168 / 1,700
7の扉 グロッシュラー
赤いローブの二人
しおりを挟む「あれ?ベイルートさんどこ行ったんだろ?」
ヨルのそんな声を下に聞きながら、俺は赤ローブを目掛けて飛んでいた。
あいつが「金のローブ」と言ったからだ。
朝の礼拝からの戻り、神殿の白い廊下。
普段、神殿の廊下は自分の色が目立つのでそう飛ばない様にしているのだが、ヨルが気にしていた金のローブの話だ。
直感で「こいつがあの、引っ張った奴だ」と思った俺は、見え難い様かなり上を飛ぶ様にして奴について行く。
行き先は多分、食堂だろう。
そうしてソイツはもう一人の赤ローブと一緒に朝食を取り始めた。
あまり男に留まる趣味は無いので、テーブルの下で待つ。
コイツ、なんか臭いしな………いや、多分普通なんだろうが、ヨルはいつもいい匂いがするのだ。
きっと、その所為だ。
決して俺は、変なおじさんでは無い。虫だし。
そうして食事を終えると彼等は部屋へ戻る様だ。
さっき食事中にこんな会話をしていたから。
「は?金ローブ?!」
「馬鹿!声が大きい!小さい声で話せ。」
「いやしかし、お前、聞こえた所で本当だとは誰も思わないだろう?ホントに見たのか?」
「ああ。俺の部屋に灰ローブより、少し薄い灰色のローブが、ある。それを剥ぎ取った時に、下から金ローブが出てきたんだよ。」
「………夢じゃね?」
「本当だ。まぁ、それならいい。お前に言っても仕方が無いしな。」
「………部屋にあるのか?」
「ああ。でも、いいぞ?今日授業があるんじゃないのか?」
「悪かったよ。………見せろよ。」
「まぁ、いいが。でも、部屋にあるのは普通のローブだぞ?」
「そりゃそうだが、運が良ければ判るかもよ?」
「………まぁ、確かに女だったけどな。」
「ホントか?!じゃあ早く行こうぜ?」
何かがまずい予感はするが、とりあえず、辺りに気焔は見えない。
仕方が無いのでとりあえず臭くない方のローブの裾に、潜り込んだ。
「ほら、これだ。」
彼等は年長の方の男の部屋に入り、茶髪の男がハーシェルのローブを取り出した。
そう、背が高くない中肉中背の男は年長とは言っても二十代半ば頃か。
もう一人の軽口を叩いている奴が、若いのだ。
レシフェより年下なんじゃないか?
ローブを渡された水色の髪の男は、それを手に取り匂いを嗅いでいる。
それがハーシェルの物だと知っている俺としては、だいぶ複雑な気分だ。
多分、「女だ」と言っていた茶髪の言葉を信じて嗅いでいる、この水色の男が気の毒になってきた位である。
だが、もしかしたらヨルの香りが移っていないとも限らない。
アレはいい匂いだからな。
虫だから、そう感じるのか…?石だから??
「ふぅーん?女?本当に女だったか?」
意外と鋭いな、コイツ。
「ああ。髪は長かったぞ?カツラか、まじないでなければな。」
「ふむ。」
しつこく匂いを嗅ぐ、水色の男。
それは放っておいて、俺は部屋を見物する事にした。
普段、偵察に回ってはいるが、中々部屋に入れる事は無いからだ。
ほう、俺の好きな緑があるぞ。
その茶髪の男の部屋は、本ばかりの殺風景な部屋だ。
ネイアの部屋はもっと豪華なのかと思っていたが、それはやはり家格と関係するのだろう。
そう、華美な訳ではなく、だからといってみすぼらしくも無いのだがこの男の性質の所為か至極シンプルな部屋である。
まぁ俺としては、このくらいで丁度いいとは思うが。
ヨルの報告によると、ミストラスの部屋なんかはチャラチャラしてそうだしな。
本棚の隅を歩いていると、また水色が喋り出した。どうやらコイツは女好きの様だ。
「しかし金ローブなんて、実在しないだろう?幽霊かなんかじゃないのか?」
「そんな訳あるか。幽霊はローブを羽織らないだろう。それに、守っている男がいた。心当たりは一人しかいないんだが、しかし銀なんだよな………。」
「ああ、それ俺も聞いた。あの、一人だけ入ってきた銀の女だろう?しかも婚約者が青。どうなってんだ?意味が分からん。青でいいなら、俺でもいいだろ。」
「またお前は…………首を突っ込むなよ?お前はいいが、あっちが大変になるんだぞ?銀から睨まれたくは無いだろう?」
「だってあいつ、ラピスだろう?フェアバンクスは少し親戚が残ってるだけだ。そう、影響無いだろう?」
「引っ掻き回すなって言ってるんだよ。大体…………あいつ、多分強いぞ。」
「あいつ」って多分、気焔の事だよな?
止めてくれよ?とばっちりが来そうだぞ………?
「そうか?まぁ、ここに来てるくらいだからある程度ではあるんだろうが…。まぁ青の家は得体が知れないからな。それがさ、その銀の女が造船所に来てるんだよ。変わってるよな?」
「ああ。チラッと聞いたが。会ってないのか?」
「それが。いつも戦闘訓練のない日に来るんだよ。狙ってんのかな?だから噂だけ俺の中で一人歩き。礼拝でチラッと見るだけ。ミストラスと、あの青い奴の守りが堅いからな………。」
ふぅん?
やはりミストラスは何か、ヨルに対して思う所がある様だな?
まぁ、危険がない様に守ってくれるのはありがたい。
「で?これ、どうすんの?」
「…………分からん。まだ誰にも言ってない。」
「何故?珍しいじゃん。」
「いや、………何となくだ。返してみるか?…………いや、受け取らないだろうな………。」
「まぁ、隠してるとしたらね。………隠すか。でも、本物なのか?黄色じゃなくて?本当に、金だったか?」
「ああ。とても、美しかった。暗い廊下でも、ローブがヒラリと輝いて翻ったな………。あれは金だろう。」
「珍しいな。顔は?見えなかったのか、少しでも?」
「ああ。見えていればもう、行ってる。」
「へぇ。……………本当に珍しいな。しかし、お前ローブに惚れたとはな…せめて人にしろ、人に。」
「なっ………。惚れたとは言っておらん。」
「なーに言ってんだか。」
ローブに惚れる?
なんか、グロッシュラーはおかしな奴が多くないか?
ミストラスもなんだかおかしな雰囲気だし、白い魔法使いもいるし、黄ローブのネイアは貴石御用達だし、この若い方もたまに一緒に行ってる様だし、コイツはローブにほれている?
どうなってるんだ。
ちょっとアクの強い奴、多過ぎだろう。
「でもさ、この前その子が二階の礼拝室に入って行ったんだよ。」
「へぇ?珍しいな。」
「お前を迎えに行こうとしてたら、扉を開けて入って行ったんだ。そしたらさ…………どうなったと思う??」
「なんだよ。早く言え。」
「急にさ、扉から光がパーって出て。あっ、って思ったら消えたんだけどさ、開けたら誰もいないの。凄くないか?あの子、ひょっとすると、ひょっとするよ?」
「何だそのひょっとひょっとは。金は、存在しない筈だ。一人を除いては。」
「まぁね………。そうだったら、面白いなって思っただけ。だって退屈じゃん………お前も行けばいいのに。お姉ちゃん達、可愛いよ?」
「………いい。それより、お前その光の話誰かに言ったか?」
「言う訳ないじゃん。面倒事は御免だよ。」
「なら、いい。これからも内緒にしておけよ?」
「はーいはい。じゃあ、俺行くよ?」
「ああ。」
そのまま、何も言わずに水色は出て行って茶髪だけが残った、部屋。
俺も出て行くタイミングを逃して、こいつが部屋を出る迄は待たなきゃならない様だ。
そいつが徐ろにハーシェルのローブを、嗅ぐ。
俺は吹き出しそうになったが、なんとか堪えた。
何だか面倒くさい事になりそうなこの案件、どう伝えるべきか、考えながら扉が開くのを待つ事にしよう。
「……………ヨル、か。」
ポソリと名前を呟いた、茶髪。
「面倒くさい事になりそう」じゃなく、既に「面倒な」案件な事を悟るとため息が出る。
それにしても、あの水色の「匂いを嗅ぐ特技」は注意しないとならんかもな………。
報告するのが、面倒くさい。
金色じゃなく、黒に言おうか。そうしよう。
どうせ、すぐ伝わるだろうが。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
皇帝はダメホストだった?!物の怪を巡る世界救済劇
ならる
ライト文芸
〇帝都最大の歓楽街に出没する、新皇帝そっくりの男――問い詰めると、その正体はかつて売上最低のダメホストだった。
山奥の里で育った羽漣。彼女の里は女しかおらず、羽漣が13歳になったある日、物の怪が湧き出る鬼門、そして世界の真実を聞かされることになる。一方、雷を操る異能の一族、雷光神社に生まれながらも、ある事件から家を飛び出した昴也。だが、新皇帝の背後に潜む陰謀と、それを追う少年との出会いが、彼を国家を揺るがす戦いへと引き込む――。
中世までは歴史が同じだったけれど、それ以降は武士と異能使いが共存する世界となって歴史がずれてしまい、物の怪がはびこるようになった日本、倭国での冒険譚。
◯本小説は、部分的にOpen AI社によるツールであるChat GPTを使用して作成されています。
本小説は、OpenAI社による利用規約に遵守して作成されており、当該規約への違反行為はありません。
https://openai.com/ja-JP/policies/terms-of-use/
◯本小説はカクヨムにも掲載予定ですが、主戦場はアルファポリスです。皆さんの応援が励みになります!
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
THE LAST WOLF
凪子
ライト文芸
勝者は賞金五億円、敗者には死。このゲームを勝ち抜くことはできるのか?!
バニシングナイトとは、年に一度、治外法権(ちがいほうけん)の無人島で開催される、命を賭けた人狼ゲームの名称である。
勝者には五億円の賞金が与えられ、敗者には問答無用の死が待っている。
このゲームに抽選で選ばれたプレーヤーは十二人。
彼らは村人・人狼・狂人・占い師・霊媒師・騎士という役職を与えられ、村人側あるいは人狼側となってゲームに参加する。
人狼三名を全て処刑すれば村人の勝利、村人と人狼の数が同数になれば人狼の勝利である。
高校三年生の小鳥遊歩(たかなし・あゆむ)は、バニシングナイトに当選する。
こうして、平和な日常は突然終わりを告げ、命を賭けた人狼ゲームの幕が上がる!
罰ゲームから始まる恋
アマチュア作家
ライト文芸
ある日俺は放課後の教室に呼び出された。そこで瑠璃に告白されカップルになる。
しかしその告白には秘密があって罰ゲームだったのだ。
それ知った俺は別れようとするも今までの思い出が頭を駆け巡るように浮かび、俺は瑠璃を好きになってしまたことに気づく
そして俺は罰ゲームの期間内に惚れさせると決意する
罰ゲームで告られた男が罰ゲームで告白した女子を惚れさせるまでのラブコメディである。
ドリーム大賞12位になりました。
皆さんのおかげですありがとうございます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる