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5の扉 ラピスグラウンド
森と青
しおりを挟む「で?どうだったの?あんたも泣いたんでしょう?」
帰ってきた私の顔をじっと見ていたレナは道中そんな質問をしてくる。
どうしたって私を見ていたらバレるので、シュツットガルトとイスファに許可を取り、レナには事前にザックリ事情を説明していたのだ。
「うん。感動の再会だったよ…。最初誰も喋んなくて困ったけど。」
今思えば、面白いんだけどね…。
さっきの様子をクスクス思い出しながら私達はラピスの坂道を下り始めたところだ。
久しぶりの、青の街。
昨日は夜で殆ど色は分からなかったので、レナもやっぱり私と同じようにキョロキョロしながら、歩いている。私は久しぶりなだけだけど、やはりシャットの橙に少し飽きていたのだろう、「あれはあれでいいんだけどね…。」と呟きながら、どっちがお上りさんなのか分からないくらいの勢いで歩いていた。
「それにしても、本当に青いわね…………。」
そう、レナが思わず呟く程確かに青いラピス。久しぶりに見ると一段と眩しく感じるその青に、私も来たばかりの頃はかなり興奮していた事を思い出す。
まあ今現在進行形でテンション上がってますけどね…。
今日の森への目的は、イスファとリールの親睦を深める為と、泉の様子を見ながらみんなに泉を堪能してもらうのと、途中の畑をレナに見せたいのと、色々ある。
ザフラの所も長老がいなくなったので、様子見に寄りたいが仮にも女神設定なのでこれだけゾロゾロ人数を連れて行く訳にはいかない。気焔と「また別の機会に」という事で落ち着いている。
ま、いざとなったらフワッと跳んでもらえばいいし…。決して、便利な乗り物扱いしている訳では、ない。
ラピスの街並みは窓からの飾り以外は出発前とそう変わらず、冬の様子が見たかった私は冬の祭りの準備を確認しながら行こうと、南の広場を通って行く事にしていた。
イオスとキティラにも会えるし、お昼を買って行こうと企んでもいた。もうすぐ冬の祭りなので、お店は既に南の広場で出していると言っていたのだ。
さっきからイスファが無言だけど、大丈夫かな?
でも、視線は忙しそうだし、リールと話もしてるからかもしれない。すっかりお兄ちゃん認定されて、仲のいい二人を見るのはこっちが癒される。
「…わ。凄い。」
「…………。広いね。」
南の広場に着くと、さすがにいつもと違う様子が見れた。
広場を囲む家から長く垂れ下がる紺と白の布、赤の花飾りや木の実を模した装飾。中央の噴水の周りも既にぐるりと人形と服を飾る為の台が置かれていて、これから柱を立てて布を渡すのだろう。もうすぐ立てられる柱が台の下に寝かせられ、出番を待っている。
「ねぇ。冬の祭り、出るの?」
チラリと頭に過った、去年の人形事件。いや、実際に事件は起きてないけど、確かに起きそうだった。そして今年、シンはいない。
きっと朝も同じ事を心配しているのだろう。飾り台の辺りを嗅ぎながら、私にチクリと言っている。
うーん。でもレナにも見せたいし、もしロランが人形出すならイスファも観れるといいよなぁ…?あのクオリティは見といて損は無いよね…。
とりあえず相談が必要な事は、確か。
振り向いて後ろをついて来ている気焔を見た。朝の声は聞こえていた筈だ。
「…………。」
無言。どっちだろう?とりあえず、まだ日はある。きっと2、3日中にウイントフークの所に行くだろうから、その時ついでに相談しよう。
そう決めると、レナとイスファに冬の祭りをザックリ説明しながらイオスの店に向かって歩き始めた。
私がボーッと考えている間に、ティラナとリールがレモンイエローの屋台で話しているのが見えたからだ。
「ヨル!!」
カフェコーナーにいたキティラがすぐに私に気が付いて走ってくる。
「久しぶり!」
「お帰り~!!」
そう言って抱き合うと、お互い背中をポンポンしてお疲れ様のハグだ。きっと、一人でカフェを回すのは大変だったろう。誰か、手伝ってくれる人いたかな?ベイルートさんのところの人かな?
少しだけベイルートの事を思い出して、少し心が重く、なる。ティレニアでは、ちゃんとカエル長老の所にいるかな?もしかして、もう新しいベイルートさんになっちゃったかな………。出来れば、もう一度あの玉虫色が見たいけれど。
「ヨル?イオスも待ってる。」
そうキティラに言われてハッとする。いかんいかん、クッキーの相談をしなきゃいけないんだった。
とりあえずベイルートの事はまた、別の話だ。
私は切り替えるように頭を振ると、レナを引っ張って店の前に進んだ。
実は宣言通り、ティラナもちゃんとキティラからクッキーを習っていた。今朝、落ち着いてから近況報告で「美味しく出来るようになった」と満面の笑みで報告してくれたのだ。
ちょっとその笑顔にやられそうになったけど、私達はグロッシュラーで「プレミアムなお店」をやらなくてはならない。やはり、本家から習おうという事で今日イオスにお願いして、日程の都合を聞こうと思っていた。あまり一緒に作って見てもらう事は出来ないと思うけど、元の世界の知識がある私は多分コツを聞けば大丈夫だと思ったのだ。
まあ、元々クッキーは得意だっていうのもある。じゃなきゃ、ここまで人気の出るものを簡単に真似なんて、しようとは思わない。
ある程度この世界の材料でのコツを掴んで、後は自分達で研究するしか無いのだ。火加減一つで変わるだろうしね?
「久しぶりだね!元気だった?売り上げどう?ベイルートさん、…いないと大変でしょう?」
「それはあるけど、ウォリスさんもかなり気にしてくれてる。今日はクッキーの作り方だろう?聞いたよ。」
そう、言ってティラナをニコニコ見ている。
ティラナは出来上がりをイオスにちゃんとチェックしてもらっていたらしいので、弟子みたいなものなのかもしれない。
「とりあえず新作もあるし、食べてみないと分からないだろう?」
そう言って、二人は私達の分のカフェテーブルを用意してくれた。幸いにもまだ開店のほんの少し、前だ。ちょこっとお邪魔させて貰おう。
私もセッティングを手伝いながら、「リプはいいね!」と新作の爽やかなクッキーを運ぶ。
ルシアもパイに使っていたし、リプは今がシーズンなのかな?
「吾輩はいい」という気焔は広場のチェックに行ったようで、それ以外のみんなの準備が揃うと早速お茶会だ。ラピスの最近の様子をキティラに聞きながら、イスファとリールが話しているのを眺め、キティラの冬の祭りの話にレナが「恋人の下見?!」と食いついている頃、チラッと見知った顔が見えた。
ロランだ!ヤバっ。
ヤバいと言うのも失礼だが、帰る事を一部の人にしか知らせていない私は出来れば見つからずにやり過ごしたい。幸いな事に、イオスのお店が目当てでは無いらしくお店が開いていたら昼ご飯を買ってから行こう、という雰囲気。キョロキョロしつつ、何やら考えている。
まだ、こちらには気が付いていない。
「(ヨル)!」
店の中からイオスが手招きしている。すぐに彼の意図を察して店の中に飛び込んだ。しゃがんだまま、奥にモソモソと移動する。イオスはやっぱり知ってたのかな…?コソコソと訊いてみる。
「知ってたの…………?」
「ああ。去年、あの後結構噂になったからね…その後ヨルがいなくなっただろう?ロランはかなり落ち込んでたけど、女の子達からすればチャンスだからさ…でもヨルはすぐまた戻るんだろう?」
「うん…でも友達に冬の祭りは見せたいんだよね…。こういう、お祭りとか多分やらない所だからさ…。」
「成る程。確かにそれは見た方がいいかもね。ヨルは…………変装でもするしかないか?」
んん?そうすると、変装の変装?元に戻っちゃ………駄目だよね。
でも冬の祭りに出るとしたら、必ず必要になる。ウイントフーク頼りになるが、仕方が無い。
うん、でも私もウイントフークさんの役に立てる事になったし?そうそう、お世話になりっぱなしじゃ無いのよ?
そう、自分に言い訳していると「依る?」と気焔が呼んでいる声。少し離れた所で私を呼んでいる様だ。多分、テーブルの所に見えないからだろう。
ちょっとーーー!今は呼ばないでぇーーー!
「(こっち。)」
キティラが連れて来てくれて大事には至らなかったけど、どうやらまだ反対側の屋台で買い物をしているらしいロラン。会いたく無い訳じゃ無いんだけど…………カップにもお世話になってるし。
ふぅーー。
気焔はお店を覗き込んで私を確認すると、みんなに事情を説明する為に私が座っていた席に座ったようだ。
「うそ!何それ!」とレナがめっちゃ面白がってそうな声を上げているので、大体の事情を説明したに違いない。
後で根掘り葉掘り、聞かれるんだろうなぁ………そういや、エローラは今年どうするのかな??
後でマデイラの所にも行かなくてはいけない。
姫様の服…どうやって説明しようか…………。
これも、頭を悩ませている案件だ。
でも、これについては嘘つきたくないんだよね…。
多分、マデイラは秘密を守ってくれるだろう。それは、確信がある。
これもまた、後で相談だな。でもこの話は気焔と朝だな?
相談先が違う案件がいくつかあるので、間違わないようにしなくては。おっちょこちょいの私には結構重要な問題だ。
ま、何はともあれ森、森。久しぶりに癒されに行かなきゃ。
シャットでも館くんの協力でかなり良い癒しは、出来た。でも本家はやっぱり…………デカいよね~。あ、テンション上がって来ちゃった。
頭を少し出して、目で確認する。
気焔と丁度目が合って、頷いているのでロランは多分立ち去ったのだろう。でも、挨拶………した方がいい事はいいと思うんだけど?うーん。これはお父さん案件かな…。ああ、ややこしい…。
そう思いつつ、遅くならないよう食べ終わっているみんなに合わせてひょひょいとクッキーを口に入れる。
「う、うまっ!」
リプ、正解。
そうしてイオスと「火の日にしようか」と約束して、南の広場を後にする。
あまりレナの反応が見れなかったけど、イスファと「こんなの食べた事ない」って話してたから後でも大丈夫そうだな…フフ…。
そうして「お茶も美味しかったよね?」「あの酸味と合ってた。」と、褒め言葉と「やっぱりイケるわよ。」というレナのお墨付きを貰い上機嫌の私は、ルンルンと東門へ向かったのだった。
今日はチラッとだけハーブ畑を見てから森へ行こうと思っている。
チラッと、チラッとしか見る予定が無いのでテレクには連絡していない。マリアナとラインの事は気になるけど、そこまで手を広げている暇が多分ラピスにいる間には無いのだ。
一応予定では二週間くらいを見ている。因みに冬の祭りは一週間後。色々挨拶に行かなきゃいけない所に行って、クッキーの練習をして………きっとすぐ移動になるに違いない。
「そうのんびりしていられないから、余計な事には首は突っ込まないように!!」と保護者達から口を酸っぱく言われているのだ。
そんなに分別無くあちこち突っ込んでいる様に見えるのだろうか………心外だな?ううん?
「あら。また来たの?」
「僕の事、刻んで無いよね?持ってって!」
「あらあら、またいい色になって!」
ワヤワヤとハーブ達が歓迎してくれる。それにしても季節がぐるっと一周してるのに、「刻んで欲しい」ハーブは何故いるのだろうか。記憶も繋がってるもの??絶対違う株だよね??
よく分からないが、冬の割には思ったよりもハーブが残っている。それでも半分以上の畑はただの畝になり春を待っているのだけど。
「へぇ。時期が違うと、こんなに大きな畑になるのね………。」
「そうだよ。春夏は凄いよ?」
私が育てている訳じゃないけど、自慢気に、言った。畑より森側は何もない平原、その奥に森だ。
グロッシュラーもこんな感じに何も無いのかな…?畑が無いんだよね?シャットと同じ様に、ラピスから野菜は仕入れてるのかな…………?
「依る、そろそろ行きましょう。人が増えるわよ。」
「そうだ。行くぞ。」
畑の冬支度を見つめていた私は、朝と気焔の声で我に返る。そう、今はまだ午前の早い時間なので冬の畑はまだ人が殆どいない。これから日が高くなり気温が多少上がってから、作業をしても充分間に合うからだ。
「はーい。……行こうか。」
レナに今あるハーブだけハーブ達に聞きながら説明をして、「じゃあね。」とハーブ達とお別れする。レナはもう私が色々なものと話せる事が当たり前になっているので、かなり楽だ。
イスファにも色々見られてるしね………ま、この二人なら大丈夫でしょ。
そんな事を考えつつ、ティラナとリールがいるのでいつもよりはゆっくり目に歩いたけれど、森へはここまで来ればすぐだ。
「やあ、ヨル。昨日ぶり。」
そんな事を言っているトウヒに挨拶をして、森の中へ入って行った。
「あっちから行くとアレだから、こっちだよね?」
「まぁ、そうなるな。」
気焔と相談して、村じゃ無い方の入って右側から、進んで行く。まぁまっすぐ行ってもいいんだけと念の為ね、念の為。
村の人達が、出掛けていないとも限らない。一応用心の為右側から進むが、こっちにはあの小屋がある。ティラナが思い出しちゃわないかな…。
少しだけそれが心配だった私は、真ん中の、右寄りに進んで行く。
無事小屋をスルーした頃だろうか。
森の木々達が騒めき始めた。どうしたんだろう?
サワサワとした騒めきが全体に広がる様に大きくなり、近くの木に集合し音が少なくなる。連絡が届いた、と言うかの様にすぐそばの木に纏まった音が、しなりと枝を揺らした。
それはおじいさん達の連絡網だったようだ。近くの木が「寄って行けと言っている」と教えてくれる。
それなら、と少し進路を修正して私達は真ん中寄りに進む事にした。
「大きいわね…。」
「この木も話すのかい?」
開けたいつもの場所に着くと、大分私の扱いに慣れた二人は当然の様にこの中央に鎮座する大きな二本の木が話すと思っている。まあ、話すんだけど。
昨日は何も言ってなかったけど、どうしたのかな?
そう思いつつ、近づいて冬の枝を見上げた。おじいさん達は広葉樹だからか、葉が落ちて枝ばかりになっている。しかしそれもまた、冬の森の良さを醸し出しているのだけど。
「こんにちは。挨拶には寄ろうと思ってたけど、呼んでるって言われたよ?」
見上げながらそう訊く。
わざわざ呼ばれたので、何か問題が起きたのか少し心配だったが、そんな雰囲気は無さそうで安心した。
「いや。問題は何も無い。」
「少し願いがの。」
「あるのだ。」
ん?
私の心配が伝わったのか、そう答えたおじいさん達は何か頼み事があると言う。
私にできる事なら、やるけど…。前回は泉だったよね?今度は何だろう?
あまり大事になると気焔のストップがかかるかもしれない。今日は、私だけじゃないから。
しかし、その願いの内容はそう大変な事では無く逆にありがたい申し出だった。
「これを、持って行け。」
「え?何処に?」
「お主、次に行くのじゃろう?」
「…………そう、ですね。」
何でも知ってるのかな…………?
おじいさん達が「これ」と言っているのは、多分「これ」の事だよね………?
足元に、小さな木がある。木というより、枝?
ちゃんと、二本ある。ちゃんとというのは多分、おじいさん達其々の、枝だろう、挿木した様な枝が二本、大木の近くにあるのだ。
誰かがやったの??え?まさかおじいさん達自分で?いやいや…………まぁ何があっても不思議じゃないけど。
とりあえず、「この二本を持って行けばいいのね?」と確認する。
「そうだ。挿してくれればいい。」
「我々と同じ。」
「また、繋がる。」
「え?何が繋がるの?」
私の質問には応えずに、おじいさん達はそのまま抜いていってくれればいいと言った。
足元の少しだけ小さな葉が付いた二本の枝をそっと抜いて見ると、少しだけ根の気配がある。振り返ると、気焔が新しいパンツにも装備されているハンカチを出して差し出してくれたので、ありがたく根の部分を大事に包み、持っていける様にする。泉に着いたら、少し水に浸ければ大丈夫だろう。泉の水で元気に根っこが生えるかもしれないしね?
「ありがとう。よく分からないけど、きっといい事があるんだよね?」
「まあ。」
「そうかも、しれん。」
おじいさん達の返事を聞いて安心する。それなら大丈夫。そもそも森の木達が、害になる様な提案をしてくる訳がないのだけど。
「じゃ、また後でね?」
きっとまた移動で会えるだろう。その時はそう思っていた私は、軽く挨拶をして森の奥へ進んで行った。
おじいさん達を過ぎれば泉迄はすぐだ。
そのまままっすぐ、森を進む。
「やっぱり寒いね…………。」
「本当。ハーシェルさんが貸してくれなきゃ、凍えてたよ…。」
イスファはラピスが冬で、寒いという事は聞いていたが冬の服を持っていなかった様で着るものは何とかなったが上着が、無かった。そもそも、存在しなかったのだから仕方ない。森でなければ、薄手の上着があれば生活にはそう困らないが森はやはり寒い。出る前にハーシェルにコートを借りてきたのだ。ちょっと丈は長いけどあったかそう…。
「レナは大丈夫?」
「まぁね。雪が降るから。」
「え?え、え?!雪???」
レナのその言葉に、心底、驚いた。ラピスでも一番寒い時期はかなり、寒いが雪は降らない。シャットは何だかいつも暖かかった。なんとなく、この世界では雪は降らない、と思い込んでいたのだろう。
ビックリすると共に期待が高まる。扉の世界で、雪が降る所は初めてだ。
「………煩い。雪よ、ゆ、き!見た事無いの?」
「え…。いや、あるにはあるけど………どのくらい降るの?ねえ?」
「そこそこ?そう広くないから積もる場所もあまり無いけど、降ってる時だけは綺麗よね………寒くなければ言う事ないんだけど。」
「寒くなかったら降らないじゃん…………。」
雪かぁ…………!グロッシュラーは寒いんだね…どんな感じなのかな?広くないって…狭いの??
どんな所なんだろう?
今迄は人攫いだったり、戦闘訓練だったりなんだか危険なイメージしか無かった。雪が降るなんて…!私の中のグロッシュラーのイメージがぐんと上がった。単純だけど。
「あった!」
私達がそんな事を話している間に、先頭を歩いていた子供達が気焔の元を離れて走って行くのが見える。ティラナはあの時、泉を見ているけどリールは初めてだろう。「わあ!」という声と二人が走り回っているのが見えた。
「気を付けて!」
そう、叫びながら泉に近づく。気焔が子供達を見ていてくれるけど、森の中はある意味街より安全だ。泉は落ちたら濡れるけど、きっと危険は無い筈。だって藍の泉だもんね…………。
そう考えると、なんだか人間って怖いな………そんな考えに至ってしまい、いかんいかんと頭を振る。
そんな時こそ、泉だよね…!
立ち止まって考えていたので、レナとイスファはもう泉の辺にいた。
二人とも、言葉も無く泉を見つめている。その様子を確認すると、二人をそっとしておいて私は泉のチェックをする事にした。白い森がどの程度、侵食しているか確かめなければいけない。
「うーん?」
「思ったより…………。」
「うん。大丈夫って言うか、逆に色、着いてない?」
「そうね。」
確か最後に見た時は、水に触れている木は色があった。しかし、その背後からはすぐ白になっていた筈だ。
「かなり………キテるんじゃない??」
そう、朝が言うくらい、確かに森は広がっていた。今は少し離れた所に、白が見える。
もしかしたら、白が広がっているかも…と思わなかった訳じゃない。でも、泉を作った時から「藍の泉には浸食できない」と私は何故か、確信があった。でも、ここまで白を押し返してるとは思わなかったな………。
「藍………凄くない?」
「あなたの想いが伝わったのかもね?」
「想い………?」
「そう。全てのまじないの元は「想い」から生まれるから。それが「チカラ」になるの。」
キラキラ光る水面を見ながら、藍の話をじっと聞いていた。
透明の、青。何よりも青い、青。
今日も泉は豊富な青を湛えて、光を通し揺れている。藍の泉は光の加減か、藻の所為かまるで宝石の様な青に見える部分が多い。
水草が揺れ小さな魚が群れを成して泳ぎ、水底の木には水苔や藻が沢山見える。何処から流れてきて何処へ行っているのかは分からないが、小さな流れがあって泉が保たれているのが判る。
私の作った、小さな世界。
なんとなく、何かが分かりそうな気がして私は一人、泉をじっと、見つめていた。
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