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7の扉 グロッシュラー

癒しタイム

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「いや、でもこれ、いい…………。」


もう、殆ど見えなくなったピンクの雲。

湯船に渡してある銀の板に鎮座しているピンクの石は、新しいお風呂タイムの癒し要員になりそうである。


「これってこういう風に作ってあるのかな…………いや、ないな。」

ウイントフークと、このピンクの雲が結びつかない。多分、違う。

何だかあの仏頂面とピンクのギャップが面白くなって、一人クスクスと笑いながら化粧水を付ける。

でもきっと、何かが作れる様にはしてあったのだろう。
感謝して、楽しむ事にしよう。

私の事を思って入れてくれ、それをタイミングよく気焔が今日、くれた。
それってバッチリ、役目を果たしてるよね?
凄くない??

そう、何だかあのキラキラを浴びてから私は、スッキリしていたのだ。

私の中のモヤモヤがあの小さなキラキラと一緒にパチパチと、弾けた様に。

何にせよ癒し効果は、抜群って事だね。



身支度を終え、チラリとピンクの石をまた目の端に映してから洗面室を出た。






「ん?何だそれは。」


ダイニングでは気焔が座っていて、今日も夜の明かりで金髪が透け、綺麗だ。

しかし私を見るなり立ち上がり、髪を梳いてチェックしている、彼。

何かおかしな事があったのだろうか。


「ウイントフークか。」

そう言って少し笑い、また座り直した気焔を見てやはり髪が少し変化した事が分かる。

「え?大丈夫だと思う??」

今度は段々、ピンクになるとかだと困る。
少し焦っている私をちょっと楽しそうに見つめると「すぐ戻るだろうよ。」という気焔。

まぁ、それならいいんだけど。

少し安心して、自分でも髪を手に取る。
確かに、ここの明かりで見ると少し変化が分かる。でも、ほんの少し、だけど。





「もう作ったのか。」

棚に並ぶ癒し石を見て、そう言う気焔。

やっぱり夜の明かりの金色は何だかキラキラしている気がする。

出窓からの明かりで透ける髪と、逆光で影になる長い身体。

ベッドにゴロゴロしながらいつもの光景を眺め、リラックスタイムだ。
今日は何だかプレッシャーを感じる一日だったので、何だかゴロゴロと言うか、ベロベロと言うか、ダレたい気分なのだ。

だらしの無い格好でベッドで転がる私を、ちょっと嫌な目で見ている金色はこちらに来ようとしない。

何故だ。
早く来て、私を癒して?

手を伸ばすと、また少し目を細めたけど逆光でも金に光るその瞳はとても綺麗で、私にその効果は無い。
駄目だよ、嫌な顔しても。
来なさい、こっちに。


仕方の無い顔をしてベッドに座った気焔の服をクイクイと引くと、また少し嫌そうな顔をして振り返る金色の瞳。

でも私、この顔結構好きなんだよね………このちょっと、嫌そうな感じ………。

何だろう。
本気で嫌がってないのが、分かるからかな?


両手を広げて「抱っこしろ」ポーズをすると、ため息を吐いて横になる。

「もう、寝ろ。」

いつもの台詞で布団を掛け、ふわりと金色で包まれたけど今日の私は全然目が冴えていた。
それはもう、爛々と。



ええ…………。

自分の目がもしかしたら、ミストラスが長の話をしていた時と同じかもしれない事に愕然として、頭を振る。

「眠れないのか?」

「ううん。………うん?」

意味の分からない返事をした私を、ポンと引っ張り上げ顔の見える上まで出した気焔。
いつも少し、気焔の胸元に潜り込む様に寝ているからだ。

「実は、少し青い?………うん?でも気のせいかな…。」

久しぶりの至近距離で見る、金の瞳をまじまじと観察する私。
何故だか気焔の瞳は、暗くても明るくて、よく見える。まるで内側に光があって、中から照らされている様にだ。

ふと、この前気焔が焔に包まれた事を思い出す。

そうだ。
この人、火の石なんだ。

だからかな?

あの時も燃えている様だった瞳。
もしかしなくても彼の中には焔があるのだろう。
美しくて、きっと畏れを抱く様な荘厳な焔が。

触れたいけど、触れてはいけないもの。


駄目なのかな?
こんなに、近くに居るのに?
もっと、近づいたらどうなる?
もっともっと、近づいたら……………?



それでもきっと、変わらないのだろう。

少し、揺らぐかもしれない。
焔が風に揺れる様に。

でもきっとそれは消えないし、ただそこで燃えているのだ。きっと、永遠に。



何だかそう考えると無性に悔しくなってきて、変な感情がむくむくと頭を擡げてくる。

私だって包めるもん。

この、焔の石ごと、全部。
ぜんぶだよ、ぜんぶ。

むくむくと頭を擡げたその想いはどんどん膨らんで、まるごとぜんぶ、癒したい想いが溢れてくる。

さっき、お風呂で癒されたみたいに。

今こうして、この金の瞳に癒されてるみたいに。

できるもん。

私だって。

ねぇ?


「コラ!お前、何してる?!」

ん?

焦る気焔の声に顔を上げる。
いつの間にかまた胸元に潜っていた私は、頭上に浮いたピンクについ、大きな声で笑ってしまった。

「ハハッ、やれば出来るじゃん。」

「は?早くしまえ。………何だ、これは………。」


お風呂で見たよりも、数倍に膨らんだピンクの雲はむくむくとしてとても可愛い。

何でか私は「それ」が部屋よりは大きくならないだろうという妙な確信があったので、焦る気焔を尻目に一人、楽しんでいた。


「ウケる、これお風呂より大きくなるんだ!大丈夫だよ、多分これよりは大きくならないから。」

「全く…………。」

降り注ぐキラキラが気焔の上で弾けてとても、綺麗だ。
そのうちの幾つかが彼に吸収されて行くのが、解る。何だろう、でも私も彼に力をあげられるのなら、嬉しい。

「アハハ。」
「アハハじゃなかろう………いやしかし、これは………。」

ベッドの上で仰向けに寝転び腕を広げ、キラキラを受け止めて遊ぶ。

きっと、私のまじない力で出来ているそのキラキラは私の中にはスッと帰って行くのだけれど、彼の中には少しずつジワリと染み込んでそして微量な変化を起こす。

あの、燃え上がった日の様に、少しずつ色が変化する金の石。

金とピンクが染みて、とても美しい。


金もいいけど、ピンクゴールドもいいな…………。


呑気にそんな事を思っている私を尻目に、気焔はまたムズムズしてきたらしくベッドから出て身体を動かし始めた。


ホント綺麗だな、この人。


一抹の悔しさを覚えつつ、少しずつ変化して行く彼を見守る。
また、燃え始めた気焔。

こうして何度も生まれ変わって、彼は一体、何になるのだろうか。


自然と「生まれ変わる」と思った自分を不思議に思いながらも「ああ、そういやフェニックスだった」とクスクス笑う。



「「依る。」」

あ。

変化が終わって私を見つめる彼が「あの声」を出して、心臓が震える。


いつの間にかもう、雲は消えて、キラキラも消えて、部屋の中はいつもの通り、彼と私だけ。

でも少し、ほんのりピンクを帯びた彼は何故だか「あの声」で私を縛り、そのままベッドで抱き寄せられる。


頬を挟まれ瞳を合わせると、顎をクッと上げられる。

弾かれちゃうよ………?


そう思ってぐっと身構えたが、何故だかそのまま額に口付けすると「もう、寝ろ。」といつも通りに包まれた。


え?
なんで?
…………弾かれない………え?
てか、この人今、サラッとキスしたよね?
おでこだけど!?
え?
ちょっと!?
「寝ろ」とか言って、寝れるか!


私はいつもの胸の中でぐるぐるどころか、ぐーるぐーるしていたのだけれど金の石はそのまま、私をいつもよりピンクの焔で包んだまま。

しれっと、している。

絶対、わざとだ。


くっ、悔しい…………。




何の勝負でも無いのだが、折角私がフワフワ癒したのにまたぐるぐるドキドキさせられて、何となく負けた気分なのだ。
絶対、解ってやっているに違いない。


くっ。
いつか絶対、「参りました」と言わせてやるっ!


そうして癒されたんだか、癒されてないんだか、でもなんとなく楽しい夜は、更けていくのだった。
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