透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

レシフェと祭祀の準備

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えーと。
うーんと?何これ?どういう事??
来るなら、言ってよ!!


私の頭の中は超、ぐるぐるしていたけれどそんな事はお構い無しにレシフェは目の前でペラペラ喋って、いた。

勿論、半分くらい聞いていない、私。
でも多分、朝とベイルートは今の私の頭の中が手にとる様に分かる筈。きっと代わりに聞いているに違いないのだ。

それもあってか、私は思う存分、ぐるぐるしていた。
開いた扉から見える、銀のローブを気にしながら体裁だけは整えて。


ええ?
今!?この人、どーいう設定で来てるの?でもミストラスさん、見てるし!
え?え?自己紹介?
ウソ。絶対、笑っちゃうんだけど…………。

自己紹介しようかしまいか、ぐるぐるし始めた私。
しかしタイミング良くミストラスが話し始めた。
どうやら私が自分で名乗る場面ではないらしい。

「こちらは銀のセイア、ヨルです。粗相の無いよう、お願いします。ヨル、どちらか一人があなたの侍女になります。決まったら早速支度の相談をなさい。いつ、雪が降ってもおかしく無いですから。衣装や他に支度で必要な物があれば、そこのレシフェに頼む様に。では。」

そのまま少し、私に向けて頷くとサッサと立ち去ったミストラス。
でも、その方が助かる。聞きたい事はあるけれども私の興奮を収める方が、今は大事なのだ。


部屋から頭だけ出して、ミストラスの姿が見えなくなったのを確認すると静かに扉を閉める。

でも、次の瞬間出た声はやっぱり大きかったけど。


「なに?何なの?なんで?………言ってよ!……………心配したよ…?遅かったね?」

そこまでキーキー言ってから、はたと気付く。

あれ………シリーはまだ良いとして、もう一人いるんだった………。

チラリと目をやる、レシフェの背後には二人の女の子が並んでいる。
一人はシリー。
既に馴染みと私は勝手に思っているが、彼女はどうだろうか。でもニコニコ立っているから、多分大丈夫そう。

もう一人の女の子は、多分シリーよりも年下だ。
私と同じか………下か?いや?上かな………。
まあどちらでも良いんだけど。
この世界では珍しいアッシュ系の髪をしていて、瞳も金茶色の可愛らしい子だ。
勝気そうな大きな瞳が、はっきり私を見つめていて何だか興味が湧いてくる。


で?どちらかを選ぶって、言ってたよね?

そのままレシフェに視線を移すと、案の定、ニヤニヤしながら腕を組んで私を見ていた。
久しぶりだが、変わっていないその態度に安堵する。
一応、女の子たちを気にしつつも、「大丈夫だった?」と訊ねた。

しかしレシフェは、心配した私の問いに鼻で笑って、こう言った。

「ここが何処だと思ってる。俺の庭だぞ?」

そう言ってまじないで変化させたままの髪を掻き上げる。チラリと見えるあの、懐かしい茶色の瞳。
元は明るい茶の髪を、今は黒に近いくらいの暗い灰色にしているレシフェ。彼を見るのも久しぶりだが、やはりその瞳を見るとティラナを思い出して、グッときてしまう。

相変わらずだね………てか、寧ろ絶好調?
なんなの?この人……………。

そう思いながらも二重に懐かしい瞳を見る事が出来て、凄くホッとしたのも事実だ。


ジトッとした目で見ているとレシフェは二人のうち、どちらかを選ぶ様、私に言った。
そんな決め方でいいの?と心配になる言い方で。

「直感でピンとくる方にしろ?その方がいいぞ。」

えー………。
それだけ?
自己紹介………はキツイか………。
なら、どっちだろうな…………。

二人にこの場で色々喋らせるのは何だか酷だ。
なら、どちらにするのか。


うーん。
シリーの茶色の髪と瞳を改めて見つめる。

灰色ローブと、茶のラインが髪と目にピッタリの、造船所でのみんなのお姉さん役、シリー。
以前、確か、始めに会った時に何かを感じた気がした事を思い出す。

何だったかなぁ…………。
何か、忘れてる気がするんだよね………?

そのまま隣の子に視線を移す。
そう言えば、名前。この子は造船所にいなかった筈だ。灰色ローブに黄ラインのその子は、珍しそうに私の部屋の中を見ている。

「あなたは、名前は?」

初め、私が声を掛けている事に気が付いていなかった彼女。声を掛けられた事に心底驚いた様子で丸い目が更にまん丸になったのでちょっと、面白い。
笑っちゃ悪いかと思って、そのまま黙って見ていると、少しして落ち着いた様でしっかりとした声で話してくれた。

「アルルと言います。…よろしくお願いします!」

今度は私の目が、丸くなった。

えーと。
なんていうか。
私も大概な方だけど?元気がいいね??

アルル、と名乗った女の子は元気がいいというよりは、少し怒っているかの様な話し方で名前を名乗った。
私はそれに驚いて今迄のロウワとのギャップに目を丸くしていたのだが、レシフェに「こいつだからいいが、お前、態度を改めろと言ってるだろう。」と叱られている。
どうやらこれはこの子の通常らしいね………。

私も他人の事を言える様なアレじゃない。
ちょっと普段を省みながら少々反省すると、やはりシリーにお願いしようと決めた。
アルルだとなんだか喧嘩になりそうだし、そもそも何故だかシリーには謎の懐かしさを感じていたからだ。
あと、何だかアルルに私の世話が出来るようには、見えなかった。どう見てもまだお世話される方に見える。レシフェとの会話を聞きながら、そう考えていた。


「じゃあ、シリーにお願いしていいかな?」

いつもの様に、顔を見てお願いをする。
シリーは少し微笑んで「はい。」と嬉しそうに言ってくれた。
良かった。
ホッと一安心しているとレシフェはアルルに「じゃあお前は仕事に戻れ。」と言い、アルルが出て行くと部屋には私達三人だけになった。



当たり前のようにダイニングの椅子に腰掛け私にも座るように言うレシフェ。
そんな彼の様子を見ながら、私は元々椅子が二脚しか無いのでシリーの分の椅子をどうするか、真剣に考えていた。

「いい。とりあえず座れ。これからの事を話す。」

そう言って椅子を指すレシフェ。シリーも「座って下さい。」と言うので彼女を困らせない様、とりあえず座っておいた。
シリーはそのまま、レシフェの背後に立っている。

「さて。」

そう言って姿勢を崩したレシフェはニヤリと笑い、私の顔を真っ直ぐ見る。

何?何だか微妙な、予感。
いい話?悪い話………?

嫌な予感がして反射的に、身構える私。

しかしレシフェが口にしたのは私が全く予想していなかった衝撃の事実だった。


「喜べ。お前の目的を一つ、見つけたぞ?シリーはザフラの娘だ。」

「え。」

ウソ。


すぐに私の視線はレシフェの灰色を飛びこし、シリーの茶に移る。

きっと、事前にこの事を聞いていたに違いない、優しい瞳で微笑む、シリー。

ザフラの、拐われた娘。
言われてみれば。確かに。

ザフラはガッチリした親分、みたいなイメージだからすぐにシリーと結び付かなかった。だけど意識して見ると、「似てる………。」思わず、そう呟く。

もしかしなくても、何だか気になっていた懐かしい感覚はこれだったんだ。

そう、思い当たるとやっぱり嬉しくてとりあえず私は立ち上がり、ゆっくりと近づいてシリーの肩に腕を回す。
シリーは少し驚いていたけど、レシフェが前以て何か言っていたのかもしれない。
遠慮はせずに、そのまま抱きしめさせてくれた。



鼻水も出てきたし、私より背の高いシリーをハグするのはちょっと、大変だ。
私はやっと、気が済んだのでシリーを離して肩に手を置いたまま、きちんと彼女の目を見て頷いておいた。
まぁ、すぐに喋れなかったと言う方が正しいかもしれない。


「相変わらずだな。」

そう、レシフェに嫌味を言われながらもとりあえず顔を拭いて「で?」と訊ねる。
ついでに鼻も、かむ。

まだまだ聞きたい事は沢山あるのだ。一体何から、聞こうか?私が迷っちゃうくらいネタだけはいっぱいあるのだ。
色々秘密も多いけれどシリーがザフラの娘だというのなら、大概の事は話して大丈夫な筈。

興奮冷めやらぬ私は椅子の半分にシリーを座らせると一緒に座ろうとしてレシフェに止められた。

「何で?半分こでしょ?よくやるよね?」

私の感覚は既に学校で友達と半分ずつ、座る感じ。でもレシフェには通じなかったみたいだけど。シリーが可哀想だから止めろと言われれば、仕方が無い。
でも、可哀想じゃ、無くない??

「何処でだよ………もう、お前はこっちに座れ。」

そうしてまんまとレシフェの椅子を奪い、遠慮するシリーを再び座らせてからやっと、これからの相談を始めた。





「祭りの準備はそんなもんだな。後の支度は二人で相談しろ。服はそれしか着られないんだろう?まぁローブがあるから大丈夫だとは思うが………。」

レシフェが言うのは、祭祀の時に着る私の衣装の話だ。
何故だか、雪の祭祀には青い服で出る決まりがあるらしく、普通であればレシフェに頼んで仕立ての手配をしてもらうらしい。しかし、私は姫様の服かあの生地で作った服しか今の所着られない。

「良かった………青にしておいて。」

「まぁ紺色に近いが、これが一番青いから仕方ないだろうな。………お前、これ祭りの時に光らない様、ローブをしっかり巻いておけよ?」

そう、気になる事を言うレシフェ。
確かにそうだが青の本の話もあるし、何も無いとは、思う。しかし、あのお別れパーティーの時の様に光らないとも限らない。

「うん………とりあえず、ぐるっと巻いておくよ…。」

他に解決方法が見つからないので、そう言っておいた。
そもそも何故、光るのかが分からないので対策のしようが無いんだけど。


そうしてレシフェはアレコレ一人で必要な物をピックアップすると、仕事に戻ると言い出した。
シリーはもう、ここに置いて行くらしい。

「基本的には身の回りの世話だが、お前の事だ。どの位、何をやるかは相談して決めろ。シリー、あまり遠慮しなくていいから、こいつがおかしな事を言い出して困ったらいつでも館に来い。少し遠いけどな…。まぁしょっちゅう、これからは来る事になりそうだが…。」

そう言って顎を擦っているレシフェ。
今迄は全く見掛けなかったが、ここに来る用事が出来たのだろうか。
それならいいが、私は1番気になっている事を聞かずに彼を帰す気はなかった。
そのまま扉に向かうレシフェの前に、サッと周って出られない様にして、本題を、訊く。

「………レナは?」

その、私の表情と一言で解ったのだろう。レシフェは頷きながら、保証してくれた。それを聞いてやっと、安堵した私。

ていうか気になってるの知ってるんだから、一番初めに教えてくれてもいいくらいだよ………。

「大丈夫。何だか張り切ってるぞ?今は安全な所で準備してるから、祭りが終わったら連れて来る。今はまだバタバタするからな。どうせあれこれ提案しても、後回しにされるだろう。」

「提案?」
「………忘れたのか?お前達のアレだよ。こっちからは話を持って行けないからな。お前から始めるにしても、今は無理だろう。祭祀で手一杯だろう?お前も、連中も。」

連中って言わないでよ………と思ったけど、レシフェだから仕方が無い。

さっきの説明によると、どうやらレシフェは貴石に所属しているらしく、お城と貴石、神殿を出入りする商人の様な立場に収まったらしい。何と要領のいい事か。

流石レシフェ………って感心しちゃったよ。
お城だと前のボスにバレるしね………神殿は元々出入りする必要は殆ど無かったみたいだけど、私がいるから来てくれるんだろうな。

それに加えて、私にはもう一つ気になっている事があった。
だって、以前かなりの幅を利かせていたであろうレシフェは、ここに戻るとすぐにバレてしまうのではないかと思っていたからだ。


「ねえ、名前は?いいの?そのままで。」
「ああ。以前は役名で呼ばれる事が殆どだったからな。ユレヒドールですら俺の名前は覚えているか、分からんぞ?」
「そうなの??」

元々ラピス出身のレシフェは元の立場が「グロース」と呼ばれる役職らしく、殆どその名でしか呼ばれた事がなかったそうだ。ちなみに「主の右腕」という意味らしい。
そして、城の主人、ユレヒドールは「ラピスの輩の名など覚える価値もない」という考えの持ち主だと言う。
レシフェ曰くだけど。

「だから姿さえ変えれば大概の者にはバレん。唯一、俺が誤魔化せないと思ったのが貴石のババアだ。だから一番にそこへ行った。…多少、ぼったくられたけどな………。」

そう言って何だか遠い目をするレシフェ。
一体、何を取られたのだろう?


私が沢山の情報でぐるぐるしていると、レシフェは「時間だ。また、来る。」と言い残してあっさり部屋を出て行った。

「何かあれば、あっちを呼べ。その方が早いだろう。」

とも言っていたけど。

「あっち」って気焔の事だよね?あの二人、繋がってるの??……………でもまぁ、そうか。
そうだよね…………。

本部長の作戦がどういうものか、私に詳細は分からない。
でもきっとみんな、協力して動いている事には違いないのだ。
何だかレシフェのその言葉にまた安心して、私はやっと椅子に腰掛けた。


いつの間にか、椅子の横に立っているシリー。
座っていると、落ち着かないのかちょっとソワソワしていたのを見ていた私は、とりあえず私達の仲を深める為にお茶を入れる事にした。


やっぱり、お茶を飲みながらじゃない?
まずはリラックス、して貰わなきゃね?


そんな事を思いつつ、とりあえずシリーをそのままに、ヤカンをセットしに立ち上がったのだった。




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