透明の「扉」を開けて

美黎

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5の扉 ラピスグラウンド

ただいま

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うへ~。気持ち悪い。寝てても気持ち悪いって、どういう事?起きたら絶対もっと気持ち悪いから、まだ寝てようっと。




…………寒い。寒っ!気焔は?どこ…………??
え?…いないの?!

パッと目を開けた。暗い。

ん?ここどこ?戻ってきた…のかな?だから…森…………?でもなんで誰も居ないの??

身体を起こして、辺りを見渡す。
いつもの、森。夜だけど。暗いが月明かりだろうか。辛うじて、木々の揺れや自分の手足は見える。

でも、なんで誰も居ないの?

闇の中で急に不安が押し寄せてきて、胸が苦しくなる。手で胸元をギュッと抑え、荒くなる息を抑えようとした。
無意識に、音を立てないようにしたのだ。

大丈夫、何も危ないものはいない筈。森は、私の味方だ。
そう、思い出して「ねえ?」と隣の木に小さく話しかける。

静かだ。返事は、無い。

え?なんで?話せなくなっちゃったの?どうして?白く無いよね???

「ウソ。ねえ!おじいさん達は?大丈夫?!誰か、応えて??」

なりふり構わず、大きな声で木々に呼びかける。
返事が無い!どうしよう?!
どうなってるの?まさか…………?

ラピスは??








「…………ヨル!」
「おい。いい加減起きろ。」
「仕方ないわねぇ。こんな時は、私の出番よ。」

え。
朝の声…………って事は。ヤバい。アレだ。
舐められるやつ。あのザラザラは勘弁…………



んん?…………ゆ、夢?

「良かった!!」
「何が良かったよ。心配するじゃない。」

いつもの暖かさを感じてパッと起き上がると、すぐそばにいた朝に小言を言われる。

でも、いいの。小言でもなんでも、言って?


さっきの一人ぼっちが夢だと分かって安堵し、朝の小言なんて可愛いもんだと笑顔の私。
「気持ち悪いわね。」とか言われてるけど気にしないもん。


目は覚めたが、やはり辺りは静かだ。

何だか明るくて暖かいと思ったのは気焔の炎だった。いつものように気焔に抱えられていた私は、朝に舐められないようにきちんと起き上がって辺りを確認する。

そこはやっぱり夜の森で、辺りは暗い。私達のいる周りだけ気焔に照らされている。
さっきと違って森の木達がサワサワヒソヒソ言っているのが聞こえて、ホッとした。おじいさん達は寝ているだろうか。でも木って寝るかな?

少し離れた所にウイントフーク、シュツットガルト、イスファとレナが固まって荷物を弄っていて運び易いようにみんなの物を纏めているようだ。
側の木に荷物が入るように穴をウイントフークが作っている。
やっぱり持ってるんだね…。

エローラは朝を抱いてすぐそばにいて、「ヨルはホント、あれが駄目ね。」なんて言っているが、私からしてみれば何故みんなが平気なのかが分からない。
すっごく目が回るんだけど。
なんでみんな大丈夫なの??


「じゃあ行くぞ。ちゃんとついて来いよ?」

纏めた荷物をウイントフークの空間石に入れて、身軽になった私達は夜の森を移動し始めた。




ウイントフークを先頭にみんなは黙々と森の中を進んでいくのだけど、私は木達がヒソヒソ言ってるのが気になって仕方がなかった。
だって…………。

「帰ってきたね。」「久しぶりだね?見た目が全然違うけどシュツットガルトだろう?」
「そうよ。」
「老けたね。」「人間だからね。」
「随分見た事ない子が来たわね?」
「珍しいな。こいつなんか橙だぜ?」
「こっちは灰色よ。」「シケた色ばかりだな。」
「やっぱり青よね。」

結構散々な事を言っている。
うーん。まあなんて言うか悪気は無いんだろうけど。でも橙と灰色って、イスファとレナの事?
何だろう、生活してる場所の色とか関係あるのかな?

そんな事を考えつつ、行きと同じくおじいさん達の所を通ったので挨拶をする。

「ただいま!」
「おお、良かった。さっき行った所じゃなかったか?」
「早かったの。」

そっか。木達からすれば、きっとすぐなんだね…。
きっと昨日行った、くらいの感覚なのだろう。私が感じているように少しの懐かしさなんて全然感じていないに違いない。

「何か異常は無かった?みんな元気だったかな?」
「ああ。特に何も。」
「しかし以前よりは森に人が増えたな?」
「ああ、それはあるな。しかし、問題はないぞ?」
「皆、泉だけ見て帰るからの。」
「え?本当?」

癒しに、使ってくれてるのかな?
それを聞いて嬉しくなって、もっと話を聞きたかったけど流石に気焔に腕を引っ張られて「ま、またね?」とおじいさん達の所を後にする。
まあ気焔がいれば帰れるけど、レナもいるし私があんまり勝手するわけにはいかないのだ。
うちに泊める予定だし。




「俺の家でもいいぞ?」

出発前、私がレナと「ベッドは同じでいい?」とか何とかやっているとウイントフークがそんな提案をしてきたので却下しておいた。
あんな所にレナを泊められないよ…………。しかも、ウイントフークとレナは旧知の中、という訳でもない。落ち着かないに決まっている。
半ば決定事項として連れてきたレナに余計な気を遣わせないよう、私の部屋にまじないでもう一つベッドを入れてもらう事で落ち着いた。そんなに長くは滞在しないだろうけど、睡眠は大切だしこの世界には布団文化はない。
布団って便利だったんだなぁ……。

そんな事を考えていたら、もうトウヒのところに着いた。

「ヨル!早かったね?持って行く?」

そう言って枝をサワサワさせているトウヒが言っているのは多分冬の祭りの事だろう。
出発前にウイントフークに聞くと、ちょうど季節は一周する手前、ラピスでは現在冬らしくまだ一年経ってないんだなぁと長いような短いような、懐かしいようなそうでも無いような、微妙な気持ちになった。

でも、祭りがあるなら見てから出たいかも。レナにも見せたいしね!

レナも青い空は見た事がないと言っていた。あまり色の無い世界から来たなら、冬の祭りもそう派手では無いが十分楽しめると思う。
祭りの準備も手伝った方がいいしね!

そう、私はすっかり人形の展示であったアレコレの事など忘れ去って、いたのだ。うん。


トウヒに少し枝をもらって「またね!多分またすぐ会えると思うけど。」と言って背を向け、街へ向かう。ここまで来れば、もう街を囲む白い塀が見える筈だ。

何だか夜、街の外を歩くのは人攫いに捕まって以来かも、と思い出しながら、みんなの後をついて街へ入った。




少し遠回りになるがみんなでエローラを送って、その後うちの前でウイントフーク達と別れる。

ハーシェルには夜帰ると伝えてあるので、家には灯が付いているが今は何時くらいだろうか。ま、黒の時間なのは間違い無いけど。
やっぱり時計が無くても空で時間が分かるのは、とても良いと思う。

シュツットガルトはうちの隣が、家だ。
しかし流石に夜中に行くのもなんだ、という事で今日はウイントフークの家に行って明日、きちんとルシアのところに行くらしい。勿論、私も行く。
心配過ぎて、シュツットガルトさん一人じゃ無理無理…。

正直ウイントフークの家の何処で寝るのか、とっても興味があるけどレシフェだってあそこで生活していたのだ。なんか、まじないで上手くやってるのかな?まぁそこまで心配しなくていいだろう。

家の前でウイントフーク一行と別れ、私達は久しぶりの第二の我が家の扉を、一応叩いた。




「…お帰り。」

ああ、この緑の瞳。

別に何が悲しい訳でもなんでもなく、嬉しい再会の筈なのに、私は案の定涙腺君を置いてきたようだった。
ハーシェルの顔を見た途端、滝のように涙が出ちゃったんだから、しょうがない。

きっと予想していたであろう気焔はレナを居間に案内してお茶を入れていたみたい。
気焔にお茶なんて、入れてもらった事ないよ…。
後でレナに聞いて、今度やってもらおうと思ったけど、絶対断りそうだな?

ハーシェルは私が泣くのは想定していたらしいがやはり目の前でボロボロ涙を流されると心配になったらしく、「大丈夫だったんだよな??な?」と後で気焔に聞いていた。
お父さん、心配性なのはやっぱり変わらないよね…………。


しばらく泣くと落ち着いて、「何かあったのか?」とハーシェルに聞かれるけど自分でもわからない私は「いや、懐かしくて…。」とかしか言えなかった。
多分、後から考えるとやっぱり寂しかったんだなぁとしみじみ思ったのだけど。

ハーシェルに手を引かれ居間に入ると、私が泣くのには慣れている二人が静かにお茶を飲んでいた。
レナの、小さい子供を見守るような、目…。
なんだろうな、この感じ…。まあ、いいけど。

「ハーシェルさん、レナです。次、一緒にグロッシュラーに行きます。」
「ああ。ようこそ、ラピスへ。ハーシェルだ。とりあえず今日はもう遅い。休みなさい。明日、ゆっくりね。」
「お世話になります。」
「確かに眠いかも…………。」
「あんたちょっと寝てたじゃない。」
「あれは不可抗力…………」

そんな私達のやり取りを微笑ましく見つめるハーシェルに促され、二階へ上がる。馴染んだ階段は多少暗くても足が覚えていた。レナに「気をつけて」と言いつつ二階の廊下へ進む。

ティラナはやっぱり寝てるみたいね…。明日、楽しみだな。
後ろからついてきたハーシェルが、レナの荷物を持ってティラナの部屋を開けた。

「え?」
「ああ、ヨルの部屋にベッド二つは無理だなぁってウイントフークに僕が言ったんだ。ティラナは実はまだ僕と寝てる。ヨルがいなくて寂しかったんだろう。そのまま、こっちを使ってくれていいから。」

そう言ってティラナの部屋にレナの荷物を置いて、ハーシェルは下に降りて行った。
多分、気焔に色々聞く気だな…?

私はそれを見送ると、レナに色々部屋の説明をして「じゃあ、ゆっくり寝て?大丈夫?一人で。」と言ったら「あんたじゃないんだから大丈夫よ。…ありがと。」と返すいつものツンデレ具合を堪能して、自分の部屋の扉を開けた。



「おかえり。」
「セーさん!」

抱擁でもしたい所だが、セーさんが折れてしまってはいけない。きっと部屋の準備でハーシェルがこの部屋に戻したのだろう、セーさんはきちんといつもの位置に鎮座していた。

「とりあえず平和だったわよ?」
「そっか…なら良かった。」

荷物は気焔に預けたままだ。
髪だけ藍に頼んで綺麗にしてもらい、そのままゴロンとベッドに横になる。

久しぶりの、この天井。
お気に入りのベッドカバー。自分の部屋の、匂い。

あーーーーーーー落ち着く。

壁にかかったままのスワッグが退色しているのを眺めつつ、久しぶりの自分の部屋を堪能する。

そうだ。

思い付いて、机に向かう。

そこからは冬の、祭りの前の景色が見える。
紺色の屋根が連なる街並みと寒さの中、綺麗に瞬く星。
家々の窓から下がる紺と白のコントラスト。
夜だから、あまり赤は見えないけど所々付いている家の灯りの中に赤と黄色が暖かく灯っている。

修復室の窓も、今はこの景色だろうか…………。


ボーッと、夜のラピスを堪能する。
すると、扉が開いて気焔が荷物と共に入って来た。

「まだ起きてたのか。まぁ、そうだと思ったが。」

そんな事を言いながら火箱も付けずにいた私に小言を言い始める気焔。

なんか、自分の部屋で聞く小言もいいな?

とりあえずなんでも懐かしくて楽しくなっている病の私は、「フフッ」と笑いながら「じゃあ気焔があっためてよ?もう、寝よう?」と言った。


「…………。」


何だか半分「あの瞳」で、半分呆れたような顔をされたけど、とりあえず寒いからベッドへ入る。
レナに火箱の使い方、教えてないけど分かるかな?忘れてたけど、もう寝てるよね…………。

「ふぁ~ぁ。寝よ?来て?」

半分寝ながら洗面室で着替えをして、布団をペロッと上げて気焔を招く。

ため息を吐きながら布団に入る気焔を見ながら、「レナと同室だったら気焔どうしたかな………冬場は居ないと私が困るな…」なんて考えてたら、いつの間にか眠りに落ちていた。




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