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7の扉 グロッシュラー
女の子達
しおりを挟む今度こそ、失敗出来ない。
「依る、それじゃあ逆に怖いわよ。」
「そうだ。力を抜け、力を。」
二人にそう、諭されたので途中立ち止まって、深呼吸した。
午前中、レシフェが帰った、後。
私はシリーと祭祀の準備の話をしていた。衣装は決まっているので、そう困る事は無いかと思っていたのだが、シリーが泣きそうな顔で私に話した内容はお化粧の話だった。
そう、どうやら雪の祭祀では衣装は勿論、きちんとお化粧もしなくてはいけないらしい。
レシフェにそれを聞いて、やった事が無いと焦っていたシリーは「ヨルが知っているかも」と言われた様だ。
うん、知っているのはレナとエローラだけどね………。
基本的にされるがまだった私は、お化粧のやり方は知らないに近い。道具があれば見様見真似で何とかなるかも知れないが、何が必要なのかも定かではないのだ。
本当はレナがいれば一番いいんだけどね………。
そう思ったのだが、それが出来るならきっとレシフェはもう連れてきている筈だ。その辺、効率が悪い事はしないと思う。
だから私達は話し合って、他のセイアに聞いてみる事にしたのだ。
それにしたって、他の子がお化粧してるのかは知らないんだけどね………。まぁ、聞くだけタダだからな。うん。
そう、それに私には既に失敗した前科があるのだ。
出来れば、それも修正したい。
何にせよ、このミッションを成功させたならいい事づくめの筈なのだ。
「はい、もう一回深呼吸して~。」
「大丈夫か?」
「私が声、掛けようか?」
朝の申し出も、魅力的だ。
しかし、やらねばならない時はある。
謎の決意は固く、そのまま青ローブの背後から声を掛けた。
名前は、まだ知らない。
ああ………聞いとけばよかった………。
「あの、すいません………?」
「あの、そこの………」
「青ローブの彼女?」
「何言ってんのよ。下手くそね。」
「いや、下手くそ言わないで。」
「おい、いいのか。」
「「え?」」
「あ、ごめんなさい!あの、この間はごめんなさい………今、お話出来るかな?」
そう、振り返ると私と朝がごちゃごちゃやっているうちに、彼女は既に立ち止まり、私達の事を見ていたのだ。
咄嗟に謝ってみたけど、何だか怪しい言い訳みたく、なってるし………。
そのまま、大人しく彼女の前でモジモジしていた。これ以上、墓穴を掘りたくなかったから。
「私も知らないんです…。最近、その祭祀の話を聞いて、どうしようかと思ってたので…。」
ちょっとおっとりした青ローブの彼女はトリルという名だと自己紹介してくれた。
始めに会った時から大人しい子なのか、と思っていたがどちらかというとおっとりタイプらしい。
紺色のサラサラした髪を揺らしながら、ゆっくりとお茶を飲むトリルはこうして見ると何だか不思議な雰囲気を纏った子だ。
この間、私に怯えていた理由をこう説明してくれた彼女。
どうやら、ラガシュから「銀のローブの女の子」について言い含められていたらしい。
やっぱり怪しいな………?青の家。
「「失礼の無いよう、出来れば仲良くなるように」と言われていたんです。でも………。」
そこで言葉を濁す、トリル。
うん、そこで私がものすごい勢いで近づいたもんだから、何かやっちゃったのかと思ってビックリしたんだよね…ごめん。
そんな事を考えながら、完全に誤解を解く為にまた挑戦する私。
とりあえず食堂で一緒に食後のお茶をする所まで漕ぎ着けたものの、彼女はまだ遠慮気味だしできれば敬語も無くしたい。
トリルの茶の瞳をじっと見つめながら、私の思いを打ち明ける。
「ラガシュさんの意図は分からないけど。私は、トリルとお友達になりたいと思ってる。」
そこで一度、彼女の反応を待つ。
うん、大丈夫そう。
「女の子が少ないでしょう?仲良くしてくれると嬉しいし、敬語も使わなくていいから。もう、オルレアンとかも普通に話してるし。………そういえばトリルも図書、採ってるよね?」
少し考えて、教えてくれる。茶の瞳がくるっと動いて、可愛らしい。
「私は文字の種類や成り立ちを研究したくて、選択しました。実家でも、古い本が多くていくつかの文字が見られるので、小さい頃から興味があったんです。ここは、本当に本が多くて………正直ずっとこっちにいたい気分です………。」
ん?
これは?
もしや、トリルも同類?
失礼かもしれないが、何だか懐かしい空気を感じてウンウン頷いていた私。
そのまましばらくトリルは話し続けていて、それがまた私が読めなくて困っている文字の話なものだから、楽しく聞いていた。
キラリとテーブルの上をベイルートが歩く。
明るい食堂の中で玉虫色は目立つ。勿論、トリルも気が付いてアワアワしていた。
「ご、ごめんなさい。私、夢中になるとすぐ、こうなんです………。」
「いや、私も人の事言えないから。全然、大丈夫。」
その、私の態度が面白かったらしい。
口に手を当てクスクスと笑い始めたトリルは、そのまま暫く、笑い続けたのだった。
うーん?笑い上戸なのかな………?
それから少し仲良くなった私達は、とりあえずトリルの敬語を取る練習をしつつ色々話をした。
トリルは青の家で力も青の為、基本的に目上の人が多く敬語を使わない方が難しいらしかった。
結局、「出来るところからにしよう」という妥協案で、自然と外れるのを待つ事にした。
そんな事で彼女を煩わせても仕方が無いからだ。
本題は、そこじゃ無い。
そう、結局二人ともお化粧については分からなかったので新たなるミッションが立ち上がってしまったのだ。
いや、人数が増えただけとも言うけれど。
「うーん、今日午後は?これから図書室行く?」
「そのつもりでしたけど、ちょっと待ってて貰えますか?すっかり忘れてたものがあって………。」
そう言って、すぐ戻ると食堂を出て行ったトリル。
何かを取りに行ったのだろうか。
私はシリーを待たせているかもしれないと、ソワソワしてきたので、朝に伝言を頼んで部屋に戻ってもらった。これで大丈夫な筈だ。
ひと息吐いて、緩くなったお茶を含む。
ぐるりと食堂を見渡すと、もう殆ど人は居ない。
端の方のテーブルに少し、ネイアが数人、話をしているくらい。みんな、其々勉強に行ったのだろう。イマイチ他の人が何をしているのか、新入生以外は知らないので今度誰かに聞いてみたいものだ。
ネイアなら、大体のみんなの動きを把握しているのだろうか。
礼拝でも、朝見ない人もいるしなぁ………。
朝の礼拝の時間は、早い。きっと朝が苦手な人は午後の礼拝に出るのだろう。
今度、午後のに出てみようかな………。
つらつら考えていたら、トリルが戻って来るのが見えた。
ん?んん?
何故か、トリルの背後には黄ローブと茶ローブも見える。
足早に近づいてくる、三人。
そしてそれは、どうやら全員女の子だ。
あら?女子、少ないって言ってたよね?
始めはトリルが先頭だったのだけれど、あのおっとりした性格の所為か、茶ローブの子に抜かれたトリル。
そのままズンズン近づいてきた彼女は、そのままの勢いで私にズイ、と手紙を差し出した。
怖くは無いが、その勢いに圧倒されていた、私。
目の前の白い、封筒。
何も書かれていないその封筒から、その手紙を持つ青い瞳の彼女に視線を移す。
黙って頷く、彼女。
とりあえず手紙を受け取り、開けてみる。
きっと、あの頷きはそういう事だろうと思うのだけど。
少しドキドキしながら、一枚の便箋を取り出し、開く。
ちょっとベオ様のラブレターを思い出して、ニヤリとしてしまったが、気を取り直して読んでみる。
うん、なになに?
「ここは女の子が少ないので、仲良くして貰っても宜しいでしょうか。」
うん?堅いな………?
白い便箋に書かれた、短い文章。
すぐに読み終わって、彼女に視線を戻す。
茶ローブの彼女はこの世界では初めて見る、濃茶のボブの髪がスッキリした青い目の女の子だ。
髪が長い女の子が多いこの世界ではかなり短い方だし、パッツンのボブはかなりはっきりした印象を受ける。しかしそれがとても似合っていてスッキリとした顔立ちで何となく、お化粧している様に見える………。
んん?お化粧?……………見つけた!
いや、待って。
失敗しない様に………急にドーンといっちゃ、駄目なんだよね?………でも仲良くしたいって書いてあるよ?
いいんだよね??
彼女の青い瞳を見ながらぐるぐるしていた私は、耳元でベイルートに言われて、我に返る。
「おい。大丈夫か。」
おっと。危ない、危ない………。
とりあえず、私が自己紹介しないと誰も喋れない感じだよね?それで手紙なのかな………?
………手紙はいいのか……?
ちょっと疑問に思ったが、この際それはどうでもいい問題だ。
私は仲良くなりたいし、お友達が増えるのなんて大歓迎に決まっている。
ならば、自己紹介あるのみだ。
出来るだけ親しみやすい様に、みんなの目を見ながら話す。
「銀のセイア、ヨルです。私も、仲良くして欲しいです。あまり、丁寧な態度も必要ないし………出来れば普通にして欲しい………。」
最後、ちょっとブツブツ言ってたけど、言いたい事は伝わった様だ。二人の表情が緩んだのを見て、自分の態度が間違っていなかったと確認できる。
トリルは多分同じ年頃だと思うけれど、どう見ても後の二人は年上だ。年上のお友達が丁寧で敬語を使ってくるなんて、耐えられないに決まっている。
二人は大丈夫だろうか。
トリルの敬語癖を思いながら、反応を窺っていた。
チラリと背後の黄ローブの彼女を見る、茶の彼女。やはり、階級が関係あるのだろうか。
でも、黄色の彼女の方が年上に見えるからその所為かもしれない。
その視線を受けて、私の前迄進んできた黄ローブの彼女は近づくと背が高い事が分かる。
エローラくらいだろうか。
薄い金茶のフワフワした髪に灰色の瞳。黄ローブに映えて、とても美しい彼女は意外な自己紹介を始めた。
「黄のセイア、パミールよ。今年は人数が増えた。喜ばしい事だわ………。これで面倒な男共を防げるかもしれない。」
えっ。
私は彼女の見た目とその言動のギャップに暫し固まっていた。
だが、それに慣れているのか横に下がっていた茶の彼女が一歩前に出て、続いて喋り始める。
パミールを押し除ける様にして話し出した彼女は、仲のいい友達なのだろうか、そんな雰囲気がする。
「私は茶のセイア、ガリアです。パミールはこの通りちょっと変人だから、女の子が増えて嬉しい!しかも銀なのに気さくだし?仲良くしてね?早速、お茶しない?」
ニッコリと笑った、青い瞳に圧倒される。
フードを脱いだ、そのサラリとしたボブをボーッと見つめてしまった。
あれ?
展開、早くない?
私は新しく増えたお友達のキャラの濃さと展開について行けなくて、ちょっとぐるぐるしていたのだけれどトリルが側に来て説明をしてくれる。
どうやらこの二人は、私達と仲良くなるタイミングをずっと待っていたらしいのだ。
「もっとずっと前に、この手紙を受け取っていたんです。でも、中々渡すチャンスが無くて………。ヨル、は姿が見えない事も多いし、男の子と話していると私は入れないから…。」
うん?そうだったの??
少しモジモジしながらそう言うトリルを見て、パチクリする私。
どうやら大分すれ違っていたらしいね、私達。
トリルが側に来てくれて少し落ち着いた私は、事態がちょっと飲み込めてきて、段々ワクワクが湧き上がってきた。
だって、お茶会でしょ?
楽しいに、決まってる!
うん?どこでやるんだろう………?
ふと、辺りを見渡す。
静かな食堂は、先程迄座っていたネイアの姿も消えて私達はポツンと取り残されていた。
白いガランとした食堂に、目立っている私達。
そして、声が響くホール。
チラリとガリアの顔を見ると、待ってましたとばかりに頷いて、歩き出した彼女。
「お茶会はやっぱり秘密で行うものよ。ついて来て!」
そう言って弾んで歩き出すガリアのサラリと揺れるボブヘアーを見ながら、私達も慌ててついて行く。
危うくベイルートを忘れそうになった私の頭上を、これ見よがしに玉虫色が通り過ぎて行った。
あれ。
ごめん!ベイルートさん!でも、お茶会だし?
女の子だけだから………いいよね?
キラリと光る玉虫色を見送り、そのまま慌ててみんなの後を追った。
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