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6の扉 シャット
ビクスの仕業
しおりを挟む何だか気焔の様子がおかしい。
弾けた玉から私が落ちて、受け止めてくれた。
うん、そこまでは良かった。
それから。
私を見た気焔は何だか変な顔をして、すぐ目を逸らした。珍しいのだ。気焔が目を逸らす事が。
いつも、寝てる時から起きてる時でも茶の瞳でも、金の瞳でも何だか私の事をいつも見ている気焔。それに大分慣れたせいか、逆に見られていないと変な感じがする。
でも、私が気焔を見るとパッと目を逸らされる様な感じは、する。
そうだ。
見ていないと言うよりは、目を合わせないのだ。
前は「見てるけどどうした。」くらいの感じだったのに、今は「いや、見てない。」みたいな。
何だそれ、って感じだけどホントそんな感じなのだ。
ベオ様の事を説明した時も、もっと怒るかと思ったけど意外と大丈夫だった。
大丈夫って言うか、「聞いてる?!」みたいな感じだったけど。なーんか、全体的にボーッとしてるんだよね…。本当に大丈夫かな??ちょっと留守にしすぎたのかな??
実は私達は腹時計からしてせいぜい次の日くらいの事だと思っていた、今回の失踪。
でもこちら側ではなんと七日も行方不明だった、と言うのだから確かに心配するのも頷けた。
そりゃ「死んでるかも」くらい思ってても仕方ないよね…。心配させちゃったよね?
部屋の真ん中のテーブルに座っている気焔をチラリと見る。
いつもだったら、あれやこれやと私の世話を焼くであろう気焔。
玉から落ちて、受け止めてくれて、なんやかんやでやっと落ち着いて部屋に帰ってきてからずっと、その状態なのだ。
逆に不自然。
でも、彼自身不自然だと思っていなさそうと言うか多分何か考え事してるっぽいんだよね…。
珍しく、私の事より自分の事でぐるぐるしている様に見える気焔。
いつもぐるぐるするのは私の役目なのに、反対なのが何だか面白くなってきて私は悪戯する事にした。
何にしよう?
うーん。思い付かないなぁ。
あ、でもシャワー浴びてこよ。
ホント言うと、お風呂に入りたい。でも何だかこの状態の気焔を置き去りにしていくのは気になるし、まだきちんと謝ってもいない。多分、とても心配かけただろうから。
なんかボーッとしてるうちに、シャワー浴びてきちゃおっと。
そう思って、支度をして洗面室に入って行った。
髪留めを外して、シャワーを浴びる。
その間も私はどうやって悪戯しようか、悪巧みをしていた。
でも、全然思い付かないなぁ。うーん。
洗い終わっちゃったよ。
「あー、でもスッキリした!」
そう、結局二日なのか七日なのか分かんないけどお風呂に入れなかった事には変わりない。
鏡の前で髪をとかしながら、「何かいい手は無いものか」と呟いていたら、「じゃあこれは?」とビクスの声が聞こえたかと思うと私の色が一瞬で変化した。
「うわあ。」
確かに。
ベオグラードの言っていた事が分かる。これ、エローラも好きそうだな?でもこの世界に赤の髪の人はいない。白も青も駄目だけど赤も駄目だよね…………。でも、驚かせるには丁度いいかもね?
髪は、波打つ光の部分はピンクで濃い部分は赤。
瞳も赤いけど、シンの様な赤じゃなくてピンクに近い。ホント、ビクスの様な色だ。
しかも何だか赤いと大人っぽいな?
確かに、白や水色よりも大人になった感じがする。まぁ、雰囲気だけど?どうせね?
とりあえず、これで驚かしてやろう。
そう決めて、ニヤニヤしない様に、まるで私は自分の変化に気が付いていないようなフリをして、洗面室を出た。
扉を開けて、部屋の様子を伺う。
あれ。まだテーブルで考えてる。
さっきと寸分違わぬ姿で、気焔はまだ何やら考え込んでいた。
一体、何をそんなに考えてるんだろう?私、帰ってきたし?何か他に問題があったのかな?シンはそんなに怒ってなかったけど、喧嘩でもした??
とりあえず服を片付けて、ベッドにゴロリと横になる。
もう寝巻きですぐに寝れる、体制だ。
ハァ
やっぱり、疲れてはいる。
何だかずっと歩いていたような気もするし、ベオ様にはまだ気を使うよね…。仲良くなったつもりでも、「そんなに親しくない男の子」枠はまだ出てない。そりゃ疲れるよね…………。
うーん。眠い。いや、でもしかし。まだ驚かせてないし、このまま寝るのは…………?
「!!」
ウトウトしていた視界が暗くなったので「?」と思って、目を開けたら気焔が私の事を覗き込んでいたのだ。
すっかりテーブルにいると思っていた私は物凄くびっくりして、目を見開く。
パチクリして気焔を見つめていると何だか気焔は苦しそうな、疑うような、伺うような色の瞳で私の事をじっと見ている。
え?駄目だった?赤。
「気焔?」
そう、声を掛けると気焔は何故か吸い込まれるように私の上に乗ってまだ私を見る。
気焔の両腕に挟まれて、私は身動きが取れなかった。でも、あの金の瞳に見据えられていたからどの道逃げられなかっただろうけど。
ベッドが、軋む。
そのまま、彼の顔が私の首筋に降りて来て背中がゾクっとした。
なに?これ…………え?…や…ぁ
怖い!
バチッ
…………え?
気焔の息を肌で感じて、一瞬ゾクッとしたのが、嫌じゃなかったけど何故か、解らなくて怖かった。
でも私が「怖い!」と思った瞬間、肩のアザが「バチッ」と弾けて、気焔はベッドから転げ落ちていたのだ。
多分、私はちょっとボーッとしてたと思う。
でも気焔が起きなくて「?気焔!」と焦った私はベッドから飛び降りて気焔を起こした。
んん?寝てる?
でも、寝ないよね?何で?大丈夫なの?
「気焔~~~、、」
私の泣きそうな声にバツが悪くなったのか、やっぱり寝たフリをしていた気焔が目を開けた。
「もう!馬鹿!」
ぷりぷりしながらどさくさに紛れてギュッと抱きつく。
さっきは怖かったけど、今は大丈夫。
目を開けてバツが悪そうな顔をした気焔の瞳はいつもの優しい金色だったから。
そのまま、気焔は私を抱えてベッドに連れて行ってくれる。
そうしてそのまま寝かしつけられそうになったけど、話したい事は沢山ある。
何処かへ行こうとする服を掴んだら、仕方のなさそうな顔をしてベッドに腰掛けた。
私の髪はもう白水色に戻っていて、気焔もいつも通り。
その雰囲気に安心して、私は落ちてからあった事をポツリポツリと話し始めた。
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