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5の扉 ラピスグラウンド
冬の祭り 2
しおりを挟む「ね!凄くない???!」
確かに。
そう、それは確かに凄かった。
他の追随を許さない出来の人形が、一体。
全部で何体あるだろうか、人形だけで20体はあるかな?その中で一際輝いている、陶器の人形。
言われなくても分かった。ロランのだ。
私もカップを作ってもらっているので、同じ人の手だという事が分かる。
向いている石持ち職人の本気、ハンパねぇ。
確かにね、確かに。
これ持って告白なんてされたらOKしちゃうかもしれない、って言うエローラも分かる。
分かるけど、付き合うかどうかってなると違うじゃん!いや、悪い人じゃないと思うけど。うん。
腕のいい職人だし。一途になるなら問題ないし。
ん?待てよ?私まだ告られた訳でもないな?
でも、もしこの場で言われてしまったら断りづらい。それだけは、確実だ。
噴水の周りにはぐるりと飾り台が並べられて、夏の祭りと同じように供物と人形、服が順に並べられている。
飾り台を囲むように柱が立てられ紺と白の飾り付けをされて台に乗る人形達は様々だ。
そして、ロランの人形には人だかりが出来ていた。
確かにあれは一見の価値有りだもんね…。
見てるだけなら最高のイベントなのだが、自分が当事者になるとなると話が違う。
でも、人形と服は見たい。
エローラの陰にコソコソ隠れながら、「ちょっと一周して見ようよ。」と促した。
エローラもあの人だかりの中に入る気は無いようで、「そうね。服の方も見たいし。」と賛成してくれる。2人で服の方から見る事にした。
1人でじっくり見るのもいいが、エローラなら2人でアレコレ言いながら見た方が楽しいに決まっている。
私達はコソコソと移動した。
女の子の集団の中から、噂話が聞こえてきたからだ。
「え!そうなの?」
「これは…………だよね。」
「え?ヨル?誰それ?」
ヤバいヤバい。
私はまだラピスでは知られていない。
ロランの想い人、と言うだけでも「誰?」となっているのに知らない子だから尚更らしい。
どこのどいつだ、みたいになってるのかなぁ。
「これ見つかるとヤバくない?」
「そうかも。ちょっと人形の出来が良すぎたね。嫉妬の対象になっちゃうとまずいな。」
エローラは少し考えて、私を隠すように歩く。
女の子集団が見えない所まで来ると、私達はほっと息を吐いた。
「まぁ悪いことしてる訳じゃないから隠れなくてもいいんだけどね。ヨルは目立ちたくないんでしょう?」
「うん。ロランには悪いけど、会わないで済むならそうしたい…。ここじゃ断りづらいよ。」
「断る前提なのね。」と言いながらもエローラは私の意見を尊重してくれて、私を少し隠しながら2人で服のコーナーを見る。
何だか人形より服の方が多い?
「ねぇ、服の方が多くない?」
「そりゃそうよ、ヨル。毎年男女差はあるわよ。だから今年はいい男争奪戦よ!」
「…………。」
何だか熱くなってきたエローラは置いといて、私はずらっと並んだ服を見る。
ホントにいっぱいある!色んなのあるなぁ~
あ、あれなんて凄い可愛い!私ならこの人と付き合いたい!あ、あれもいいな。
ん?あれは…………
「エローラのもあるね?」
見た事のあるモノトーンの服。
しかもケープもプラスされてグレードアップしてるし。
「勿論!もしかしたら、出会いがあるかもしれないでしょ?もしダメなら来年あっちで探すわ…。ヨルも来年以降かしらね…。」
ちょっと遠い目になりながら呟いている。
すると向こうの方からハーシェルがやってくるのが見える。
今日はなんかビシッとしてるな?と思ったらお父さん正装してる!カッコいいな。
白の詰襟みたいなジャケットを着たハーシェルはいつもよりキリリとしていて、とても格好いい。普段は心配性なお父さん、というイメージが強いので(私だけかもだけど)新鮮だ。
「わぁ、格好いいです!ハーシェルさん。朝からお疲れ様です。温かいもの差し入れしますね。」
「ありがとう、ヨル。でも大丈夫だよ。ここにまじないがかかってるのは聞いただろう?エローラもこんにちは。」
ハーシェルはエローラと顔見知りではあったらしい。
2人が挨拶しているうちに周りをキョロキョロすると、だいぶ時間が経っていた事に気が付いた。
みんなご飯食べてる!
「ヤバい。エローラそろそろ戻らなきゃ!」
「あ、そうだった。すっかり見入ってたね。じゃあハーシェルさん、また。」
私もハーシェルに別れを告げ、店に2人で急ぐ。
でもお弁当を買うのは忘れない。
そして私達2人が急ぎながら戻ると、ラブラブな2人が仲良く店を回していたので2人に甘えて裏でランチする事にした。
「大丈夫だったね。」
「うんうん、仲良しが1番だよ。」
「ところでヨルは夕方からどうするの?一緒じゃなくて大丈夫?今日はおばあちゃんに帰って来いって言われてるんだ。夏にダメになったばかりだから、あんまりガツガツ行くなってさ。」
ため息を吐くエローラ。
その言い方にクスクス笑っていると、エローラが小声で「誰かと約束してるの?」と聞いてくる。
うーん。一応?
「一応うちの保護者達から派遣されてるけど。付き添い係。でも何時頃来るのか分かんないんだよね…。」
私達は遅めのランチをしている為、今はもう青の時間を過ぎ、橙に入る頃だ。
お店を閉めるのは赤の時間。冬の夕暮れは早い。
お天気次第で多分1時間は前後する。
店が閉まる時間ははっきりしていないのだ。
「ま、もし間に合わなかったら気まずいけどあの2人に一緒に待っててもらうよ。」
「そっか。でも気になるなぁ。それってハーシェルさんとウイントフークさんがOK出してる人って事でしょ?どういう関係?」
「…………うーん。正直私も詳しくは知らないんだよね。悪い人じゃないと思うんだけど…。ウイントフークさんは、助手のようなもの、って言ってたけど。あ、あとコレをくれた人。」
髪留めに手をやる。そして私の手の方向へ目をやったエローラはそのグレーの瞳をまん丸にした。
目がまん丸になると、実は茶色が目立つなぁ。
そんな私の感想を掻き消すように「ちょ、ヨル…………。」とエローラはちょっと怖い勢いで髪留めを見つめている。
なになに、怖いよ?
深い深いため息を吐いて、エローラは私の両肩に手を置いた。
ちょっと力がこもりすぎじゃなかろうか。
「ヨル。あなた、この人に決めなさい。どうして黙ってたの。こんなのくれる人がいるなんて。まさか…………気付いてないの?…ウソでしょ?」
段々愕然とした表情になるエローラの顔が面白い。
そんな私を見てキッと表情を厳しくすると、
「悪い事は言わないわ。これを逃したらもうこれだけの大物がかかるかどうか…………。ちょっと見せて?」
どうやらモノ自体に興味が移ったらしい。
しかしこれを外すと大変な事になるのだ。「外せないの。」と一緒に編み込んでるとかなんとか誤魔化すと、何やらニヤニヤして「分かったわ。その気持ちも分かる。」とか言って深く頷いている。
多分誤解だろうが、その方が都合がいいので敢えてそのままにしておいた。
「で?何がどうしてこの人にしろって言ってるの?」
顔に?をいっぱい付けて質問したら、ツバが飛んでくる。
「ばかっ!!!こんな石、見た事ないわよっ!こんなの買える人なんて…………ん?誰?まさか…………ウイントフークさん?年の差婚?」
何だか面白い事になってきたけど、そこは訂正しておかなければならない。
ウイントフークの名誉の為にも。
「違う違う!話が混ざってるよ。確かにウイントフークさんの所で貰ったの。で、作ってくれたのはその2人。師弟で作ってくれたんだって。だからじゃない?凄いのは。」
「ふぅん?」
「多分、中央屋敷の子みたいだから、だからじゃないかな?あ、一応内緒ね、これ。内緒って言われてないけど多分ダメな気がする…。」
「ああ、成る程。じゃあ話は分かるわね。私はでもあそこ、好きじゃないけど。」
エローラの言う事は鋭い。
だから話しても大丈夫、と思ったのもあるが「好きじゃない」とハッキリ言われて私も森の事を思い出す。
浮き足立った気持ちが少し、沈む。
そうなんだよね。シンは知ってるのかな?
でも子供だしな…あの子。
自分より少し下であろうシンが知らなくても不思議ではない。
元々私が知るような話でも無いからだ。
でも…訊けないよね。もうちょっと仲良くなってからかな?
ウイントフークの所で見ていて、完全にこっちサイド認定していたので改めてエローラから中央屋敷の評価を聞いてハッとしたのも事実だ。
きっと普通の人は中央屋敷に対して負のイメージは無いと思う。
しかしエローラがそう言う、という事はそれだけ中央屋敷が巧妙だという事ではなかろうか。
油断は禁物だよね…。
「じゃあとりあえず今日は帰るね。気を付けるんだよ?ロランだけじゃないからね?」
エローラに念を押され、私は店の手伝いに戻る。
空は刻々と変化してもう橙の時間に差し掛かかっていた。
「これはもうお終いだね?」
「いいんじゃない?ベイルートさんも売り切れたら終わっていいって言ってたし。」
「じゃ、片付けようか。」
赤の時間になるか、という頃予想より少し早くお菓子が完売した。
南の広場での売れ行きも上々だ。
もしかしたら本当に2店舗目もあるかもしれないな、とさっきベイルートが寄ってイオスと話していた。そうならとても嬉しい。
2人はもう祭りに行ける、とウキウキ片付けを始め、私もそれを手伝う。そういえば…。
「ねぇ?2人は服と人形出したの?」
「いや、相手がハッキリ決まっていれば逆に出さないんだ。申し込まれても困るしね。」
成る程。
ちょっと気を使ったように私に説明するイオスはもしかしたらロランの話を知っているのかもしれない。
年頃の同性の間では、誰が誰に、どうなのかみたいな話があるってエローラは言ってたもんね…。
2人に何も言われないので、気を使ってくれてるのだと思う。ありがたい。
「そうなんだ。じゃあ今度の夏祭りでは2人の人形が見れるんだね…………。あ。」
私が固まったのに気が付いてない2人は「そうだね、楽しみにしてて!」と笑っている。
そう、上手くいけば私は来年の夏ここにいない。
…………ヤバい。
冬場の夕暮れ時に不意に来る寂しさとか、無理無理。
ワタワタしながら自分の涙腺になんとか踏みとどまってもらっていると、向こうから歩いてくる赤い瞳が見えた。
赤の瞳はまず見ないので、すぐに分かった。
「ヨル、じゃあもういいよ。あと少しだから。行ってらっしゃい。」
「お疲れ様~。」
「ありがとう!またね。」
きっとシンの事に興味津々だろうキティラをイオスがなだめ、「ウイントフークの親戚」という触れ込みのシンと共に歩く。
2人に見送られ、ちょっと恥ずかしいけどお陰で涙腺君はきちんと仕事をしたようだ。
そんなシンは今日も大人の姿だ。
こんなに自在に姿も変えられて、気焔よりも立場が上ってどういう存在なんだろう?
私は頭を捻りながら、今日のシンを見る。
夕暮れで色が橙に見えてるけど多分白っぽい立ち襟のシャツにラップパンツのような太めのパンツを腰紐で縛っている。
腰紐が密な刺繍が入ったもので物凄く気になっている。後でちょっと見せて欲しい。
シンの雰囲気と長い髪に国籍不詳のような服がよく似合っていた。
大人の姿でも下されたままの長い髪は色が変わっても相変わらずサラッサラでちょっと触ってみたい。紺の髪に赤の瞳が冬の祭りにピッタリで、ついつい口に出た。
「冬の祭りはシンにピッタリね。」
「そうか?」
姿と共に低くなっている声に少し驚く。
そうだよね、大人なんだし。しかも返事すると思ってなかった!
呟きに近い言葉に反応してくれたので、私はちょっとテンションが上がった。
2人で何を話したらいいのか、正直困っていたからだ。
最悪会話が無い事も考えられたから、嬉しい。
さて、まだ暗くなっていないし、どうしようかな?
「ねぇ、シンは見たいものとかある?夜になるまで時間があるからどうしようか?」
夜が本番の冬の祭りは暗くなると飾り台の人形や服が移動され、真ん中の噴水がライトアップされるのだそうだ。それを見ながら人形と服をサカナにヤイヤイ言いながら飲むのが醍醐味らしい。
私はそのライトアップが見たかったのだ。
それまでは適当に何かつまみながらブラブラしたい。
するとシンは何故かこんな質問をしてきた。
「高い所が好きなのか?」
「え?どうして??」
何故そんな質問をするのだろうとシンを見上げる。
しかし私の事をじっと見て返事を待っている風なので、「好きだけど…?」と答えた。
すると何故か手を引かれ、路地のほうに向かって行く。
ん?どこ行くの?路地はもう少し暗いよ?え?この人偽物?
中々の勢いで手を引かれている私はちょっと頭が混乱したけれど、路地に入ると立ち止まってシンは「目を瞑って。」と言った。
何が何だかよくわからないまま、言う通りにする。
すると、先日森で気焔に抱えられたのと同じ無重力感が急にきて「ひぇ」とか言っているうちにシンに抱きしめられた気がした。
「目を開けて。」
んーーーー?
恐る恐る目を開けると、シンの白っぽい服しか見えない。私を抱きしめていた腕が緩んで、周りの景色が見えてきた。
ここは…………?
薄暗い小さな部屋のような場所。
石造りの壁。
視線を動かすと宝石箱のような灯りが見えた。
「え…凄い…………。」
石造りの壁に開いた穴から、景色が見える。窓であろうその穴にゆっくり近づくと、下を見る。
「うわぁ…………。」
赤から濃紺にグラデーションする空に、何処から屋根なのか境目が分からない紺色の屋根。
ラピス特有の青は形を潜め、いつもとは違う赤と紺の空に地上の金色の灯り。
祭りの日だからか、ほとんどの家々が灯りを灯したその様子は、地面に星を散りばめたようだ。
ああ、冬の祭りだ。
そこに表現されているのは正に冬の祭りで、これに雪が降ったら白が入って完璧だ。
息を飲む美しさって、こういう事だね…………。
「凄い。ねぇシン、ここは何処?」
しばらく景色を見下ろすと暗さに目が慣れてきた私は辺りを見渡す。
石壁のその部屋はちょっとした小部屋のようで、隅に下に降りる階段がある。
前後にある窓の他には何もない部屋。
ふと見ると、シンは窓際に凭れながら私を見ていた。
いつもと違う瞳の色で見つめられている事に気づき、ビクッとする。
私と、同じだ。
シンの瞳は虹彩が金に変化していて周りはいつもと同じ赤。
いつの間にか髪も白い。
私よりも頭ひとつ分背が高くなった彼の瞳は下からならとてもよく見える。
赤い空が殆ど紺と黒になり、地上かどちらか分からない星の灯りが瞬いている。
その中で見るには、それは幻想的過ぎた。
あまりにも綺麗過ぎて、彼の瞳が何かを訴えているように見えて、無意識に手を伸ばす。
長い髪に手が触れる、その瞬間。
私は弾かれ、尻餅をついていた。
「大丈夫だよ、全然。」
焦った様子のシンがちょっと珍しくて面白い。
気が付くと彼はさっきの姿に戻っていて、紺の髪に赤の瞳だった。
気のせいだったのかな?と思うような光景だったが、私が尻餅をついているって事は現実だろう。
まさか何もないのに尻餅をつく程のウッカリだとは自分でも思いたくない。
彼が何も言わないので、私も触れない事にした。
何となく、口にするのが憚られたのもある。
「で、シン。ここは?」
「ここは中央屋敷の塔だ。」
ああ、成る程。…………だから。
ラピスの全体が見渡せるその景色。
確かにあの塔ならかなり高いはずだ。
私はこの前気焔と外から見た塔を思い出していた。
なんだか負けない宣言してたけど、中に来ちゃったよ。
来たからには、見なきゃ!中々無いよ、こんなの。
「見たければ、いつでも。」
私の心を読んだのか、シンがそう言う。
改めて窓の外を見ると星の海。
あっちの世界に比べるとささやかな、だけどね。
しかし南の広場だろう、灯りが集まっている所がある。散りばめられている中でとても目立つそこはたくさんの灯りが揺らめいているように見えるが、噴水だろうか。
「特等席だね…………。よく来るの?」
「たまに。よく見えるだろう?」
この人は何を思ってここから景色を見るのだろうか。
「シンは…………」
なんだか色々質問したくなったけど、急にどうでもよくなった。
何となく。
この雰囲気を壊したくなくて、そのまま黙り込む。
代わりに髪飾りに手をやり「ありがとう。」と微笑んでおいた。
「他のものに触らせないように。」
「大丈夫。今日も断ったし。でも、もう少し目立たないようにできない?」
何となく小声で会話する。
シンが普通に私に合わせてくれるのが嬉しい。
すると彼はこう言った。
「まじないがかけてあるから、依るが見せようと思った人にしかそう見えない。他の人にはただの飾りに見えるはずだ。」
「へ?そんな事できるの?」
黙って頷く彼を見て、飾りを外す。
いつ見ても可愛い。
んーー?
月明かりに透かしてまじまじと見ていると、彼はそれを手に取ってふわっと撫でた。
するとただのリボンの飾りになる。
「え。うそ。これはこれで可愛いけど。凄い。」
パチクリしている私を見て少し嬉しそうだ。
ちょっと分かるようになってきたぞ?
満足そうな彼を見て満足した私はまた髪留めを付ける。
「どうかな?」と言う私に対して、またちょっと頷くだけのシン。
少し表情が見えた事に満足して、もう一度景色を見た。
「勿体無いけど、お祭り、行こうかぁ。」
ここ、ずっといれるな。
そう思っていたが、お祭りは見たい。
何かあったらここに来れるって、羨ましい…。
するとまた私の心を読んだようにシンが言った。
「呼べば行く。」
トントンと髪飾りを触る。
ん?これ?まさかそんな機能?
半信半疑だけど、この人ならあり得る。
そう思ったので「わかった。」と言っておいた。
落ち込んだら、連れてきてもらおう。
ここから眺めていたら、スッキリしそうだ。
悩んだ時は「自分はちっぽけな存在」ごっこをするのが最適だ。
そう、大した事じゃ無いと思えるから。
「じゃあ…………。」
勿体無いけど、行こうか?と言う目で見上げるとシンは頷いてまた私を引き寄せ、私は目を瞑った。
「わぁ!これまたこっちも凄い!」
現実に戻った私のテンションは、高い。
「見て見て!凄っ!」
なんだかカラフルなものが売っている屋台。
まさかの食べ物だ。聞くと、ラピスの野菜から色素を取って作っているらしい。
それなら納得。
棒についた三色団子のようなそれを頬張りながら、シンを引っ張っていく。
人混みに来ると、相変わらずだなこの人!
ちゃんとついて来て!
私達は気になるものを買いながら広場の真ん中へ進んだ。
途中まで来ると、移動された人形と服が飾られている場所に出る。
まだじっくり見ていないので好奇心が勝った。
いいよね?見ても?
「シン。ちょっと見て行っていい?」
シンは頷くと、私の荷物を持ってくれる。
「ありがとう!」
じっくり見て良さそうなので、遠慮なくまじまじと順に人形と服を見て行った。
そう、私は油断していた。
勿論周りには人形と服をサカナに飲んでいる人がいる。それを失念していたのだ。
「ヨル!探したよ。」
ヤバっ。
聞き覚えのある声。顔を上げるとテレクが歩いてくるのが見える。
こっちか!ん?でも止まった?
そしてなんだかガックリ肩を落とすと、回れ右して帰って行く。
んん?なんで?
振り向くと、理由が判った。シンだ。タイミングよく側に来てくれた様でいつの間にか私のすぐ後ろに立っている。
ありがたいありがたい。
ていうかこの為に来てもらってるようなものなのに、ここで離れちゃ1番だめじゃん。
自分にダメ出しをして「ごめんね?」とシンにも謝る。
しかし、強者はいた。
「ヨル。そちらは?」
振り返ると、声をかけて来たのはロランだった。
うげ。どーしよう。見つかっちゃった…。
「僕の人形、見てくれた?」
「うん…………素晴らしかったよ。」
こんな状況でも褒めずにはいられないくらい、凄かったのは確かだ。
ロランをガン見しているシンと、それに怯まないロランに挟まれて私は縮んでいた。
何で?何でシンは初対面にその目つき?
そしてロランはなぜその目に耐えられるの?
誰か!間に入って!何となくだけどヤバい!!
一人焦る私にお構いなしにロランは続ける。
「実は噂で聞いちゃってるかもしれないんだけど…………」
待って待って!メンタル!メンタル強っ!
私が持たない!泣
隣から漏れるシンのオーラがなんだかヤバい事になってきてるのは、分かる。
え?逃げる??
これ以上ロランが口を開くとまずい。
「ちょっと…」
どうしよう?言い訳が思いつかない!
ポンコツ私の頭!きゃー。
「どうした?ヨル?ロランも、シンも。お揃いで。楽しんでるかい?」
おーとーうーさーーーーーーーーん!!!
きっとこの空気を感じ取ってくれた救世主がやってきた。
ハーシェルは手に沢山の供物を持っていて、どうやら配っている最中のようだ。
しめた!
「ハーシェルさん、遅れました!手伝いますね。」
「ああ。助かるよ。」
ハーシェルからひょいひょい供物を受け取り、ロランにちょっと微笑むと揃って私達はその場を離れた。
シンは私が引っ張ってるけど。
ふぅーーーー。
ロランには悪いけど、ここで騒動を起こす訳にはいかない。
途中で立ち去るのも申し訳ないけど、シンのオーラがどうなっちゃうのか、分かんなかったんだもん。
ほっと息を吐いてハーシェルから受け取った供物を一緒に配り始める。
するといくつかのテーブルでしつこい人達がいたので、途中でシンに供物を取り上げられた。
「え?大丈夫だよ?」
「駄目だ。もう終わりだ。」
そう言って残りの供物を飾り台に戻すと私の手を引き歩き出す。
シンは通りすがりにハーシェルに何か少し話をすると、そのまま広場から出るようで小道に向かって歩き出した。
帰り道も星が綺麗だ。
何となく黙ってついて行く私は、夜道を一緒に歩きながらルシアの
「手を握られて嫌じゃなかったらアリ」
という言葉を、ぼんやり思い出していた。
そして、マリアナがまたラインについての相談を持って来たのは、冬が深まったある日の事だった。
久しぶりに2人に会った私は嬉しくて、まさかそれがあの事件の始まりだとは思ってもいなかった。
確かに。その時は。
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