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7の扉 グロッシュラー

レナとの再会

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「やはりお前か。」

その青ローブを見て、ペタリと座り込んだ。


「あっせったぁ~ぁぁ~………。」

「今度こそ駄目かと思ったわね。」
「ちょっと、死ぬみたいな言い方止めようよ………。」

灰色の石の台に凭れ掛かりながら、長い長いため息を吐く。

そう、扉を開けたのは気焔だった。

一瞬、青ローブが見えてホッとしたものの、すぐにまずい方の青ローブも二人程脳裏をかすめてアブアブした、私。
金色を確認した途端、膝がもう言う事を聞かなかった。


「ていうか光らなくても良くない?」

ブツブツ言いながら呆れた色の瞳を見て、ホッとする。

ん?

同時に手近にある、あの乳白色の石を撫でていたのだが未だに温かさを感じる事に違和感を覚え、チラリと視線を移した。

うん、白いな。

うん?白い?
ん?こんな色だった?
でも乳白色だったよね?
……………じゃあ大丈夫か、うん。


「依る、あんたそれ手伝うつもりでやったでしょう。」
「うん?………まぁその気持ちは、無くもない。」

正直に言おう。

私は勿論、この気持ちのいい空間でちょっと祈っておこう、という出来心もあった訳だがそもそも子供達のまじない力の分をちょっと入れておこうと思って、祈った。
私の力が余計に入っていれば、子供達が奉納する分が減るかと思ったのだ。
ただ、実験した訳ではないから実際そうなるのかは、判らないんだけど。

「それでじゃない?余計に入っちゃったのよ。ちょっと白くなってるわよ、それ。」
「嘘だぁ。だって最初から乳白色だった………じゃん???」

確かに?
言われてみると、もっと灰色っぽかった………かな?ヤバい………?



その時、ガヤガヤと階段を上ってくる声が聞こえてきた。

「とりあえず行くぞ。」

そう言って気焔は久しぶりに私をヒョイと抱えると、金色の焔を出し灰青の私の部屋へ、飛んだ。






「何処行ってたのよ。遅かったわね?」

私の部屋、ダイニングの青色の壁と濃茶の腰壁が目に入る。
そして聴き慣れた、声と、この物言い。


フワフワの青い髪が目に入った途端、私は抱きついて、そして何も喋れなくなった。


レナだ…………!
良かった!
元気そう………見えないけど。
声も、喋りも、いつも通り。………でも、無理してても言わないからな………何かあったかな………無い訳ないよね………。
私には弱音は吐かないだろうけど………でも、ここでは二人で頑張るんだもん、ちょっとは言ってもらわなきゃね、うん。大丈夫だったかな?何処にいたんだろう?レシフェと一緒?それはそれで心配…ちゃんとご飯食べてたかな?
あ~、もうめっちゃ久しぶりな気がする………。
どれくらいぶりだろ…?とりあえず………

ああ、フワフワ………レナだ………う~ん?

いい匂い………ハーブ?何使ってるんだろう、相変わらずサラサラだな。
服………ん?これはエローラのだね?うんうん、この服も可愛い。お化粧………も、今日もバッチリ。
間違いない、やっぱりレナに頼んで正解!

うん、顔色もいいね、痩せたり、太ったりもして………ない、はい。

髪は伸びたよね………?


「ちょっと。」
「ん?」
「いい加減にしなさいよ。いつまで回ってるつもり?」
「いやだって、レナに異常が無いかチェックするのは私の義務だよ。」

「どんな義務だ。とりあえず座れ。煩い。」

どうやら全く私の目には映っていなかったが、すぐ側にレシフェはいたらしい。

ダイニングの真ん中でレナの周りをぐるぐる回っていた私を捉まえると、そのまま椅子にポンと座らせる。
普通にレナももう一脚の椅子に座ると、男達は「また後で来る。そう、ゆっくりは出来ないがまぁゆっくりしろ。」と訳の分からない事を言って、部屋を出て行った。


静かになった、部屋の中。
レナの顔を見ると、少し心配そうに私の顔を見ている。

あの、森で運び石から手を離し顔を上げて、二人の姿が消えてから、暫く。

あまり考えない様にしていた、レナの姿が目の前に、ある。
いつものフワフワの青い髪、クリクリして大きな茶の瞳。エローラの薄いレモン色のブラウスに紺のスカート姿。胸元にある、キラキラが入ったメダイ。

私の視線に気が付いたのか、メダイを握ってこう言った。

「あんたは…………大丈夫だった?私はこれがあったから助かったわ。…………何よ、やっぱり泣くんじゃない。」

分からない。
私には気焔もいたし、朝もベイルートも一緒だった。不安は少しはあったけど、レナに比べたら………。
寂しかったのかな………?心配だったから?

自分でも何故涙が出るのか分からない私は、またぐるぐるしていたのだけど結局、ここに落ち着いた。

「多分、安心したのかも。大丈夫だって、分かってたけど解ってなかったんだよ。」
「何それ。意味分かんない。………まぁ、そうね。」

何となく、顔を見合わせて、二人で笑う。
何だかよく分からないけど、多分、気持ちは同じだろう。
兎に角、再会が嬉しいって事だ。

少し鼻水が落ち着くのを待って、私はお茶を入れる事にした。





「で?お化粧するんでしょ?」

「うん、私以外にもお願いしたいの。みんな可愛いくなるの楽しみだなぁ~、レナにかかればチョチョイのチョイでしょ?またあの、パーティーみたいにはいかないだろうけどさ………。」

「だってあの、アレでしょ?」
「アレ?…………ああそっか。レナは祈った事あるんだよね?………どんな感じなの?」


私達は会えなかった間の報告をしつつ、お化粧の相談をしていた。
私の話が散らかっている事なんて、いつもの事だ。慣れているレナは私のポンポン変わる話題に突っ込まないから、助かる。

とりあえずレナが大変な思いをしていなかったか、確かめない事には私の話は始まらなかった。
しかし、思っていたより快適な生活を送っていたらしいレナ。

シャットに行った時から、身分的には貴石見習いだったレナは何をどうやったか知らないけれどレシフェのお陰で「レシフェの助手」という何だか怪しい立場に収まったらしい。 


でも、そのポジション、結構羨ましい…………と私が思ってしまったのも仕方が無いと思う。

なんとレナは、レシフェの取引に同行したり、貴石で厨房を借りてクッキーを作ったり、「魔女の店」に行ってお化粧関連を吟味して仕入れたり等等、聞いているだけで楽しそうな生活をしていたのだ。


「え~~~…………ちょっと、取り替えない?その生活。私、お嬢様のフリするの疲れたんだけど。」
「いや、出来てないから。」

朝の鋭いツッコミを受けながら、椅子の上でダラダラする私。
レナは「何だか懐かしいわね。」なんて言いながら糞ブレンドを飲んでいる。

窓の外を流れる、白い雲を追いながらブツブツ言っていると「でもね…………」と話し出した、レナ。

「それなりに大変だったわよ?姉さん達に反感を買わない様に根回しして店の準備を進めたいし、何でかこのメダイを魔女が気に入っちゃって交換しろってしつこいし………。レシフェもあんな感じだけど、結構ギリギリの所、渡ってるわよ。今迄無かった事をやってるから、一部にはあまりよく思われてないみたい。まぁ、あいつもああだからね…………。」

何だか二人が仲良くなってるなぁと思いつつも、やはり二人が苦労したことが分かって、ちょっと反省した私。

私はやっぱり、守られている。

自分達で道を切り開くしかない二人と違い、私には盤石なものが用意されていたのだ。

申し訳ない様な複雑な気持ちになりながらも、謝るのも違うと思う。
多分、私の行動で二人の行動出来る範囲も変わる筈だ。
よく、考えて私なりに、二人に協力するのだ。

そう決意して、お茶をぐっと、飲み干した。



「それにしたって、祭祀なんか出て大丈夫なの?光るんじゃない?」

ズバリ、私達が危惧している事を言い当てるレナにパチクリすると、今度は私が出した案に首を捻るレナ。
そう、その案とは気焔無しで祭祀に挑む事だ。

レナは気焔が石だという事は知らないけれど、私達の中で気焔は特別枠になっている。
とりあえず、金色の、力が強い、何か、だ。
まぁ、まさか人じゃないと思ってはいないだろうけど。


「その場にいてもらって、光だけ何とかはならないの?」
「うーん?やってみないと分かんないけど、場所が隣とかならまだ何とかはなりそうだよね………でもさ、やっぱり決まってるのよ、順番が。結構遠いんだよね………普通に並んじゃうと。」

「まぁ………そっか。怪しまれると面倒だしね………。なら始めから姿を隠してサポートする方がいいのか…。」

何だかブツブツ言っているが、納得してくれた様だ。私も気になっている事を訊く。

「ね、そっちはどうなるの?レナは貴石で祈るって事?」

今日もよくカールした髪を弄りながら、何やら考えている茶の瞳がくるりと動く。
レナの光は、灰色なのだろうか。結局、シャットでは見てないな?

「一応、礼拝室はあるのよ。でも祭祀の日は外ね。雪だから寒いわよ………。内でやって欲しいけど仕方が無いのよね…その方が光はよく届くから。やっぱり遮断されない方が良いらしいわよ?」
「そうなの?」

私達は確か礼拝堂で祈る筈だ。
外じゃ、ない。
どうしてだろう。

力に対して、貪欲な筈のグロッシュラー。
少しでも多く受けられるなら、外でやりそうなものだが、何故なのだろうか。

少し感じた違和感の理由は、当日祈れば判るかな………。

「で、なんかおまじないみたいな話を聞いたんだけど。」

そう言って、トリルから聞いた「光の色」の話をレナにも聞いてみる。何か知っているかもしれない。
そう思ったのだが、やはりあまり知られた話では無い様だった。

「ふぅん?聞いた事ないわね………姉さんのうちの誰かは知ってるかもしれないけど。デヴァイの話なんでしょ?今度聞いといてあげる。覚えてたらだけど。」
「うん、お願い。でもさ、貴石のお姉さん達も光の色はみんな同じ?」
「そうね。意識した事なかったけど………同じかな………多分。白っぽい、灰色みたいな?少し暗いのよね…なんて言ったらいいのかな………。」

考え込むレナを見ながら私もぐるぐる、する。


貴石の人達は基本、デヴァイ以外の人間だ。
それでもみんな、同じ、色?
ラピスから来ても?
うんん?時間が経つと灰色になるのかな?

これって誰か研究してる人……………

「まじないの色を研究している」

あ。

いたわ。
白い魔法使いだ。

意外と身近にいた事に嬉しくなって、今度聞いてみようと心に留めておく。

沢山考えなきゃいけない事があるから、忘れない様にしなきゃ。

「成る程ね…やっぱりみんな同じなのかな?」



「ちょっと、聞いてる??!」
「ん?あ?ええ。」
「いや、絶対聞いてないよね?だから、祭祀が終わったら店をやる話よ!」
「えっ。それ大事じゃん。」

盛大に呆れているレナを見ながら、それでも久しぶりのレナが嬉しくてニコニコしてしまう私。

それを見てまた盛大にため息を吐くと「相変わらずね………。」とレナが言って同時に扉が開いた。

「全くだ。」

そう言いながら、入って来たのはあの二人だ。

「え?聞こえてた?」

そう、驚いて言う私に上を指差すレシフェ。

「お前、忘れてるだろう。今後は飛ばしておけ。少し、不穏な動きがある。」


不穏な動き?

レシフェの指した方向には「目耳」が姿を現し、パタパタと羽を動かしている。

きっとその「不穏な動き」の話をして来たのであろう、男達の顔は真剣だ。

すっかり「目耳」の存在を忘れていた私。
ここに来てから、最初以外はあまり危険を感じる事も無かった。油断していたのかもしれない。

いつの間にかテーブルを歩いていたベイルートが私を宥める。

「大丈夫だ。今すぐどうこう、という事は無い。気を付けろという事だ。」


その言葉を聞き終わると、レシフェは気焔に私の「目耳」のチェックを伝え、レナも席を立つ。


「鐘が鳴るとまずい。じゃあまたな。」

やはり思っていたより、長く話していたのだろう。
そう言ってサッサと扉から出て行き、レナも私に「じゃあね。」と手を振ってレシフェの後を追った。






「あ。コンパクトの事、注意するの忘れてた。」

ポツリと呟いた私に無言の気焔。
静かなダイニングでは玉虫色だけが、テーブルの上をぐるぐると廻っている。きっと考え事をしているのだろう。

「不穏な動き」について、レシフェは何も言わずに帰った。
きっと、気焔も何も言わないだろう。


レナと会えて嬉しかったのと、不穏な話と、半々の気持ち。

少しずつ暗くなってゆく雲の陰影が重なり流れて行く様をボーッと見つめていると、鐘の音が聞こえてくる。


そういや、この鐘は何処で鳴らしているんだろうな?


私の微妙な気持ちに寄り添うかの様に、玉虫色がヒョイと肩に乗り朝が扉の前で「行くわよ。」と言う。


立ち上がり、茶器を片付ける。

扉の横で凭れて私を見ている金の瞳に「行こう?」と目で訴えて、ローブを取り部屋を出た。



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