透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

白の男たち

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はどういう娘なのですか。」

珍しく女の事など尋ねてくるから、何かと思ったらどうやらヨルの話らしい。


ある日の食堂の帰り、深緑の廊下でそう、尋ねられた。
私が一緒にいる所を見たのかもしれないな。
造船所に行く時は、常についていく様にしているから。


ダーダネルスは至って真面目な青年なのだが、少し変わっていると言われている。
あの、世界では。
ここでは至って普通の生徒な彼は、今迄は伸び伸びと自分の好きな研究を続けているだけだった。
ただ、帰りたくないとは日々口にしていたから三年になった彼の将来を心配してはいたが。

ここに残るには、ネイアになるしかない。
だがネイアは早々、なれるものでもない。

残り少ない自由な時間を満喫している彼は、自分の嫌いな運営を後輩のロカルノに押し付けて、最近はやけに楽しそうに図書室へ通っていると思っていた。
だが、原因はヨルだったか。

は手を出してはならないのだが。



だがそんな私の心配を他所に、彼は日々大型犬の様にヨルの側にいて手伝いをしたり、虫除けになっているらしい。

ウェストファリアが言っていた。


そもそも、ウェストファリアが気付くくらいくっ付いているのだから相当なものだと思う。
ヨルのあの、青い男は怒らないのだろうか。

あれもまた何か、不思議な男だ。


何しろ、ウェストファリアからもヨルを守る様に言われているので、勿論ダーダネルスにも伝えておく。
白の家にも色々あるが、こいつは大丈夫な筈だ。
そもそも、「婚約者にしたい」とか、そんな考えは無いのだろう。
目を見れば、解る。

やつは、あの色彩の姫に使える従僕だ。


「ヨルは、ラピスから来てる。少し、デヴァイの常識とは違う。注意してやってくれ。あまり虫を寄せ付けるな。」

「図書室で何かあればウェストファリアに言え。」

ウェストファリアは、白の家では絶大な影響力を誇る。
それは、ここグロッシュラーの片隅で部屋に篭っていても、だ。

思った通り素直に頷くと、納得したのか去って行ったダーダネルス。
これで図書室でのヨルは大丈夫だろう。

あとは赤ローブの連中に気を付ければ、大丈夫な筈だ。





ある日、珍しくヨルが「午前中に造船所に行く」と言い出した。

特に断る理由も無いので、了承したがそれにくっついて来たのがハーゼルだ。

赤ローブの連中は特に良くも、悪くもなく、その時々で上手く立ち回るのが、常。
だからあまり私は好まないのだが、やはりその動きに気を付けなくてはならないと思う出来事があった。

それは、造船所の帰り道だった。


行きは一緒だったハーゼルが居ない事について何も触れない、ヨル。
私もそんなものかと思っていたが、少し様子がおかしい。

元気かと思ったら急に沈んだり、考え込んだり。
また、私を心配させまいとしているのか、無理に元気に話し始めたり、する。
何か、あったのだろうか。
ここにハーゼルがいない事と関係はあるのか。


その答えが分かるのは、その日の夜だった。







「…………だろ?あれは本物だ。」

「は?………何故分かる?何かしたのか?まさか………。」


怪しげな会話が耳に入った。

私は一人、長テーブルの端で食事をしていたのだが、近くの小テーブルで二人、顔を突き合わせている赤ローブ。
いつもの、二人だ。

年若い事もあってか、元々仲が良いらしい二人はここに来た頃から年下のハーゼルが年上のセレベスを振り回して困らせる、という構図が出来上がっている普段からお調子者の二人組。

そういう認識なのだ。私達、ネイアの中では。


しかしネイアの中でも随一、力の強いハーゼルはその適当さからも中々厄介な存在で赤の家だからまだ治っているが、これが銀や、うちの白とかであったならきっと頭を抱えていたのは私かミストラスだっただろう。
一応、親族に迷惑をかけない様にする、という心算はある様でそれが枷になり今の所、暴走はしていない。

だが今日の造船所行きで、少し私は警戒をしていた。
そこに来て、この怪しげな話。
ウェストファリアに相談しなければならないかもしれない。

じっと、食べながら耳を澄ましていた。




「何やったんだよ。………お前………。まさか…?」
「あー………大丈夫、大丈夫。お前が心配する様な事はしてない。………ちょっと、揶揄っただけさ。」

「怪しいな………。あの子は貴石の女と違うんだぞ?………まぁいい。それで?」


急に沈黙が来て、そっちを向かない様にするのが、大変だ。
私の意識がそちらに行っている事がバレない様、薄い膜を張る。紙や、膜などの薄く張るまじないは私の得意分野だ。

少しの沈黙の後、ハーゼルは驚くべき事を口にした。


「あれな。多分、本物だ。あいつが金のローブで間違いない。本筋かもしれないぞ?」

「は?!」
「馬鹿。声がデカい。」

「…………いや、うん。しかし……………もう、存在しないだろう?他には。」

「だってお前、見たって言ってたじゃないか。嘘だったのか?」
「いや、本当だが………。でも………いや、そうなのか。そうなるよな?」

は?
何がそうなるのだ?
「金のローブ」??

完全に、まずい話題だろう?
何故今、その話が、しかも赤ローブの間でされているのだ?


「とりあえず、お前どうするんだ。狙ってるんだろう?」
「………いや、そんな大層な………。しかし。そこまでになると。いや…………。」

「何だよ!煮え切らないな!そもそも婚約者がいる。じゃあ諦めな。あんなの、手に負えないぞ?俺も弾かれたからな。」
「え?が………?」

「そうだ。」


自信に溢れた、その返答。

そうだ。ハーゼルの力は強い。
それよりも?ヨル………?
力が強いとは知っているが、そこまでなのか?


「とにかく、誰にも言うな?」
「そんなの………。今更だよ。報告しなかった時点で、僕は………。」
「まぁな。」


それきり、その話は終わった。

「何を」報告しなかった?
それ次第では何か対策を打たなければ危険かもしれない。とりあえずは、禁書室か………。



トレーを片付け、足早に深緑の廊下を歩く。

私のフードから玉虫色が飛び去った事に気が付いたが、それもいいだろう。
きっと、あの青いローブにも報告してくれる筈だ。

手間が、省ける。
まだあの青いローブとは仲良く無いしな。


………ヨルの独り占めは、良くないぞ?
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