透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

その夜の、雲

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「お前は全く、目が離せんな。」

昼食に向かいながらお小言を言われ、珍しく反省した私。


だってまさか、私だってちょっとお茶に誘われてあんな話になるなんて思っていなかった。

何を要求された訳でも、バレた訳でも、なかったんだけど。


きっと食事中もボーッとしていたからだろう、午後に造船所に行く前に気焔は「レシフェから預かってる。」と言って小さな包みをくれた。

とりあえず帰ってきてから開けてみようと、楽しみに棚に置いて出掛けた。
午後は造船所の様子を見て、石に力を込めて帰る予定だ。

グラーツとハリコフ以外は歓迎してくれるので行くのは楽しい。
あの二人は…………うん、時間に解決してもらおうと思っている。年上のハリコフはきっと思う事があるのだろう、私の方をよくチラチラ見ているが敢えて私から話しかける事はしていない。
なんでか、自分でもはっきり説明出来ないけれど私は謝って欲しい訳じゃないからだ。

多分、彼は話しかけたら私に謝ると思う。
そんな顔を、している。
でも別にハリコフが特段悪い事をした訳でなく、年長の彼からしてみれば余所者を警戒するのは当然の事。
だから謝罪という形ではなく、環境を変えて、彼等が悪い訳ではない事を知って貰ってから、判断して欲しいのだ。
難しいとは思うし、時間もかかると思う。
でも、これからの対等な関係を築きたいのならそれが一番いいと思った。

私が銀で、力が強くて、だから謝る、そういう事じゃないのだ。





「むしろありがとうって、言ってほしいんだよね………多分。」

今日の用事を終え、部屋に着き、ローブを掛ける。

朝は早々に出窓に落ち着き、ベイルートは留守だ。何処に探検に行ったのだろうか。


午前中のお茶会が尾を引いていた私は、夕刻部屋に帰ってきて棚の上の包みを見たのだが、夜の為に取っておいた。
夕食後にゆっくり、お茶でも飲みながら開けてみようと思っていたからだ。

寝室へ行き、お風呂の支度と包みを持ってダイニングへ戻る。

お湯の支度をしてから、少し待つ間に包みを開ける事にした。



「さて、と。」

お茶の支度はバッチリ、お湯ももうすぐ張れる。

ちょっとこれを眺めて楽しんでから、お風呂に行こうっと。

ルンルンしながら包みを手に掛けたが、私は中身を知っている訳ではない。
でも、何となくだけど楽しいものの気が、したのだ。

私が少し、落ち込んでいるのを知って、気焔が出してきたものだから。

「ふむ。どれどれ………ん?……………石だね………。」


小さな包みの中から出てきたのは、幾つかの石だった。一緒にメモ紙が入っている。

「うん?癒し石用の石だ?………え?仕事じゃん………あ、でもオマケがあるんだ………何これ。可愛い……………。」


中身の石は全部で六つ。

一つは「ヨルに。」と書いてあって、どうやら仕入れ先はウイントフークらしい。
淡い、ピンクとパープルのグラデーションのような原石は私がルシアにプレゼントした石に少し、似ている。

「もしかして似たやつ、探してくれたのかな………。」

そう、あの時もウイントフークの家から石を奪って(いや、一応ちゃんと断ったけど)きたからだ。
私が「可愛い~!」と煩かったのを覚えていてくれたのかもしれない。

他の五つは程度の良い、あの箱の中の掘り出し物だろう。角が取れた手頃な大きさの石が五つ。
茶、赤、黄土、灰色が二つ。
みんな半透明で中々可愛い。

メモには「少しずつ作っておけ。因みに今迄のは売れた。」と書かれているので、きっとレシフェが何処かに売ったのだろう。
レナの店でウリにならないと困るから、あまり普及させない様にしないと………ラピスで売れば良いじゃん………。


ミストラスに何故か対抗して丁寧に入れたお茶を飲みながら、自分用の石の使い道を考える。

うーん?
どうしようかな………。

とりあえず、思い付かないので幾つかの石を順に、握り始めた。
考え事をしながらでも、多分出来るからだ。



「終わっちゃった。」

ぐるぐるしながら作ったけれど、とりあえずは大丈夫だと思う。
テーブルに並べた五つの石たちが艶々しているのを見て満足すると、一旦寝室の棚に並べておく。
うん、可愛い。

じゃあお風呂、入るか…………。

なんとなく、ピンクの石も連れて入った。




「使い道かぁ………こうして飾ってるだけでも、可愛いけどね………。」

泡立てた石鹸のいい香りに包まれて、さっきのお茶と共に大分リラックスした私。

むくむくとした泡で遊びながら、身体を洗っていく。
スッキリと泡を流すとマスカットグリーンのお湯に浸かり、また考え始めた。

緑と、ピンク。

うん、合う。
可愛い。
ピンクのお湯もいいな………。

たまにはピンクのお湯になる様に、してみるとか…………?
それもいいけど…。


そこからまたボーッと、ミストラスの話やラガシュに言われている解釈の話が頭の中をぐるぐる、回る。


うーん。
なんかさぁ、ここの人達って。
抽象的なのよ、なんだか言ってる事が。
私は単純だから、なんていうかこう、ピシッとハッキリ、言って欲しいワケよ。
うん。

何だかんだ、ミストラスも、ラガシュも多分「自分で考えて結論を出せ」と言っているんだと思う。
ミストラスも帰り際「よく学びなさい」と言っていた。
それは「選択するのは私」という事なんだと、思う。

「でもまだ、判らないよ………。」

ポツリと呟いて、またお湯を掬う。

「フゥ…………。」

何も判らないのは仕方が無い。
これからまだまだ調べなくてはならない事も、多い。

ただ、私は私の目で確かめて、少しずつ進んで行くだけだ。


「祈りかぁ…………。」

キラキラ、虹の様な光が出ているピンクの原石を手に取ると、角度を変えて色の変化を楽しむ。


ミストラスは「長に」祈っていると言っていた。
他の人達は、判らない。

でも、そりゃそうだよね?
人の心の中迄は、分からないんだし。
「お腹空いた」とか、思ってるかも知れないし?

でも祭祀は光が降り注ぐと言っていた。

普段は祈りで力を引き出すとしても、祭祀ではそれが無い、という事だろうか。

空から貰えるのは、「光の力」なのだろうか。

それを溜めて、また人々から力を引き出し、石に溜める?
だったら直接石に入れれば良くない?
んー?でも人にしか降らないのかな…………光。
分かんないな………。


はぁ…………なんかちょっと、面倒くさくなってきたな………。

私の悪い癖が発動して、悩むのに、飽きてきた。


なんかこのまま…………フワフワあったかい空間で…………包まれていたい…。

光………?そんなん、キラキラ降ればいいのよ。
そんな、薄明光線みたいなのだから、私が大変なんじゃん。
駄目よ、雪の祭祀でしょ?
雪みたいに、降り注げばいいじゃん。


シンシンと、降る雪。

それが少し、キラキラしてると、いい。
あの、雪の結晶が肉眼で見えるくらいの、キラキラがいいかな。
それで空も、あんな辛気臭い灰色じゃなくて、ピンクの雲とかあってさ…………。
キラキラが、降るの。
それがどんどん、地面にも降り注いで。

凄くない?
そうなったら。
灰色のままの「ここ」だって、ミストラスは言ってたけど。

また、豊かな土地になる夢が、実現するかもね………?


そんな事をつらつら考えながら、湯船でウトウトしていた、私。

何だか身体に、パチパチと炭酸が弾ける様な感触が、ある。

ううん?
寝ちゃダメよ。…………まずい。
だって、気持ち良すぎ…………。
この、パチパチ感が何だかジェットバスの泡が………ジェットバス…………パチパチ??

「えっ!何これ!」

お湯が、パチパチしていたから。

目を開けた、私。
すると、目の前のマスカットグリーンだったお湯が、ほんのりピンクに変わっていて、その原因であろう何かがお湯に降り注いでいる。

ピンクと金色の「何か」は、無数にお湯に降り注いでいて、そのキラキラがお湯に触れた瞬間から色が変化しているのが、解る。

だって、まだ端の方はグリーンだから。

「ええっ?!」

このキラキラが、何処から来ているのかと上を見る。
だって、明らかに頭上から降り注いでいるからだ。

しかし私の目に映ったのは、明らかに、可笑しな、美しく可愛いものだった。


「雲……………?」

え。
ちょっと待って。
ここ、お風呂だよね?
なんで?なんで、雲が浮いてるの???


ちょっと、現実が飲み込めない。

え?夢?
もっと可愛い雲がいいと思ったから?

何度も瞬きをして、お湯で顔を洗ってみる。

んん?あるな…………浮いてるよ…………?

どうやらその雲は、本物らしい。
消えない。

その時私は、お湯の中に沈んでいるあの、原石を見つけた。
さっき驚いて、落としたのだ。

「これか!」

拾い上げて、また透かして見る。

「確かに…………。」

上を向いて雲と、並べて見ると確かに色合いは同じだ。
基本ピンク、時々紫。
少し、水色の部分もある。

まるでキラキラの綿菓子の様な雲が、湯船の上をちょうど覆う位の大きさで、浮かんでいるのである。

そうしてその雲から降っている、無数のキラキラ。
たまに気焔から出る、金色の光にも似たそれはあの、図書室で本から出ていたキラキラにも似ている。
でもちょっと、ピンクだけど。

「ていうか、何?これ。可愛い………お湯、は普通………?」

まじない石から発現した、このピンク雲。
一体これは、どういうものなのだろうか。

「悪いものじゃ、無いだろうけど………なんか気持ちいいし………え………まさか温泉?癒し効果………いい………。」

何だか都合の良い事をつらつら考えて、「でもまじない道具なのか?」と想像がモヤモヤし出した所で少し、心配になってきた。

え?
これ私、ピンクになったりしないよね??

そこまでぐるぐるが行き着くと、急に不安になった私はとりあえず湯船から上がり、拭き布を巻いて鏡へ急ぐ。

「ん?………んん?」

ほんのり黄色味のあるここの灯りだと、よく判らない。

でも、「凄くピンク」とかじゃないから大丈夫か………。


とりあえず一旦、ホッとしてまた湯船を振り返る。


そこには少し、存在が薄くなったピンクのモクモクがまだ薄ら浮かんでいて、微かな金色を降らせていた。











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