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6の扉 シャット
お別れパーティー 準備編
しおりを挟む自分の服を作るのと並行して、お別れパーティーの準備も着々と進めていた。
開催場所は、勿論中庭だ。
シュツットガルトに許可を貰いに行ったら、多少渋ってたけど「まぁお前さんが作ったものだしな」と了承してくれた。面子は確認されたけど、基本的には内輪でこっそりやるつもりだ。勿論、いつものメンバーで。
そうして生徒の他に、先生も呼ぼうと私が言ってじゃあ誰を呼ぼうかという話になった時。
パーティーの準備は基本女子チームで行っている。いつものように私の部屋にみんなで集まって相談だ。
「私達と男子で9人でしょ?あとはレシフェと、シン先生?」
「そうだね…。シュツットガルトさん呼ぶとみんな気を使うかな?」
何となくレシフェがもう生徒枠な気もするけど一応先生なんだよね………。気焔と同列な感じがするからかもしれないけど、かと言って気焔が生徒っていうのも今更だけど微妙だよね…。
「いいんじゃない?イスファも嬉しいんじゃないかな?」
「え~。私は親と一緒のパーティーとか嫌だけど。」
どっちの意見も、分かる。
そんな話をワイワイしながら、教師陣はレシフェ、シン、シュツットガルト、フローレス、長老を呼ぶ事に決まった。
長老はみんなにはあまり馴染みが無い。シャルムくらいかな?でも、私がフローレスと会わせたかったから提案しておいた。多分、来てくれると思うんだよね。
結局、フローレスには会えたのかどうかは聞いていない。やっぱり授業中は聞きづらいしね…。
多分、当日様子を見ればどんな感じか分かる筈。ちょっと楽しみでもある。
「テーブルとかどうする?」
「椅子は要らないよね?でも少し休めるように隅に長椅子とか置こうか…。」
「ね、ね、エローラ。テーブルクロス、どうする??」
何だかラピスでの開店準備を思い出して、テンションが上がってきた。楽しかったよなぁ…。やっぱり装飾は多少必要だよね?
今回は何色を基調にしようか?
「ねえ、エローラ?クロス以外ってさ………」
そうして私とエローラを中心に白を基調とする事に決めて、小物を挙げていく。
やっぱり、青の空間に似合う色としてはすぐ黄色がパッと浮かんでしまうのだけど、ラピスとは違うイメージにしようという事で白にした。
そういえば、ラピスでも初めは「白がいい」って言ってたな…。
それを思い出して、懐かしくなる。
イオスやキティラは元気にお店をやってるかな?
ハーシェルさんやティラナ…私、一度帰ったらどこにも行きたくなくなったらどうしよう…?
チラリとレナを見る。
丁度、目が合って「何よ?」と通常運転のレナの言葉を聞くと、やっぱり次の扉へ行こう、と思える。
そういえば。
そうだよ…誘っとかないと。
私の中では勝手に、この後ラピスに寄るつもりだった。でも、本人に言うの忘れてたよ…。
「ねぇ、レナ。」
「何?あんたまさか…………。」
「??あのね、ここを出てグロッシュラーに行く前に一度ラピスに寄りたいんだけど。」
「え。…………そんな事、出来るの?」
レナにそう言われ、はたと「そういえば出来るかどうかは分からないな?」と気が付いた。てっきり、行けるもんだと思ってたけど、私は「帰る」という名目がある。でもレナは…………?
うーん?でもな。シュツットガルトさんだしな?
てか、シュツットガルトさんも一緒に行けば良くない?ルシアさんにさぁ、言った方がいいと思うんだよね………。もう会わないつもりとかなら、いいとは思うんだけど未練アリアリでしょう…?
多分、お互いに。…どうなんだろう?
その事に関しては一旦保留だけど、レナの事も合わせて聞いてみようっと。パーティーで、丁度いい。イスファも、みんなで行けば旅行みたいで楽しくない?
ラピスの方はウイントフークさんに言えばなんとかしてくれるでしょ。多分。まぁラジオ電話もあるし、無理ならハーシェルさんに頼めばフェアバンクスさんに融通してくれるよね………?
「ちょっと。ヨル?」
あ。
私が一人、ぐるぐるしているのはいつもの事なので、そのままみんなはある程度話を進めていて、もう今日は解散の程らしい。
明日はもう当日だ。朝から準備する事を約束して各々部屋に帰って行った。
もう、明日はお別れパーティーだ。
パーティーの後、すぐに帰る訳じゃない。でも何だか寂しいよね…………。
一人になった部屋で、この前の事を思い出す。
あれから気焔、またあんまり帰って来ないんだよね…。
また留守が増えて、何だか不安になったのである時聞いてみた。
でも「心配ない。呼べば行く。」とか言って、やっぱり帰ってこない。
何だか寂しくて朝に「何で帰ってこないのかな…。何してるのかな…?」とぐちぐち言ってみたけど、朝は「気焔にはやらなきゃいけない事があるのよ。」とか言ってた。
ちょっとそれが面白かったのもあるけど、まぁ朝がそう言うなら心配するような事では無いのだろう。
とりあえず悩んでても仕方ないので自分の服と、気焔の着替えを少し、作って気を紛らわせていた。
そう、いくつか服を作れたのは実はリュディアのお陰だった。
私がいつだか言っていた「裁縫のまじない道具」をリュディアは実現していたのだ。
それは所謂、ミシンのような物。
その道具に自分のまじない力を通すと、思った通りの縫い方をしてくれる優れ物だ。勿論、自分で服を動かして縫いたい部分にセットはするのだが、思った通りの縫い目を実現してくれたり、止めたい所で返し縫いをしたり、糸を切ったり、簡単な刺繍ならできる。
それを考えるとかなり性能がいい。どらいやーに引き続きのヒット商品ではなかろうか。
実はリュディアはウイントフークが来た時に許可を得てどらいやーの制作にも取り掛かっていた。正直、売れると思う。あれ。女子はみんな、買う。
レナも私の部屋でめっちゃ食い付いてたし。
「これでお金を貯めて一人でもやって行けるようにする」とか言ってたけど、本当に帰らないつもりなんだろうか。婚約者大丈夫かな??
まぁいざとなったらラピスに来てウイントフークの助手とかでもいいしな…。
そんな勝手な事を考えていたら、すぐに次の日の朝になった。
ちなみに気焔は寝た後、部屋に来てるっぽい。朝は、隣にいるのだ。
いつものように目を覚ました私。
傍らの気焔を確認して、ホッとする。流石にあまり留守にされると、心配もあるけど寂しいが勝る。
あんまり会話もしてないよ…………。何してるの?いつも。
「私より大事な用事って、なに?」
そう思っていかんいかん、と頭を振る。それは、違う。
私の言いなりになる気焔なんて、欲しく無いのだ。
多分、その動きで気焔は私が起きた事に気が付いたと思う。でも、目は閉じたままだ。
いつもだったら、私はすぐに朝の支度を始める。
でも、時計を確認したらまだ余裕がある。そのまま、気焔と根比べをしてやろうと思い付いた。
いつも、留守にして。仕返ししてやるもんね。
でも、どうしようか。このまま見てても集合に遅れちゃうし………鼻とかつまんでみる?でも意外と平気そうだし、それだったら逆に嫌だな…。変な発見しそう。こちょこちょ?でも逆にやり返されたらソッコー負けそう。それもな………。
でも、私がやりたい事…。撫でる?ああ、髪は触りたいかも。
そう思い付くとすぐ、手が伸びた。
相変わらず、可愛い髪。金の、綺麗な、触ると意外とフワフワしてる髪だ。
あ、この辺短いから気持ちいい…。ツンツンして抵抗があるので、こめかみや襟足は気持ちがいい。でも、何でだろう。撫でてると、めっちゃグリグリしたくなってくるんだよね…。
そう、あのお風呂の時みたいに。
気が付くと私は気焔の頭を抱えてワッシャワシャと力を込めていた。
「よ、依る??」
流石の気焔も黙っていられない。抵抗し始めた彼の腕を拒んで、私はまだワシャワシャ、する。
もー!こんなんじゃ、足りないんだから!
何だかやっぱり、憎らしくなって気の済むまで力を込めてグシャグシャにする。
ワシャワシャ、フワフワ、サラサラ…………。
何だか気が済んできた。
段々可哀想になってきて乱れた髪を整える。
「ごめんね…………」そう思いながら、髪を直していると「いや。留守にしてすまなかった。」と返事がきた。どうやらしっかり呟いていたみたいだ。
「あ、でももう起きなきゃ…………」
そろそろ支度の時間だ。
そこそこストレス発散になった金の髪の毛を撫で付け戻すと、ベッドから出ようとしたところを、後ろに倒された。
「えっ?」
頭上には、いつもの金の瞳。
でも私の心配した通り、少しの憂いは消えてはいなかった。
揺れる、金の瞳。
何か言いたそうだけど、やっぱり何も言わない気焔。言えない、のかな。
分からないけど。
「大丈夫。大人しく、待ってる。」
そう、まっすぐ金の瞳を見て言うと優しい光が宿る。
ついつい、寂しくなっちゃっただけだから。
大丈夫だから。だから、せめて夜だけは一緒にいてね?
「あい分かった。」
あれ。今のは口に出してないけど。
何を分かったのかは分からないけど、金の瞳に浮かんでいた憂いは消えた。
また、出たり消えたりするんだろう。でも、一緒にいれば大丈夫。そう、自然と思えて私はニッコリ微笑んだ。
「さ、顔洗ってくる。」
そう、今日はこれからお別れパーティーだ。
「気焔、着替えた?」
「ああ。」
今日は、「全員おめかしして集合」が合言葉。
私は準備もあるけれど、ワンピース はそう動きにくいものではない。多分、後で着替えなくても大丈夫だろう。
気焔もつい昨日出来上がった立襟のシャツにあのパンツ。シンプルだけど、気焔の雰囲気にはそのくらいがいいと私は思っている。
何故か野性味があるこの人に、ジャケットなど型にはめるものは、似合わない。
多分、着たらそれはそれで格好いいとは思うのだけど。
とりあえず軽く朝食を済ませようと部屋を出ると、エローラにバッタリ会った。
今日は「支度出来次第集合」が女子達の合言葉なので、迎えに行かず直接会うつもりだった。
でも、タイミングバッチリだね。
二人でクスッと笑い合うと、三人で連れ立って食堂へ向かった。
「これも?」
「グラスは?沢山あった方がいいよね?」
「そうだね。簡易流しを作ってくれるよう、言っておいたけど一応。」
朝食ついでに食堂から備品を色々借りる。
きちんと前々からクマさんにはお願いしておいたので、私は見えない扉からすんなり中に入りエローラに必要な物を渡す。エローラが整理しながらワゴンにそれらを乗せてゆき、大体小物が揃うととりあえず朝食にした。
「私はスカートが邪魔だから、後で着替えて来る。」
そう言いつつ、普段着のエローラは食べ終わった食器を全員分まとめて片付けると、今度はワゴンに出来上がった料理を詰め込み始める。
実はパーティーの料理もちゃんとクマさんに頼んである。始めは「何作れる?」と私達が作る相談をしていたのだが、厨房を借りようと相談に行くと「僕が作るから、入室禁止」とクマさんに言われてしまったのだ。
何故か、私だけは禁止されなかったので今日こうして準備をしている訳だけど。
多分、この前フローレス達と入ったからじゃないかと思っている。
実際料理を作ってくれる事になったのでかなり助かった部分は大きい。作って、持っていって、だとどうしても大変で誰かが常に参加できない状況になる事が予想できたからだ。クマさんが冷めてもいいものをどんどん作ってくれているので、今のうちに出来てるものは上に持って行こう。
そうして、ワゴンがパンパンになると私達は一旦中庭を目指す事にした。
ポン
「パーティー会場」
「わぁ!」
館君が貼り紙を変えてくれている。
俄然それを見て張り切り出した私を、ワゴンを押している気焔が「こら。」と宥めつつベランダへ向かう。
心配してたけど、この分だとちゃんと流しは出来ていそう。
そう、ベランダを快適に整える役目を私は館君にお願いしていた。だって、お願いしとけば出来てるなんて素敵すぎるし楽チンだ。
それに、他の人が入れるのか分からなかったし。
簡易的な流しと、長椅子、テーブル。あとは廊下の何処かにトイレ。
宴会するなら、絶対必要。
確認しながら進むと、ちゃんと手前の廊下にトイレが出来ている。
うん、ここはオッケー。
ベランダは、どうかな??
すぐそこにあるガラスの扉を、開けた。
「すご。」
「やった!あるね。全部揃ってるじゃん!凄い!」
どうなってるのか分からないけど、透明なガラス張りのベランダに、これまた透明な何かで出来た流しが作り付けられている。
これ、パーティー終わっても残しといて欲しいな…。
流石に長椅子は白木のベンチのようなもので、座りやすそうな形だ。座る所も透明だと落ち着かないから、良かった。
このベランダ自体が、慣れてないと多分怖いだろう。せめて椅子くらいは………うん。
テーブルも長椅子とお揃いの白木。でもクロスを掛けちゃうけど。
気焔にワゴンを真ん中に置いてもらって、私達は順にテーブルにクロスを掛けていく。
「ねえ、気焔。お花が欲しい。」
あ。
軽く、摘んできて貰うくらいの感じで頼んだけどここはラピスとは違う。花は、無いのだ。
私が一人「ガビーン」と言っているとエローラが察して「ちょっと待ってて」と何処かへ一度消えて行った。
何か心当たりがあるのかな?
顎に手を当て考えていると、またガラス扉が開いた、音。
「今エローラとすれ違ったけど?」
「あ、良かった。来れたね。」
現れたのはリュディアとレナ。エレベーターさんの前でリュディアが尻込みしていたのをレナが引っ張って来たらしい。
私は「私がいなくてもちゃんとパーティー会場へ案内するよう」エレベーターさんに前もってお願いしておいたのだ。全員を迎えに行くのは、無理だから。
そんな二人はきちんとパーティー仕様で現れた。
「やだ!いい!」
私がそんな微妙な褒め言葉を繰り出している前で珍しくレナが照れている。
どうやら、いつもと違うのが少し、落ち着かなくて照れ臭いらしい。
そういう所も、可愛いよね…。
そんなレナの今日の出立はエローラの自信作だ。
レナの髪色に合わせて紺と白でパキッと切り替えられているハリのある生地のワンピース 。いつもと雰囲気を変えて、ボリューム抑えめの大人っぽいタイプ。それに合うように、綺麗に身体に沿ったシルエットのワンピースにはお揃いで襟付きのロングベストが付いている。
普段可愛い系のレナにとっては初めてのテイストなのだろう。本当にカッコいい感じに仕上がっている。色が黒ではなく紺なのであまりモードにも寄り過ぎず、レナに合う形になっているところが流石エローラだ。
いつもはフワフワ揺らしているブルーの髪も、片方のサイドに纏めて上げられ、それがまたカッコかわいい。
「えー!こんなの惚れちゃうでしょ!」
私が一人騒いでいると、「ウルサイ」と照れているけど、嬉しそうだ。
「手伝うから。」と言って、ワゴンの方へ行ってしまった。
リュディアと顔を見合わせて、笑う。
勿論、そんなリュディアも可愛いく仕上がっているのだ。
深緑を基調にしたちょっとお嬢さんっぽいワンピース 。
確かに、少しは私達のリクエストを取り入れてくれたみたいでいつもより可愛い感じだ。
高い襟から続くくるみボタン、胸から下がるヒダとその周りを囲むフリル。
うんうん、かなり頑張ってくれてるね…。
色は地味だけど、それがまた大人っぽいリュディアをいい感じに可愛く見せている。いつもは纏めている髪も、ハーフアップで編み込みされていて「レナがこうした方がいいって…。」と言っているが、レナ正解。普段髪を上げている子の下された髪の破壊力は、ヤバい。
こりゃ誰かコロッといっちゃうかもな…………。
しかも、「手伝う用に」とか言ってフリルの白エプロンを取り出したリュディア。
私に一瞬衝撃が走り、あれをワゴンに取りに走る。
「ちょ、ちょっとこれかけて。」
私はリュディア用に持って来ていた自分の眼鏡を手渡し、期待の目で待った。
「ヒュー!」
やっぱり、いい!
しかもその白エプロン!これはかなりのツボ…………。たまらん。危険かもしれない。
完全にいいお屋敷のできるメイド風になったリュディアは、普段わざと地味にしているだけあっておめかしした時の破壊力が凄い。
派手ではないけど知的な美人、というのがよく分かる、この格好。
絶対エローラが見たら「勿体無い!すぐに恋人が出来る筈!」と言い出すに違いない。
そうして私の賑やかしを他所に、二人はテキパキと準備を進めていた。
クロスを掛けたテーブルにカトラリーをセットして、グラスやお皿の準備も端のテーブルに用意していく。
出来上がっている料理も適度にテーブルに振り分け、ワゴンを空にする。
「ちょっと、もう一回下に行って来るね!」
張り切って勢いよくワゴンを押して行くと、「待て。」とサッと気焔にワゴンを奪われた。
押して行くくらい出来るよ…………。
もう!子供扱いなんだから!
プリプリしながら気焔の後をついてエレベーターさんへ向かっていると、向こうからイスファがやって来るのが見える。
イスファは中庭を知っているので、迷わずスムーズに来れたのだろう。
手を大きく振って、「イスファ!」と歓迎していたら気焔に「ほらな」みたいな目で見られた。
いや、でもワゴンは押せるもん。
「ヨル。お招きありがとう。父さんは後から来るよ。」
「うん。先生達は後で来てって言ってあるから。準備から居てもちょっと気まずいしね。それにしても…素敵だね!」
イスファもきちんとおめかしして来てくれた。
優しい雰囲気のグレーのフワ毛に薄いグレーのシャツにベスト、紺のパンツにブルーの瞳がピッタリだ。
うんうん、ベストのスタイルもいいね!何よりイスファの雰囲気に合ってるなぁ。
「ヨルも………とても綺麗だよ。…………それってもしかして…?」
イスファは気焔の方を見ている。きっと生地が同じだと気が付いたのだろう。私は嬉々として説明する。
「そうなの!同じ生地から作ったんだよ!力作なの。私のもよく染まったけど、気焔のも凄いでしょう?糸は気焔にやってもらったし…」
「……依る。」
「ん??」
イスファが微妙な顔をしている。
………もしかして、駄目だった?
一応、告白…してくれたイスファにお揃い自慢のようになってしまっただろうか。
でも、あと一人お揃い、いるんだよね…。三人揃えば、ペアルック感薄れるんじゃない?
そんな事を考えていると、イスファが話題を切り替えた。やっぱり駄目だったかな…。
「僕も何か手伝うよ。」
「じゃあレナとリュディアがもう準備してるから、合流してて?これからまた料理を運んでくるから。」
「分かった。気をつけて。」
イスファに手を振ると、気焔とエレベーターさんに乗り込んだ。
チラリと気焔を見る。何だか澄ましているけれど、多分、なんかソワソワしてるな…?浮かれてる?いや?どうかな?
首を傾げていると「ポン」といって扉が開く。
そこは一階の食堂前じゃなくて、エローラが立っている8階女子フロアだった。
「あれ?」
「?ヨル?どこ行くの?」
「私達は追加の料理を取りに………。」
「ああ!…………ねえ、気焔。ヨル、ちょっと貸して?」
「………どうするのだ?」
「ううん、ちょっとお洒落するだけ。内緒。女の子の事情だから。………大丈夫、気焔好みにしとくから!」
「…。」
私は二人のやりとりが面白すぎて、一人壁に向かって声を殺して笑っていた。
だって、気焔に見つかったらきっと怖い目で見られるもん。
さすがエローラ。気焔も駄目とは言えないよね…。面白すぎる!
そのまま気焔に背中を押され、廊下に出される。「食堂には行っておく。」と代わりに行ってくれる事を請け負うと、エレベーターさんは扉を閉めた。
「フフッ。悪い事しちゃったかな?でも、ヨルが可愛くなったらそれでチャラよね。寧ろお金でも取ろうかしら?」
「ええ?一体、何するつもりなの?」
「ううん、ちょちょっとアレンジするだけだよ。」
そう言ってエローラに手を引かれ、部屋に戻る。
エローラの部屋にはきっと持って行こうとしていたのだろう、カゴに入った造花が二つ、置いてあった。
それがまた、見事な出来。
「ちょ、これ売れるね…。」と思わず言っていた。
「うん、一応そのつもり。新商品だよ。何だか今回ここに来て、ラピスって恵まれてるなぁと思って。」
エローラ曰く、ベオ様なんかはお金持ちかもしれないけどやっぱり自然が無い所に住んでるなんて、「人生損してる」のだそうだ。
確かに、シャットに来てから私もそう思う。
ベオ様のいたデヴァイがどうかは知らないけれど、シャットに関して言えばなんて言うか…ホント損してるって感じ?あの、シュツットガルトさんにしてもそうだけど、他の色を知らないとあの青は出せないと思う。彼は出身はラピスだから。もし、何かを作るならそれが何だとしても「色」は必要だと私は、思う。無くても、作れはするけど、あった方が作品の幅が広がる。深みも、出る。
イスファの橙の像に足りないのは、それじゃないかな…そう思い付いて、やっぱりラピスに誘おうと改めて思った。
私が考え込んでいるので、そのままエローラに肩を抑えられ椅子に座らされる。
気が付いたら髪を、やってくれてるみたいだ。
実は着替えだけをすればいいか、と思っていた私。朝からそんな私を見て「いやいや…。」と思っていたらしい。
「何の為の、パーティーなのよ。」
エローラに言わせるとこうだ。
「え?何の為?お別れパーティーでしょ??」
ため息を吐かれた。どうしてだ。
「分~かってないなぁ~、ヨルは。もう少し大人にならなきゃね?みんな、おめかししたヨルが見たいに決まってるじゃない。」
「みんな??」
みんなって誰?私のおめかしに興味?レシフェあたりは揶揄いそうだけど………?
「そりゃまず気焔でしょ、あとシン先生もそうだろうし、イスファ、レシフェあたりもそうかな?あとは…………」
エ、エローラ先生…………その把握具合が怖いんですけど。
なんで?知ってるの??
私の表情を見て、さも当然のように答えるエローラ。
じゃあなんでシャルムの事、気付かないんだろうね?
「イスファだって、気付いてないのはヨルだけだったよ??さあ、とりあえず目を瞑って。」
そう言うと、お化粧もしてくれるようだ。
あの休憩室の一件から、エローラはレナにお化粧を習っていたらしい。確かに、朝は普通のエローラだったけど、今はお化粧をしている。
ちゃんとエローラのテイストに合ったキリッとした眉、色数少なめのシャドウと青味ピンクのチーク。
レナ様。分かってる。こっちの方面でもいいんじゃないだろうか。グロッシュラーって、みんなメイクしてるのかな?
私が新たなる可能性についてぐるぐるしているうちに、お化粧も完成したようだ。
「はい。目、開けて?」
鏡を持たされて、目を開けた。
「………凄っ。えぇ??凄い。」
凄いしか言ってないけど、凄いのだ。
何だかキラキラ光って見えるけど、気のせい?
多分、ラメは存在しない筈。
「なんか光ってるよね?私がやってもそうはならないんだけど。」
そう言うエローラ。
ええ~。そんな事ある??
でも確かに、ワンピース に合わせてエローラがしてくれたお化粧はブルーベースパープルとピンクのシャドウにピンクのチーク。リップは桜色くらいで、あまり主張し過ぎないものだ。
でも、そのシャドウとリップが………いや、ラメ入ってるでしょ、これ。
鏡でまじまじと自分の顔を見る。
お化粧は二回目だ。でも前回は、自分で鏡を見る前に気焔に拭われてしまったのだ。
実質、初めて、見るお化粧。
「盛れる…………。」
「?とりあえず、行くわよ?」
エローラに促され鏡を置くと、造花のカゴを一つ、持たされた。エローラが持っているのは白黒のモードな造花。花の形もシンプルだ。カラーに似ている。私が持たされたカゴには水色と白の生地で作った花が入っている。
これって…?
「そう、ヨルにあげようと思って作ったのよ。飾って?持って帰ってもいいし、持って行ってもいいし…………。」
え。何それ。餞別?こんな素敵な??
「ええ~…………」
「こら。泣くにはだいぶ早いし、お化粧が崩れるから止めて。」
笑いながらそう言うエローラ。
でも…………頑張った。折角のお化粧を崩すわけにはいかない。
そう、浮かれて忘れていたが今日は「お別れパーティー」なのだ。
果たして、私は泣かずに終える事が出来るのだろうか?
誰も、そういうネタ持ってこないでよ………??
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