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6の扉 シャット

リンディスファーンの来訪と帰還

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「来た!」

あわわわわゎゎゎゎゎゎゎゎ。
分かる。何が来たのか。どうする?!
走ってくるレシフェが大きな声で叫んで私達に知らせてくる。

焦ってくるくるその場で回る私、睨み合う白と金。
てか、白もヤバくない?早く戻ってぇぇ!金の瞳も戻して!!

そう焦りまくっている、猫一匹。

ああ、どうしよう…………。

と、思ってたらまとめ役が来たわ!

「お前、早く戻れ!シャレにならん。」

そう、ビシッとシンに言ってくれたのはウイントフークだった。
あ、一応師匠だった事あるもんね…でも今のシンにそう言えるあなた、尊敬するわ…。


そうして私達は一旦、ウイントフークに回収されたのだった。










「なあ。お前って、結局何なんだ?」

私達は石たちの案内に従って、橙の壁沿いにずっと、歩いていた。

ベオ様がこんな質問をしてきたのは、私がもう隠さずにみんなと話をしているから。
でも、多分独り言言ってるようにしか聞こえてはないんだろうけど、「何か」に道を聞いて歩いているのが分かるんだろう。
彼はそれが不思議で仕方がないのだ。

まぁ、気になるよね…………。


「私が一体何なのか」

それは正直、私も知りたい所だ。
確かに、私の髪は白に近く薄く青い。瞳も水色と金だし、何だかまじない力も強い。
でも。

なんだか最近感じている、自分の中の違和感。
たまに、記憶が飛ぶ感覚。
何だかキレると気持ちよく感じる力。
なんなんだろう、これは。
私は十津國依る。14歳の中2。それ以外の何者でもなかったのに、何だか違う人になってしまった様にも感じられるこの変化。でも、何故か懐かしさも感じるのだ。
自分でもあり、自分ではない。
そんな、不思議な感覚。

「そうなんだよねぇ…私が何なのか、私が一番知りたいわ…………。」

ボソッと言った一言に「はぁ?」ってベオ様は呆れているけれど。正直、これが本音だ。

「ベオ様はさぁ、なんなわけ?自分って、なんだと思う?」

そんな質問をしてみる。
この世界の人達は、ベオ様はまた別な答えを返してきそうだけど、どんな風に世界と、自分を捉えているのだろうか。

そういえば最初に白い森で訊かれたな………何の為にとか、何なのかとかそんな事…。

ふと、あの時の白い女の子の事を思い出す。
私達の世界じゃ、自分探しとか言うけどこの世界の人達ってどうなんだろう?
でもリュディアはもう婚約者がいて将来が決まっている事で悩んでた。自分を探しに行く予定、無いよね…。でも、逆に決まっている事で「何のために生まれたんだろう」ってはならないのかな…だって自分の意志で生きられないんでしょう?
それは嫌だし、人間じゃないっていうか人形みたいじゃん…………。
でもベオ様のいるデヴァイが、そうだって事だよね?うーん。

「おい。」

あ。
ベオ様に呼ばれて、また自分の世界に入っていた事に気が付く。

そうそう、自分で訊いてたんだった。で、結局ベオ様は何て答えるんだろう?

段々彼自身にも興味が出てきた私は、きちんと向き直って話を聞く態勢になる。

「僕は…神の血を継ぐ為に、在る。そうだと疑ってなかったんだがな…。」
「でもさ、それじゃあ「ベオ様」が何なのか、っていう答えじゃ無いじゃん。もしそれが答えになっちゃったら、…………」
「そう。僕じゃなくてもいいんだ。それに、レナとは結婚できないという事になる。」
「(それな。)…………うーん。」


私達は押し黙って考えていた。立ち止まって。

橙の壁に寄りかかりながら、見上げる。水面はやっぱりキラキラ頭上を揺れていて、気が付くと足元に揺ら揺らが落ちているのが見えた。
綺麗だな…………気が付かなかった。


私達は、子供だ。

知らない事、見えてない事がきっと沢山ある筈。
二人で今、こうやって考えてもきっと分からないんだろう。
だからこそ、やっぱり一緒に「本当のこと」を探しに行くのかもしれない。

「ねえ。やっぱり、それも含めてなんだよ。今の私達には難しいけど、多分きっと、みんなで協力すれば分かる時が来ると思う。だからさ、ちょっと具体的に詰めようか。」
「お、おう?」

急に腰を落ち着け出した私に戸惑いながらもベオ様も向かい側に座ってくれた。
何故、座り込んだかというと、私達の方向性について話し合っておかなければならない。取り急ぎは、ここから出た時の。

「私達、外に出たらさ…多分騒ぎになってると思うんだよね…………。」
「そうだな?」
「ベオ様とちょっと摺り合わせしとかないと、うちの保護者達がちょっと…。」

私が「保護者達」というワードを出すと、ベオ様はサッと顔色を変えた。

ん?なんかされたっけ?気焔?シン?直接何かあったかな…?

ベオ様の狼狽具合を見ながら、私達は外に出た後の対応を粗方相談して決めると立ち上がった。
そう、いつまでものんびりしてる訳にはいかない。
お腹空いてきたしな………本格的に。

そうしてまた、石たちの導くままに歩き出した。



「ねえ。なんか、光ってる。」
「ああ。ちょっと待ってろ?」

先に歩いて見に行ってくれるベオ様を見て、やっぱりいい人だよね?と思う。
なんであんな捻くれてたんだろ?ヤキモチだったのかな??

私たちの行く手、多分突き当たりっぽい壁に囲まれた空間に何かキラキラしたものが置いてあるのが、見える。
手前から見ていても、発光している様なそれは、何だか剥製?
いや何かの像?みたいな感じ…………。

謎のキラキラを簡単に確認したベオ様に手招きされて、近づいていった。

そこはやっぱり突き当たりで、橙の壁に囲まれた小さな空間だ。
その、真ん中に腰高の台があってそこにキラキラした魚の剥製みたいなものが鎮座している。

うん、キラキラした魚の…………?

「幻の魚…………?」
「多分?」

二人して、首を捻った。
でも、多分、そう。それ以外のものではあり得ないだろうという程、それは鱗がキラキラ光る幻想的な魚だ。形的にはピラルクに似ていると思う。
しかも、結構デカい。
それが、腰高の台の上に何故か吊られてでもいるように浮いているのだ。

ピラルクってさ、かなり大きくなるんだよね…………。
私は昔水族館で見た大~きなピラルクを思い出して、ちょっとブルっとする。これだけ綺麗でも、大き過ぎると怖いよね…。
まぁそれはいいとして。

「何だろうね?これ?」
「だな。しかも行き止まりだろう。」
「そうだよね…。」

こうしてここから振り返って見ると、通ってきた道は結構狭い道なのが分かる。私達がいる空間より細い道が、一方だけに出ていてやっぱり行き止まりだということが分かる。

行き止まりにある、幻の魚の剥製?絶対怪しいよね…………。
まあ、訊いてみようか。
そう決めて、話しかけた。

「ねえ。これどうすればいいの?」

「捌けば出れるんだけど。」
「…………ん??」

私は、私の石たちに話しかけたつもりだった。
でも、返事をしたのは…多分幻の魚だ。

えー。そういう展開………?

じっと、そのキラキラした魚を見つめる。

でも別に動いてないよね………?生きてるのかな?
台の周りをぐるっと回って確かめる。
特に、目が動くとかも、ない。
うーん。でも、捌くって…。包丁とか無いし?大体魚が自分で自分を捌けって言う??
大体こんな大きな魚、捌いたことなんてないよ…。

「まだ?」
「うひょっ!」

魚に顔を近づけていた時に、急に声がしたから変な声、出た!

「まだとか言われても…しかも出れるって、何?もしかして…?」

中身が喋ってるって事?!

「なんか、中に入ってるんじゃないか?」

ベオ様があっさりそう言って、キラキラの魚の尾をガシッと掴み逆さまに、振った。
しかも、結構派手に。

ブルンブルン振り回された魚は何の反応も無かったけど、三周目くらいで何かが「ポーン」と飛び出した。キラキラの、口から。

「あ!」
「え?」

咄嗟に追いかけたけど、ベオ様が中々の勢いで振り回してたからそのキラキラした何かは通路の方に勢いよく飛んでいってしまった。
「ああ…………」と言いつつ追いかけていた私。
小走りで通路に出ると、少し前の方にキラッと光るピンクの何かが落ちている。

あ、多分あれだ。

見た瞬間、分かった。
石たちが言っていた、6の石。ピンクなんだね…。


近づいて、拾い上げる。
手のひらの品のいい、ピンクの石。

それは、私が手のひらでキラリと光らせると

「初めまして?依る。そしてお久しぶりです、姫様?」

と、言った。




そこからしばらく、「ちょっと待って下さいね?」という宙の言葉に従って、私達は待っていた。

何を、言っているのか微かには聞こえるけど内容迄は分からない。
そう、これから帰ろうか、という時に石たちは何やら会議を始めてしまったのだ。何だか雰囲気的には、みんながビクスに注意してるっぽいんだけど。

みんなから聞いてはいたけど「ビクスと言いますわ?」と品よく挨拶してくれたピンクの石はどうやらこれからの腕輪としての在り方について注意されているようだ。
確かに、急に変な所で喋り出されたりとか色々、されたら困る事はあるけど。
そんな、会議する事あるかな??

でもそれもそう長い事ではなかった。

「では行きましょうか、姫様。」という宙の声で出発を知った私は、心配事の一つを相談してみる。
そう、私はこのままじゃ帰れないのだ。この、髪と瞳のままでは。

「お前、どうするんだそれ?」

出発の雰囲気を感じ取ったベオ様が訊いてくる。
ですよね?私も今困ってたんですよ…。

「私がやるわよ?」

その時、ベオ様に返事をしたのは新しく腕輪に嵌ったビクスだ。
みんなと同じ様に、キラリと発光した後腕輪に収まったビクスにベオ様は驚いていたけど「まぁもう今更何があっても驚かん事にする」とか言って、納得していた。
状況的にもう腕輪を隠せないと思っていた私はコソコソしなくて良くなったので、ベオ様に通訳しながらビクスと話している。

「出来るの?髪と瞳を隠したいんだけど?」
「そりゃ。朝飯前ですわよ?ウフフ。腕が鳴るわ。初仕事ね。」

何だかビクスは張り切っている。アキを何処かに落としてしまったので、自分の石たちでなんとか出来るに越した事はない。

ビクスは「私は気品の石。美の石ですから。」なんて、気合を入れているけど、大丈夫かな?

「よ、いしょっと!」

ビクスが一言言うと、ベオ様が目をパチクリさせた。

ん?どうした?なんか変??この掛け声?

そう思って髪を手に取る。きちんとグレーになっているか、確認する為に。
すると、なんと私の髪が赤っぽい、ピンクになっていた。


「え?!違う、違う!ピンクはまずい!」
「お前、瞳も赤茶?だぞ?…………まぁ悪くないけど青とどっちが目立つかな…。」

そう言ってベオ様は何だか楽しそうに笑っている。

いやいや、笑い事じゃないから!困るから!

鏡が無いのが残念だが、ベオ様曰く赤系統で統一された私の髪と瞳はとても鮮やかで中々いい感じらしかった。

うーん。見たい。嫌いじゃない。

自分の髪を手に取りながら、思うけど「いやいや、違うから。」と現実に戻る。

「ビクス、私はいつも髪はグレー、瞳は茶色にしてるの。出来る?」
「それは出来ますけど。こっちの方が断然いいのに…。」
「うん、気持ちは分かるけど…………」
「まあそうだよな。僕もこっちのが好きだ。」
「ですよねぇ?」

ちょっとそこ。意気投合しなくていいから!
私は二人を嗜めると、きちんといつもの色に戻してもらう。そして、ベオ様を見ると二人で頷き合った。

「よし、オッケー!」
「行くか。で、どうするんだ?」
「だよね?私も思った。でも石たちはビクスがいれば出られるって言ってたんだよね?」

と、ビクスに視線を向ける。
するとビクスは(多分)得意げに「任せて下さいな?」と言ってキラリと光った後、強い一筋の光を、出した。

壁の向こうに向かって。まっすぐに。



「何だあれ?」
「…………んー?…………あ!」

ビクスが一筋のピンクの光を壁の向こうに出した、少し後。

多分、壁の向こうは川だ。きっと橙のこの壁で仕切られているこの通路は、外側は水なのだろう。壁を越えると揺らぎが出て見える光はずっと遠くまで続いている様に見えたけど、その光の方向に小さな黒い点が見えた。
そしてその点はどんどん近づいてきて、多分魚なのだということが分かる。そしてベオ様の疑問に私が返事をする頃には、その魚の正体が分かった。

そう、それはグレードアップフグもどきだった。



「え?なんで?大丈夫なの?」

グレードアップフグもどきは、私の姿を見るとクルッと一回転してから壁を超えた光の箇所を、ツンツンツンツン突いていた。

え?まさか、割れるとかじゃないよね?

その、恐ろしい予想が現実味を帯びたのはすぐ後だった。

そう、壁に少しの衝撃が走り嫌な音が、した。

え!?ウソ!無理無理!!

グレードアップフグもどきが、とうとう橙の壁にヒビを入れたのだ。
なんで?突いたくらいで、割れるもの?!

「おい!これ大丈夫なのか?!」
「分かんない!ちょっと、ビクス?どうしよう?」
「大丈夫ですよ。藍がいますから。」
「え?藍?あ…!!」

一瞬にして目の前にヒビが拡がり何かか弾けた音がする。水がどっと、入ってくる感覚と、何かに救い上げられるのが、同時だった。


「うわっ!!」
「キャ!」


珍しく、私が女子っぽい悲鳴を上げた所で私達は空気の玉に包まれた。
いや、正直見てなかったけど、目を開けたら藍の作った大きなシャボン玉みたいな玉の中に、いたのだ。









「ねぇ。ねえ!どうするのよ?」
「どうしようも、ない。」

いや、そういう事聞いてんじゃないのよ。
相変わらず身も蓋も無いわね??

どうやらこの長ったらしい名前の視察官は、ベオグラードの不在に勘付いて来た訳では無いようだわ?
もしそうなら、リュディアを慰めるのが大変そうだったから良かった…。


リンディスファーンという長ったらしい名前の視察官は、定期的にやって来るデヴァイからの偵察らしかった。
シュツットガルトから詳細まで聞いていなかった私達は、とにかく橋の近くにそいつを寄らせない様にすぐにウィールに戻った。

シンは紫に戻って、気焔の瞳も戻して。子供達も何事も無かった様に授業に散らして。
今は、各教室を見たり、少し生徒に話しかけたりしているみたい。それにしても、一体何を見に来たんだろう?

「基本的には反旗の芽が無いか、おかしな研究をしていないかチェックをしに来ている筈だ。」

シュツットガルトが戻った時にそう言ってたけど。
いやぁね、一々チェックに来るなんて。何か、反旗を翻される様な事、してるって自覚があるのね。
それにしても…………。

ベオグラードに会おうとするだろうか。
それはみんなが一番ヒヤヒヤしている部分だ。
例年、デヴァイからはあまり生徒が来る事は無い。だから今年の視察の中に、ベオグラードと会う事が含まれているかどうかが読めないみたい。

とりあえず今は、シュツットガルトがうまく誘導しながら案内していて、その後少し勝手に動き回って自由に見る時間があるらしい。その時間が、まずいのだ。

いやー。どうしよ。
とりあえず戻ったものの、橋の上でシンに言われた通りに「ビクス」と唱えたけれど何も起きないし依るもベオグラードも帰ってこない。
探しに行きたいけど、怪しい行動も取れない。

もう…………シンは呼べばいいだけって言ってたのに!


私がぷりぷりしていると、噂のリンディスファーンを先頭に、シュツットガルト、レシフェ、そしてウイントフークまでもが連れ立ってどこかへ行くようで、ウィールの入り口から出てきた。

ふぅん、今度はどこに行くのかしら?

先頭のリンディスファーンも背が高い。ウイントフークも結構高いので、背の高い二人に挟まれたシュツットガルトとレシフェが何か面白く見える。濃い髪と目、ストレートの髪を後ろで一つに束ねているリンディスファーンは、元の世界で見慣れた人間の姿に似ていた。

あれ、黒じゃないわよね…………?でも力が強い人って色が薄いんじゃなかったっけ?まぁ例外もいるのかな…………。
そんな事を考えながら少し離れた所から行列を眺めていると嫌な予感が、した。

ん?どこ行くのかしら?
何だか一行が例の橋の方へ向かっているように感じるのだ。

気のせいよね…。

だけど、それはやっぱり気のせいなんかじゃなかった。




やばいやばい…………

私は気焔を探して走っていた。

とりあえず、気焔を捕まえて、先回りしてもらって…………どうする?!策がない!

でもとりあえずあの橋を通らなくていい方法があるかも知れない。
違う道とか?気を利かせてシュツットガルトが違う道を案内してないかな??

「気焔!」

何故かウィールの最上階でガラス天井から空を見上げていた気焔をとっ捕まえて、橋まで飛ぶように言う。
黄昏てる場合じゃ無いのよ!



そして私達はまたあの子達が消えた橋の上にやってきた。

すると何故か、そこには既に紫のシンがいたのだ。
それを見て私はもう依るが戻るのだと確信する。
だって、きっと迎えに来た筈だ。姫様の事を。


本能的に辺りを見渡す。

どこ?どこから来る?きっと、もうすぐだ。


私の予感を後押しする様に、空が明るい橙に変化しているのに気が付いた。
依るが消えて、澱んでいた空気が元に戻ろうと変化しているのが分かる。昼間だったのに暗かった空が明るく、そして川の方が濃くなってきた。
その、凪いでいた川が遽に波立ち始める。


こっち?

気焔と二人で橋の下を覗き込んだその時。


一瞬、川面に渦が見えてぐっと穿たれた穴から、物凄い大きな水の塊が飛び出してきた。

物凄い、音と水飛沫。


川から飛び出てきたのは、大きなシャボン玉の様なものに入った、依る、ベオグラード、そしてよく分からない魚が一匹。
それが勢いよく、私たちの頭上にまで飛び上がる。

「「依る!!」」

私達が呼ぶと依るはその声が聞こえたのか、下を見た。
そのまま、浮かび上がったシャボン玉はふよふよと橋の中央まで移動して、そして、弾けた。




「キャ!」「うわっっ!!」

落ちてきた依るを気焔が受け止めて、ベオグラードはそのまま落ちるかと思いきや気焔が小さな炎を飛ばしてた。

でも「プスン」ってすぐ弾けて、「イテッ」って言ってたけど。まぁそのまま落ちるよりかは大分マシでしょ。

丁度そこに、タイミングが良いんだか悪いんだか、リンディスファーン御一行様が現れたのだ。


だ、い、ぴ、ん、ち。

でも何でか、その時喋り出したのは意外にもシンだった。

「やあ、すいません。まじないの授業中でした。」

見た事なくて逆に怖い、愛想笑いを浮かべてシンはリンディスファーンにそう言った。
微妙な、空気。

「そうなんですか。…………中々ですね。レベルが高い。」

リンディスファーンは気焔、依る、ベオグラードに順に目をやってベオグラードにちょっと会釈をすると、そのままスタスタ歩いて行く。

ん?結局どこに向かってるの?

私たちの前を通り過ぎる、最後尾のウイントフークに並行して歩く。
「ビリニスの研究室だ。」コソッと教えてくれて、合点がいった。


この橋はビリニスの研究室へ行く途中にあるのだ。だからこそ、大きなまじない機械も設置されていたし、イスファはここへみんなを案内したのだ。

とりあえずそういう事ならサッサと立ち去ってもらった方がいい。

スッとウイントフークからまた離れて、御一行を見送る。ウイントフークがチラリと振り返ってたけど、「行ってらっしゃーい」としっぽで言っておいた。
あんな所、私は二度と行きたくないもんね。




そうして戻った私が見たのは、何だか異様な光景だった。

何故か、依るがベオグラードを「ベオ様」と呼んで、何だか仲良くしているしそれを見る二人の男の目が…………ヤバ…。
もう!何でこんな事になってるのよ!


一人状況を把握して無さそうな、依るの言い分はこうだった。

「だって、暗闇の中で協力するしか無くて。ベオ様、話すと意外といい奴だったし私達、協力するって決めたの。その方がデヴァイに行くにも、いいでしょう?レナとのお店の事も考えてくれるって!」

まあよくここまで地雷を踏めるもんだわね?

でもシンは意外と大丈夫そうで、何か依ると少し話して、腕輪のチェックをして、何だか首元もチェックをして、また依るに髪留めを付けるとちゃんとスタスタ立ち去って行った。
最近出たり消えたりし過ぎだったから、それは先生達の前だけにしろってウイントフークから言われてたから。
一応覚えてたみたいね。


残された、ベオ様?と気焔は正直ベオ様が大人に見えたわ…。

気焔はとにかく感情を抑えるのにいっぱいいっぱいなのが私にはよく分かった。
多分、ベオ様(結構気に入ったわ、この呼び方。)は気焔がちょっと怒ってると思ったんでしょうね。先に謝ってて、それで気焔はどうしたらいいか分かんなくなったみたい。

それを依るがとりなして、ベオ様を庇いつつ説明し出したもんだからもう何か見てられなかった…。
でも立ち去るのもなんか危ないしさぁ。
話終わって、ベオ様が「じゃあ僕は先に帰るからな?」って気を使ってたわよ!

もう、最終的に私笑えてきちゃって、気焔の顔とか、依るの何にも分かってない感じとか!
エローラがいたら多分二人でお茶飲みながら解説しつつ、大爆笑してるわ。

あーあ、もうとりあえずは大丈夫でしょうから、私も帰ろうっと。
ホント、疲れたし。



でも気焔我慢できるかな?
だってあの子、何でかまた少し成長してたから。

ちゃんと、去り際に注意したわよ?

「程々にね。」

って。気焔に。

まぁ、瞳はアレだったけど。


もう知ーらないっと。

あとは二人でなんとかして下さいな。
年寄りは寝ますから。

あー、疲れた………フゥ。












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