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5の扉 ラピスグラウンド
中央屋敷と白い部屋
しおりを挟む「……………という訳です。叔父上。」
私は事の顛末を話し終わると、目の前に出されたお茶を一口飲んだ。
こんな話でもグロッタはタイミングを選ばずお茶を出してくる。流石だ。
フェアバンクスの反応を見ながら、私も考えを巡らせる。
明らかに憔悴している様子だが、一体何に対しての反応なのだろうか。
そもそも、後からウイントフークから聞いた話だとシンは元々屋敷の子供ではなかった。
「ヤバいレベルのまじない石で、ヨルを目的に何処かからやって来た」らしい。
「関わらない方がいい」とも言っていたがそんな訳にもいかない。
流石の私もそこまで知らないふりは出来ない。
多分、フェアバンクスはシンの事を可愛がっていたと思うからだ。直接見たわけではないが、目や話し方で分かる。
子供を持つ親として、子供が急にいなくなってその原因を知っているのに、知らないふりをする事は出来ない。
やはり、話を聞き終わった彼はかなり疲れていた。
ヨルが目覚めるのを待って屋敷に来たのでシンがいなくなってからも既に4日経っている。
子供を心配するには十分過ぎる、時間。
私なら耐えられない。
深い、深いため息を吐いて手で軽くグロッタの退室を指示すると、フェアバンクスは深く一人がけのソファーに沈み込む。
そして徐ろにこう言った。
「なぁ、ハーシェル。…………申し訳なかった。」
「?!?」
一瞬、何を言われているのか分からない。
手を組んで首を垂れている彼の様子、屋敷の空気。
一体何が変わったのか。
確かに屋敷に訪れた時から何かが違っていた。
何かは、分からなかったけれど。
「レイテの事だ。あれの指示を出したのは私ではないが、容認したのは私で、同じ事だ。…何も解ってなかった。何もな。こうなるまで、ずっと、何も疑ってなかったんだ。」
「…………何が、起きたんですか?」
「私の体調がしばらく良くなかったのは知っていただろう?あれは薄く、薄く長い事………カンナビーを使われていたことが分かった。」
「は?本当ですか?」
それは予想外だ。
何の為に?誰が?
「本家の指示だろう。特に何の疑問も持たずに指示通り全てをこなしてきた。それが当たり前だと思ってきたし、そう育てられてきたからな。しかし…………だからと言って、それでいいかと言うとそれは違う。お前は先にそれに気が付いたな?」
その問い掛けにグレーの瞳を見ながら、ただ頷いた。
「まだ私も頭が混乱している。…シンが居なくなって、方々探したり忙しくしているうちに家で過ごしていない時間が増えた。すると…………判るようになってきた。誰が何に、何を、入れているのかをな。」
チラリと送る視線の先で、フェアバンクスにカンナビーを盛った犯人が知れる。
グロッタで間違い無いだろう。
私だけでなく、フェアバンクスをも監視していたのだ。そのまま小声で彼は続ける。
「気が付いたんだよ。矛盾に。ソフィアは何度か妊娠しているが、子供が生まれた事はないのだ。死産含めてな。…………シンはどこから来たのだろうな。」
違う。それはデヴァイの策略では無い。
言うべきか。言わぬべきか。
しかし…………。私は話す事に決めた。
そう、できる事は、する。そうするべきだ。
話をしてフェアバンクスが街を良くする方向に持って行ってくれれば、という打算も、勿論ある。そうなるならば最高だ。
協力者は多い方がいい。
フェアバンクスが味方になればラピスを守り易くなる。
何と言ってもこれから立ち向かう敵は、一筋縄ではいかない相手。
一族の味方がいるに越した事はないのだ。
「叔父上。これからどうするつもりですか?このまま…………。」
「いや。私は気が付いてしまった。それを無かった事にすることは出来ないし、……悪だろうよ。全ては本家の手のひらの上。ここラピスの中央が一代限りの入れ替えなのも、奴等の差し金だろう。ずっとずっと、昔からのな。道理で、な…。」
「…………。」
「少し疲れた。私も歳だしな。お前の様に若ければ、デヴァイの扉も叩けるだろうが。…………やるのか?」
初めてきちんと素の彼と向き合っているのだろう。
私の目を真っ直ぐに受け止めるフェアバンクスに、もう以前の雰囲気は無かった。
グレーの瞳に浮かぶ静かな光に応える様に、話す。
「ウイントフークの所に、シンは出入りしていました。知ったのは偶然だそうですが、シンはうちの子を守る為にラピスに来た「何か」です。叔父上たちの記憶を弄って入り込んだのでしょう。ヨルを守って消えましたが…或いは。」
少し目を大きく開いて、驚きの色を宿したが同時に安堵の色が見えた。
きっと、シンは消えていない筈だ。
フェアバンクスもそう思ったのだろう。
促されて話を続ける。
「そもそも彼女は予言の少女だと、私とウイントフークは思っています。今まで予言に対しては迷信かと思っていましたが、符合する事実が増え過ぎました。今は彼女を助けて、とりあえず本人の為にも、本家から隠す為にも、春からシャットに行かせる予定です。」
「…そうか。あれが守った娘か。…………許可証は出そう。」
「ありがとうございます。後は今回の主犯ですが。彼は殺さずに協力させます。…………今までグロッシュラーに伝手は無かったので、利用します。それで、ラピスからも貴石を送らなくて済むよう偽装させるつもりです。」
ここでじっとフェアバンクスの反応を見た。
少し楽しそうに私の計画を聞いていたから。
彼の変化が良い方向に向かっている事が判る。
「出来る事があれば手伝おう。きちんと報告しろよ?あくまでこちらからシャットへの表向きは変えずに行くからな。怪しまれる訳にはいかない。連絡手段も考えた方がいいな。ハーシェル…やるからにはラピスがかかっていると思え。承知だろうがな。」
「はい。ありがとうございます。」
キラリと光るフェアバンクスの目に中央屋敷の長の光が戻る。
こうなれば、もう大丈夫だろう。
幸いにもまじない道具が得意な奴が揃っているのだ。それを使わない手はない。
あの二人がいれば殆どの道具は作れるだろう。
それをフェアバンクスに提案し、約束する。
盗聴防止の道具も頼まなくては。
あまり長々と詳細を話していると怪しまれる。
私達は暗黙の了解で扉を見ると、最後にフェアバンクスはこう言った。
「妻だけは、自分で選んだ。ここでな。上手く本家に認めさせたと、思っていた。しかし奴らにとって私の妻などどうでも良い存在だった。子供は全て殺すのだからな。ソフィアは心を病んでいる。その所為で。…………私が本家に戻る事は無いだろう。」
初めてラピスに来た際に挨拶をした。
しかしそれ以降、彼の妻の姿を見た事がないのを思い出す。
私は何を言うべきか、全く思い付かなかったがヨルが創った泉の事が頭に浮かんだ。
気休めになれば、と思い勧めておく。
「うちの子が創った泉が森にあります。白の浸出を止めている筈です。視察がてらに一緒に行ってみたら如何ですか?気持ちが少し落ち着くと思います。」
いずれ、森の把握も必要だろう。
わたしの少しの心配を察したのか、森に手出しはしないと約束してくれ「落ち着いたら立ち寄りたい」と言っていた。
長期に渡ってカンナビーを使われていたので、やはり回復には時間が必要だろう。
詳細は盗聴防止の道具が出来てから、という事にしてフェアバンクスの屋敷を後にする。
ただ、ヨルの事は「シャットに行く前に一度連れて来なさい」と言っていた。気焔が承知するといいが。
久しぶりに、いや初めてかもしれない。
中央屋敷から清々しい気分で家路についた。
ヨルが「中央屋敷の事はどうなりましたか?」と気にしていたので、その日の夜、話をする事にした。
あれから明らかに元気がないヨル。
仕方が無い事だとは思うが、心配だ。
何かいい手はないものか。
とりあえず話をする時用にクッキーは買って置いてある。これで少しは元気が出るといいが。
「どうぞ。」
今日は私がお茶を入れる。
ヨルが来るまでは自分で入れる事も多かったのでそこそこ上手いと思っている。
ヨルの好きなカップで入れて、おやつも付ければ完璧だ。
暖炉の火も丁度良く燃え、ゆっくり話が出来る。ティラナも早めに就寝した。
最近、やはり疲れている。みんな。
「ありがとうございます。で、どうでした?」
今日屋敷に行っていたのを知っているので、夜までヤキモキしていたのだろう。
ヨルはすぐに本題に入った。
「うん。結果的に言うと、丸く収まったよ。協力してくれる事になった。まだ多少時間はかかると思うけど、ラピス自体が、いい方向に行くと思う。」
「良かった…………。」
ヨルはまた涙が出てきた。
元々涙腺は弱い子だが、あの事があってからどうやら自分でもどうにも出来ない様だ。
「ごめんなさい、気にしないで下さい。」
見ていて痛痛しいヨルの姿に、すぐそこにいる気焔に目を向けた。
私の視線の意味を察したのだろう、頷いて「裏技を使おう」と言った。
何の事だかは分からないが気焔に任せておけば大丈夫だろう。
私は頷いておく。
「やはり親として黙っている事は出来なくて、フェアバンクスにはシンの事は伝えたよ。元々フェアバンクスの子じゃ無かったんだ。ヨルを守る為に来たんだからね。それなら石になってもまだ救われるだろう。しかも多分…………。」
話の途中だったが、それを聞いた途端ヨルが泣き止んで急に立ち上がった。
青い瞳が、まん丸になっている。
眼鏡をかけていないヨルの瞳をまじまじと見るのが久しぶりだな…と思っていると、また涙が青い瞳から凄い勢いで出てきた。
何事だ?
「え?どういう事ですか??中央屋敷の子じゃない??私を守る為に来たって…………え~??聞いてないよ~~~。」
そのままわんわん泣き出した。
そうか。…………ヨルは知らなかったのか。
私は後から聞いたが、ウイントフークなんかは初めから知っていた。
シンが他所から来た事を。
不思議な存在な事も分かっていたのできっと私達はシンは石になった訳ではないと思っているけど、ヨルは違うのだ。
きっと、中央屋敷の子供が自分を庇って亡くなった、と思っているに違いない。
涙の意味に合点がいった私は「だから大丈夫だよ」と言ったが、ヨルには多分全く聞こえていないだろう。
全く泣く勢いが衰えない。
こんなに泣く子は、初めて見た。
困り果てて気焔を見る。
気焔はため息を吐いてヨルを抱えると「何とかしてくる」と言って2階へ上がって行った。
今日はお開きだな。
次にヨルが降りてくる時に笑顔ならば、それでいい。
私は1人でゆっくり残ったお茶とクッキーを楽しむ事にした。
やっぱり美味いな、これは。
「私、もう見ていられないわ!早く行きましょう。」
「まぁ…」
「そうよ。わたしに涙を止めてなんて、なんて事をお願いするのかと。胸が痛すぎて割れるかと思ったわ。」
「だから…………」
「このままでは姫様の心が壊れます。先に行きましょう。」
「だ、か、ら、」
「あの青の石で行けるんじゃないですか?」
「吾輩の話を聞けっ!!」
「はい、みんな落ち着いて。気焔の話を聞いて。みんなが力を合わせないと行けないでしょう?」
「そうだ。朝どのの言う通り。今、青の石を持って参るから少し大人しくしておれ。全く…………。一応これも持って行こう。」
「そうね。長老に預けたら?」
「それは名案。流石だ朝どの。ではいざ行かん!」
「むしろ懐かしいわねそのセリフ。フフッ。」
「…………る!依る?」
「起きないわね。」
「眠り姫ですな。」
「ふざけてる場合じゃないわよ。消耗し過ぎね。気焔…………じゃないわね。ちょっと呼んでこれる?」
「吾輩も消されたくないからな。ちょっと待っておれ。」
「声を掛けてください?」
「名前、呼べますか?少しずつ起こして下さい。きっとビックリします。」
「もういっその事、揺さぶってもいいわよ。」
あ、この乱暴な事言ってるのは朝だね。
決まってる。
何だかふわっとしたあったかい物に包まれてる感じがするけど、いつの間にベッドに戻ったんだろう?
ていうか、ちゃんと部屋まで帰って寝たっけ?
でも気持ちいいから起きたくないなぁ。
起きても楽しい事…………いや、あるんだけど。
また泣いちゃったら嫌だもん。
もう少し、寝ていよう。
「いい加減にしろ。」
あ。ヤバい。これ気焔が怒ってる時の声。
あの目はヤバい。
仕方がない。起きるか。
怒られないように、そうっと目を開ける。
今起きました、という風に。
そして私は見覚えのある姿を、目にした。
石になった筈の。
白い、彼。
?、????夢?
一度目を閉じる。開ける。いる。閉じる。
開ける。いるな…………。
「なんで…………?」
「また、と言ったであろう?」
その言葉を聞いた瞬間、また涙がどっと出てきた。
え?なんで?何が起きたの??
目の前にいるのは間違いなくシンだ。
白い光と共に、石になってしまった彼。
どうして?どうしてここにいるんだろう?
そして私は気が付いた。
実はシンに抱き抱えられている事に。
そして、ここは白い部屋だ。
「え?帰って来たの?」
「いや、もう途中で一回離脱したのよ。どうせすぐ次の扉だし、前倒しね。本当は無しなのよね?」
「まぁ明確なルールなどがある訳では無いからな。構わんだろう。依るの為にはその方がいいと、全員一致で決定したのだ。」
朝と気焔が話すのを聞きながら、また周囲を見る。
最早懐かしの白い部屋。
扉が相変わらず並んでいる。
何だかこの景色がひどく落ち着くな…。
視線を戻してシンを見ると、少し違う事に気が付いた。瞳が、違う。
赤だけじゃなくて虹彩が金のあの、塔で見た時のシン。
それって…………。
「もしかして…………シンラ?」
私の言葉に彼が、ちょっと笑う。
ホントに、本当にちょっとだけど。
その笑顔を見て私は心臓が止まりそうになった。
いや、大丈夫だけど。
ビックリした。自分に。
何だか心臓がバクバクするので、とりあえず起き上がる。
涙が引っ込んだのでちょっと袖で顔を拭って、シンラに向き直った。
あの、人形だった彼ではなくてかなり人っぽくなっている。ぽい、と言うのは何となく薄いのだ。存在が。
一応私を抱えてはいるのだけれど、ちょっと薄い。
どうなってるんだろ?そして、この手は離れないのかな??
彼に囲われている形の私はちょっと身動きが取りづらいけれど、介抱してくれていたのは分かるので邪険に出来ずそのままにする事にした。
何だかまだバクバクするけれど、シンラがシンだ、という事に安堵したので心臓の煩さよりも、安心の方が大きい。
とにかく、良かった。
…………安心した。
心から安堵して、今までの重石を全部下ろしたような気になって、とりあえず居心地のいいここに留まる事にした。
シンラに凭れて暫しボーッとする。
そういえばやっぱり扉の中ではシンラの事は思い出さないんだ…どうしてなんだろう?
まぁいいけどね…………とりあえず無事?だったんだし。
「はぁ~。」
「温泉じゃないのよ。」
朝の突っ込みも気にならない。
だって、シン、石になってなかったもん。
大丈夫だったもん。
ん?でもどういう事だろう?
答えてくれるかちょっと不安だけど、訊いてみる。
今聞いておかないと、後で後悔しそうだから。
「シンは?シンラだったの?シンはシンなの?居なくなっちゃった?」
顔を上げてシンラに訊ねる。
少し考えて、彼は答えてくれる。
「あれは、気焔と同じようなものだ。この石だ。今は、この中。」
そう言って彼が指したのは彼の腕に嵌められている私と同じ腕輪。
ただし、嵌っている石が違う。
お揃いだな?なんで?
「これは対だ。私は直接行けないから、石を行かせる。気焔は気焔だが、私の石は私だ。」
うん?分かったような、分かんないような…………。
シンラの石はシンラで、とりあえずこっちの腕輪は…個性派揃いって事かな。
じっと私が自分の腕輪とシンラの腕輪を見比べていると、朝が言う。
「依るの状態があんまり良くなくて、このままじゃ干からびるんじゃないかと思って。これで安心したでしょう?」
「どうせ6の扉へ行く際、通るのだがそれではちと遅いだろうと判断した。」
「そう。多分エローラと一緒だしね。すると、依るだけここに来るわけにも行かないし、丁度良かったのよ。」
それはそうかも。
確かにエローラと一緒に行く事になっている。1人だけ寄り道は出来ない。
「成る程。」
そう言って私はまだまだ充電すべく、シンラに凭れる。
「あ。」そうだ。
さっき、シンラの腕輪にあの青い石があるのを見つけた。
きっとそうだ。
いい事を思いついて、気焔を見る。
もしかして気焔なら持って来てるかもしれない。
「気焔?」
「どうした?ああ、持っている。」
私の顔を見て察するなんて、さすが。
ベイルートの石を差し出す気焔から受け取り、シンラに訊いてみる。
なんか、いい方法ないかな?
手のひらの石を見せながら訊ねる。
「どうかな?」
「ああ。4の扉に頼むか。」
ん?カエル長老かな?
そう言うとシンラはちょっと腕輪を触って、ふわっと少しピンクのシンラを出した。
少し小さくて、前に見た子供のシンみたいな感じ。ちょっと可愛い。
「う、わ。」
驚いている私をそのまま、ピンクのシンラが玉虫色の石を受け取り4の扉へ入って行った。
驚いたまま見送った私は、興味津々だ。
「ピンクもいいね?長老の所に行ったの?」
「ああ。あそこなら輪に返してやれるだろう。」
そうだ。気焔がナズナも生まれ変わるって言ってた。
ベイルートさんも、そうかな。
いつか玉虫色の髪の子供に会えるかな?
わくわくしながらちょっとじんわり目が潤んだところで、お開きの声が聞こえた。
「さぁ、そろそろ終わりだ。あまり長居は出来ん。帰るぞ。依る。」
気焔に促されて渋々シンラの所から立ち上がる。
名残惜しいが、もう行かなければならないようだ。
一緒に立ったシンラを見上げてもう一度確認する。
良かった。いる。大丈夫だ。
また、私は旅立てる。
頑張れる。
「行くぞ、依る。掴まれ。」
差出した気焔の手を取る。
シンラを振り返るといつもの無に近い表情だったけど「また。」と言っていたので私も「また!」と言って、気焔に抱えられた。
「んん…………。」
あれ?また寝てた?
どうやらここは私のベッド。
向かいにはいつものように気焔。辺りは暗い。
夜かな?
ハーシェルと話していたのはぼんやり覚えているが、部屋に帰って来たのは覚えていない。
気焔がまた運んでくれたのかな?
きっと目を瞑っているだけであろう、石の顔を見る。
でもこうやって寝ているうちに本当に寝るようになるかもね。フフッ。
何だか、気持ちが軽い。
ハーシェルと話してスッキリしたのだろうか。
そうかもしれない。シンが、中央屋敷の本当の子じゃない、って話だったんだ、そうだそうだ。
それで少し安心したんだった。
でもシンがいない事には変わりがないんだけどね?
自分の落ち着きの原因が分からずにしばらく考えたが、やっぱりよく分からないので辞めた。
スッキリしてるなら、いっか。
布団の中でも空が白んできたのが分かる。
もうすぐ朝だ。何だか気持ちよく目覚められそう。
そう思って、久しぶりに朝風呂しよう!と思い立ち支度をする。
火箱を付けておいて、出てから寒くないようにする。朝から癒されるようオイルも持って…………。
きっと起きてるであろう気焔に「覗くなよ?」と悪戯っぽく言ってから、洗面室に入った。
「あー、サッパリした!」
お風呂から出ると程よく暖まった部屋に戻る。
一番寒かった時期は終わり、少しずつ春に近づく時期。夜明けは少し早くなり、朝の冷え込みも緩んできた。
久しぶりの爽やかな朝に浮かれた私は、ルンルン髪を乾かす。
ウイントフークが作ってくれたどらいやーだ。
何だかリラックスしたくて、髪を結わずに朝のティータイムにする。
「藍?ごめんね、この前は。あんな事頼んで。」
「依るが元気になったのなら良かった。泣く事は、悪い事じゃないのよ。」
そう言って今日もお茶の支度を手伝ってくれる。
ゆっくりと、お茶の葉の広がる香りを楽しんで、ゆっくり飲む。
あー。さいこう。
因みに今日はルシアの所のハーブティーだ。
糞は無くなってきたので、もらいに行かなきゃ。
そうしてハイテンションになった私は「いい事思いついた!」と気焔に向き直る。
すると何だか仏頂面の気焔がいる。
「?」
私が首を傾げて近づくと、「人の気も知らんで。」とブツクサ言っているので、その辺は無視しよう。うん。
「ねぇ。お願いがあるの。」
「なんじゃ。嫌な予感がするが、言うてみい。」
「森に行こっ!泉に行こう!!」
「ハァー。」
溜息をついた割には行く気はある様だ。
まだ早朝なので、このまま出かける事にする。
ローブだけ羽織って、女神バージョンだ。
ちょっと行って、癒されて帰ってこよ!
「よっしゃ、レッツゴー!」
「全く。」
まだブツブツ言ってはいるけど、目が優しい。
しょうがなさそうに私を引き寄せると、綺麗な黄色の炎にそっと目を瞑った。
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