透明の「扉」を開けて

美黎

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6の扉 シャット

教師たち

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ん?
まだ、夜かなぁ?


薄く目を開けたがまだ暗い。
黄色く暖かい光を感じて、まだ眠かったのでまた目を閉じた。

「あいつには気を付けろよ?」

「んー。」

何か気焔が話していたような気がするけど、半分聞いていなかった私は朝にはすっかり覚えていなかった。




んー!爽やかな朝。

スッキリ目覚めた私はベッドから起き出して伸びをする。
気焔はまたいつの間にか居なくて、「昨日寝る時居たっけな?」と私の記憶も曖昧だ。

この館が私に悪さをしない事を認定してから、寝る時に居なくても途中目が覚めると居たり、寝る時に居ても朝起きると居なかったり、何やら何処かへ行っているようだ。

「今日はどこに行ってるのかな。」

お茶の支度をしながら呟いていると、どうやら戻ってきたようで一応ノックをして入ってくる。

返事をする前に開けるのだから、誰かに見られるリスクを負うくらいなら部屋の中に来ればいいのに。

そう、一応女子フロアは男子禁制なのだ。
女子が男子フロアに行くのは、特に禁止では無いらしいが夜間は駄目らしい。
一度、金の壁紙を見せてもらおうと思っているので、今度昼間に頼んでみよう。

帰ってきた気焔からは硫黄の匂いがする。

もしかしてお風呂入ってきたわけ?朝風呂?

「気焔。朝から一人でお風呂に行くなんて、ズルい。」

私がちょっとむくれながら言うと、気焔は心外そうに返事をする。

「吾輩が風呂に入る訳がなかろう。ちょっとライオンとやらを確認してきたのだ。」

ん?ライオン君はもうチェック済みじゃなかったっけ?

よく分からないが、何やらお風呂に確認に行っていたようだ。
私はどうにかすれば朝風呂が出来ないか、考えながら身支度をする。

藍に頼んで髪をやってもらうと編み込みをして髪留めを付けた。

相変わらず、綺麗。

鏡で髪留めを確認しながらちょっとキラッと反射させる。
少し切なくなりながら、お茶を片付けてエローラを迎えに行った。



「おはよう?起きてる?」

最近、エローラを起こすのは私の役目だ。

エローラの部屋にはお洒落な目覚まし時計も完備されているのだけど、如何せん時計の時間がザックリなので目覚ましには不向きなのだ。

「お…………はよう。」

寝てても起こして、と言われているので寝ていたであろうエローラの部屋にそのまま入り、目覚めの一杯を入れてあげる。最近はそれが習慣だ。

私が用意した糞ブレンドを飲みながら朝の支度をするエローラ。
そんなエローラを横目に私は気になっていた事を聞いてみる。

「ねぇ。あのいけ好かないやつ、同じ選択だったら嫌じゃない?」
「ああ…………。あいつね。でもあれだけ解りやすいと、可愛いかもよ?見方によっては。」

「…………確かに。」

エローラの視点は目からウロコだったが、きっとエローラは最初の暴言を聞いていないからだろう。

確かにちょっと粋がってるくらいだったら、可愛いもんね。

少しカンナビーの事を思い出して、確かに解りやすいならそれはそれでいいかもしれない、と思った。
やっぱりエローラはいい事言う。

支度を終えたエローラと自分の部屋から気焔を回収して、私達は食堂へ向かった。

今日の朝ごはんは何かな?
ちなみにエローラは、もう私の部屋から気焔が出てきても突っ込まなくなった。

それはそれで…………何だろな。うん。





「そういえばさ昨日の「授与式」って、エプロンの授与って事だよね?なんかウケる。」

「まぁ確かに何か可愛いよね。」

そんな会話をしつつ、ウィールのビルに向かう。

相変わらず朝から橙色の空は、拡がる雲も橙である。
雨とか降るんだろうか、降ってきて橙の雨なら何か嫌だなと、つらつら思いつつ上を見て歩いていた。


遠くの橋の上を誰かが歩いているのを見て「一応人がいる」事を認識する。
まるで、生き物が住む世界とは思えないここは、ストレスが溜まったらどこで癒したらいいのだろうと真剣に悩む、私に優しく無い世界だ。
きっと休憩室の額を作った人もそう思ってアレを作ったに違いない。

いいお友達になれそうだけど、誰があんな凄いものを作ったんだろう?

ポン

そんな考え事をしているうちに、またあの部屋に着いた。

今日はなんて書いてあるかな。

「選択、見学」

ん?よく分からない。

とりあえず部屋に入ると、今日は私達以外みんな揃っていた。



「遅刻じゃないよね?」「うん。まだ大丈夫だよ。」

コソコソ言いながら席に座る。
チラリとリュディアが私達の方を見たのが分かった。

後で声掛けてみようかな?


丁度全員揃ったところで、リラが入ってきた。
リラは赤のリボンをしているので、青のリボンの朝と並ぶと可愛いだろうなぁと考える。
足元の朝を見ると、澄まして座っているけれど。

なんだかまじないの猫と化け猫の間に確執でもあるのだろうか。
エルとも仲良いイメージ無いしな…。


「皆さんおはようございます。今日は先生方の紹介と授業の紹介、行ける人は見学も可能です。今日から一週間、よく考え、見て、決めるようにして下さい。途中変更も出来ますが基本今年いっぱいは出来ませんので。」

ふむ。

確かに少しやっただけじゃ分からない事は多いだろう。ある程度まで進まないと、合う合わない分からなかったりするもんね。

「エプロンを付けていない人がいますが、ここに来る時は必ずして来るように。持って来ていますね?」

この中でエプロンを付けていないのはあいつだけだ。
そんなに嫌なのかな?と思っていたら一応持って来てはいたようで、付け始めている。
始めから付けなよ、と思ったけど黄色のエプロンが妙に可愛くて「確かに男子は嫌かもな…」とちょっと思った。

「気焔、白で良かったね…………。」

そんな私の意図を知らない気焔は「?」になっているけど、白だと普通のカフェエプロンなので、そう違和感は無い。

背が高いシャルムは茶のエプロンなのでそうおかしくないし、女の子はみんな可愛い。
ガタイのいいシェランが赤なのがちょっとアレだけど、薄茶の髪に合っていると言えなくも、ない。
イスファは優等生な柔らかい雰囲気なので、エプロン自体が似合っている。

なんだか考え始めると面白くなって来て、一人で笑っているとあいつがこっちを見ていた。

え。あなたの事、笑ってないですよ。

そう思ったけど「フン!」とエプロンの紐を結び終わって向き直るあいつは完全に誤解していそうだ。
面倒くさっ。


「おお、揃ってるな。」

その時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
ちょっと、悪戯っぽい黒い声。


ウソ。冗談でしょ?

ゾロゾロと入って来た教師陣の先頭にいたのは、なんといつもの様に不敵な笑みを浮かべているレシフェだった。




「なんで?知ってた?」

「ううん。聞いてないわ。でも怪しいとは思ってたけど。」
「え?どの辺が??」
「何か別れる時含みがあるな、とは思ってたけど。」

「ウソ~~~~。全っ然気付かなかったぁ~!」

何だか悔しくなって、朝と小声でやりとりする。

抱いて話してるので、殆ど聞こえていない筈だ。隣の気焔以外には。
気焔は知っていたのかどうか、澄まして座っている。


教師はレシフェ以外にも4人と、シュツットガルトもいて壁際にずらりと並んでいる。私達が先生を見ているのか、先生から私達が見られているのか微妙な感じだ。

レシフェだけが前に立っていて、話をするようだ。

何であの人が仕切ってるんだろ…。


しかしいつものレシフェとはガラリと空気を変えて、彼は話し始めた。

「今年入学の9名、おめでとう。ここは誰でも来れる所じゃないのは皆知っているな?」

シャルムとリュディアだけが深く頷いているのが、目の端に映る。

「狭き門をくぐり抜けて聖なる錬金術の街へようこそ。ここで何を成し、どう成長するかは全て君達次第だ。俺たちは方法は教えるが、それを消化して自分のものにし、力に出来るかどうかは全て自分次第だ。他人と競うのではなく、自分と戦い、自分のものにすること。」

「ここにいる教師は一部だ。研究室から出てこない奴もいるからな。とりあえずこれから一通り説明はするから、興味のある所に自分で行って決めるように。質問があれば教師でも、リラでも聞いてくれ。」

そう言うとレシフェはチラリと私を見て「パチン」とウインクして、いつもの表情になった。

折角いい事言ってたのに。台無しだよ…。



その後は教科の説明がずらりと続いた。

なんせ種類が一杯あるので、興味がありそうな所を上手く選ばないと色々見たのに結局選べない、なんて事になりそうだ。

今日来ているのは「まじない力・道具」のレシフェ、「薬学・ハーブ」のヘンリエッタ、「裁縫全般」のフローレス、「機械」のビリニス、「まじない石」のモンセラット、それに工芸系を取り仕切るシュツットガルトだ。

工芸系は種類が多くて先生も多ければ生徒も多いらしい。
それぞれの工房に希望者が行くのが一番楽なのだそうだ。生地生産や加工全般を学ぶシャルムはシュツットガルトに話を聞いている。

私はやっぱり…………レシフェな訳?陰謀?

とは言ってもウイントフークさんの陰謀だろうから、乗った方が良いんだろうけど。


ちょっと嫌々レシフェの所に行こうかと思っていると、エローラがフローレスの所にいるのが見えた。

そうだ!私もあそこだ!

逃げ道を見つけて、エローラの所に小走りで向かう。
その後部屋に入ってきた人影に、私は気が付いていなかった。




「先生、凄くないですか?」

「そうでもないわよ。出来ない事も多いわ?でも刺繍とレースはどちらも好きなのよ。」

そう話すフローレスは薄茶色の髪を綺麗にまとめ、同じ茶の瞳が珍しい穏やかなおばあちゃんだ。
確かに髪と目の色が同じは珍しい、と聞いてはいたがこうして改めて見るとあり得る組み合わせがこの世界では珍しいのだな、と再認識する。

そんなフローレスの茶の優しい瞳を見ながら、私は自分の希望を述べ始めた。

「私、修復したいものがあって…………。」

「修復なのね。縫製は他の先生もいるし、色々な縫い方も学べると思うわ。とりあえずその修復するものが見たいわね。」
「じゃあ持って行きます!先生は何処でやってますか?」
「服飾はそこまで増減が激しくないから、この建物よ。広い場所も必要無いしね。ここで粗方学べるわよ。」

「「やったね!」」

工業地帯で迷子になる危険を感じていたエローラと私は、2人で喜んだ。
道を覚えられる気がしなかったからだ。

エローラもフローレスと話し込み始め、私は仕方がない、ちょっとレシフェの所にも行かなきゃな………と思い振り返る。


見ると、何だかレシフェは人気者になっていた。

まぁまじないは大体みんなが選択するので当たり前と言えば、そうなんだけど。

シャルム以外の男性陣が皆レシフェの所にいるのでそこだけ賑わっている。
そんな中リュディアは私がそっちに行こうとすると、こちらへ歩いてきた。

そういえば裁縫もやりたいって言ってたもんね?

「リュディアはまじないの、何をやるか決めた?」

私がすれ違う時に話しかけると、リュディアは心底びっくりした顔をした。
立ち止まってはくれているが、言葉が出てこないようだ。

「あ、ごめんね?内緒だったら大丈夫だよ?」

そう言って立ち去ろうとすると、「ガシッ」と腕を掴まれた。結構力が強い。

「ち、…がうの。まだ迷っていて…………。」

「そうなんだ?まじないはどれも楽しそうだから迷うよね?分かる。とりあえず全般は取るにしても石も気になるし、道具は気になるけど私は作れなそう…………。」

一人でぺらぺら喋る私を見つめていたリュディアは、道具の話になると目を輝かせた。
道具に興味があるのだろうか。

「ヨル。おいでよ?」

部屋の真ん中に立ち止まっていた私達にイスファが声を掛けてくる。
リュディアは私にちょこっと頭を下げると、フローレスの所に歩いて行った。
それを見送って、私は呼ばれたみんなの方へ向かう。


「やぁ。勿論取るだろう?」

そう言ってニヤリとしたのはレシフェだ。

これ、知り合い設定でいいのかな?

隠す様子の無いレシフェを見ると、大丈夫なのだろう。
頷きながら集まっているメンバーをぐるりと見る。

黄色エプロンのあいつともう1人の黄色、女子力のレナがいる。

あ、変なあだ名付けちゃった…。ま、いいか。

声を掛けてきたイスファは赤、何だかレナのことを気にしているシェランも赤。

黄色と赤ばっかりだな?エローラも赤だから、赤が一番多いんだね。

「ヨルはまじないの中で、どれにするの?」

イスファがまた声を掛けてくる。
このコミュニケーション能力の高さは見習いたい。さっきからほとんどの子と話をしていて、既に彼がみんなと友達になっている事が分かる。

凄いなぁと思いながら、私はレシフェに訊ねた。
結局まじないって、何がどう分かれてるのか全然分かっていないからだ。

「まじないの中で、どう分かれてるの?レシフェ以外の先生は違うのかな?…………ん?さっき石の先生が居たよね?」

既に姿が見えなくなっているが、全身黒っぽい服のおじいちゃん先生が居た気がするんだけど。

キョロキョロする私を見て、レシフェは残念そうに言う。

「気が付いてたか。あの人は殆ど出てこないからな。今日はどんな気まぐれで来たんだか。意外と…。」

ん?意外と?

そこで話を止めてレシフェは私を見ている。

いや、ナイナイ。そんなにバレてないでしょ?無いって言って?

そんな私の疑問を置き去りにしてレシフェは説明を始める。

「さっきも説明したが、まじないの力全般は俺が教える。石の力の使い方や生かし方とかだな。道具も俺。まじない石そのものは、さっきのモンセラットだ。あの爺さんは恐ろしいくらいの石オタクだから、気を付けろ?あとは…………。」

また「気を付けろ?」で見たよね。
そんな見たらバレるじゃん。


軽くレシフェを流していると、急にあいつが爆弾を投げ込んできた。

「先生のそれって、呪い返しですよね?」

「まじない返し?」

イスファがあいつに質問返しをする。
すると得意げにあいつがベラベラと喋り出した。

「呪い返しって言うのは闇のまじないを使った時に自分に呪いとして跳ね返る事を言うんだ。あれだけ汚れていればかなりの事をしてる筈だけどな?何故先生なんてやれているんだ?ねぇ、先生?」

広い部屋が瞬間シンとした。

聞いてはいけない質問を彼がした事を示すように他のみんなも静まり返る。
あいつは、わざとみんなに聞こえるようにその質問をしたからだ。

なに?こいつ。


「それはあなたに関係ある事なの?」

「は?」

既に私は怒っていた。

そりゃレシフェは、だいぶ汚い事もしてきた。
でも彼だって考え無しでやった事でもない。

それを何も知らないあんたが、何故そう偉そうに断罪する?

「…………何にしてもここにいる事が許されているから教師になっている筈。人の見た目に対して、そう何も考えずに侮辱出来るあなたの神経の方を疑うけどね。ここはまじない力が強ければ、性格は難ありでも大丈夫なようですね?先生?」

「言い過ぎだ、ヨル。俺の事はいい。ベオグラードもそんな調子じゃ、女子に嫌われるぞ?」

レシフェがおふざけに転じて、その場はとりあえず収まった。

だけど、この件で決定的にあいつを敵認定した私は、顔も見たくないと思ってそっぽを向いていた。
思いっきり罵ってやりたかったけど、レシフェが何をしたか言う事は出来ない。
何かしたという事も言いたくない。

我慢した、私。偉くない?
あれ?

私は我慢したのを褒めて欲しいのと、愚痴りたいのと、イライラを吐き出したくて、何だか慰めてほしくて、気焔を探していた。

そういえばどこ?

いつもそばにいるのにいない。
あいつがいる時なんて特に私がすぐカッとするから、いつも見張ってたのに…………?

ぐるりと部屋を見渡し自分もくるりと回る。


ん?いたけど誰と話してるんだろう?

珍しい紫の髪の人と話をしている。

その人は後ろを向いているから男か女かも分からないけど、髪は長いが気焔より少し大きいから男性だろう。
青っぽいけど、確かに紫の髪。

珍しいな…。何の先生だろう?

じっと見ている視線に気が付いたかのように、彼がこちらを向いた。
くるっと。

何だかその光景にデジャヴを覚えたけど、そんな事より私が驚いたのは、彼の瞳が赤い事だった。


うそ。


え。うそだよね?本当に?本当のホント?
いや、違うかもしれない。
でも、絶対そう。
いや、多分そう。

…これで違ったら立ち直れないかも。


何で立ち直れないのか、そんな事は考える暇がないくらい私の頭は忙しかった。

え。どうしよう。
確かめる?確かめないと分かんないよね…。
でも違ったら!無理!ヤバい!
でも確かめないのも無理!


一人でわぁわぁしていると、いつの間にかその彼は私の隣に立っていて、しかも私の顔を覗き込んで「依る?」と言った。

その瞬間、私の涙腺君は旅立った。


滝のように出てくる涙に「どうしようどうしよう」しか考えられなくて、でも嬉しくて、何でここに居るんだろうとか色々思うのだけれどとりあえず嬉しいから何でもよかった。

流石に部屋の中には生徒と先生しかいないのに、滝のように泣いているのは目立つ。

彼はたっぷりとした袖で私を隠すように、通路まで連れて行ってくれた。

そのままだいぶ泣いてたと思うけど、そこはあんまり覚えていない。




少しずつ、我に返ってきた。

え。ちょっと恥ずかしいかも。

めっちゃ啖呵切ってたのに、その後ガン泣き。
いやいや、まずい。

バレてるかな…………バレてるよね…………。

でも、何で?レシフェは?大丈夫なの?
先生なの?もう全然分かんないけど、顔が上げられない…………。


抱きしめられてる訳じゃないけど、壁ドン状態なのは分かる。
紺の時より、少し背が高い気がする。

何で?

またその疑問がむくむく頭をもたげる。

あ、でもだから気焔や石たちが何も言わなかったんだ…。

下手な慰めも言われなかったし、責めもされなかった。私のせいで消えてしまった彼。
石たちは、消えていない事を知っていたのだろう。

気が付くと何だかスッキリして、上を見る。


そこにはラピスでの大人状態よりも、少しだけ大きい紫の彼がいた。
ちょっと大きさと色が違うけど、間違いない。
瞳が、同じ。

同じだ…。

目を合わせて同じだと意識すると帰ってきていた涙腺君がまたどこかへ旅立ったようで、また泣き始めた私を、少し困った赤い瞳が見つめている。

この姿でもあまり喋らないのかな?

そう思ったら涙腺君が帰ってきて、涙が止まり新しい彼に興味が湧く。
涙を拭くと、ちょっとドキドキしながら質問してみた。

新しい彼は、どう答えるんだろう?


「シン?だよね?」
「……………………。」

え。待って。またこのパターン?

すると彼はその私の顔を見てプッと吹き出すと、ちょっと笑ってから、「そうだよ。」と言った。

え。何これ。
それはそれでキャラ違いすぎない?

もしかしてチャラいのかと警戒した私を見て少し楽しそうに微笑んでいる。
その反応を見ると、レシフェっぽい感じはないので安心した。

あいつはチャラいからね。うん。


「なんで?先生なの?」

私のカタコトみたいな質問に答えてくれる。

「ああ。それが一番都合がいいかと思ってな。しかもまじないだ。」
「わぁ。絶対取るやつだ。」

喜ぶ私を見て嬉しそうだ。

でもなんで先生に?シンって死なないって事?

また私の頭が?になっている事に気が付いたのだろう。シンは人差し指を口に当て、しーっのポーズをする。
何となく、内緒なんだ、と納得して聞くのを止める。

とりあえずまた会えた、それだけで満足だ。…………。

いや、気になるのも事実だけど。
でも今聞くのは違うっていうのは、分かる。
その時が来たら、分かるだろう。 

そう決めるとスッキリして、「じゃ、戻ろうか。」と言って私は踵を返した。

すると後ろからぐいっと腕を引かれ、「えっ?」とよろめく。
そのままシンに寄り掛かったかと思うと、首筋に鈍い痛みが走った。

え?うそ?噛んだ?!
この人今噛んだ?

なになに?どーいうキャラになったの?え?
ええーーーーーー!!


訳が分からず真っ赤になっているであろう私を見てちょっと面白そうに笑っている。

悪い!今回のシンは悪いよ!やっぱり!




ちょっとプンプンしながら部屋に戻ると、もうみんなは帰ったか見学に行ったらしく、気焔とレシフェが待っているだけだった。

何だか仕方なさそうな顔をしている気焔と、絶対面白がってそうなレシフェ。

掘り返すのもいかがなものかと思ったけど、これだけは聞いておきたい。

この2人、大丈夫なの?

「ねぇ、レシフェ…………。」

その一言で私の言いたい事が判ったのだろう。
レシフェは答えてくれた。

「別にこいつを恨んでるとか、そういうのは無い。俺もやり方はまずかったからな。自業自得さ。それは約束する。…………その件では手出しはしない。」

「その件では?まだ何かあるの?」

そう訊き返した私に、ため息を吐くレシフェ。

なんで??

「…………。劇的に鈍いな、お前は。まぁそれはこっちの話だ。」

「ふぅん?とりあえず同じまじないの先生なんだし、仲良くしてよ?」
「いや、違うよ…こいつのはおまじない系の方。まぁ詳しくはまた説明するけど。」
「うん。正直ちょっと疲れた。。まだ話しか聞いてないのに。眠い…………。」

本当に頭がボーッとする。

泣き過ぎたのか、ちょっとふらついている私の手を気焔がいつものように取る。

とりあえず寮に帰らなきゃ…と眠気と戦っている私には、3人の間に流れる微妙な空気など、知る由も無かったのである。



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