透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

祈りと歴史

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「答えは出ましたか?」

優しい声で訊くミストラスは、先程迄黒い事を言っていた人物には到底見えない。
とりあえず状況整理を後にして、私は自分が出した答えを彼が再び椅子に腰掛けるのを待って、口にした。


「「空」です。」


そう言った瞬間の、彼の、顔。

「ハハッ、そうか。それはそれは………。そう来るか。うん。」

一瞬、心底驚いた顔をした彼は、すぐに何かが腑に落ちた顔になりその後急に笑い出したのだ。

何が起こったのかサッパリ分からない私は、その様子をちょっと引きながら見つめていたのだけれど、その後の話を聞いてその理由を少し納得する事に、なる。


一頻り感心したり、笑ったりした後ミストラスは持ってきた本をテーブルに立てると「読んだ事はありますか?」と質問してきた。

テーブルの上にトンと置かれたその本。
表紙には何か書かれているが、古語なので読めない。多分、私が今迄訳した言葉の中にも該当する物が無いと思う。

「解りません。」

正直に答えると、何でか満足そうに頷いて説明し始めた。
じゃあ、何故聞いた…………と思ったけど突っ込む訳にもいかないので、黙ってたけど。

「あなたに目を付けて正解でしたね。」

「?」

「これはグロッシュラーの歴史の本です。歴史と言うか祭祀の本と言うか、まぁ元々ここは祈りの為の場所だったのでそれは同意な部分も多いのですけどね。」

ん?どっかで聞いたな、その話…………。

「始まりは色々云われがありますが、私の視点で言えば流刑地に近いと思います。それと、力が弱い者や逸れ者の、地。」

「何故か?………それはデヴァイ以外の地は「穢れた地」だと言われているからですよ。自分で言うのも何ですが、選民思想を持つ彼等が進んで外に棲む訳がありませんから。」

私の様子を見ながら優雅にお茶を飲む、ミストラス。私も頑張って飲んでみたけれど、もう冷めた紅茶はあまり、美味しく感じられない。
冷めているからなのか、話の所為なのかは、分からないけど。


「そうしてきっと、罪を悔い改める為なのか、それとも今迄の習慣からか。祈っていた訳なんですが「ここ」には「空」があります。だから始めは「空」に、祈っていた様ですね。………ええ、そうです。昔の「空」は、青かった。あなたがいた、ラピスの様に。」

「…………大丈夫ですか?まぁ簡単に説明しましょう。始めはそんな事で始まったここの生活ですが、「空」は人々を健康にした。恵みもある。するとですね、力も強くなったんですよ。「祈り」によって。そうしてそれは次第に良く、思われなくなった。それはそうですよね?自分達が追放した、余計な人間が豊かになり愉しんでいるのですから。そうして争いになりました。クテシフォンから聞いていませんか?」

言ってた。
昔、争いがあったって。これの事?

「少し、だけ。」

頷いて続けるミストラス。何だか眼鏡の奥の瞳が爛々としてきたのは気の所為だろうか。

「そうです。そうして争い、無になり、元に戻り、争い、また無になる。そうして今は灰色の無のままの世界になったのです。」


「「無」になる?」

「そう、文字通り「何も無い、無」です。何処までが事実か分かりませんが、裁定に神が出てきて「無に帰した」とあります。きっと神も面倒になってリセットしたのでしょうね。………何度も同じ過ちを繰り返すのですから。」

「神?………神の一族は?」

「自称」と付けそうになったけれど、ギリギリ踏み止まった私。しかしやはりポロリと口から疑問が出てくる。
だって、歴史と言っても何だか話がトンデモの方向に行き出したから。
何か、神話っぽくなってきたんだけど?

「「神の一族」についてはまた別の研究になりますが、ハッキリはしていません。それを証明するには全ての世界を渡り歩く必要がありますし、それは誰もやりたがらなかった。………ただ、一人を除いては。」

身体が反応してしまったのを、気付かれただろうか。
しかしミストラスはそのまま話を続ける。

「しかし彼女の研究も途中で終わっている。ですから証明はされていません。ですが、私達は神の一族であるとは、言われています。何故、争いが終わったか。それは我が一族が世界を支えているから。それ故の、神。そして、それに祈り、力を奉納するのは当然の事。」

そこでピタリと話を止めたミストラスは、またじっと私の顔を見ている。

少し、落ち着いた彼の瞳は眼鏡の奥にまた閉ざされてしまった様だ。
光の所為か、見えない表情に不安になりながらもその光の方向に目をやる。
やはりこの部屋にも窓があり、それも大きな、窓だからだ。


今日も、天気が良い。

流れる雲がはっきりと見えいつもより少し青い気もする、白い空。灰色と白の雲が交互に流れて、風が強い事が判る。


話の内容が重た過ぎて、脳みそをぶん投げたかった私は、少し落ち着きを取り戻した。

うん。空ってやっぱり、偉大。


で?
神が?「まぁまぁ、」って言いに来て?チャラになったけどまた争って………ってやっているのを平定したのが今の長って事?
じゃあそれ迄は「神の一族」じゃなかったの?
…………?でもそれも曾祖父さんだから、結構前なのか………。
何かこんがらがってきたな………担当者不在だよ。
この辺はあのキラキラ虫の担当。
私じゃない。
私は直感担当だし?
もうちょっと、キャパオーバーだよ………。



ぐるぐるしながら、ミストラスの様子を伺う。

「どうしました?」みたいな顔をしているけど、ここって私が喋る場面?
何を言って良いのか、サッパリ解りませんけど??

ただ一つ、解るのは…………。

「ミストラスさんは私の事を勧誘している、と?」

「いやまぁ、そういう訳でも無いですけどね?私は一族を、この世界を存続させる為に、より、効率の良い方法を考えているだけなのです。」

「はぁ、……………。」

そうは言われましても。
はい、とも言えないよ………。


「存続」?
ん?
さっきから言ってるけど、祈らないと、終わるの?????
それ、大事件じゃない??
え?????


私が更なる沼にハマっている間に、お茶のお代わりを入れてくれていた、ミストラス。

「今度はスッキリにしておきましたよ。」


いや、そんな良い笑顔で言われても。

うん、お茶に罪は無い。

とりあえずは熱々で飲まなくては。



そう、私のキャパオーバーした脳みそはとりあえずは小休止の現実逃避へ走ったのだった。








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