155 / 1,684
7の扉 グロッシュラー
石たちのミッション 再び
しおりを挟む「………ねぇ、…………ねぇ、朝。」
「ちょっと来て。」
んん?
…………月明かりかと思ったら、相変わらずの曇りね………。
それでもここの夜は意外と明るい。
雲が、白いからかしら。今日は昼間に結構寝たから大丈夫だけど、私を起こしたのは誰?
静かな白い部屋の中、私の定位置は出窓のフワフワクッション。ヨルが、薄めに作ってくれたやつ。下の敷き布も冬用で、いい感じ。
でもこの館も、寒くは無いんだけどね。
まぁ、何にせよ猫にはありがたいわ。礼拝堂だけは、ゴメンだけど。
私を呼んだのは誰だろうかと、ロココのカップを見たけどチラリとも見えないから、あの虫は寝てるに違いない。虫だか石だか知らないけど、夜は一応寝るみたい。
じゃああっちかと思ってベッドを見るけど、相変わらずあの大きな金髪に遮られて、依るは見えない。
ちょっと、邪魔なのよね………多分、依るは寝てるだろうからきっとあの石たちのうちの、誰かだろう。
さて、ちょっとお邪魔しようかしら。
「ああ、よかった、聞こえた?」
「まぁね。起こされたけど。」
「ごめんごめん。でも一応聞き役として、いてもらった方が良いと思って。」
そんな事を言っているのは自称「愛の石」の蓮。
この前、夜に依る(ダジャレじゃ無いわよ)が抜け出した時、手伝ったのが蓮だったと後で聞いた。
そういえば、前回の石会議も蓮が何だか言っていて始まったんじゃなかった………?
どうだったかな………?
「ほら、この前、シンラ様の所に行ったじゃない?」
「ああ。久しぶりだったよね。」
「そうですな。何だかやっぱり、袂を分かった感じが強かったですね。」
「?元はどうだった訳?」
「ああ、ビクスは最近来ましたもんね。いや、何というか………別々、になってきちゃったんですよね…。」
クルシファーが言うのは、多分シンと気焔の事も勿論なんだろうけど、依ると姫様が今迄は混在していたのが、あの二人が別々の目的を持つ事によって、明確に別れる事を指しているんだと思う。
えーと。
でも、二人で一人を取り合うよりもいいんじゃないの?
単純に私はそう思うのだけど、石たちにとっては何だか複雑みたい。
よく分かんないけど、姫様派と依る派って事??
「私はね………勿論、依るの事応援してるわよ?だから、この前も協力したし。でも、「想い」を預かってるから、これでいいのかどうかの不安というか、早く返したい様な、でも返してもし、もし依るがシンを好きになったら…………。」
それはめっちゃヤバい気がする。
あの金の石、蒸発して消えるんじゃないだろうか。
「わたくしは姫様が決めた事なら、万事うまく行くと思いますけどね。」
そう、自信ありげに言うのは宙だ。
でも、宙に言われると何だか大丈夫な気がしてくるから、不思議。
「私も依るが想いを貫いて欲しいわ………この先、どうなるかは分からないけど、どっちかがダメでどっちかだけ幸せじゃなくて、二人とも幸せになって欲しいもの。」
うん。まぁ、それが一番いいよね。流石癒しの石。でも私から見ると、藍は充分、依る寄りだけどね。
「僕はやっぱり姫様の体を探すという目的は優先されるべきだと思います。その為に、ここへ来てるし僕たちもいる。」
「ふん。優等生ね。」
あら。同じ事思ってるわ………。
まぁこの中で言うと結構若そうだもんね…クルシファーは。まぁ、真面目な役も必要よ。特に、持ち主がポンコツだからね。
「え?結局、依るが姫様なんじゃないの?何?私だけ事態を把握出来てなくない??」
ビクスは一人でキョロキョロしてるけど(あ、そんな感じがするだけね)この問題は、私からしてもちょっと、複雑。
そもそも、今迄に人形の「に」の字も出て来てない。いや、「に」くらいはどっかにあったかも知れないけど(ビリニスの人形とか)、石や服、靴迄はまだ良かった。
でもシンラ様みたいな、人形なんて全く見てないし聞いてないし、噂も聞かないしね。
ここには猫がいないから、情報網がないのもキツいわぁ。
もしかしたら、悪の巣窟、デヴァイにあるのかも?でもあんなのあったら、それこそきっと「神」として崇められてそうだけどね………でもあの絵なんだもんね………。もっと可愛いものに祈りたいわ。私は。
いや、まぁそれはいいとして。
「でもさ、結局あなた達は依るにくっ付いてる訳だからその都度自分達がいいと思う方に行くしか無いんじゃない?」
「あ、でも「想い」を返すのは待ったげて。余りにも可哀想。あの子の決意は、簡単な事じゃないのはあなた達が一番良く、解るでしょう?」
静かになった天蓋の下で、金色の石が聞いているのが分かる。
多分、みんな気が付いてる。
少し別の道を歩み出した仲間を見守っているこの子達。
そりゃ、どっちになんて決められないわよね?
暫く誰も、喋らなかった。
依るの規則的な寝息だけが聞こえる、白いベッドのフカフカした布団。
くるりと丸まっていたら、危うく寝そうだったわ。
その時、ふと私の脳裏にフローレスの言葉が過った。
確か、気焔も以前同じ様な事で悩んでなかったっけ?
「二兎を追うもの、二兎を得よ。」
そんな様な意味の事、言ってたわよね…………?
「何それ。」
「あら、いいじゃない!そうでなくちゃ。腕が鳴るわ!」
「まぁ、それが一番でしょうな。」
「そうね………とりあえず、時間が必要。」
「そうそう、みんなで幸せになればいいのよ。」
石たちが口々に自分の意見を言い出して、煩くないんだけど、何だか煩い。
その時、今日は喋らないだろうな、と思っていた気焔がポツリとみんなに言った。
「そうだ。「どちらも」幸せになれる様、協力してくれ。」
その言葉を聞いて、誰も何も言わなかったけれど会議はお開きになってそしてきっと、石たちの意見は纏まった。多分、そうに違いない。
姫様派だったクルシファーが少し、光っていたから。
きっとみんなを纏める光を発したのだろう。
流石まとめの石。
それにしても、この子達の懐の深さには恐れ入ったわ。
神との約束と、うちの依るの事を同列に考えてくれるなんて。
ある意味、シンラ様が直接扉の中に来れなくて、良かったのかも知れないわね………。
普段はお邪魔かと思って出窓で寝ているけれど、この日ばかりはこの輪の中に参加したくて、そのまま白い布団に潜り込んだ。
嫌がらせを兼ねて、二人の間にね。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる