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5の扉 ラピスグラウンド
報告と予言
しおりを挟むすっかり秋の風だな。
ここラピスでも秋の匂いがする事を嬉しく思う。
本当に空は、繋がってるかもしれない。白い森に行った事で、ありえない事では無いかな~とたまに思うようになった。
でも気焔が言うには「あれは主が呼んだから繋がったのじゃろ。そうポンポン繋がっては世界が保たれんよ。」って言ってたけど。
その気焔は最近たまに出てくるようになった。
基本的に私1人の時しか勝手に出てくる事はないけど、何処かに行ったりしている。勝手に炎でふわっと出てきて、人型になりそのまま窓から半分炎になって出て行ったりする。正直ちょっと、羨ましい。とても身軽そうに、屋根の上を飛んでたり普通に空を飛ぶ火の玉で帰ってきたりする。
夜に見ると、とても綺麗だ。ちょっと火の玉みたいで怖いけど、薄い黄金色なので綺麗さの方が勝つ。
森に行ってから、なんだかみんな自由だ。
そう、あの森から帰ってきた後は大変だった。
まず、お父さんが家の前で待ち構えていて、私は朝帰りの不良になっていた。
ホントはちょっと疲れていたけど、ハーシェルの剣幕に負けてある程度、説明をした。でもその時点で私は中央屋敷の件をハーシェルに言うべきかまだ迷っていた。もしかしたら、迷惑をかけてしまうだろう。もしかしなくてもだけど。
それで、とりあえずウイントフークに相談する事にした。困った時のウイントフークだ。
しかし、それが問題だった。後でこっそり話石をしていた所をお父さんに見つかり、泣かれたのだ。
いや、泣いてはいなかったけど、泣いてるに限りなく近かった。それでやはりハーシェルに隠すのは諦めて、ウイントフークの家に会議に行く事になったのだ。
なんか、私嫁に行く時めっちゃ泣かれそう…と思ったけどその時ラピスに居れるか分かんないな、と自分で思って寂しくなったのは内緒だ。
昨日は結局帰ってきてからたっぷりティラナと遊んで、今日ウイントフークの家に行く予定だ。
「おはよう、ヨル。」
2階から降りてきたハーシェルに私も挨拶して、朝ご飯の支度を続ける。最近、まだちょっと下手くそだがパンを任せてもらっている。今日はハート型に整形してみた。最近お父さん不幸しているので、ご機嫌を取る作戦である。でもハートモチーフって、認識されるかな??
秋の匂いから分かる通り、朝は中々冷えてきた。でも肌寒いくらいがいいけどね…。どちらかと言うと寒い方が好きな私は、根菜たっぷりの少しとろみを付けたスープを作って温まる。付け合わせはマリネと温玉だ。秋はまだいいが、冬は野菜の数が少なくなる為マリネや干したものを戻す切り干し大根的なものが主流になるらしい。
あっちの世界ではハウスで季節を問わずなんでもできるので、旬の野菜が分からない。夏休みの自由研究で小学生の頃調べて、衝撃的だった記憶がある。
ここラピスは季節がきちんとやってくる。冬は雪が降らないって言ってたけど、寒いのかなぁ。
3人が揃ったので、ティラナにお茶の用意をしてもらい私が配膳する。そしてハーシェルが席につく。2人でお父さんの世話をするのが好きだ。すごく、家族っぽい感じがする。
今日は朝食後ハーシェルの相談室が入っていて、ちょっと急ぎ足の朝食だ。2人とも、しっかり褒めながら食べてくれるので嬉しい。ちゃんと「美味しい」って言って貰えるのって、大事だ。将来の旦那さんにはそういう人がいい。
さて、ハーシェルも仕事に行った事だし私も支度をしよう。
「じゃあティラナ、こっちの戸締りお願いね。」
「行ってらっしゃい!」
本当はハーシェルも一緒に行く予定だったが、朝の相談が延び延びでとりあえず先に行く事になった。ラギシーを持って行こうと思ったら、気焔が出てくる。最近ホントにポンポン出るけど大丈夫なのかな??そんなもの?
「いいの?最近出過ぎじゃない?」
「む。依るを護るのが吾輩の仕事だからな。取るなよ?」
まぁ本人がいいならいいけど。
すっかり気焔の人型に慣れた私はそのまま並んで歩き出す。ただやっぱり、普段は服だけは変えてもらっている。さすがにアレだと悪目立ちなんだよね…似合うんだけどさ。
「気焔最近どこ行ってるの?用事?」
「まぁ色々じゃ。ああ、泉も行ってきたぞ。藍に頼まれての。」
「え。ずるい。誘ってよ。」
「いやさすがに2人で飛ぶのは消耗する。いざという時以外はやらん。」
あ、一瞬で行き来する方ですね。分かりました。
「ん?藍に頼まれたの?」
「そう言ったであろう」とか言ってるけど、そういえば気焔以外は人型にならないのかな?
私の疑問に気焔は答えてくれる。ちょっと期待してたけど、そう上手くはいかないようだ。
「人型は吾輩のみじゃ。夢で宙が出たりしたな?石によってはそのような能力もある。人型になる方が珍しいのだ。吾輩は特別な石だが、先日の黒い石。あれも突き止めねばならんな。」
そういえば、心配事はまだまだあるんだった。
「ほう。1人で来て大丈夫だったのか?」
ウイントフークは今日も通常運転だ。徹夜してなさそうだけど。顔色がいい。
「気焔と一緒ですよ。最近よく出るんです。しかも勝手に。」
「ほう。それも興味深いが、ハーシェルの事だ。煩いだろう、お前が先に来ると。」
この前の事を根に持っているのを知っているのだろう、心配しているのか面白がっているのか。いや、半々だろうけど。
「お客さんなので仕方ないですよ。問題山積みなんで、時間ないですしね。」
テーブルの上のまじない道具をくるくる回しながら答える。なんだろう、これ。あ。まじない道具と言えば。
「気焔。「目」。」
「ああ。すまなんだ、ウイントフーク。「目」を村に1つ置いてきた。依るの為だ。もう一つ作れ。」
「簡単に言うな。」と眼鏡も「目」もどんどん失くしてくる私にゲンナリしながら、メモしてくれている。なんだかんだで作ってくれるのだろう。
「耳も必要だな。」と言っている。
「結局、お前達が「目」を送ってきたから一通り映像は見たがやはり音がないとあれだけの事、よく分からない事も多い。お前が村で跪かれている時なんて、何事かと思ったぞ。」
ですよね。その場にいた私もそう思います。
でもウイントフークさん、「目」と「耳」別々で作るのはやめてほしい。その2つがぐるぐる飛んでる姿がシュール過ぎる。
「それで?お前が気になってる本題はなんだ?」
「…………。」
ウイントフークは私が何か言いたそうにしているのを察したのだろう。内緒で話石もしたし。
まだハーシェルは来ていない。今、訊いてしまったほうがいいだろうか。ウイントフークは何をどこまで知っているのか。私には分からない。
「ハーシェルに言いづらいのだろう?まぁ無理に話せとは言わないがわたしだって分別は一応あるぞ。」
そう言って何やら資料を開き材料を集めている。話すつもりがあれば、話せと言うことか。
そう判断した私は、やはり訊いてみる事にした。だって、やはり訊かなきゃ分からないからだ。1人で勝手に行動して迷惑かけるよりはいいだろう。とりあえずウイントフークに訊けば、ハーシェルにどう話すか目処がつくかもしれない。
そう、私は怖かったのだ。もし、ハーシェルが人攫いに関わっていたら。本人からは想像できない。でも、それとこれとは別の話かも知れないのだ。きっと中央屋敷に雇われている形であろうハーシェルに、そんなに自由はないに違いない。様子を見ていれば分かる。
もし、関わっていたら。
逃げ道を求めてウイントフークに問い掛ける。そう、もしかしたら無関係かも知れないし。
「あの。」
「うん、なんだ?」
「あのですね。」
「…………。」
「えー…………と。」
ウイントフークは待っている。手は動いてるけど。
「森で、人攫いの話を聞いたんです。それって…………。」
ハーシェルさんは知ってるんですかね?
答えを聞くのが怖くて、詳しく言うことが出来ない。でも、知らなけばウイントフークからは質問が返って来るはずだ。
「だろうな。」
ああ。知っているんだ。
恐らくはウイントフークも。
しばらく2人とも黙っていた。
「依るはどうしたいのだ?」
始めに口を開いたのは意外な事に気焔だった。
「お主の望みは?言ってみろ。」
私の望み?
人攫いが無くなること。拐われた人が帰って来ること。ハーシェルが関わっているなら、けじめをつけること。大きく言えばこんな所…………かな?
私はそのままそれを口に出した。すると気焔がウイントフークに訊く。
「それは可能か?ハーシェルを切らせる事自体は容易かろう。本人が関わりを望んでいれば別だがそれは無いであろう?だが問題はそれでは解決せぬ。上手い知恵を出せウイントフーク。それはお主の仕事じゃ。依るはハーシェルを信じる事が仕事じゃ。それだけであやつは勝手に動くじゃろう。」
そこまで気焔が話した所で、ハーシェルが本の山の陰に立っていた事に気付く。ビクッとして、少し身構えてしまった。しまった。
その私の様子を見てハーシェルが緑の瞳を伏せる。
傷付けてしまっただろうか。
お茶の葉の爽やかな香りが届いて、ウイントフークが糞の準備をしていた事に気付く。私達、どのくらい黙っていたんだろう?
「まあ、座れよ。」
ウイントフークがハーシェルにソファーを指す。私にも、顎で示して座らせる。ウイントフークは立ったままだ。
「ああ!朝、今日は広場の屋台が多いらしいぞ。見に行かねば。」
「ええそうね。お留守番お願いして、行きましょう。」
物凄く棒読みして、2人は出て行った。
え。待って。私。どうしよう。
向かい側に座っているハーシェルの目は伏せられたままだ。いつも、私とティラナを見守る優しい緑。何故か、他人の私に始めからとても良くしてくれて、守っていてくれた。私の知らない所でもきっと。
いつでも心配してくれて、何も知らない私を何かから隠すのは大変だった筈だ。あの、茶色のまとわり付くような視線に晒されて初めて、自分が「そういう存在」なのかもしれない、と実感した。きっと格好の餌なのだ。あの、黒い石を作るような奴らの。
私は私のハーシェルを信じるしかない。それは気焔の言う通りだ。
そしてきっと今私にできる事はそれしか無い。ハーシェルの選択を、ウイントフークの示す道筋を待つのが今の仕事だ。何事も先走ってはいけない。暴走するならいつでもできる。きっと綺麗には解決しないだろう。でもできる事の、最善を。
「教えてくれますか?ハーシェルさん。何を聞いても、ハーシェルさんはここでの私のお父さんです。それは変わりません。できるならば、手伝いたいですけど。」
それは許してくれませんよね?と言いたかったがそこは飲み込んだ。
ハーシェルの少し驚いたような緑の瞳。私が安心する、いつもの色だ。
「君は…………。」
また言葉を飲み込む。
「早うせい。また依るが泣くぞ。」
ちょ。気焔。そりゃすぐ泣くけどさ。
それを聞いてハーシェルは心を決めたようだった。深く息を吐き、話始める。私はお茶を一口飲んだ。
「何から話したらいいか。そもそもは…………ちょっと長すぎるから割愛するけど、中央屋敷の主人と僕は親戚なんだ。」
ハーシェルの話は意外にも血縁関係から始まった。そして私は納得がいく。知り合う人種じゃないと思っていたけど、親戚だったんだね…。
「元々、僕たち一族は別の所に住んでいた。君は他の扉から来たから分かると思うけど、また別の扉だ。僕たち一族が仕切ってる扉がある。ある意味僕は逸れ者で、最終的にここの神父の後釜にフェアバンクスが入れたんだ。そしてここで結婚して、ティラナも生まれた。しかし…。」
ハーシェルはここで言葉を切る。言いにくそうに、再び緑の目を伏せる。「言いにくい事は大丈夫ですよ?」という私に対して「いや、言うべき事は言うよ。」と話を続けた。
「一族の秘密を知った事で、妻が殺された。…僕が、迂闊だった。偶然聞かれていたんだ、話石の内容を。それを、中央屋敷で問うた。彼女も屋敷には出入りしていたから、何かのタイミングで訊いてしまったんだろう、疑問を。これは、僕の予測だけどね。そして彼女は中央屋敷に行ったまま帰らず、…………死んだ後見つかった。」
言葉を選んでハーシェルは続ける。
「それからは正直どうでも良くてね。ティラナを守る為、と言えば聞こえはいいが僕は何も見ない事にした。中央がやっている事。僕が知っている事は多分多くは無いが、人攫いの件はさすがに知っている。他にも多少ね。でも、目を瞑っていい理由なんて一つも無かったんだ。」
私をまっすぐ見て、言う。
「君が来て、それが分かった。いや、分かっていたんだよ。見ないふりをしていただけで。どうせ、何も出来ない。ティラナを守る為だ、という言い訳をしてね。守っていたのは、自分自身だよ。情けないね。」
そんな事ないよ。ティラナは守らなきゃいけないし。奥さんを殺されるなんて、辛いに決まってる。あり得ない。中央屋敷。もうやだ。
「…君が泣くような事じゃない。ヨル。」
だって。
「良かったんだよ、これで。僕は、こうなるまで君に話そうと思ってなかった。君の知らないうちに、都合良く事を運ぼうと思っていた。僕の罪が君にバレないようにね。これも運命かな。本当にそう思うよ。君が来てから、君は何故かみんなの話を聞き、一緒に悩んで、色んな所に首を突っ込んで、1人で奮闘して、みんなを笑顔にして。」
ハーシェルは笑っていた。なんだか諦めたような、決意したような、でも緑の瞳には力強い光があった。
「君にだけ活躍させる訳にはいかないからね。僕も頑張らないと。お姉ちゃんの方が活躍してるなんて、ティラナにも顔向けできないだろう?僕の妻にもね。…………こうやって妻の事を口に出来るようになったのも、君のおかげだよ。きっと。僕にとっては、「青の女神」だね。」
気焔が渡してくれた端切れで顔を拭いている私は、そんな大層なもんじゃない。
グズグズの顔でハーシェルを見つめる。微笑んで私を見つめる彼に、なんと言っていいか分からなかった。とりあえず鼻がかみたい。
しばらく無言で私の様子を見ていたハーシェルは落ち着くまで待つ事に決めたようだ。なんだかスッキリしてお茶を飲んでいる。
私もひとしきり涙が出て、鼻もしょうがないので端切れで拭いて、顔を整える。その様子を見て、またハーシェルは話出す。
「これは君に言うべきかどうなのか、迷ったけど。僕の知らない角度から狙われる可能性が出てきたから教えた方がいい…………かも知れない。いや、でもな…………。」
落ち着いたらハーシェルがまたお父さんの過保護モードに戻っている。
すると、通路の方から声が聞こえてきた。きっと、2人が帰ってきた声だ。
ちょっと朝が顔を出した。本の山の陰から。様子を見て戻る。え?どこ行くの?
「酷いわよ。」
「まぁ酷いだろうな。」
え。何が酷いんだろう??
「お前の顔だよ。」
と部屋に帰ってきたウイントフークに言われた。
乙女に言う言葉じゃないよね。2人とも。
そのままウイントフークはお茶を入れ直し、朝は私の隣に座る。広場で買ってきてくれた軽いランチを取りながらまた森での報告をする事になった。
ウイントフークがサンドイッチを配る。何だかこの人がまともな食事を手にしている事に違和感を覚えながら、イオスの店の様子を聞く。
「どうでした?やっぱり忙しそうでしたか?」
「ああ。繁盛してたぞ。お前は行かなくていいのか?」
「私はキティラが行けない時とか、呼ばれたら行く事になってます。基本アイディア提供役なので。やっぱりあとは若い2人に任せて…。」
「あの時の爆発は結局あの黒い石のやつの仕業らしいな。」
ちょ、流すなよ!
私が1人ツッコミをしていると、ウイントフークが黒い石を調べた結果を教えてくれる。
話石で情報伝達機能が無い事は聞いたがその他の詳細は確かに聞いていなかった。
「情報伝達機能が無い事は伝えたな?あれは多分わたしの知るまじない力では無い。という事はシャットでも、デヴァイでも無い、第3の勢力の可能性がある。予言の事は伝えたか?」
「まだだ。」
「もう教えないと自分を守れないだろう。幸いな事に気焔も出るようになった。「目」は常時付けておく。シャットは大丈夫だと思うが、下手をすれば三つ巴になるぞ。」
なんだか物騒な話になってきた。そして、知らない名前がいっぱいだ。シャット?デヴァイ?悪の組織の名前???
私が頭に?をたくさん浮かべていると、察したであろうハーシェルが私を見て向き直った。少し、息を吸って話し出す。
「ヨル。落ち着いて聞いてくれ。」
お父さんがな。
「君が関係するかもしれない予言が、うちの一族に古くから伝わっている。いつからか分からないが、ずっとだ。僕はそれを今までずっと迷信のようなものか、ただの予言という言葉だと思っていた。だが、君が来てからそれが現実味を帯びてきたんだ。その予言の、内容がね。もし、この予言が事実となるなら君は完全に巻き込まれる。だから始めは言う気がなかった。と言うか、本当に君が関わってくるなんて思ってもみなかったからね。しかし、現実が付合し始めて知らない方が危険な状態になってきたんだ。だから、話そうと思う。いいかい?」
この期に及んでそれを私に訊ねるハーシェルは過保護にもほどがあると思う。
すっかり涙が乾いた私は、ニヤッとして答えた。
「知らないんですか、ハーシェルさん。私、守られるより一緒に戦いたい女なんですよ?」
すると、ハーシェル以外が声を揃えて
「知ってる。」
と言った。何故だ。
サンドイッチを先に食べ終わったウイントフークが紙を出して、何か書き出した。どうやら予言の言葉らしい。読んでも意味が分からない。
「土の時代が終わり、風の時代となる時、9つの石と青の少女が現れ?世界は白、となるだろう…………?え。めっちゃ私青いですね。」
私の様子が呑気に見えるのだろう、ハーシェルはちょっとため息を吐いている。気になっている事を聞いた。
「これって、ラピスでは一般的な予言なんですか?」
「いや。殆ど知られていない筈だ。」
「え?ウイントフークさんは?なんで知ってるんですか??」
「まぁわたしは別枠だ。」
なにそれ。全然分かんない。
しかしウイントフークが別枠なのは何となく理解できる。ラピスでのまじない石や道具と言えばウイントフークだし、お屋敷やベイルートしか持っていないような物も持ってるし、なんとなく顔も広そうだ。きっとなにか偉い人の弱味でも握っているに違いない。
「でも、青の少女しか合ってなくないですか?」
私にはそれしか分からない。
するとハーシェルが言う。
「つい昨日、白となるのを止めてきたんじゃないのか?」
「あ。」
「腕輪を見ろ。」
ウイントフークも言う。自分の腕を上げ、腕輪を見えるようにする。1,2,3,4,5,6,7,8,9。
確かに9つの石が嵌るようになっている。
「えー!!」
本当だ。え。ちょっと待って。
この腕輪…………ってどうしたんだっけ?もらった??
「あと4つの石はどこだ?」
ウイントフークの質問で頭の中に過った疑問は消える。4つの石?探しに行くんだよ。そういえば。
最近ここの生活に馴染み過ぎて、すっかり忘れていたけれど私は姫様の物を探しているのだ。
これって、別に人に言ってもいい内容?
振り返って気焔を見る。その時の気焔の瞳は見た事のない瞳だった。
怖い。
そうだ。アレは私の友達なわけじゃない。目的を達成する為に、私を護っているだけ。
心に黒い影を一瞬落としたその考えを除けて、私は向き直る。
「分かりません。」
「そうか…………。まぁ何か分かったら知らせろ。」
その後は泉を作った事、村の話、人攫いについてなどみんなで話し合った。
泉についてはちゃんと報告すれば、基本的にはラギシーと気焔で行ってもいい許可が出た。村の人に呼ばれたら行くって言っちゃったし、気になってたんだよね…。良かった。
人攫いの件は基本的にハーシェルとウイントフークに丸投げだ。2人とも何か考えているようで私にできる事は今のところ、無い。
「囮が必要なら言って下さいね。」と言ったら2人にジロリと睨まれた。いや、気焔がいれば大丈夫だと思うから他の子が拐われるより私は気が楽だ。
そうしてとりあえずの話をまとめて、ハーシェルと家に帰った。何故だか私はウイントフークの家から帰ってから沈んでいて、ティラナに心配されてしまった。お姉ちゃんが心配かけるようじゃダメだよね…………。
お風呂でも入って元気出そうっと。
藍に癒されるんだ。
そうして私がお風呂に入っている間、朝が気焔を正座させていたのを、私は知らなかった。
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