く着替えをして、ダイニングの扉を開けた。
「わぁ!」
テーブルの上にはシリーが最近頑張ってくれていた青いローブが広げられていた。
「凄いね!」
青と言っても、薄い、空色。
少しフードの方が白っぽくなっている気がするが、全体的には水色の、少し光沢のある生地だ。
「これを付けてたんだね………。これって…?」
「はい、石です。こう、ビーズの様に加工されています。何処でやっているのかは知りませんが…。」
多分、シャットではなかろうか。
大小のこれまた空色の石たちがローブの裾に縫い付けられているのだ。
原石のままなのだろう、形を生かした多面体の小さな石は小指の爪位のものから、ベイルートと同じくらいのものまで様々な大きさ。
縫い付けられる様に穴が開けられていて、シリーが少し光る糸で縫い付けているのが分かる。
まじないの糸なのだろうか、何故かキラキラしているのだけど。
「ねぇ、この糸…………?」
「それは一緒に支給されたんですけど。私も、初めて見ました。綺麗ですよね…少し、硬いのですけど。」
「確かになんか丈夫そう…大変だったでしょう、縫うの。」
「いいえ、楽しかったですよ?こんなに綺麗な石を扱ったのは初めてです。子供達が触りたがって、困りました………。」
確かに、殆ど曇りの無い石たちはロウワの子供達からすればかなり珍しいに違いない。
何処から調達したんだろ…………。
幾つか手に取って確かめながら、パミールの部屋で見たお湯の石に似てるなぁと思う。
「やぁ、青の子。雪の日が楽しみだね。」
と、思ってたらやっぱり………。
心の準備をする時間が一瞬あったので騒がずに、済んだ。しかしやはり、急に喋るのは心臓に悪いけれど。
「今年はお前さんが主役か。」
「初めてじゃないかい?」
「きっといい祭祀になるよ。」
「だろう?青の子よ。」
幾つかの石が話しているが、同時に喋る事はない。元々一つなのか、コミュニケーション上手なのか。
どっちだろ。
とりあえずシリーの前なので、曖昧に微笑んで「綺麗ね。」と褒めておく。後でちゃんと話せばいいだろう。
なんか「主役」って言ってたし。
何の事だろう?なにも、聞いてないけれど。
「少し、羽織ってもらってもいいですか?これで大丈夫そうなら納めていきますので。」
そう言うシリーにローブを羽織らせてもらい、姿見で確認をする。見た目よりフワリと軽い、その感触に驚くと共に生地に触れてみる。
「柔らかいね?」
「そうですね。石が付いているので少し重くはなってますが、舞った時に綺麗に見えるらしいです。上手くバランスを取って付けるのが結構難しくて。」
「そうだろうね…………。」
羽織ると、解る。
ローブの裾がランダムな長さにカットされていて、ヒラヒラした部分の先に石が付いているのだが石の大きさが違うのでバランスを間違うと多分、美しくないのだ。
絶妙なバランスで配置された石たちが揺れて、さっきのシリーの言葉が思い浮かぶ。
「うん?舞う?」
「はい。私はセイアの祭祀に出た事が無いので知りませんが、そう言ってましたよ?だから、回った時に綺麗に見える様に付けろと。」
「うん??」
聞いて、ない。
舞う?え?回るだけ?
……………じゃ、ないよね………。
何も言われてないんだけど………なに、もしかしてデヴァイでは常識の踊りとかあるの??
いや、でもそれならミストラスが何か言う筈だよね………?
とりあえず、私も、シリーも、分からない。
じゃ、後でいっか。
とりあえず、くるりと回ってみる。
「どう?いい感じ?」
「わぁ………綺麗…。あっ、失礼しました。」
「………いいのに。敬語無しで。」
でも、私の意見を押し付けてシリーが気を使うのは嫌だ。このまま、上手く馴染めればいいんだけど。
「ねぇ、子供たちと言えばシリーはこういうのは何処でやるの?自分の部屋?何か、作業出来る様な部屋が、あるとか?」
「申し訳ありません!触れない様には言ってるんですが…。」
やば。
「いやいやいや、いいの。それは。全然。ベタベタ触っても、全然オッケー。いや、汚してシリーが怒られるとかだと困るけど。ううん、単純に気になったの。下って、どうなってるんだろうって。みんな、よく眠れてる?」
私はいい機会だと思って地階の状況を聞き出すことにした。
結局、食事と時間の改善以外は出来ていないし、他にも問題点が無いか気になっても、いた。
一回、行ってみたいと思ってたし??
駄目かな?今日、特に予定………。
祝詞の、解釈がまだだ。
でも気になる事はすぐに調べないと気が済まないタイプ。
先に、こっちでもいいんじゃない?ローブも出来た事だし………。うん。
「シリー。お願いが、ある。」
「………?何でしょう?」
「私、下に行ってみたい。」
「えっ!」
「駄目?」
「………駄目…、と言うか無理かも?」
「なんで?」
「ローブが………。あと、すぐにバレます。多分、髪色とか………。」
うん?
確かにローブは灰色が無いとまずいな………。
髪色は………ビクスに頼めば、何とかなるんじゃない?
ローブローブ………色…。
ん?
「ちょっと、待ってて。」
寝室に戻り、譲渡室からの生地を探る。
確か…………灰色…………。灰色。
「あーった♪」
あ。髪色もこっちで変えた方がいいか………。
一応、シリーは知らないしね。あまり、色々知って危険があるといけない。
「ビクス?」
「はいはい?やっと、出番かしらね?」
「うん。お願い。何色がいいかな?」
「やっぱり赤ですわ?私の様に美しく気高い、赤。」
「いや、ちょっと赤は………目立ち過ぎ。うーん?また濃い灰色でもいいけど、気分転換に違う色がいいな‥たまには茶系?」
「そうねぇ。でもやっぱり姫様は青かしらね?ちょっと濃い目にするから、大丈夫。」
「そう?じゃあお願い。」
ビクスも私の事、姫様って言ってた??
うん?
思い出せないまま、もう髪を手に取るとそれは既に艶のある、青に変化していた。
紺よりは明るく、少し深い、青だ。
「………綺麗ね。ありがとう、ビクス。」
「どういたしまして?もっと、呼んで下さいまし?」
「努力します…。」
短いやり取りだが、シリーは待っている筈だ。
準備が出来れば多分、駄目とは言わなそうな雰囲気を感じていた私は灰色の大きな布をフワリと被ると、宝箱から同じ様なくすんだ色の端切れ生地を取り出しフードを作る様に首に縛る。
「てるてる坊主だな………。」
でもこれで大丈夫。
もしかしたら、下で朝食が食べられるんじゃない?
「仕方ないわね…。」
ついて来てくれるのだろう、しかししっぽは嬉しそうに動いている朝と一緒に、ダイニングへ戻る。ベイルートはカップには居なかった。
きっと地階へ行ったと言えば残念がるに違いない。
まだ、行ったことが無ければだけど。
「さ、行こうか。」
ニッコリと笑う私を驚いた目で見つめているシリーにアレコレ言い訳を並べておく。
あまり、グロッシュラーではカツラは見ないだろうか。
いや、ラピスでもそんないないか…。
行く気満々の私を見て諦めたのか、ちょっと楽しそうな顔で笑うシリー。
「何だか、ちょっと秘密の作戦みたいですね?」
「それいい!よっしゃ、秘密の地階作戦へレッツゴー!」
「ごー?」
「浮かれてヘマしない様にね。」
そうしてしっかりと釘を刺されつつ、私は初めての地階へ出発する事に、したのだった。
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