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7の扉 グロッシュラー
新しい扉と言えば
しおりを挟む「探検じゃない…………?」
「は?何を言っている?」
うーん?
もう、朝?
あー、あったかい。
また、懐へ潜り込む。
今日は学校…いや、授業あるっけ?………ん?森へ行くんだっけ?うーん。
あれ?時間??
半分焦りながら、目を開けた。
ん?気焔?うん、じゃあもう少し寝よう。
起こされないという事は、今日の予定は無いのかもしれない。
イタッ ちょっと、引っ張ってるよ…
気焔が私の髪を梳き始めたのが、分かる。
ちょっと引っかかって痛かったのだ。
何これ………起きて欲しいなら、逆効果………超、気持ち良くて眠い。
そう、思っていたのだがよく寝たからか頭が冴えてきた。そして、ちょっと考える。
ここは、どこ?
いつもとベッドが違う事に気が付いたからだ。
チラリと目だけで横を見て、白い壁が目に入ると、やっとグロッシュラーの自分の部屋で、昨日整えた事まで思い出した。
最近、移動してたからね………。
まじない寮の私の部屋は、もう誰かの色に変わってしまっただろうか。
また、行ける事があれば確かめてみよう。
さて、少し冴えてきた頭でくるくる考え始めた。
気焔が私の髪を指でくるくるしているけど、絡まないようにやって欲しい。うん。
とりあえず、始めに気になる事を訊いてみる。
返事は大体予想出来るけれど。
「気焔?今日はちょっと探検に行きたいんだけど、やっぱり別々だよね?」
やっと気焔の顔を見た。
なんだか少しまったりしている金の瞳は、少し細められ考えているのが分かる。
すると意外な返事が返ってきた。
「いや。着いたばかりの昨日の今日で、一人は危険だ。多分、付き添いが必要だろうから申請しておこう。」
気焔が一緒なら、それが一番いい。
少し安心して、また胸の中に戻る。
そして、昨日の出来事をポツリポツリと愚痴り始めた。
ボソボソ喋っていたから、全部聞き取れたかは分からない。でもなんとなく、聞いて欲しかっただけだからずっとそのまま喋り続けて、気焔は私の髪をまた弄っていた。
気の済むまで喋らせてやろうと思ったのだろう。
何も言わずに、くるくるしながら聞いていた。
話終わってちょっとスッキリして、そろそろ起きようかと思ったら鐘の音がする。
「え?そんな時間?ヤバ!」
バタバタ支度する私を横目に「吾輩も一度戻る。後でな。」と言って気焔はダイニングへ戻った。
ん?直接寝室から行き来するのはやめたのかな?
とりあえず、支度だ!
バタバタと身支度をして、部屋を出る。
今日は手近にあったブラウスとオーロラスカートだ。ローブを羽織ると、分かんないけどね?
朝は夕方と同じく、神殿の廊下は沢山の人が行き交っていた。
沢山って言っても、東京程じゃ無いよ?
この世界の沢山ね。でも、グロッシュラーは何人くらいの人が住んでいるんだろうな?
建物もそう、多くなかった。神官も少ないだろう。
でも地下があるって言ってたもんね…………。
あれ?ベイルートさん、どこだろ?
行き交う人を観察しつつ、玉虫色も探す。
人間観察は結構面白いから、好きだ。
ここも色んな人が、いるな?
よーく見ると、制服の人がいる。多分、制服。みんな同じ白のブラウスに、黒のパンツかスカート。選べるみたいだな…女の子でパンツの子がいる。
私は私服にローブだけれど、灰色のローブに制服の子達がチラホラ、いるのが分かる。
ローブには赤のラインが入っている子もいれば青の子もいる。
何が違うんだろうな…………?
その他ネイアや、セイアも歩いている。
お昼はそんなに人が居なかった気がするけど、朝と晩はみんな食堂で食べるのかな?
沢山の色のローブが白灰色の神殿を行き交う様子は、見ているだけでも結構楽しい。
フフ………カラフルが石に映えるね。
でも本当に銀がいないな?
そう、今日はまだ一人も見ていない。
まぁ、昨日見たのもミストラス、一人だけだけど。
その他明らかに掃除係の様な人や、荷物を運んでいる人達は灰色のローブを着ている。ライン無しの灰色ローブだ。
その時は、「裏方さんかな?」と思ってキビキビと働く姿を眺めていた。
彼等が何者なのかを知る事になるのは、もっとずっと、後の事だった。
「依る、そろそろ行きましょう。怪しいわよ。」
「ちょっと。怪しいとか言わないで。せめて誰かに声を掛けられる前に、って言って。………まぁ、誰も掛けないと思うけど。」
昨日、銀には他の色のセイアが自分から名乗れない事を知った私はちょっと楽観視していた。
自己紹介出来ないなら、あっちから声を掛けてくる事は無いだろうと。そもそもエンリルに既に声を掛けられている事が、何故か頭から抜けていたのだ。
そう、私は「自分から名乗れない」と「声を掛けられない」を混同していた。
「じゃあ、いこ。それにしてもベイルートさん、帰ってこないね?」
「どこかいい寝床見つけたんじゃない?」
「そう?寂しいな………。」
食堂は中々の賑わいだ。
うわぁ。
これ、こっそりご飯食べるの、無理じゃない?
誰かネイア………ブリュージュさんかビクトリアさんいないかな………。
まだセイアと会話する自信が無い私は、見知った顔を探して少しキョロキョロする。
あまり大っぴらに探すと、逆に目立つからだ。
とりあえず見える範囲で見知った顔は見当たらない。
仕方が無いのでトレーを持って並ぼうと進むと、白のローブと目が合った。
あの、私のトレーを片付けてくれた人だ。
手伝ってくれた人を無視する訳にもいかないので、軽く頭を下げて「おはようございます。」と言う。どう見ても、背の高いその人は私よりも年上だからだ。
きっと先に並んでいたであろう彼はピッと姿勢を正すと「おはようございます。」と返してくる。
おっと………。
そんな感じなの?昨日のエンリルが砕けてたって事?これはまずいな…………。
一緒にいたら色々不味そうな気配がビンビンする。
しかし白の彼は、私に自分より前に並ぶ様手で促し、そばに控えている為、またそのスマートな態度に更にアワアワしてしまう。
サラリとした薄灰色の髪がまたフードから見えて「ああ、この人も綺麗に合ってるな?」と考えていたら少し落ち着いて来た。
白に黄色のラインのローブと薄灰色に茶の瞳がこれまたピッタリの彼。
なんだかグロッシュラーでは、力じゃなくて色でローブが決まるのでは、と思うくらい合っている。
多分、私はじいっと彼を見ていたのだろう。
気を遣ったのか、彼がサイドメニューを私のトレーに乗せていく。
おおぅ、なんだかお嬢様みたくなってきたぞ。
そのままカウンターを歩きながら彼が尋ねてくる。
「メインはどうしますか?」
途中で断るわけにもいかず、今日のメニューに目をやる。
「たまご」メインか「ピュイ」メインか。
朝から肉もあるのか…………でも男の子多いなら、そうなのかな?
「たまごでお願いします。」
オムレツみたいなものだろうか。
そうしてそのまま流れて行くと、厨房の人は私を見つけていたのだろう、きちんと朝のご飯とたまごが出てきた。
朝のご飯は、多分崩した魚がご飯に入っている所謂「猫まんま」に見える。
えー。いいなぁ、ご飯。
自分のトレーの洋風朝食を見ながら、猫まんまも乗せる。ちなみに彼は肉にしていた。
やっぱり、肉なのか。
トレーの上に皿が揃い、恐れていた「さて、どこに座ろうか」というタイミングが来てしまった。
えっと。やっぱり?
一緒に?食べます?これ、どういう流れ?
手伝ってくれただけ?
脳内があぶあぶしている私の前に、向こうから天の助けがやって来るのが見える。
気焔だ。
テーブルを探す様に立ち止まっている私達の前に来ると、足を止める。
そうして白い彼にこう言った。
「おはよう。すまないが、彼女は今日私が外を案内する。少し説明をしてから行きたいから、連れて行っても?」
「おはようございます。‥はい。分かりました。………では、失礼致します。」
彼はチラリと私の事を見てから、私達に軽く会釈をするとまたキビキビと立ち去って行った。
なんだか全体的にスッとした人だな…。ん?スッとするは変か?なんだろう全部がスッキリ………それじゃ同じか。うーん。白い?いや、違うな。
スマート………そう、スマートか!
「依る。行くぞ?」
「あ、はい。」
またボーッとしていた事に気が付いて、慌てて気焔について行く。どうやら席は取ってある様だ。
て事は、私の事探してくれてたのかな?
全然気が付かなかった。
割と端の方の席に、既にトレーが一つある小さなテーブルがある。そこに着くと、気焔は椅子を引いて私を座らせた。
ネイアでも、エスコートしてくれるのか………そう思いながら、食堂を見渡せるいい位置のこのテーブルを選んで座っているのが分かる。
気焔はぐるりと辺りを見渡してから私の向かい側に座ると、食べ始める様、促した。
「いただきます…ありがとう、さっき。」
飲み物と、一応乗せてきた程の少しのサイドメニューの気焔のトレー。
何かを飲みながら、「いや。」という気焔をなんだか久しぶりにきちんと見る気がする。
そう、きっと私はここに来てからみんなの色を見るのにハマってしまったのかもしれない。
気焔は相変わらずの綺麗な明るい金髪で、今はちゃんと茶の瞳だ。ブルーのローブは明るい青なのでこれまた金髪と合う。
黄色と青の組み合わせは自分ではしないけど、私は結構好きだ。元気な感じがして、いい。
気焔に合ってる。………でも白とかもいいな?赤…もいいけど茶は普通かな?黄色はちょっと…同化しちゃうし。銀?派手だな…。私的には青が白かな?
一人で勝手にコーディネートを考えて納得すると、周りの色の観察もしたくなってくる。
食堂をぐるりと見渡すと、大体8割ほど埋まっているのが分かる。カラフルな景色を期待していたが、多いのは茶と赤だ。そこそこ黄色とちらほら白がいて、やはり銀は今の所見えない。
私達の席は二人か、三人でも使えるくらいの小さなテーブルだが、中央のテーブルは長いものがズラリと並び、銘々好きな所に座って食べる様だ。ちなみに昨日、エンリルやブリュージュと食べた時は長いテーブルの端で食べていた。
小さい席に座るのは、初めてだ。というか、こんな所に小さい席があるなんて、知らなかった。
他にもいくつか並んでいる小さなテーブルは、大事な話をする時や少人数で食べたい時に向いているのだろう。
殆どがネイアで、みんななんだか朝から真面目な話をしている様に見える。
小さなテーブルは殆ど、埋まっていた。
「あいつは知り合いか?」
怪しく無い程度にキョロキョロしていた私は、気焔の指す「あいつ」が一瞬誰だか分からなくて、首を傾げた。
ん?あいつ……………?
「え?さっきの白い人の事?」
「そうだ。昨日、会ったのか?」
「そうだね。ほらあの、赤ローブの人の話、したでしょう?その時私がちょっとぷりぷりしながらトレーを下げようとしたら、代わりにやってくれたんだよ。いい人だよね。」
気焔はまた全体に視線を走らせながら「ああ。」とか気のない返事をしている。さっきの白い彼を探しているのだろうか。
「名前はまだ聞いてないな?」
「うん。あ、ネイアには私から話しかけたり自己紹介してもいいんだよね?セイアは気を付けろって言われたけど…。」
「それは問題無い。しかしあまり自分からセイアに絡むなよ?昨日言われたのだろう?」
私が朝、つらつら話していた事をちゃんと聞いていたらしい気焔。
確かにブリュージュとビクトリアはそう言っていた。どう、気を付けるのかよく分からなかったけど、こういう事だろうか。
でも、手伝ってくれたのに無視するのは無理だよ…。
でも今日はもう、気焔がいるから大丈夫な筈。
楽しい計画、考えよう!
「とりあえずその話は分かった。で、この後ってすぐ出掛けられるの?」
さっさとその話題を終わらせた私に、仕方なさそうな顔をして気焔は頷く。
大丈夫、分かってるって。
御機嫌な私を尻目に少し心配そうな顔の気焔。しかし諦めたのか、一応、トレーに持ってきた食事を食べ始めた。
私も気焔が食べているのは珍しい、と思いつつ食事を済ませる。
食事の後は、特に持ち物も無いのでそのまま外へ出かける事にした。
「何か、申請とか書いたりしなくていいの?」
「手配は済んでいる。」
それならいいけど………?
食堂から少し考え込んでいる様子の気焔。
少し気になったけど、様子を見ていると教えてくれる感じは無い。
しかし今日はメインイベントが待っているのだ。そう、やっぱり外に出たらすっかりそんな事は綺麗に忘れて、私は大きな声を出していた。
んん?周りに人、いないよね?
「わあ~!何も無いね!」
「何も無いのにどうしてそんなに興奮できるのかしら。」
「解らん。」
二人の嫌味もなんのその、私は一人駆け出していた。
神殿の石造りの門を潜ると、大きな階段があり前庭に続いている。
階段の上から辺りを見渡しても、遠くに建物が見えるだけでその他は灰色の平坦な土地が広がっているだけ。木や草も無いし、灰色以外の色は前庭の池だけだ。
大きな石の階段を気を付けながら下りると、不思議な前庭がある。何が不思議なのかというと、庭と言っても前述の通り木や草花があるわけでは無く、池しかない。
池しか無いのになぜ前庭だと思ったかと言うと、まるでお城の前庭の様に整えられた縦長の美しい池だからだ。
神殿正面から、大きなプールのようになっていて中央に一本、横切る様に道が通っている。
あそこに行ってみようか。
池の脇をずっと進んで、道に入る。
神殿から続く縦長の池は綺麗な水が溜まっているだけで、もしかしたら溜池として使っているのかな?とも思った。揺蕩う様子は見えるけれども流れているのかは、分からない程度の水の動き。
私が立っている道の下で、前後の池が繋がっているのが分かる。
ふぅん?何の為にあるのか、ネイアに聞いたら教えてくれるかな?
そこから顔を上げて、神殿の大きな門を見る。
森の大木よりも何倍も大きな柱は写真で見たギリシア神殿のようなどっしりとした太い柱で、あまり装飾は無い。
白くて大きなその柱に挟まれる形でアーチ門があり、門には彫刻が施されている。そしてそれも、そんなに華美では無いものだ。
ここからだと細かい部分がよく見えないので、また帰りにじっくり観察する事にしよう。
ま、門ならきっといつでも見られる筈だ。
また池の横をずっと歩いて、進んでみる事にしよう。
いや、先にあっちかな………。
私の前方には、灰色の石畳とその周りに広がる灰色の地面、遠くに少しだけ石のお城の様な建物が見える。
気焔と飛んでいた時に見えた、あの城に違いない。無骨な、四角のシンプルな石造りの建物で確かドイツかどこかにあんなお城があった気がする………。
あそこもとりあえず、見たい。
しかし。
私にはミッションがある。
この、空中都市の終わりを見に行くのだ。
てか、絶壁ね。
そう、端っこがどうなっているのか確かめたいのだ。
気焔と飛んでいた時、この島の端は所々見えたり見えなかったりで、島自体の大きさはある程度大きいのが分かっている。
でも多分、この大きな神殿は島の端にあるのだ。
神殿自体が大きい事もあるだろうが、見える範囲に地面の切れ目がある。きっと、舟形の先端部分に違いない。もしかしたら神殿の後ろは断崖絶壁で、もう空しかないかもしれないしね?
決めた。
端から確かめていこう。
そうして私はスタスタと歩き出した。とりあえず、自分の部屋の窓から見える雲の方向へ。
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