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6の扉 シャット
入寮と授与式
しおりを挟む通常の入寮時期まで少し期間がある私達は、ちょっと近くの橋を渡りに行ってみたり、2階の額の絵が今日は何か当てっこしたり、フロアを分けてエレベーターさんに乗ってみたり、まじない寮の満喫をして楽しく過ごしていた。
「外に出てもいいけれど、あまり遠くに行かないようにね。」
そう母さんに言われていた私達は、近くのビルを探検したり、渡り廊下ならぬ渡り橋を渡ってみたりはしていたけれど、帰れなくなってもいけないので言いつけはきちんと守っていた。
特に私は気焔に注意もされていたし、一人で出かけてきちんと帰って来れる自信など、皆無だったからだ。
もうちょっと色が違ったり、看板があったりするといいんだけどね…………。
どれも同じような倉庫、ビル、工場が延々と立ち並ぶシャットを網羅している人など、いるのだろうか。
そんな事をやっているうちに、続々と寮生が入寮、もしくは帰寮してきた。
帰寮してくる上級生の中には勿論イオスの兄、イルクもいて、部屋は7階だと言っていた。
「上級生は上になる。でもみんな移動が面倒だから、基本入寮時の部屋にいる事が多いけどね。」
イルクは結構ここに長いみたいで、上に追いやられたと言っていた。
他の上級生は研究室にほぼ住んでいる様な人が多いらしく、「あまり帰って来ない」とも。
どうやら不在の人が多いみたいだ。
道理で食堂の札が、食べないの所に沢山あると思った。
そうして館内でチラホラ私達以外の人にも会うようになった頃、あいつに出会う事になる。
「邪魔なんだよ。この愚民が。」
ボソッと、呟かれた声。
私は声がした方向を瞬時に振り返った。
見ると、受付で母さんに取次待ちをしているエローラの後ろに、細身でグレーのサラリとした優等生カットの男の子が立っている。
今のは、あの子…?
見た目は優等生っぽい彼がその言葉を発したのかどうか確認する為、じっと私は見ていた。
少しイライラしたように順番待ちをしている彼。
「ちっ、」と言った瞬間、私は彼の横をスッと陣取った。
もし、次に何か言ったら現行犯にする為だ。
私のエローラに何を言ってくれてるんだ、こいつは。
ピリピリした戦闘モードの私が隣に発生したので、きっと何かと思ったのだろう。
彼は私の事をチラリと見た。
そして視線を戻すと、またチラリと見ている。
は?なに?
バリバリやる気の私はそんな気分で彼を、多分、睨んでいた。
グイッと手を引っ張られたのは、その時だ。
「あ。」
「何をやっとる。馬鹿者。」
つい「見つかっちゃった」の顔になった、私。
ちょっと眉毛が上がっている気焔にそのまま手を引かれ、食堂の椅子に座らされた。
「何、問題を起こそうとしている。何かあったのか?」
怒ってはいるけれど、心配そうな気焔に私は事のあらましを説明する。
エローラに吐かれた暴言を繰り返す事で、またイライラしてきた私。
話を聞いた気焔はため息を吐くと、また頭をポンポンして言った。
「気持ちは分かるが、依るがそいつにどうする事も出来んだろう?男だぞ?全くこのじゃじゃ馬め。」
「ごめんなさい。」と呟きつつ、いざとなったらとっちめてやろうと思っていた私は、やっぱり体術か何かやるべきかと本気で首を捻る。
でも、その話をじっと足元で聞いていた朝にこう言われてしまった。
「やめときなさい。あなた体育3よ。怪我して終わり。」
「いや、私だってやれば…………出来る、かもしれない。」
「何それ。」
冷たい朝にあしらわれ、とりあえずエローラが心配だった私はまた受付が見えるように食堂から顔を出す。
だが、廊下にはもう誰も居なかった。
大丈夫だったかな?エローラ。
実は、そうしていけ好かないあいつをプンプンしている所を、離れた所から見ている女の子が、いた。
私は全く気付いていなかったが、朝が後で教えてくれたのだ。
もし同じ学校だったら、気まずいじゃん!
いつもは温厚なのに、私。
そんな日もあったが、別の日はイスファに食堂で会った。
その日の晩ご飯を食べにみんなで降りると、先にイスファが食事をしていたのだ。
私は知ってる顔があったので、普通に近づいていき挨拶をして、同じテーブルに座る。
何だか気焔が「依る、」と咎める様な声を出していたけど、もう座りかけていた私はスルーする事にした。
「今日はここなんだね?お父さん元気?」
「ああ。君達は…………。」
今日はこの前いなかったエローラが一緒だ。
「彼女も一緒、新入生だよ。」と私が言うとエローラが自分で自己紹介する。
「初めまして。私はエローラよ。ヨルと一緒に来たの。私はみんなより少し、年上ね。」
そう言って笑っているが、シャットはどうやら学年と年齢は連動していないらしい。
連動、と言うと言い方がおかしいが普通同じ歳の子が同じ学年になると学校の感覚で思っていた私は、「それで職業訓練校なのか。」と納得した。
年齢、出身、その辺はバラバラで学びたい事を学びたい人がやってくる場所。
ピエロが言っていたけど、「学校」ではなく「生業」を学ぶ場所なのだ。
成る程だよね…。
そして食事中は他愛もない話をしていたのだが、とにかくこのイスファは感じがいい。
話題を合わせるのも上手いし、私達仲間の中に入っても殆ど違和感がない。
やっぱり次期跡継ぎともなると、コミュニケーション能力は必須だよね…なんて思っていたらやっぱり気焔はちょっと渋い顔をしていた。
嫌いなのかな?イスファの事。
まぁ何となくウマが合わない人っているしね…?
そんなこんなで、あっという間に入学式ならぬ「授与式」の日になったのだった。
「とりあえずここに水の時間に行ってね。遅れないようにね。」
母さんに前もって地図を渡されていた私達だが、私はすぐに地図を見る事を放棄して気焔に渡した。
無理無理。こんなの、分かりっこない。
その地図はビルを上から見た図なのだが橋が上下縦横無尽に走っている為、ものすごく難解な地図になっていた。
その橋が上にあるのか、下にあるのか記号が振られているのだけど絶対に見たくない。
いや、自分一人で行くんだったら頑張るけどどうせ私が物凄く時間をかけて解読しても迷うのに、気焔はきっとスイスイ目的地に着くからだ。
この人、実は地図が無くても行けるんじゃないか、と私は思っている。
当日の朝、少し早目に入り口へ集合した私達。
制服等もないので、いつもの格好だ。
初日こそ、5分前行動しなきゃね。うん。
「ねぇ。結構近かったね?」
「まぁな。少し橋の上下がややこしいだけで距離としては近いからな。」
「でも気焔がいて助かったよ。私もあの地図、サッパリ。」
エローラの言葉にガシッと手を握り合っていると、呆れた目を向けてくる気焔。
女子が地図苦手、っていうのは偏見だと思うけどこの地図は、無いわぁ。
ホント。
私達が地図を使って(使ったのは気焔だけだけど)辿り着いたのは、寮から程近い大きな煙突が2本立っているビルだった。
そう、ビルの上に煙突が2本。
気になってお風呂からよく見ていたから間違いない。
あ、そうそう、お風呂は無事、外から見えない仕様に変更されていた。
露天風呂をぐるりと広めに囲むように柱が立ち、そこにマジックミラーみたいな物が付いたのだ。気焔によると外からは見えないのだという。
中からは見えるので、きちんと露天の雰囲気は楽しめるとてもいいお風呂になっていた。
しかも温泉は日替わりで、湯の花が浮いている時もあれば、無色透明の時もあったし、勿論硫黄に戻っている日もあった。
日替わり温泉なんて、最高過ぎる。
そしてゆっくり楽しめるようになった露天。
本当に、不思議な寮には感謝だ。
そして気焔が女風呂に入れるかどうか問題は、やはり始めは入れなかった。
どうしても気焔が扉を開けると、同じお風呂に繋がらないのだ。
「まじないって凄い」と言っている私の横で、気焔は頭を抱えていたが私にはいい案があった。
「気焔、戻って?」
そう、腕輪に戻したのだ。
あっさり石になった気焔と共に女風呂に入り、露天へ行って確認してもらう。
入らなきゃ確認できないのに、何となく屈辱的な顔をしていた気焔を慰めながら無事見えなくなっている事を確かめてもらった。
そして出る時は普通に出れたから、良かった。
話は逸れたがその大きな2本煙突がある建物が、私達が行く学び舎の本部となっているようだ。
ビルの入り口には「ウィール」と書かれた看板がかかっていた。
これが名前なのだろうか。
扉を開けて中に入ると、誰もいないが矢印が書いてある紙が随所に貼ってあるのが見える。
矢印の道案内に沿って、私達は進んで行った。
途中の矢印が示す扉を開けると、それもエレベーターなのだと分かる。
みんなが乗ると、自動的に「20階へ行くぞ?」と言って動いた。
「20階?高いと思ってたけど、そんな所まで行くんだ?何階まであるんだろう?」
私の問いかけにエレベーターくんは答える。
ここは男の子の声だから、エレベーターくんだ。
「27階だ。」
「え。中途半端。」
そんな事を言っている間に「トン」と少し揺れて着いた事が分かる。
開いた扉からは「20」ではなく「授与式」と書かれた、大きな貼り紙が見えた。
「結構少ないね…………。」
ホールに集まってきた人を見ながら私とエローラはコソコソ囁き合っていた。
一番乗りでやってきた私達は、奥の辺りを陣取ってやってくる人達を眺めていた。
水の時間はアバウトなので、1人、また1人とやって来る子達をチラチラと確認する。
私達の様に複数で来ている人はいなく、みんな1人ずつ現れた。
そして、なんの順か分からないが決まっている席に着いていく。
私は気焔の隣だったのでホッとして座った。
エローラは知らない男の子の隣だ。
そして、私はあいつがいるのにも気が付いていた。
あの、暴言を吐いていたあいつだ。
そうして総勢9名が集まると、それが合図だったかの様に鐘が鳴る。
扉が開いて入って来たのは、シュツットガルトだった。
「ようこそ、生業の街シャットへ。ここはウィールという、皆が一緒に学ぶ所だ。年齢、出身地、色々な者がいるがここで大切なのは何を身につけて帰るか、という事一点のみ。成績の優劣もない、好きな所まで学ぶことができる。自分に必要なものを必要なだけ手に入れて帰る事ができる。仲間を認め、お互いの価値観を尊重して切磋琢磨するように。以上だ。」
「それと、ウィールの生徒の目印になるエプロンを配る。少し検査をしてから配るので、呼ばれた者から隣の部屋に入りなさい。」
簡潔な挨拶をして、シュツットガルトはその隣の部屋であろう扉へ入って行った。
シュツットガルトが見えなくなると、それに合わせたように白猫が入ってきた。
寮は黒でこっちは白ね…………。
そんな事を考えていると、白猫は順に名前を呼び始めた。
寮にエルが居るからか、白猫が喋り出しても誰も驚いていない。
1人呼ばれると、そんなに時間がかからず次が呼ばれる。次が呼ばれる前には、前の人が扉から出てきてまた元の席に座る。
そんな事を繰り返しながら、気焔が呼ばれた。
「大丈夫?」
小声で訊くと頷いて、扉へ向かって行った。
あの部屋で何をしているんだろう?気焔大丈夫かな??
部屋にいるのはシュツットガルトだろうから、おかしな事にはならないと思う。
しかし気焔は普通の人とは、やっぱり違う。
どうしても心配になるのは仕方がない。
じっと入って行った扉を見ていると、先に終わって出て来ていたエローラが「大丈夫。簡単よ。」と安心させようと話しかけてくれる。
すぐに気焔は何ともない顔をして戻ってきて、ホッとした。
「どうだった??」
「大丈夫だ。心配ない。」
シュツットガルトは気焔が石だという事は知っているのだろうか。
でもそれは今ここで訊くべき事ではない。
そうこうしているうちに、私が呼ばれた。
「ヨル。扉へ。」
「はい。」
自分の番が来ると、とりあえず何も考えずに扉を開けた。
するとなんだか空気がガラッと変わる。
そこは今まで普通のビルだったのに、急に古めかしい道具屋に迷い込んだかのような部屋だ。
少し小さめのその部屋にはシュツットガルトが一人で待っていて、まじない道具らしきものが壁際にズラリと並ぶ中にいる彼は、古い道具の一部のような気すらした。
本当に彼はこの不思議な古めかしい空間にピッタリ合っている。
多分最初にドワーフっぽい、と感じたのもその所為だろう。
そんな空気に浸っていると、自分の名前を呼ばれて我に帰る。
「ヨル?こちらへ来なさい。」
「はっ、はい。」
沢山の道具に囲まれたシュツットガルトの前にあるのは、ウイントフークの家で見たキラキラの水盤に似ているものだ。
少し、あれより小さくて三角帽子のような形をしている。
中に何か液体っぽい物が入っているのは同じで針はない。
それを手渡されると、私はそっとそのまま両手で持つ。
なんだか落としたら割れそうだから。
私はまた、それをゆらゆらして遊んでいた。
「ほう。」
シュツットガルトが、そう声を出す。
三角帽子は、水盤と同じようにキラキラを発してとても綺麗だ。
中の液体に発光体が入ったようにキラキラ光り出した三角帽子は、天辺がオパールのような乳白色の虹色になり、段々それが薄くなり、そして下部は透明のまま。
「面白~い。」
キャッキャと喜んで遊んでいる私を見ながらシュツットガルトは側の資料をめくっている。
特に終わりだと言われないので、暫くそうして遊んでいた。
「ああ、すまん。それを寄越せ。」
資料をパタンと閉じたシュツットガルトが私の方に手を差し出したので、どうやら終わりだという事が分かる。
私は三角帽子を差し出しながら訊ねた。
「これで何が分かるんですか?ウイントフークさんの所のまじない力を測るのと、一緒ですかね?」
「まぁ似たような物だ。」
そう言うと「待たせたな。戻っていいぞ。」と言われシュツットガルトはまた違う資料を漁り始めた。
この前「ウイントフークと同類」という事は分かったので、そのまま「失礼します」と私も扉を後にした。
「ではエプロンを配りますね。」
そう言って白猫は器用にみんなにエプロンを配っていく。
白猫がみんなの前を周りながら器用に配るそのエプロンはカフェスタイルの腰から下タイプの物で、それぞれ色が違っていた。
それぞれ、と言っても色分けのようになっていて
白 2枚
黄 2枚
赤 3枚
茶 1枚
青 1枚
という具合。
そして配り終わると自己紹介をする様に白猫は言った。
そして始めに「私の名前はリラ。ウィールの案内役よ。」とも言っていた。
自己紹介しろって言われても…………。
ぐるりと周りの子達を見渡す。
メンバーは気焔とエローラが同じ年くらいに見えて、後は皆私と同じくらいか、少し上に見える。
気焔とエローラ以外に男の子が4人、女の子が2人。男子のが多いね…。
でもここが家業を継ぐ為に来る人が多いならば、そうなのかもしれない。
ラピスでも女の人が継いでいる仕事を私はマデイラの洋裁店しか知らなかった。
ま、あそこはおばあちゃんが立ち上げたからまた別格だけどね…。
そう考えるとこの男女比率も肯ける。
こっちの世界でもまだまだ男性が仕事、女性は家庭というスタイルが根強いようだ。
そんな事を考えていると、業を煮やしたエローラが先頭をきって自己紹介を始めた。
みんながみんな、様子を窺っているのが見え、誰が一番に行くのか微妙な空気だったからだ。
そんな事は全く考えていなかった私は後からエローラが「俺が一番に行こうっていう男はいない訳?!」と息巻いていたのを聞いて、やっと気が付いたのだけれど。
「私はエローラ。洋裁とまじないを学びに来たわ。よろしくね。」
簡単に自己紹介したエローラは、隣の男の子に次を促す。
すると隣の子は少し驚いて、ちょっとオドオドしながら話し始めた。
「シャルムです。家が、生地生産をやっていて、生地に関わる全般を勉強しに来ました。…よ、よろしくお願いします。」
ホッとしたようにシャルムと名乗った男の子はスッと引っ込んだ。
でも彼は背が高いので引っ込んでも目立っていたけれど。ハーシェルを思い出す緑の瞳が優しくて、ちょっと気が弱そうだけど私は好感を持った。
偉そうな奴よりは、よっぽどいい。そう、次はあいつだ。
歩き方から偉そうなあいつは、勿論話し方も偉そうだった。
一体どういう育て方をしたらこんなに偉そうになるんだろう?どこぞの王子か?
そんな事を思っている私に気が付いていない、その男の視線にイラッとした。
「僕はベオグラード。まじない全般を学びに来た。まぁもうあまり学ぶ事も無いんだが、父上が行けと言うのでね。よろしく。」
うわっ。寒っ。
みんなの事をチラッと見てるけど、女の子を見る目がナルっぽくて、無理!
私が1人ゾワゾワしていると、彼が1人の女の子にだけ視線を投げないのが気にかかった。
その子は、ちょうどあいつの次だ。
喋り始めていいものか、あいつを気にしながら話し出す。
ん?知り合いなのかな?
「リュディアです。裁縫とまじないを学びに来ました。…………よろしくお願いします。」
静かな印象のリュディアは、紺色の髪が綺麗な女の子で背も高くてカッコいい感じだ。
エローラと並ぶとお姉様達っぽくていいかもな…。
勝手な妄想をしていると、次の人が話し始める。
次も女の子だ。
しかも、すごく綺麗な子。
「レナです。沢山学びたい事があって、どの授業を取るか迷っています。何か詳しい方がいたら、お話を聞きたいです。」
…………なんか語尾にハートが付いてる。
ちょっと男子にウインクでもしそうな感じで話しているレナは見るからに女子力が高い。
青い髪は天然か分からないけど綺麗にウェーブがかかっているし、少し明るい茶色の瞳はくりくりしていてとても可愛い。
このタイプの女子をこっちで初めて見た私は少し懐かしさを覚えた。
いや、ある意味あっぱれ。
どういう意図かは知らないが、本能的に彼女は男性を惹きつける術を知っているのだろう。
気焔だけは知らんぷりしているが、男子達はレナをじっと見つめていた。
これは、何か学んだ方がいいかもしれない。私も。
真剣に考えていると、足元にいた朝にやっぱり突っ込まれた。
「どうせすぐボロが出るんだから、止めなさい。」
はい。その通り。
すると次はイスファの番だ。
相変わらず優等生な態度の彼はにこやかに挨拶をする。
「イスファです。僕もどれを選択するか少し迷っています。授業で一緒になったら、よろしく。」
そう、イスファも言っているがさっきリラが説明した所によると、このメンツで何かする、という事は基本無く授業が一緒でなければ殆ど会わないらしいのだ。
寮で少し会うかな?という位らしい。
何だか寂しいが、あいつはいない方がいいのでまぁ仕方が無いだろう。
ニコニコしたイスファが場の空気を和ませた所で、またその空気をぶった切る男の番になる。
何となく斜に構えた彼は立ち方からしてそんな感じなのだがやはり喋ってもそんな感じだった。
「俺はシェラン。まじないを学びに来た。よろしく。」
ヒュウ。と言いたくなる自己紹介の彼は少しガタイのいい男だ。
体格がよく私よりも年上だと思うので男の子、という感じでは無い。しかしさっきからレナの様子をちょくちょく気にしているのが面白くて、私は彼に好感を持っていた。
きっと、悪い人じゃないはずだ。
まぁ感じからして、レナには軽くあしらわれていそうだけれど。
ちょっと含み笑いをしていると、次は私の番だった。
アワアワしていると、隣の気焔がスッと前に出て先に自己紹介を始める。
「気焔だ。まじないを学びに来た。よろしく。」
同じようなセリフなのに、気焔が言うと普通だな…。
私が首を捻っていると、今度こそ気焔に小突かれた。
ああ、ごめんごめん。
「ヨルです。服飾系と、まじないを学びたいと思ってます。よろしくお願いします。」
で、いいよね?
チラリと朝と気焔を見る。
2人とも頷いているので、大丈夫っぽい。よしよし。
全員の自己紹介が終わり、リラが片付けをしていて、特にこれから何か始まる様子もない。
さて、自己紹介も終わったし、解散なのかな?と思っていると急にあいつが騒ぎ始めた。
しかも、私と気焔に対して。
「お前達、どうしてエプロンが白なんだ。おかしくないか?」
「え??」
なに?エプロンの色なんて、関係あるの?
私達を指差してあいつは急にキツい声を出した。意味がわからない私は首を傾げ、エプロンを配ったリラの事を見る。
リラはさっきまで乗っていた台の上にまた乗ると、仕方無ないわね、という様子で話し出した。
「先程の鑑定の結果、こちらを配るように言われています。意義のある方はまたあちらのお部屋へどうぞ?ボスに直接お話して下さりませ?」
「フン!」
リラにそう言われて、素直なのか何なのか、あいつはまたあの扉に入って行った。
しかし、すぐ戻って来たけれど。
何だか「おかしい。絶対おかしい。」とかまだブツブツ言っているけれど、この場でまた騒ぎ出す事は無さそうだ。
でもエプロンの色は何で決まっているのだろう?実験のペアとか?でも人数が合わないよね?
拘っているあいつも気になるし、私はリラに聞いてみる事にした。
また難癖付けられても嫌だからだ。
「リラ、このエプロンの色って何か関係あるの?」
「はい。まじない力で決まります。見て分かるようにすると便利なのです。主に先生方が。」
「?」
「それぞれに合った課題が与えられるからですよ。力が小さいものに大きなまじないを扱わせようとしても無理ですからね。それぞれに合ったやり方を教えます。」
「成る程。」
確かに仕事でも色々な種類がある。
大きな力でドンとやった方がいいものから、繊細な力が必要なものもある筈だ。
効率よく教える為に、色分けされているようだ。
納得した私は気が済んで席に戻る。
一旦みんな着席して、その他諸々注意事項を聞いた後解散のようだ。
「今日はこれで終わりですが明日からすぐに選択に入ります。各々エプロンを着用してまたここに集まって下さい。水の時間に。基本授業は水の時間からですが選択によって変わってくるでしょう。」
「授業棟も選択によって違います。また決定後にお知らせします。では、解散。」
リラはそう言うとスッと台から下りて、立ち去って行く。
残された私達は、「じゃあ帰ろうか」と言って立ち上がった。
「一緒に帰ろうよ。」
「うん。帰ろう。」
イスファに誘われ、他のみんなもチラホラ帰り始めたので、私達もさあ帰ろうかとホッとした時。
振り返ると、入り口近くに誰かがいる。
それは、仁王立ちで私達を睨んでいるあいつだった。
げ。シツコイ。
私はつい「何なのよ?」と言いたくなったが、ぐい、と前へ出てきた気焔に遮られた。
気焔に睨まれたのか、ちょっと怖気付いたようなあいつはもう1人の背の高い女の子と一緒に部屋を出て行った。
あの子は…リュディアだっけな?
やっぱり知り合いなのかな?
でもリュディアが私達に向けていた視線は「申し訳なさそうな」感じだった。
何だろう、あいつの監督役なのかな?年上っぽいし。
そしてあいつと頭の中で呼び過ぎて、あいつの名前を覚えていない自分に気が付いた。
いや、要らないよね名前。うん。
いかんいかん。
妙に敵対心を持ってしまった自分に対して我に帰ってブレーキをかける。
そんな事、気にしなくていい。
私、勉強しに来たし。そうだよ。
気を取り直して扉へ向かっているみんなを追いかける。
気焔はそんな私をちょっと呆れたような目で見ていた。きっと、また暴走しそうだと思っていたに違いない。
まぁ、あながち間違ってはいないけど。
でも、悪いのは私じゃないと思うけどね?
あいつがこれ以上絡んでこなければいいのだ。
うん。
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