透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

水の始まる場所

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朝と、レシフェが飛び込んできて。

何故だかベイルートもブンブン飛んで。

私は私で、驚いてただそれを見ていたんだけど。


「何?どうしたの??」

そんな私の態度に、ため息を吐いた二人。

いや、だって、何があったのか分かんないじゃん。
でも、何となく、怒られそうな事だけは、分かるけど。



「とりあえず、お前がそれを止めれば収まるだろうよ。こっちへ来い。」

そう言って部屋を出て行く、レシフェ。

ベイルートが肩に留まり、朝も部屋を出る。

私は少し、部屋を振り返ってオルガンの蓋を閉じると、そっと、その埃の積もっていない蓋を撫でて部屋を出た。
やはり、傷一つ無い大切にされていた様子を確認して、少し、微笑みながら。




礼拝堂へ入ると、既に朝が先頭になってあの円窓への階段を上っているところだ。
どうやら二人は右派らしい。
私は、左から上るけどね…………。


この前私が歩いた足跡の上に、少しだけまた埃が薄く掛かっている。

何となくこの薄い絨毯を乱したくなくて、出来るだけ足跡の上を歩く。
ゆっくり上まで上ると、二人が円窓を見上げていた。
今日も、曇り空の鈍い光線が降り注ぐ、美しい窓だ。


「どうしたの?ここ………?」

私の質問に、誰も答えない。

それをいい事に、また踊り場の床にある鏡と図を観察する事に、した。
もしかしたら古語を勉強して、解るようになっているかもしれない。淡い期待は、すぐに敗れたのだけど。

「うーん。やっぱり無理か………でも、あっちかもな………。」

何処かで、見た気がするこの飾り文字。
もしかしたら……………。

「依る。」
「ああ、来たか。ここから光が出た。………多分、お前だろうな。薄かったが、この窓から出て飛んで行った。どこへ行ったのか………。あまり考えたくないな。」

「光が………飛んで行った?」

何処へ行ったんだろう?
でもそれって多分…………。

「あっちじゃない?」
「あっち?」
「ってどっち?」
「あっちの、神殿よ。」

「「何故??」」

何となく、そう思っただけなんだけど二人とも割と食いついてるな………。

「ちょっと、思っただけだけど………。」
「うん。」
「何?」

「いや、あっちと、こっちに神殿があるじゃない?普通に考えて、「対」なんじゃないかなぁと、思って。」

「ふむ。」

そう言ってレシフェは私の言葉を聞くと何やら考え込み出した。
朝は「依るらしいわね。」とか言いながら、ウロウロしているけど。


「何しろここで調べても分からんな。とりあえず、裏へ行こうか。」

顔を上げたレシフェはそう、キッパリと言って「後で気焔に聞いてみる」と言っている。
なんだかまた怒られそうだから、ちょっと遠慮したいけれど多分、向こうの神殿に飛んだならばきっと気焔は気が付いているだろう。

多分、あれは私の歌の形をした「想い」の筈だから。


とりあえず、帰ってからの事を考えて少しドキドキしたけれど、階段を下りるレシフェに続く。

どうやらいないと思っていたレシフェは、先に神殿の周りをぐるりとチェックしてきた様で、そこに私が求めていたものがあったらしい。

「お前、水の始まりを探しにきたんだろ?なんで神殿の中に入ったんだよ。」

そんな小言を言われながらついて行くが、仕方が無いと思う。
だって、好きなんだもん。



そうして悪びれた様子も見せずに、私はまだキョロキョロしながら神殿の外へ向かった。







「いや、後で確かめようと思ってたんだよ………。」

回廊脇のお堀の様な水路を見ながら、言い訳をする。
そう言えば私だって「後で行こう」とは思っていたのだ。まぁ、すっかり忘れてはいたんだけど。


神殿の前まで来た川は、一度神殿前で二手に別れて少し広くて浅い、池のようなものになっている。
お堀という程、深くは無いが何か大事なものの周りにある水を見るとお堀だと思ってしまうのは日本人の性なのか。うーん。

そう言えば、向こうの神殿にも、前庭に大きな池がある。きちんと整備されていて、池というかプールの様な人工感はあるけれど。

ここは、自然に水が別れ少し瓦礫が沈むその浅い池がぐっと奥まで続いているのが見える。
泉に慣れている私からすると、水草も藻も無い、ただの水溜りが何だかおかしな感じに映るのだけど。

藍に頼んだら、魚とか泳いじゃうかな?
いやいや、でも景観が崩れるか………?



そんな事をぐるぐるしつつ、池を迂回して何もない庭部分を歩いて行く。

「ここも、昔はお花とかがあった庭だったのかなぁ………。」
「どうだろうな。」

少し前をスタスタ歩くレシフェの返事は素っ気ない。
やはりここは、彼にとって気持ちの良い場所では無いのだろうか。
私的には、かなりオススメの癒しスポットなんだけど。



ぐるりと廻って行くと、段々池がまた、川になってくる。細くなって、神殿に沿う形で流れているのが、分かる。


そうして更に歩くと、丁度礼拝堂の、円窓の裏側。
きっと光が飛んだであろう、その下には池の元であろう、湧水の場所が、あった。


「わぁ~!ここだ!見て見て!凄く………ない??」
「まあ、凄いな?」
「これは………凄いわね?」

「えっ。ナニコレ。レシフェ、知ってた?」

「いいや?またお前かよ………。俺がさっき来た時は、普通の、石だった。」

「ウソ…………。」


その、丁度、円窓の下。

少し離れた灰色の地面に、その池はあった。


もう少し行くと、もう断崖絶壁、あっちの天空の門の場所と同じ、島の端。

天空の門の代わりにそこにあったのは丁度、天空の舞台と同じくらいの大きさの、池だった。


ぐるりと丸い、灰色の岩土に囲まれた小さな、池。

それは、何だか不思議な光景。
水は神殿の左右から細い川となってここに流れ込んでいる訳では、ない。
逆にこの小さな池が水の始まりで、この池から二手に別れ、回廊の脇を通り、このグロッシュラーの土地を流れ、最後に大きな神殿前の池に流れ込んでいるのだ。
その証明となるもこもこと湧き出る勢いの水流が中央に見て取れて、この世界の新しい一面にワクワクしてしまう。

そして何故だか色の無いこの世界の水と違って、滾滾と湧き出るその水に色が有るのは、何故なのだろうか。

じっと、水面を見つめる。

「あ。」

これ、石に色が有るんだ…………。


くるりと振り向いて、レシフェの顔を見る。


「さっき迄は、灰色だったんだ。」

えー。
そんな?
そんな事って?ある?


でも、私は祈った。

いや、歌ったんだけど。
でも、きっと歌は祈りになる。
だって…………。



そうか。



言ってるもん。祝詞で。

放て 想え 歌え 踊れ

そう、言ってるわ…………。

確かに。



今日は、踊ってないけど。
この前二階では、踊った。
今日は、歌。
歌禁止令出てたの、すっかり忘れてたけど。
でも、ここなら誰も居ないし?

だって、歌が駄目な訳じゃ、ない。

何が?駄目?
私の秘密?
でも…………なんなら、みんなが歌って踊ればもっと、いいんじゃない?


あ…………そうか。

「石」って、こうやって創ってたんだ。

多分、そう。
特にここでは。

だって、石って自然から生まれるから。


私達の世界でも何処か地中でゆっくり育つ、石たち。
ラピスではやはり、鉱山だ。
シャットは?あそこもきっと、方法がある筈だ。
私がいる間は、見つけれなかったけど。
ここは………この、池?


もし、この空が見えたなら。

「空」からも、創れそうだけど。

だって、この灰色の大地と水から出来るんだもん。
この、「空中都市」にあって、一番の利を得ることが出来るものって、やっぱり「空」じゃない?
寧ろ、それこそが、グロッシュラーの醍醐味?

もし、見えたら試す価値ありだね…………。



「お前、大丈夫か?………なんか悪い顔になってるぞ?」

「えっ。」

ちょっと、悪い顔、は失礼じゃない?
有効な手段を考えてただけなのにっ。


「これ、触っても大丈夫だよね?」
「多分な。お前の所為でこうなってるんだから平気だろうよ。」
「いや、もしかしたら違うかもしんないじゃん………。」

「「それは、無い。」」

二人にハモられながら、腕捲りをして池の中に手をそっと、入れる。

そこそこ、冷たい。
確かに今は、もう雪も降ろうかという冬だ。

「うひゃ。」

冷たっ。
ん?
でも、すぐ慣れるな…………。

冷たかったのは一瞬だけで、後はまったりとした、水の中。
揺ら揺らと揺れる透明の水に沈む、色とりどりの石たち。

「ねぇ、色がいっぱいあるよ?どうしてかな………ここではまじないの色は大体決まってるんでしょ?でもみんなの石の色が灰色って訳じゃ、ないのか………?」

また私がまじないの色についてぐるぐるしていると二人は口を揃えてこう言った。

「「そりゃ、依る(ヨル)だからね(な)。」」

うん?

じゃあレシフェが祈ったら、黒くなるの?
それもなぁ…………何か嫌だな笑。


手で水の中を探り、幾つかの石を手に取る。

とりあえず私の目についた、赤、黄色、青、灰色の半透明の石だ。
其々どれも透き通る部分と半透明が混じり合って表情豊かな、石たち。
どれも個性的でとても、可愛い。

「もう一つ、これもかな。」

私の世界では一般的な、水晶だ。

何色も、着いていないそのクリアなツルリとした、肌。

曇り空に透かして見ると内部がキラリと光る。

「虹が、あるよ。」

「おま、それ。」
「え?」
「また………それは大事にしまっておけ。」

レシフェが言うには、透明は有るにはあるが、ほぼ存在しないのだと言う。
半透明の白い物はお金になっているのを幾つか見た事があるが、確かにそれ以外だとあのおじいちゃん先生の所にあった大きな原石くらいかな………。
でも、あれも色々な色を吸って虹色に………。
ああ、怖い事思い出しちゃった。
止め止め。


とりあえず、一番安全な場所、あの臙脂の袋の中に入れておく事にした。
レシフェも「それならいい」と言っていたし。


「それにしても………。」
「だな。いいんだか、悪いんだか。」

「えっ?駄目なの?」

「いや、まぁ、駄目では、無いが。」

歯切れの悪いレシフェを放っておいて、私はまだ池の中を楽しむ。

だって、いっぱい、色が有るよ?
ここ、何も無いのに。
これなら…………何が出来るかなぁ。何か役立つまじない道具とか、出来るかな?
白い魔法使いがめっちゃ喜びそうだけど………勝手に教えちゃ駄目だよね………。
うーん。

あ!
でも染料は?それは作りたいかもなぁ………ナザレも喜ぶよね………。

それだけ、駄目かな??


期待に満ちた目で、レシフェをパッと見たけれど言いたい事は分かっているらしい。

「まぁ、まだだ。まだ。もう少し、待て。話が、デカい。」

「そう?」

「お前なぁ…………………。石を手に入れる手段が無くて、俺が何してたか忘れたのか!?それが、ここで簡単に………いや、お前がいれば手に入る。………ああ、面倒事が増えた………いや、助かるが………。いや。」

「まぁ確かに、「依るが」いれば簡単に手に入るって事ね。バレるとマズいわよ。」

そっか………。
でもさ………?

「でも、他の人も祈れば多分、石が出来るよ?」
「そりゃお前、出来る事は出来るよ。何でも良けりゃな?」
「そっか………。」
「まあ、全然違うでしょうね。」

朝に駄目押しされて、黙る。


手元の石たちを眺めて、「こんなに可愛いのにねぇ?内緒だって。」と言うと、何だか石たちが喜んだ、気がした。





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