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5の扉 ラピスグラウンド
恋人がいる、冬の祭り
しおりを挟む「いらっしゃい。」
既に、エローラは入り口で待ち構えていた。
なんだか、怖い。
そう思うのも仕方の無いくらい、エローラからは気合が漲っていた。なんだろな、これ。
「気焔は?一緒じゃないの?」
「うん、エローラの家に集合なのは言ってあるんだけど。いなかったから、おいてきた。多分後でちゃんと来ると思うんだけど…。」
「………ふーん?ならいいか。まあ男の準備はそう、時間はかからないわ。ちゃんとあの服で来るように言ってくれた?」
「うん。でも、なんで?」
「そんなの………前にヨルも言ってたじゃない。ほら、カップルで一緒の服着るかどうかって。」
あーーー。確かに。
同じ生地で服を染める時に、エローラなら知っていると思ってペアルックについて訊いたのだ。
確かおかしくないって言われたから、染めたんだよね…。
そう、今日の私に指定されたのはあのワンピースだ。でも、どのみちあの生地の服しか着られないから(あ、あと姫様の服ね)どれを選んでも、お揃いなんだけど。でも他の服だと普段着過ぎるって事で、オーロラワンピになったのだ。
しかしラピスでは地味な色の服を着ている人が多い。逆に目立つんじゃないかと心配になった私は、エローラにそれを伝える。
「でもさ…派手じゃない??」
「大丈夫よ。今年は、凄いわよ?」
そう言って、パチンとウインクしたエローラ。
何か、アイディアがあるのだろうか。
「今年はね…。結構既に、売れてるのよ!」
「ん?何が?」
「あー。あの、作ってたやつね。」
二人はなんだか納得しているけど、私は知らない。レナが知ってるもの?なんだろう??
「ほら、ヨルがいなかった間とか、最後ら辺に服を作ってる間に、私は私でラピスで流行らせたい、色モノを作ってたのよ。」
「え?色モノ?色モノって言うの止めようよ…。」
「え?なんで?まぁ、いいけどとりあえず見てよ。まだ少し残ってるから。」
そう言ったエローラはお店の入り口横、私がスルーして入ってきた所を指す。そこにはいくつか服が掛かっているラックが、あった。
そこに掛かっている服が、ラピスでは珍しいカラフルな服だったのだ。
いや、カラフルと言っても優しい黄色や、ピンク、お店と同じ色の水色のスカート。ストールの様な小物もあって「これなら取り入れやすいでしょ?」とエローラが得意そうに言う。
その他にもパステルカラーのブラウスが合わせやすいように綺麗な薄い色で染められていて、何だか白黒のイメージだったエローラが本当にこれを作ったのか、私は不思議な気分になった。
「エローラにしては、この色、意外だね?」
「これさ、シャルムが染めたらしいよ。」
「え?!」
「二人で生地を作ってる時の色合わせで、シャルムはこういう優しい色しか作れなかったんだってさ!ていうかもう、その時点で分かるよね?!」
「そうなんだ!やだ………なんか、いい。」
「あんたまた………グロッシュラーに行く迄にそのすぐ泣く癖どうにかしなさいよ?」
「………多分、無理。」
ラピスに帰ってきた安心感からか、私の涙腺君は緩々であまり仕事をしないのだ。でも、シャルムはきっと元々優しいし、エローラの事好きだからこの色になるんだよね………何それ。やっぱりいい。
常々思っていたけれど、まじないで染まる色はその人を表すと思う。そんなに沢山見た事がある訳じゃないけど。
「なんか、良かったねぇ。シャルムで。」
「なんだかんだ、合うわよね。きっと。」
「フフ。ありがと。さ、ヨル支度、支度。」
「あ、それなんだけど。」
「え?」
「レナってさ、このままで大丈夫?」
私の言葉にレナは「?」と不思議そうだが、エローラは意味が分かったようだ。「うーん。」と腕組みして考えている。
エローラが側にいれば大丈夫だとは思うけど、今日もレナは可愛い。ブルーのフワフワな髪をハーフアップにして、ピンク系のお化粧がくりっとした大きな目を引き立てている。
服は普通の白いブラウスと紺のフレアスカートだが、そもそもラピスには化粧をする人がいないので普通の服装でも可愛いのが更に目立つのだ。でも折角可愛いのに、地味にするのもな…難しい所だよね?
チラリとエローラを見ると、まだ、悩んでいる。
でも次の瞬間、「閃いた」と言うようにポンと手を叩きこう言った。
「分かった。私が恋人になるわ。」
「「へ?」」
流石にレナも、アホな声を出した。まぁ、私はいつも通りだけど。
「恋人?何、どういう事?」
「いや、レナもヤバいって事よ。ヨル達と一緒にいてもいいけど、それだと多分ロランが気焔の事「やっぱり友達?」とか思っても困るしさ。」
「それはあるかも。で?恋人って、まさか…?」
「はい。そのまさかです!任せて?材料は、揃ってる。」
パチンとウインクを再びしたエローラ。
まさかと思ったけど、一度奥へ引っ込むとやっぱり男物の服を持ってきた。しかも、ちゃんと自分のサイズの物だ。
なんで持ってるの??
「エローラ…………。」
「そう。前にシャレで作ったのがあるのよ。後は男物の作り方をやってた時、仕立てても着る人がいないと、分からないじゃない?だから自分のサイズで作ったのよ。結構イケると思うんだけどな…。」
「あ、じゃあ私お化粧でやってあげる。」
「え?男の人でも?」
「まっかせなさ~い。」
私が唖然としている間に、二人はサクサクと事を進めていた。とりあえず、レナは髪を一つに縛ると持っていた袋から色々道具を取り出す。
私のお化粧をする為に持って来ていた道具たちだ。
「ふむ。色は…………これかな?で、ちょっと眉を濃くして…ちょっとヨル。これ混ぜて。」
レナに頼まれた粉を混ぜながら、エローラの変化していく顔を観察する。しかし、どうしてレナは女の子を男の子っぽくするお化粧なんて、知ってるんだろう?そう思ったらやっぱり疑問は口に出ていたようで、レナがそれに答える。
「あの、お店があるって言ったじゃない?このお化粧道具が売ってる所。そこでね、聞いたのよ。面白いのよね、そこの店主が。」
それってウイントフークさんのお母さんだよね?まあ、それなら面白いだろうな…。私も俄然ウイントフークの母親に会いたくなってきた。もしかしてウイントフークさんより面白いんじゃない??
そんな事を考えていると、レナは私の手から粉を取って出来を確認すると、エローラにブラシで塗り始めた。何かクリームみたいなものを塗っていたので、軽くブラシで撫でていくだけで少しずつエローラが色黒になる。
「イメージはガラッと変えた方がいい」というレナの言葉通り、最終的によく日焼けした男性のようになったエローラ。
ええ~。肌の色と眉、あとは唇の色を消してたかな?多分、シェーディングもしてたよね…。レナ様…。
「じゃ、着替えて来て。」と言われたエローラは、そのまま渡された着替えを持って試着室に入って行った。
「ええ?!」と叫ぶ声が聞こえてきて、レナと顔を見合わせて笑う。鏡を見て、驚いたのだろう。
うん、まあびっくりするよね。
自分の世界ではしのぶのおかげでコスプレをする所なんかも見た事がある私。その私でもレナ様のテクニックには、驚いたもんな…。
着替えて出てきたエローラは、確かに別人だった。家族にはバレるかもね?くらいの変身っぷりだ。
「ねえ、エローラは男兄弟はいないの?」
「いないわよ?いたらそっちが継いでるわよ。いや?…私かもね?」
「ふーん。」
「え?どうして?」
「いや、お兄さんとかいたらこんな感じかなぁって思って。」
「確かに。」
そんな事を言いながら、中々のイケメンになったエローラをレナとしみじみ眺めていた。
「いいよね…。」「うん。」とやっていたら、マデイラがお茶を持ってきてくれて驚いていたけど。
「で?これならレナは大丈夫かな?」
「多分ね。あと、髪はそのまま纏めておいて?レナの髪は魅力的だからね。」
「分かる!フワフワで可愛いよね!中身と違って。」
「ちょ、どういう事よ?!」
カランカラン
そうして私達がまたキャッキャし出した頃、やっと気焔が店に入って来たのだった。
「じゃ、よろしくね?」
「ああ。」
「多分、特に何もしなくても恋人に見えるから大丈夫だと思うんだけど。」
「危なそうだったら、ヨルの事3秒、見つめてくれる?それで大丈夫だから。万事。」
「?ああ。」
水色の店の入り口で、二人に見送られる私達。
さり気ないお化粧と、お揃いの服で並んでいる私達は見るからに恋人感が出ている、らしい。
何それ。なんで?3秒?
しかし既に「何もしなくても恋人に見える」の所から、私の顔は赤いに違いない。だって、既に顔が熱いから。
大丈夫かな、これ…。違う意味で。
チラリと気焔を見る。
「?」と私の顔を覗く金の瞳にまた顔が熱くなって、「ほらね?」とレナが言っている。
くっ、悔しいが何もできないっ…。
きっと私の心の中の忙しさを解っている二人はフフッと顔を見合わせながら「じゃあ行ってらっしゃ~い。後でね?」と言い、私達を送り出した。
あの後エローラの家で、軽くお昼を食べさせてもらい私達だけ夕方前に出発だ。本番は夜だから、もう少し遅く行ってもいいんだけど、イオスのお店も見たいしルシアのハーブショップも寄りたい。折角だから、色々見たいのだ。もう、オイルが少なくなってきたし丁度いい。買ってからグロッシュラーに行かなきゃね?
「冬の祭り限定の香りがあるわよ?」
そんな情報をルシアから聞いてしまった私は、買わない訳にはいかないのだ。いや、決して限定物に弱い訳では、ない。だって、中身のブレンドが私好みのハーブばっかりだったんだもん…。
そういう事前情報が聞けるのも、ルシアがいるからだ。本当、ありがたいな…。
そして冬の祭りは広場にまじないがかかるので、長時間居ても寒くないのが、いい。飽きた頃にはレナとエローラも来るだろう。ロランにだけ気を付ければ、祭りを充分楽しめる筈だ。
いや、だからロランは悪い事してる訳じゃ無いんだよ?…無いんだけどね?
歩きながら、チラリと隣の気焔を見る。
実は、二人きりでこうして並んで歩く事は意外と珍しい。朝がいたり、何かに巻き込まれていたり、抱えて飛んでくれてたりとなんだかんだ普通に歩く、という事自体が珍しいのだ。
そんな普通をこうしてラピスで楽しめる事に、私は喜びを感じていた。平和って、いいな。いや、私も大分、事件に慣れてきたのかもしれない。
やっぱり日常は、平和に限るよ………。
そんな事をつらつら考えながら歩くと、もう南の広場だ。エローラの家から出発したから、位置的には近い。
細い小道を抜け、開けた広場に出た。
もうそこは冬の祭りらしく華やかに飾り付けられた、普段と違う広場だ。
紺と白の長い布以外にも赤のリボンが沢山、ぐるりと広場を囲む家の窓から下がっている。今年はお店の飾りもみんな赤を取り入れていて、とても華やかだ。
いつもはイオスの所だけ、目立っているけど今年はみんなそれぞれ工夫している様子が見える。
もしかして、影響されちゃったのかな?いい感じじゃない?
このままラピスも、お店それぞれのカラーが出ると、もっと可愛い店が増えると思う。そうなれば嬉しいなぁと思いながら、広場を進んで行った。
「わぁ。完成してるね。」
私がそう言ったのは、中央の飾り棚の事だ。
今年も噴水の周りをぐるりと囲む棚にはズラリと人形と服がそれぞれ並べられている。今年の出来は、どうだろうな?
そう思いつつ、先にお店を見ようと気焔を誘った。夜になる前に買い物は済ませたい。あと、あわよくば買い食いをするつもりなのである。その為に、お昼は軽めになっていたのだ。
「キティラ!」
「ヨル!来たのね。今年はゆっくり見てって?」
「うん。ありがとう。とりあえず後でおやつ買いに来るから、リプのやつ取っといてくれない?」
「オッケー。因みに、まだロランは見てないよ。」
「ありがとう…。」
二人で了解のポーズをして、最後はコソコソ話だ。イオスがそれを見て笑っているけど、まぁ私達にはいつもの事なのでイオスにも了解のポーズをしておく。
ん?ああ、そっか。
キティラが気焔をチラチラ見ているのだ。知ってはいるけど、この目は「付き合い始めたのね???」という追及の目だろう。やっぱりここにも、言っておかねばなるまいな?
「(そうなの。)」
「!!(良かったね!)」
流石、キティラも恋話大好きなだけ、ある。
私の一言で納得したらしく、了解のポーズを取ったのでまた私も手を合わせた。
満足そうに頷いているキティラが可愛くて、なんだか面白いのだけど、とりあえず次の店に行く事にした。
「また、後でね!」
そう言って他のお店の散策に向かう。
広場は既にテーブルと椅子の準備が始まっていて、なんなら準備しながら飲んいでる人達もいる。みんなまだ飲み始めなので楽しそうに酔っていて、それを横目で見ながらぐるりと広場を廻って行った。
そうしてお店をブラブラ、見ながら歩いている間も気焔は終始無言なのだけれど、酔っ払いが見えるとサッと私を隠して手を引き、スタスタ歩いて行く。今のところ、彼がやっているのはそれだけ。
楽しいかな?私のお守りだけだと…つまんないかな?
そう考え始めると気になってきて、気焔が楽しめる事を色々考えたのだけど、いい案が全く思い浮かばない。
「うーん?何か食べ……ないよね?お酒…ない。遊ぶ?何して?みんな、何してるんだろう?」
急に立ち止まって呟き始めた私を、気焔はいつものように側で見ていた。私が急におかしな行動をするのはいつもの事だからだ。
すると、背後から声をかけてくる人がいた。
「ヨル………?」
ん?
パッと振り向くと、声を掛けてきた人が、分かった。テレクだ。
久しぶりの彼もお祭り仕様で、シャツをピシッとジャケットと合わせている。
よしよし、多分隣にいるのが彼女だね?
「久しぶり。元気だった?少しだけ、帰ってきたの。またすぐ出ちゃうから、あまりみんなには知らせていないんだけど。」
「そうだったんだね…。」
「うん。マリアナとラインは、どう?元気にしてる?」
そう、それも気になっていたのだ。でもそこまで訪ねる時間が取れなそうだし、もしテレクに会えたら聞こうと思っていた。良かった、会えて。
「ああ。あれから母さんも元気になって、姉さんは楽そうだよ。うちに帰ってきてからも大変だったからね…。たまに、ヨルの話も出るよ。ありがとう。いつも言ってる。」
「いやいや、こちらこそ…。ラインには癒しを貰って…。とりあえず、皆さんによろしく言っておいて?…ところでそちら………?」
そう、本題に入るのも忘れてはいけないのだ。テレクには恋人が出来た、っていう所ね。
「そうだ。ヨルは初めてか。…こちらはアデン。来年、結婚するんだ。春の祭りが終わって、落ち着いたらかな?」
「え?!結婚?おめでとう!!」
「は、初めまして。ありがとう。」
おっとりした感じのアデンは驚きながらも私の握手を受けてくれたので、ついつい手に力が入ってブンブン振ってしまった。
だって、おめでたい事だものね?いいお兄さんという雰囲気のテレクとおっとりしたアデンはなんとなく似ていて、何だかピッタリだな?と思う。
そうして「またね。」と二人と別れると、何となく「今年は結婚というワードをよく聞くな?」とボソッと呟いた。
「依るは結婚というものがしたいのか?」
「ん?そうだね…………そりゃ、いつかはしたいけど…………?」
珍しい。気焔から「結婚」なんて言葉が出た。
そう思ってどうかしたのかとじっと見ていたら、「いや、行こう。」と言ってルシアの店に引っ張って行かれた。
だって、聞いたのそっちじゃん!
そんなこんなで買い物をしたり、買い食いをしたりシュツットガルトとイスファに会って一緒に人形を冷やかしたりしているうちに、大分暗くなってきた。赤の時間かと思ったら、もう既に結構暗い。陽が落ちるのが早くて冬の祭り本番、って感じだ。
中央の飾り台の辺りから、灯りが灯り始め広場が段々、キラキラしてくる。噴水もライトアップされ、水と揺れる灯りがまた幻想的な空間を作り出す。この、冬の暗さの中の凛とした灯りが好きだ。
周りの大人達はお酒を楽しみ始め、人形や服を見ている人達も増え始めた。酒の肴にしている人、真剣に物色している女の子、友達とアレコレ見比べている人達。
それぞれ見ていると中々楽しい。
そう、そして今年も一番の出来だったのがロランの陶器の人形だ。しかも、去年とは違う人形で、更にグレードアップもしていたのだ。
既に私は暗くなる前にイスファと「ここが凄い」「細かい所も色付けが上手い」と色々やっていて、シュツットガルトは本気でウィールに招きたそうな顔をして眺めていた。
確かにロランは教えるのも上手そうだしな?
既に一通り祭りは楽しんだので、エローラとレナに会ったらそろそろ帰ろうか、くらいに思っていた私。ロランにも全く会わないので、ちょっと、油断していたのだ。多分。
うっかり気焔と少し離れて、人形の服を凝視していた。そう、飾り台の物凄く、近くで。だから、全く気が付いていなかったのだ。
「ヨル!」
「ん?」
振り返るとそこには、既にロランが、いた。
勿論、気焔だって離れている訳じゃない。すぐそこには、いる。ただ、その時は私が服に近づいて凝視してたのもあって、ぴったり、近くにいた訳じゃなかったのだ。そう、見られたタイミングが悪かった。
「良かった。会えた。探してたんだよ。」
「え…。どうして?あ、いやありがとう。そういえばカップのお礼もちゃんと言えてなかったよね?」
「いや、それはいいんだ。あの、ハーシェルさんから話は聞いたけど…。」
ロランが私のちょっと、横を見ている。頭の、上。チラッと見ると、やっぱりすぐ背後に気焔が、いた。
ん?これは…。まさか?私が「恋人です」とか紹介しなきゃいけない感じ?無理無理。
でもな?既に、分かってるよね、これ…………。
そう、既に軽く睨み合っている二人の間にはちょっと、緊迫した空気が流れていた。
何故ちょっとかというと、多分ロランは気焔が私の恋人だと思っている筈。だから表立って突っ掛かっては行かないのだろう。だって、シンの時ですら全然遠慮が無かったからね…。中々強者なのだ、ロランは。
辺りはガヤガヤとお酒を飲んで騒ぐ声と、何処からか音楽も聞こえ始めた。祭りが盛り上がっている中、私達の周りだけ何だかシンとした空気が漂っている。
すると、ロランがポツリと口を開いた。
「君は………ヨルの事をどう、思っている?」
「………どう?とは?」
「僕は、結婚を考えている。君は?どうなんだ?」
えええ~~~!!!なんで?恋人が出来た、って言ったんだよね?お父さん?!なんでこうなるの??何?何コレ?え?言うかな?言うの?大丈夫かな?ど、どうするんだろう………??
緊迫した男達の横で、私の頭の中は大忙しだった。目だけがあちこち、忙しく動いてしまう。
ヤバいヤバい、何コレ?顔、熱っ!
「ああ。ちゃんと、考えている。」
「何をだ?結婚だぞ?付き合いじゃない。」
「そうだ。結婚。吾輩はもうコレ以外は要らぬからな。」
どっひゃー!!!!!
吾輩になってるし!しかも、コレって、コレって何?私じゃなかったら、死ぬ!
演技だと分かってても、これは……ぁぁぁぁぁ。なんの?なんの?なんのプレイなの???
「コレってなんだよ。そういう扱いなのか?」
ああああぁぁぁ…確かに気になってたけど、聞いちゃう?そこ、聞いちゃうの???あわわゎゎゎゎ。
「いや。大事にして、いる。依るはもう、吾輩のものだからな?」
「ふぅん?それならいいが。ヨル?ヨルも結婚までする気があるのかい?コイツと。」
え?えぇぁぁぇ。こ、答えるの?いま?ここで?
無理じゃない?
半分涙目で気焔をチラリと見る。
え。
笑ってるし。
………ああ、これは完全に面白がってる。なんかクサイと思ってたんだよなぁ?途中からノリノリだったんだ、きっと。
私の目に溜まっていた涙はシュンと引っ込んで、なんだか反対にムカムカしてきたのだけど、とりあえずロランにはしっかり返事をしておいた。
「うん。私も、気焔以外考えられないの。」
ニッコリ笑ってそう言うと、ロランは苦笑いをして「おめでとう。」と言ってくれた。
何だか騙すのが悪い様に思えてきたけど、応えられないのだから仕方がない…よね?
気焔をチラリと見ると、ちょっとニヤッとしながら「あっちを見ろ」と首をクイと動かす。
示された方を見ると、なんと近くのテーブルで飲みながら見物しているのはエローラとレナだった。
なんて事!!!
きっと、気焔は二人に気が付いたから途中からノリノリだったのだろう。いつからこんな演技が出来るようになったんだ!けしからん。
そうして私がぷりぷりしているうちに、ロランが他の女の子に声を掛けられ「じゃあ。また。」と振り返りながら去っていく。
それを見送ると私は早速、表立ってぷりぷりし出した。
みんなして。乙女の純情を何だと思ってるんだっ。
私は自分の事でいっぱいいっぱいになっていたので、気焔が二人に帰る合図をしていた事に気が付かなかった。
そうして、そのまま気焔に手を引かれちょっと細い路地に入る。
ん?この展開?
そうして私は優しい金の炎に包まれると、いつものように抱えられフワッと飛んだのだった。
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