透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

赤いローブの二人

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「あれ?ベイルートさんどこ行ったんだろ?」

ヨルのそんな声を下に聞きながら、俺は赤ローブを目掛けて飛んでいた。

あいつが「金のローブ」と言ったからだ。



朝の礼拝からの戻り、神殿の白い廊下。
普段、神殿の廊下は自分の色が目立つのでそう飛ばない様にしているのだが、ヨルが気にしていた金のローブの話だ。

直感で「こいつがあの、引っ張った奴だ」と思った俺は、見え難い様かなり上を飛ぶ様にして奴について行く。
行き先は多分、食堂だろう。


そうしてソイツはもう一人の赤ローブと一緒に朝食を取り始めた。
あまり男に留まる趣味は無いので、テーブルの下で待つ。
コイツ、なんか臭いしな………いや、多分普通なんだろうが、ヨルはいつもいい匂いがするのだ。
きっと、その所為だ。
決して俺は、変なおじさんでは無い。虫だし。



そうして食事を終えると彼等は部屋へ戻る様だ。

さっき食事中にこんな会話をしていたから。


「は?金ローブ?!」
「馬鹿!声が大きい!小さい声で話せ。」

「いやしかし、お前、聞こえた所で本当だとは誰も思わないだろう?ホントに見たのか?」
「ああ。俺の部屋に灰ローブより、少し薄い灰色のローブが、ある。それを剥ぎ取った時に、下から金ローブが出てきたんだよ。」

「………夢じゃね?」
「本当だ。まぁ、それならいい。お前に言っても仕方が無いしな。」

「………部屋にあるのか?」
「ああ。でも、いいぞ?今日授業があるんじゃないのか?」
「悪かったよ。………見せろよ。」
「まぁ、いいが。でも、部屋にあるのは普通のローブだぞ?」
「そりゃそうだが、運が良ければ判るかもよ?」

「………まぁ、確かに女だったけどな。」
「ホントか?!じゃあ早く行こうぜ?」



何かがまずい予感はするが、とりあえず、辺りに気焔は見えない。
仕方が無いのでとりあえず臭くない方のローブの裾に、潜り込んだ。








「ほら、これだ。」

彼等は年長の方の男の部屋に入り、茶髪の男がハーシェルのローブを取り出した。
そう、背が高くない中肉中背の男は年長とは言っても二十代半ば頃か。
もう一人の軽口を叩いている奴が、若いのだ。
レシフェより年下なんじゃないか?

ローブを渡された水色の髪の男は、それを手に取り匂いを嗅いでいる。

それがハーシェルの物だと知っている俺としては、だいぶ複雑な気分だ。
多分、「女だ」と言っていた茶髪の言葉を信じて嗅いでいる、この水色の男が気の毒になってきた位である。
だが、もしかしたらヨルの香りが移っていないとも限らない。
アレはいい匂いだからな。
虫だから、そう感じるのか…?石だから??



「ふぅーん?女?本当に女だったか?」

意外と鋭いな、コイツ。

「ああ。髪は長かったぞ?カツラか、まじないでなければな。」
「ふむ。」

しつこく匂いを嗅ぐ、水色の男。

それは放っておいて、俺は部屋を見物する事にした。
普段、偵察に回ってはいるが、中々部屋に入れる事は無いからだ。



ほう、俺の好きな緑があるぞ。

その茶髪の男の部屋は、本ばかりの殺風景な部屋だ。
ネイアの部屋はもっと豪華なのかと思っていたが、それはやはり家格と関係するのだろう。
そう、華美な訳ではなく、だからといってみすぼらしくも無いのだがこの男の性質の所為か至極シンプルな部屋である。

まぁ俺としては、このくらいで丁度いいとは思うが。

ヨルの報告によると、ミストラスの部屋なんかはチャラチャラしてそうだしな。


本棚の隅を歩いていると、また水色が喋り出した。どうやらコイツは女好きの様だ。

「しかし金ローブなんて、実在しないだろう?幽霊かなんかじゃないのか?」

「そんな訳あるか。幽霊はローブを羽織らないだろう。それに、守っている男がいた。心当たりは一人しかいないんだが、しかし銀なんだよな………。」
「ああ、それ俺も聞いた。あの、一人だけ入ってきた銀の女だろう?しかも婚約者が青。どうなってんだ?意味が分からん。青でいいなら、俺でもいいだろ。」
「またお前は…………首を突っ込むなよ?お前はいいが、あっちが大変になるんだぞ?銀から睨まれたくは無いだろう?」

「だってあいつ、ラピスだろう?フェアバンクスは少し親戚が残ってるだけだ。そう、影響無いだろう?」
「引っ掻き回すなって言ってるんだよ。大体…………あいつ、多分強いぞ。」


「あいつ」って多分、気焔の事だよな?
止めてくれよ?とばっちりが来そうだぞ………?


「そうか?まぁ、ここに来てるくらいだからある程度ではあるんだろうが…。まぁ青の家は得体が知れないからな。それがさ、その銀の女が造船所に来てるんだよ。変わってるよな?」
「ああ。チラッと聞いたが。会ってないのか?」

「それが。いつも戦闘訓練のない日に来るんだよ。狙ってんのかな?だから噂だけ俺の中で一人歩き。礼拝でチラッと見るだけ。ミストラスと、あの青い奴の守りが堅いからな………。」

ふぅん?
やはりミストラスは何か、ヨルに対して思う所がある様だな?
まぁ、危険がない様に守ってくれるのはありがたい。

「で?これ、どうすんの?」
「…………分からん。まだ誰にも言ってない。」
「何故?珍しいじゃん。」

「いや、………何となくだ。返してみるか?…………いや、受け取らないだろうな………。」
「まぁ、隠してるとしたらね。………隠すか。でも、本物なのか?黄色じゃなくて?本当に、金だったか?」

「ああ。とても、美しかった。暗い廊下でも、ローブがヒラリと輝いて翻ったな………。あれは金だろう。」

「珍しいな。顔は?見えなかったのか、少しでも?」
「ああ。見えていればもう、行ってる。」
「へぇ。……………本当に珍しいな。しかし、お前ローブに惚れたとはな…せめて人にしろ、人に。」

「なっ………。惚れたとは言っておらん。」
「なーに言ってんだか。」

ローブに惚れる?

なんか、グロッシュラーはおかしな奴が多くないか?

ミストラスもなんだかおかしな雰囲気だし、白い魔法使いもいるし、黄ローブのネイアは貴石御用達だし、この若い方もたまに一緒に行ってる様だし、コイツはローブにほれている?

どうなってるんだ。
ちょっとアクの強い奴、多過ぎだろう。


「でもさ、この前その子が二階の礼拝室に入って行ったんだよ。」
「へぇ?珍しいな。」
「お前を迎えに行こうとしてたら、扉を開けて入って行ったんだ。そしたらさ…………どうなったと思う??」

「なんだよ。早く言え。」

「急にさ、扉から光がパーって出て。あっ、って思ったら消えたんだけどさ、開けたら誰もいないの。凄くないか?あの子、ひょっとすると、ひょっとするよ?」
「何だそのひょっとひょっとは。金は、存在しない筈だ。一人を除いては。」
「まぁね………。そうだったら、面白いなって思っただけ。だって退屈じゃん………お前も行けばいいのに。お姉ちゃん達、可愛いよ?」

「………いい。それより、お前その光の話誰かに言ったか?」
「言う訳ないじゃん。面倒事は御免だよ。」
「なら、いい。これからも内緒にしておけよ?」
「はーいはい。じゃあ、俺行くよ?」

「ああ。」


そのまま、何も言わずに水色は出て行って茶髪だけが残った、部屋。

俺も出て行くタイミングを逃して、こいつが部屋を出る迄は待たなきゃならない様だ。



そいつが徐ろにハーシェルのローブを、嗅ぐ。

俺は吹き出しそうになったが、なんとか堪えた。

何だか面倒くさい事になりそうなこの案件、どう伝えるべきか、考えながら扉が開くのを待つ事にしよう。


「……………ヨル、か。」

ポソリと名前を呟いた、茶髪。


「面倒くさい事になりそう」じゃなく、既に「面倒な」案件な事を悟るとため息が出る。


それにしても、あの水色の「匂いを嗅ぐ特技」は注意しないとならんかもな………。

報告するのが、面倒くさい。
金色じゃなく、黒に言おうか。そうしよう。
どうせ、すぐ伝わるだろうが。
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