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6の扉 シャット
私の石たち
しおりを挟む「本当は気が進まない。」
モンセラットに腕輪を見てもらっていると、シンがまだ言っている。
この授業が始まる前にレシフェと話していたのも、この事だったのだろう。
彼の反応を見て、それに気が付いていた。
始めにレシフェにも「モンセラットには気を付けろ」と言われていたし、何がどうなって石を見せる方向になったんだろうか。
しかし、私のそんな疑問をサラッと払拭するくらいは、モンセラットは優秀なようだ。
石たちを色々な角度から眺め、光を当て、大きさを測り、何やらルーペのようなもので見ている。
大体ウイントフークが同じような事をしていたので、多少腕が捻られるのは慣れていたが、その度にシンの瞳が怖くなるので私はそっちにビクビクしていた。
基本的にラピスでのシンよりもよく喋るし、大人な感じはするのだがやはり元が同じと言う事なのか、普通の時はやはり「無」のシン。
それでいて私が少し顔をしかめようものなら瞳が冷たくキラリとして、それにまたモンセラットが全く気が付いていないところも怖い。
急にキレたりしないよね…………?
私は気焔を戻した事を少し後悔しながら、このスリルある時間を過ごしていた。
「ふむ。大体判りましたぞ。」
そう言ってモンセラットは沢山の開きっぱなしの資料とメモ書きを、私達の前にある作業台が埋れて何かになっている上に、更に置いた。
こういう人達って、みんなこうなの?
ウイントフークやシュツットガルトの部屋を思い出しながら私が首を捻っていても、そんな疑問を全く気付く様子のないモンセラットは、まず1番上の資料から赤い石を指す。
「まずこの石。1の石ですな。赤と桃色の間の様なこの石は愛情の石。力としては火が使えるかと。いずれの石もそうですが品質は最高。申し分なし。いかなるものでも作れる。無限。あの封印されたまじない道具の補填もできるやも…………。」
「次。」
止まらないモンセラットをバッサリ切り捨てるシン。
私は蓮を指して「1の石」、そして「愛情の石」と言ったモンセラットに心底驚いていた。
確かに、蓮は自分の事を「愛の石」と言っていた。しかも1の扉の石みたいだし。
なんで分かったんだろう?
ちょっと怖い。
「2の石は…ええと、水の石ですな。これは最上級の浄化石。ほぼ全ての闇に使えますな。範囲や効果は限定されても、浄化は為されるでしょう。いやあ、この部屋もお願いしたい。」
「阿呆な事は言うな。」
何だか漫才みたいになってきたなこの2人。
そんな事を思いながら、また当たっている事に驚く。
でも藍、部屋を綺麗にって出来るのかな?
それはなんか、違う気がする。
「3の石は風の石です。この世界、というよりこの世全体にあらゆる目を持ち、持ち主の行末を気付かせる「知らせの石」ですな。わしも初めて見ましたがきっと、これな筈…………。」
資料をペラペラめくりながらそう話す。
ていうかその資料が見たい。
そんなに沢山の石の種類が載っているのだろうか。
3つ目にして我慢ができなくて、モンセラットに訊ねる。
「あの、石って普通、そこまでちゃんと目的が決まっているものですか?ひとつひとつ??」
「普通はありませぬ。」
突然の私の質問に、サラッと答えるモンセラット。
私の顔も見ずに、話の延長で答えているがそんな普通に答えられる事なの?これ。
私は石たちを改めてまじまじと見た。
モンセラットの答えをどう受け取っていいのか、分からない。
「この世界では存在しないのだ、この透明度が。ここまできて、やっと石たちは己の存在を自覚する。その目的もな。先程のシェランの石などは、まだ自我があるだけいい石と言える。」
代わりに説明してくれたのはシンだ。
何となく、分かったような気がする。
とりあえず、この石たちが貴重で普通の石は人格や目的が無い事。
ラピスのシンも青い石だったけど、ここのシンは紫の石なのだろうか?
でも同じシンだよね?
私の気焔と藍は、違う石だ。人格も違う。
シンはどうして同じなんだろう…………。
しかし私の疑問は、次の説明に掻き消された。
「4の石。これは土の石ですな。茶の石。雨降って、地固まる見たままの石。これがあれば万事丸く治りますな。いっその事、奴等から乗っ取って丸く治めるのも研究が続けられて良いかもしれんの。」
「余計な事は言うな。」
またピシャリとシンに言われている。
何だか物騒な話だな…………。
乗っ取るとか、治めるとかウィールは何やら危機にでも瀕しているのだろうか。
それだとしても、私にそんな大層なことが出来る訳が、無い。
ふと、気焔の声を思い出した。
「望めば、成そう。」
心に浮かんだあの声にドクッと心臓が大きく鳴ったのが、分かる。
チラリと過ぎったその考えを、後押しするようなモンセラットの解説が始まる。
「5の石。大きさから言ってもこの腕輪の中で最強の石。燃え盛る炎の石。何者にも消すことの出来ない正に、「王の炎」。こりゃ、本当に成るかもしれんな。」
自分で納得して髭を擦っている。
何の気なしに発言するその言葉が、本気でそう思っているのだと私に解らせる。
この人に他意はない。
きっと、石以外のものはどうでもいいから。
だからこそのその言葉の重みが、あの気焔の言葉と共に降ってくる。
気焔も本気で私が望めば、きっとやるのだろう。他の石たちと、協力して。
「その力が、ある」とモンセラットは言っている。
しかしモンセラットが何の乗っ取りをしたいのかは知らないが、私のやりたい事は世界征服では無い事は確かだ。
あの提案は、そっと心にしまっておく。
彼は沢山の資料を置くと、私の方に向き直った。
「して、お前さんは何を為す?この宝の山を一手にして。」
じっと青の瞳に見つめられて、少し答えに詰まる。
でも、私が昨日レシフェに言った事は変わらない。
「私はみんなの笑顔が見たいだけです。誰かが泣いた上で誰かが笑うのではなく、みんなが尊重し合って笑って暮らせる、そんな世界がいい。」
「ホッホッホ、お前さんそりゃ、やはり為すべきだの。」
「?」
モンセラットから私を隠す様に、シンが間に入る。
青い瞳が遮られた事で少しホッとして、また腕輪を見つめた。
この子たち…………。
あ、そう、世界征服じゃなくてもっと身近な使い方を聞きにきたんだった!
危ない、本題を忘れる所だったよ。
「あの、先生?この石たちをもっと有効に使いたいんですけど、何かいい方法はありますか?炎と水しか、あまり使えてないんです。」
「ふむ。」
私の言葉を聞いて考え出すモンセラット。
しかし彼の口から出たのはこんな言葉だった。
「それでいいのでは?特に必要無かろうと。」
「へ?」
マヌケな返事をしてしまった。そして逆に質問される。
「何がしたいのです?具体的に。」
「いや、自分の身を自分で守れたらな、と。戦えたら1番いいんですけど…………。」
うひょっ。やっぱり駄目?
シンの瞳が怖い。
ご、ごめんなさい、もう言いません。…………シンの前では。
「ふむ。戦うなら火の石でしょうがな。しかしどれもあなたの身を守る為の石。必要あらばこれらがやるでしょうからやっぱり自ら何かはしなくて良いと言うか、しない方がいいでしょうな。」
「え?どうしてですか?」
「守っている者が前に飛び出していくと、苦労が増えるでしょうに。」
当たり前の事のように言われて、ちょっと恥ずかしくなる。
はい、デスよね………。
そう、守りといえばこれもある。
以前貰って、まだ私の髪に付いている、これ。
髪留めを触りながら、シンを見る。
シンは何やら険しい顔で考え込んでいたが、私を見ると髪留めに目をやり、少し瞳を緩めて頷いた。
モンセラットがこれに反応しないという事は、また普通のリボンに見えているのだろう。
髪留めを触りながら髪の毛をくるくる、遊ぶ。
モンセラットは気が済んだようで、資料を片付けながらまた何やらメモをしたりと、既に自分の世界へ入っていた。
………いつの間に。
そのまま髪の毛をくるくるして、手が下に降りていくと肩に触れたところでふと、あのあざの事を思い出した。
あ。
みるみるうちに、自分の顔が赤くなるのが分かる。
どうしよう。問い詰めようと思ってたのに!
顔が赤くなるのと共に頭の中が「うわーーーーー!」と大忙しだ。
これじゃあ無理かも!
1人でワタワタしていると、やっぱり、気付かれた。
こっち見てる!!
ヤバい。隠れたい!
やだやだ、どうしよう?
咄嗟に隠れる所を探して、明るい部分から抜け出した。
薄暗い方に進んだだけで、少し隠れた気がして落ち着く。
あ、あの辺とかいいかも。
少し大き目なまじない道具の陰辺りに狙いを定め、「よし!」と進むと同時に、腕をグイッと後ろに引かれた。
そのまま倒れ込むようにしてシンの腕の中に居た。
「なぜ逃げる?」と至近距離で問い詰められる。
顔が近い!顔が!
少し暗いのが幸いして、私が赤くなっているのはあまり見えていない筈だ。
じゃないと恥ずか死ぬから!無理だから!
両手で顔を覆う私をその場に座らせ、自分の膝の中に抱え込んだまま、両腕を取られる。
剥がされた手は彼に握られたまま、私は居た堪れない顔を晒す事になった。
もうやだ…………。無理~~~~!
脳内パンク状態で少し涙目になっている私を見て、少しも状況を理解してくれないシンを恨んだがどうしようもない。
そのまま赤い瞳でじっと見つめ続けられる。
いや、だから。
無理だから!!
少し落ち着くかな、と赤い瞳を見ないように深呼吸してみる。
何だかシン、いい匂いするな…………?
シンの香りで深呼吸…………。ブフフッ。
くだらなすぎて、ツボに入った。
下を向いて肩を震わせ出した私をきっと心配したに違いないシンが「依る?!」と言いながら両肩を揺すっているけど、私の笑いはしばらく治らなかった。
「…………っフフ。はーぁ。可笑しかった!」
何だかスッキリした私と、スッキリしていないシン。
そうだ、今のうちに文句を言わねば。
また、顔が赤くなる前に。
「シン。これは何?」
私は自分の肩を示す。シンは私の様子がおかしかった理由を瞬時に察したのだろう、精一杯怒った様子の私をスルーしつつ澄ましているが、私は見逃さなかった。
いや、私だって慣れてきたからね?
分かるよ?
その一瞬浮かんだ、悪い顔。
ワザとだよね???
「確信犯。」
ボソッと言った言葉に反応が返る。
「仕方ない。」
「え?何が仕方ないの?」
「虫除けは必要だ。」
「虫いるの??」
こんな工業地帯に??
何だか呆れた目で見られ、心外だ。
私はこんな恥ずかしい事、した事ないもん。
シンの方が酷いに決まっている。
視線に対抗して、言い返す。
「だって、これ消えないんだもん、ヒドイ。見る度に思い出して…………。」
墓穴を掘った事に気が付いたが、時既に遅し。
また真っ赤になった私を今度こそ嬉しそうに、してやったり顔で見ているシン。
悔しいっ。悔しいけど、治らない!もう!
どうしよう…………?
困った時、助けて欲しい時…
「気…………」
「そのくらいにしてあげて下さいな。」
その時、私達の間に飛び込んで来たのは、ちょっと焦った朝だった。
ん?さっきまで居た?
中々の勢いで飛び込んできた朝は、私達の会話が止まるとホッとしたように側に座る。
「失礼しました。」
とか言って何事も無かったように澄ましている。
シンと私が顔を見合わせてクスリと笑うと、それが合図の様にみんなで立ち上がりモンセラットの研究室を出た。
声を掛けようかとも思ったが、彼は既に道具の山に頭を突っ込んで、何やら不気味に動く黒い塊と化していたのだった。
「夜景もいいよね…………。」
夜の露天風呂は、最高だ。
見えないように壁が出来てから、私は夜の露天風呂も満喫するようになっていた。
今日のお風呂は無味無臭の単純泉だ。
多分。
正直そこまで温泉に詳しくない。
ただ、やっぱり少しトロミのあるお湯で上がった後しっとりするので、温泉なのは確か。
ここは地面が橙の川なのに、どこからこの透明なお湯が出てくるのか本当に不思議だ。
まぁまじない道具なんだろうから、湧き出ている、という訳ではないのかもしれないけれど。
「ねぇ。」
「うーん?」
「依るは…………どう思ってるの?」
「なーにが?」
「…………いや、何でもないわ。」
変な朝。
ふーーーう。
今日も色々あった。
みんなが色々振り分けられて、私の石も見てもらったし。
なんかやっぱり戦う事は誰も賛成してくれないし。
うーん。
やっぱり現実的じゃないのかなぁ?
でも守られてるだけは、嫌なんだけどな?
「よし、なんか良い方法、考えよう!」
自分の頬にパシンと気合を入れて、トポンとお湯に潜る。
うーん。
ザバッと溢れたお湯を見ながら思いっきり立ち上がると、なんとなくスッキリして上がる支度をした。
ふぁ。よく寝た。
何かスッキリしてるな?
傍らの気焔を認めいつもの様子に安心すると、ベッドから起き出す。
最近の気焔は寝たフリも堂に入って、本当に寝ているんじゃないかと思うのだがどうなんだろうか。
とりあえず休息を取る事はいい事なので、いつも通りそっとしておき、お茶の支度をする。
藍に頼んでお湯の支度をし、もうすぐヨークのグラスの出番かな…と考えた事で季節の移りを感じる。
やっぱり、そろそろ5月かな。
私は、エローラに頼んで自分の部屋にも作ってもらった擬似窓のカーテンを開ける。
「私の部屋にも作ってくれないかな…………。」
でもあれ高そうだよね…。休憩室の窓の事を思い出し「めっちゃいい石必要そうだな…」と考える。
「いいんだよ、ここはここでとっても素敵なまじないの街なんだけど。」
ひたすら自分の水色の髪をくるくる指で弄びながら、じっと見つめる。
水色を。
水色…………。
水。
水と言えば青。そう、青が足りないのだ。
私はここに来て、ラピスにいた自分が青にどれだけ癒されていたのかを知った。
朝起きて白んでいる空からの青い屋根。 昼間の太陽が見せる青の街並み。
夕暮れで少し橙に染まる白の道と青の変化。
青から紺に変わってゆくあの時間の家々の壁。
夜の紺と星空の金、月明かりの中の青い段々屋根。
冬の祭りで見た中央屋敷の塔からの景色。
「青~。青が見たい。」
何か作れないかな?青いもの。
ぱっと思った。思っただけよ?
いや、どうかな?出来るんじゃない?
いい場所さえ、在れば。
お誕生日会と平行した私の野望は、こうして幕を開けた。
「おはよーう。起きてる?」
いつものように隣の部屋へ突撃する。
エローラはまだ寝てるかと思ったら、どうやら洗面室だ。
私はお茶を入れて待つ事にした。
「やっぱりいいな。」
エローラの部屋を見渡しながら呟く。
グレーを基調に統一されたその部屋は、以前よりもアイテムが増えてグレードアップしていた。
所々に、ポイントで入っている黒。
クッションや棚にちょこっと敷いてある布、カーテンタッセル。
そしてベットカバーの白、塗り替えられた扉の白。
ポイントで使われている黒と大胆に塗り替えられた白のバランスがエローラのセンスの良さを物語っていた。
私の部屋のカーテンも水色によく合う青に黄色の花が下から咲いているデザインだ。
エローラは布を入れておく荷物石でも持っているのだろうか。
よくこんなピッタリの布、持っていたものだと感心したわ、仕上がりを見た時。
「おはよう。」
そんな事を考えていると、エローラが洗面室から出てきた。
既にグレーのサラリとした長い髪はいつものポニーテールにされて、支度は整っているようだ。
エローラにお茶を出しながら私は考えていた事を提案する。
「ねぇ。誕生日パーティーって、ある?知ってる?」
そう、まず誕生日の認識があるのかどうか。生まれ月は聞いたことがあるけど、そういえば誕生日は無かったかも?
「「誕生日パーテー?」って何?」
「やっぱりか。」
作戦立て直しか?いや、生まれ月パーティーをすればいいのだ。うん。そうしよう。
そして私は作戦を遂行する為に、メモを取り出す。
あの日記から書き写した生まれ月メモだ。
これがあればバッチリだもんね!
「エローラは生まれはいつ?」
「私はカロスよ。」
カロス、カロスっと。
ほう。7月ね。ちょっと離れてるね…。
そう考えてはたと気付く。
これ全員に聞くの、時間かかるね?
とりあえず、カロスの所に「エローラ」とメモしておく。誕生日パーティーは保留だ。
じゃあ………先に癒しスポットだな。
考える人ポーズの私を不思議そうに見ながら、お茶を飲むエローラ。
そうして朝の時間を過ごすと、私達はクマさんの朝ごはんを食べに行った。
「予定を貼っておくから、見ておいてね。」
母さんが食堂に向かって、あの拡声器みたいなので呼び掛けている。
「見て。張り出されてる。」
私達以外にも数人、上級生らしき人が張り紙を見ている。
多分、ウィールの予定表だと思う。
なになに?
それは結構穴だらけの時間割みたいなものだ。
こうして見ると結構自由時間多いな…………。
でも周りの上級生は「ヤバい。」「間に合うかな…。」と焦りの声を上げていて、そんなに余裕があるスケジュールではないらしい。
研究室にいる事が多い、と聞いているのでその関係だろうか。
とりあえず自分たちの取るものをチェックすると、私とエローラはそんなに数はない事が分かる。
少し余裕がある事を確認した私は、ちょっとまじない道具も作りたくなっていた。
誰か、アレだけ作り方教えてくれないかな…?
やっぱりレシフェかな?
そんな事を考えながらクマさんのご飯をもぐもぐ食べているとシェランがトレーを持っているのが目に入る。
私に気が付いたので手を上げると、こっちへ来た。
頷いて、一緒に食べるようだ。
「おはよう。昨日はどうも。」
「おはよう。どう?あれから。」
「ああ。先生に言われてるから試してないけど、生活上もかなり楽だな。少しの力で大概のことが済む。」
「わぁ。やっぱりよかったね!」
シェランはどこに石を持っているのだろう?
さっきから何だか下の方からめっちゃ声がするんですけど。
ポケット?
「ねえ!ちょっと!そこの青いあなた!」
えー。ど、どうしようかな?
無視?それはなんか違うな?
私が首を捻っていると、朝が「ちょっと座りなさいよ。」と私の足元で呼んでくれた。
ナイス、朝。
朝に話すように蹲み込んで、シェランの足元に近づく。
「え?なに?私に用事?」
「いや、用事とかじゃない。」
え。
「お礼が言いたかっただけよ。素晴らしいものね?」
「解りますか?姫様の素晴らしさ。」
ありゃ。参戦した人いるわ…。
「まぁねえ。これだけのものくっ付けてるし、光ってるもの。あの部屋の石たちも騒いでいたでしょう?」
「あまり騒がないよう通知して下さい。姫様は目立たれるのは好きません。」
………君達は何の話をしているんだね?
宙が私の事を「姫様」と呼ぶのは始めからだ。
訂正したけど直らないので、放置している。
でもそれを普通に受け入れて、更にこの黄色の石も私が光っていると言う。
朝が光は消えたって言ってたのに。
石にしか見えない光があるのかな?
「話は終わりだ。」
盛り上がる2人に、ピシャッと言ったのは気焔だった。
確かにここでこれ以上ごちゃごちゃされても困る。
みんなには聞こえないとはいえ、私が話しかけられて無視できない事を知っている気焔は、側から見ていて落ち着かないのだろう。
気焔に黙らされた2人はピタッと話を止めた。
私も席に戻り、自分以外が食べ終わっている事に気が付く。
何だかちょっと気まずい…と思っていると気焔が「依るは俺が見てるから、大丈夫だ。」と2人に言った。
俺…………そこに反応してるのは私だけで、エローラとシェランの2人は「じゃあまた。」と言ってそれぞれ片付けに行く。
やっぱり吾輩じゃないと違和感あるな…。
時間割によると今日は午前授業が無くて、午後も選択を取ってなければフリーだった。
みんなは休みの時何をして過ごしてるのかなぁと考えつつ、朝食を終える。
エローラだったら、大体何してるか、分かるんだけどな?今度みんなに聞いてみよっと。
意外と癒しスポットがあるかもしれない。
「気焔はどうする?」
片付けながら私が聞くと「今日は薬学に行ってくるから大人しくしておれ。」と言われてしまった。
「寮から出るなよ?」とも。
「つまんないの。」
気焔を見送った後、1人受付の前を通りエレベーターさんの前の掲示を見る。
館内探検でも行こうか。
だって、ヒマだし。
すると以前は気が付かなかった、フロア案内ではなく見取り図がある事に気が付いた。
寮を上から見た図が書かれているそれは、非常階段や非常口、屋上がある事、そして真ん中が空いている事を示していた。
中庭………?
面白そうなものを見つけたぞ?
「よっしゃ、決まり。」
今日の目的を見つけた私は、さてどうやったらそこに行けるのかと考える事にした。
「ちょっと~。どうやって行くの??」
とうとう困り果てて、独り言を呟く。
中庭かもしれない空間を探して館内をウロウロしてみたが、一向に着かないのだ。
1階には入り口、受付、母さんの所と食堂しか無いし、2階3階もいつも通り、8階も女子部屋しかない。
お風呂もお風呂しか無いし…………。
気焔がいないから5階も行きづらいしな…。
うーん。
とりあえずエレベーターさんに乗って、次はどこへ行こうか考える。
あと、行ってないのは?
「何を探してるわけ?さっきから。」
「え?ああ、中庭みたいなやつあるよね?ここ。見取り図だと真ん中が空いてるんだよね…。」
「ああ。あれは私が開けないと行けないから。」
「えっ!そんな。連れてって?駄目?」
「そうね…………。ヨルならいいか。」
私の名前、知ってるんだ。
エレベーターさんはそう言うと、ポンと止まった。
扉が開く。
開いた正面には「中庭」と、やっぱり書かれていた。
「やっぱり中庭!ありがとう!」
エレベーターさんにお礼を言って降りる。
「到~着~!…………え。うそ。」
何これ?え?中庭は?癒しは??
なんと降り立った場所は片面が全てガラス張りの壁になっている長い廊下で、その透明な壁から見える景色は、想像とは全く、違った。
「確かに、中だわね。」
ビルの、真ん中の吹き抜け。
表現するとすれば、それが1番近いかも。
寮は10階建だが多分私がいるのは真ん中位だろうか。そびえ立つビルの本当に真ん中がぽっかり開いていてしかし、ただそれだけの空間。下を覗くと、橙の水溜りだ。
ガラスの壁から下を覗かないと、水がある事すら分からない。ただの、壁を眺める回廊。
そんな感じ。
ちょっとこれを中庭というにはいささか大仰なのではないかい?
心の中で思いながら、ガラス張りの廊下をぐるっと歩いて行く。
丁度、反対側にベランダのような物があって、外に出られそうだからだ。
ひたすら歩いてぐるっと周り、ベランダの前に着く。
「これ景色が良かったら絶対こんなに長く感じないよ…………。」
ずっとビルの壁を見ながら歩き続けてきた私はちょっと疲れていた。
何だこの癒されない中庭は。
とりあえずガラス扉があるので、開けてその中庭に出てみる事にした。
その透明な扉を、恐る恐る押す。
「おお…………。」
轟々と音がするそこは寮の外と同じ、シャットの光景。
寮の壁と、ガラス張りの廊下と、橙の空と、水溜り。
思ったより大きいけど、これが泉だったら最高なのに。
そして、ここから見える空。
この四角い空間だけでも、何とかならないものかな?
下の濁った橙をじっと見つめる。
「ふぅん。でもこのくらいの大きさなら、どうかな?藍?」
「いけるんじゃない?呪文があれば。」
私はその大きな橙の水溜りをじっと見つめ、泉を作った時の呪文を思い出していた。
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