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5の扉 ラピスグラウンド

まじない石屋

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ふぅ。

洗顔後、化粧水の香りを堪能しつつ手で視界を塞ぐ。

天井から頭を引っ張られる事を意識して姿勢を正し、今、ここに立っている事を実感する。意外と普段自分は地に足がついていない事を実感するこの確認が、好きだ。
今迄は、自宅で行っていた習慣だけれどこちらに来てからはすっかり忘れていた。
改めてここでやる事で、何処にいても地に足をつけて真っ直ぐ立つことは大事な事を実感する。

姿勢は癖になるから気を付けなきゃね。


あれから数日、夜はセーさんと話したり日中ティラナと朝が戯れているのを見て癒されたりと私は調子を取り戻していた。
悩みはするけど基本的にはプラス思考なので、そう長くは続かないのだ。クヨクヨする事に、飽きる。

そんな私を知ってか知らずか、今日はタイミングよく件のウイントフークの所へ連れて行ってもらえる事になった。あの日から、気になっていたのだ。



「ウイントフークさんって、何してる人ですか?」

何の為に会うのか、そもそも聞いていなかったのでハーシェルに尋ねる。
するととても楽しそうな答えが返ってきた。

「まじない石屋だよ。」

え。もうこの時点で楽しい。

私が「わぁ~!」と喜んでいるのを見て、何だかハーシェルは複雑そうだ。
なんで?怖い人なのかな??

ルシアの非番に合わせてくれていた様で、朝食を終えると丁度リールを連れてルシアがやってきた。
いい匂いのするバスケットを持っていて、3人は公園に行くのだそうだ。

いいなぁ…。いや、でも石屋よ、石屋。


3人を見送ると、私達も戸締りをして家を出る。

ハーシェルについて坂を下りだすと朝もトコトコついて来て、今日は私の方に同行してくれるらしい。
珍しい、最近あの2人とよく遊んでるからあっちに行くのかと思った。

そんな私の顔を見て、「依るがヘマしないように、ついて行ってあげるわ。」なんて言っている。しかし否定できない私は「楽しみだね」と言っておいた。
ハーシェルのすぐ後ろを歩いているので、あまり会話しない方がいい。


いつもと反対側の坂道を下っているので、なんだか景色が新鮮だ。
西門に向かって下るのは初めてだが、青の街並みなので大きな違いはない。ただ、こちら側には会議をする為の建物があって教会以外で大きい建物を見るのは初めてだ。

あ、でも中央のお屋敷はこれより大きかったけど。改めてあのお屋敷にはどんな人が住んでいるのか気になった。あの白い男の子はあの家の子供だろうか………?



そんな考え事をしていたら、お目当ての店に着いてしまった。

「しまった…。」

1人でも出掛けられるように、道を覚えようと思っていたのに、途中から全然見てなかった。思わず額に手を当てる。
しかし「何がしまったなのか」をハーシェルに尋ねられ、話すと「1人でのお出かけは禁止」と言われてしまった。

そんな………青の街をぶらり散歩したかったのに………!

しかしお目当てのお店で、お出掛け禁止の理由を知る事になるのだった。



看板の無いそのお店は、営業しているのかと疑問に思ってしまうような佇まいだ。

外から見ても店内はかなりゴチャゴチャしているので、軽く潔癖な私は正直「うわぁ」と思った。

だが少しずつ近づいていくと、ゴチャゴチャしてはいるが、不潔ではない、屋主が何処に何があるのかは把握しているであろう荒れ方のお店だった。
ぱっと見はガラクタ屋だけど。

言われないと石屋だと分からないそのお店の前を、ハーシェルは通り過ぎる。

「え?ここじゃないんですか?」
「いや、もう入り口が開かなくなって何年か………。とりあえず、こっちだ。」

ハーシェルが案内してくれたのは、裏に回って狭い庭を通り抜けた所にある勝手口のようなドア。そしてノックもせずにそのドアを開ける。

「おい。いるか?約束の時間だぞ。」

返事は無い。

ハーシェルは予想していた様で、そのまま中へ入って行った。一応まずい事になってるといけないので、ここで待つように言われたがまずい事ってなんだろう。

風呂上がりとか?なんて考えていたらハーシェルが呼んでいるのでそのまま入って行く。


「おお………」

「依る、触っちゃダメよ」
「いや、崩れそうだから逆に、無理。」

振り返る朝に注意されながら、上から横から色々な物がぶら下がったり押し込められている通路を抜けると、少し広い所に出た。

「?」

まだハーシェルは見えない。

「ハーシェルさん??」と呼びながら更に進むと、手前にあった物陰にちょっとした応接セットがあって、ハーシェルはそこに座っていた。

「ちょっと待っててくれる?あいつは連絡しておいても人を待たせるんだ。まぁ連絡しなかったら尋ねて来ても出てこないんだけど………」

ハーシェルがこんな口を聞くのは珍しい。基本的にいつも丁寧なのだ。神父だから。
私がハテナ顔をしていると「ああ、昔からの知り合いでね。」と頭をかいている。

「いや、そんなハーシェルさんも素敵です」なんて軽口を叩きながら、私の目は周りに釘付けだった。


キョロキョロするのは失礼かな?と思いつつ、キョロキョロせずにはいられないだろう。
さっきの通路は何かの道具らしき物や部品、ガラクタなのか何なのかという物が多かったが、この一応応接室の体を構えている部屋は積み上がって壁になっているのは本や紙束だ。
壁とはいっても本来の壁ではなく、部屋の真ん中に陣取って仕切りのようになってしまっている。

本来の壁はというと扉であっただろう穴以外は見事な作り付けと突貫工事のような棚になっている。

そこには色とりどりの石、石を使った道具らしきもの、鉱石の大きいもの、何かの液体に入っている石、妖しい入れ物からはみ出している赤い石など素晴らしく綺麗なものから毒毒しいものまで、様々な物があった。


「見てもいいですか?」

近くで見たかったのでハーシェルに聞くと、店主がまだまだ来ないと思っているのか「触らないようにね」と許可をくれる。

早速立ち上がって棚を見ようと思ったが、私が1番見たい鉱石たちは手の届かない上の方にあるのだ。
脚立とかないかな?思って見渡すと、隅の方に箱が沢山置いてある。その中にも石が沢山入っていた。

「あの石は、売り物ではないんですか?」
「ああ、あれは燃料にする分だ。」

木箱の中にガラクタのように放り込まれている石たちは、誕生石にもなれず、お金にもなれず(なんと石がお金らしい。どーいう事だ。)、クズ石に分類されると、まじないの機械の燃料だとか何かを作る材料だとかに使われるらしい。
確かに透明度は全くない、川にある石ころのようなものだ。
一般の人はまず使わない様で、ここに沢山溜まるのだそうだ。

「そこいら辺に沢山道具があるだろう?そういう物を作る時に使ったり、動かすのに足して使ったりするんだ。」

後でやって見せてもらえばいい、とハーシェルは言う。

「やった!」と言いながらちょっと不気味な赤い石の所へ見に行こうとしたら、サッと目の前を遮る手が出てきた。


「遅い。」

ハーシェルの言葉で、彼がウイントフークだと分かる。

「これは駄目だ。」

私の前を遮った背の高い彼はそう言って、ハーシェルの隣に座るよう手で促した。


ウイントフークは予想外に好感の持てる男だった。

かなりゴチャゴチャしている店の中は一定の法則により区分けはされていて、使われている部分には埃など無く(放置している所は除く)、きっと本人には使いやすい配置なのであろうことが見て取れる。
そしてこんな店なのでどんな人が出てくるのだろうと思っていたが、予想に反して彼は小綺麗だった。

綺麗な水色の髪を後ろで一つに束ね、眼鏡の奥からは茶色の瞳が見える。
実験用の白衣みたいなものを着ていて、差し詰め学校の先生のようにも見える。

あまりじろじろ見るのも悪いかと思い、「朝。」と朝を呼んで隣に座らせると、ハーシェルにフードを取っていいか目で伺う。
ハーシェルが頷いたので、フードを取って挨拶をした。


「初めまして。ヨル、と言います。」

「確かにこれは凄いな。」

え?なにが?

ウイントフークは顎を擦りながら、そのまま黙ってこちらを見ている。

「おい、あまりじろじろ見るな。」とハーシェルに言われるも、目線は私から離れない。


「この瞳は前からか?」

彼が全く目線を外さないのでちょっと気まずかったが、どうやら瞳の色を見ていた様だ。
私の目は髪より少し濃いブルーだったが、少し前から金が混じってきた。
瞳孔の部分が金色っぽくなるのだ。角度で見えにくいが光が当たるとかなり目立つ。

自分では気付いていたけど、ハーシェルはどうだろうか。


「金の事だろう?これは多分ついこの前力を派手に使ったからだと思うんだが…それまでは殆ど判らなかった。」

それを聞いて私はハーシェルが意外と私をよく見ていた事に驚く。

「え?ハーシェルさんよく気付きましたね?」「問題はそこじゃない。」

じゃあどこ??

そんなハテナマークを頭に出しているうちに、2人はため息を吐きながら話し合っている。

「とりあえず測ってみるか。」

「むしろ知らない方がいい気もしてくるな、これだけの色と、見た目だと。ハッキリ測定されると危険かもしれない。」
「お前さえ黙っていれば大丈夫だろう。そういう意味では信頼してる。もし漏らしたらもう連れて来ないぞ。あと、ちゃんと何をするにも同意は得る事。」

「…………努力する。」


話を聞いてもさっぱり分からない私は、こっそり隣の朝に目配せしていた。

「朝、アレが気になる…。」

目線でさっきの妖しい箱に入った赤い石を合図する。
朝も目をパチンとして「アレ、私も気になってた」とソファーからピョンと下りる。

朝が赤い石の前まで来て下の棚に手をかけた時、ヒョイと後ろ首をつままれた。

「だからこれは駄目だと言っただろう。」

「なんなんだこの2人は」とブツブツ言っているが、ウイントフークは私と朝が2人でアイコンタクトしてたのを見ていたのだろうか。
喋ってないけど、かなり怪しまれている事は間違いなさそうだ。
大人しくしなければ。


出掛けに「問題起こすな」的な事を朝に言われた事を思い出して、「2人ともダメじゃん」と可笑しくなってしまった。

とりあえずは普通のフリしなきゃ。







「そうするとあっちの部屋の方がいいな。」

ウイントフークは言って、奥の方(全く見えないけど)を指す。

ハーシェルは頷いて「ヨル、ちょっと奥の部屋に行くよ」と私を促した。


本の山を越えると、ちゃんと隣の部屋の扉がある。本の壁が出来ていただけだ。
通り過ぎつつ背表紙を眺めても全く読めないので、また漢字がないか探していると何かがピカッと光った。

「えっ」

光った方を見るとウイントフークが扉に手を当て、開けた所だった。ある意味指紋認証?

そんなに厳重な部屋で何をするのかと恐る恐る足を踏み入れる。
そこは3人で入るには少し手狭な作業部屋みたいな所だった。いや、片付ければもっと入れると思うけど。

ウイントフークは椅子の上を片付けて、私達が座るところを作ってくれる。細長い作業台を挟んで何故か私と朝が並び、ハーシェルとウイントフークが向かい側に座る。

徐ろにウイントフークが時計みたいな物を台の上に置いた。透明な壁掛け時計に水が入っている様なものだ。揺れて、中の液体がチャプチャプいっている。

「ヨル。これはまじない力を測るものだ。」

ハーシェルはそう言って、少し考えるとウイントフークを見る。
急に真剣な目を向けられたウイントフークは「大丈夫、分かってる」とか言ってるけど、ホントにこの2人は何の話をしてるのだろうか。


「外して測りたいんだが。」

ハーシェルはそう言って私の腕を指す。
確かにこれがあると、なんだかまずい気もするけど腕輪は外せないのだ。
以前言った様な気もするが。

とりあえずどうしようか、もしかしたら外す方法とか知らないかな?と思い袖をまくると
バンッ
と急に立ち上がったウイントフークの椅子が後ろの棚に当たった。
倒れる程のスペースは、無い。

「聞いてないぞ。」
「言えないからな。」

また私だけ、ついて行けてないんだけど。



ウイントフークは食い入る様に腕輪を見ている。

ちょっと、いやかなり怖い。

助けを求める様にハーシェルを見ると「すまないが、私にはこの石の判定は難し過ぎて彼に頼んだ。しかし失敗だったか?」なんて言っている。
本当に大丈夫か心配なのは、私だ。


「ちょっと失礼。」

ブツブツ言いながら私の手を取ったウイントフークは、持ち上げたり、下ろしたり、光を当ててみたり、謎のライトみたいな道具で照らしてみたりと何やら色々やっている。
しかしこの人は腕輪が私の手に嵌っているという事を忘れているに違いない。

めっちゃ捻ってくるし、痛いし、近過ぎて怖いんですけど!!


「うーん。この石は触っても大丈夫だと思うか?」

ウイントフークに聞かれ「分からないです」と正直に答える。

すると「嫌よ」「いかん」「やめた方がよろしいですな」「こんな男、無理!」とみんなが口々に喋りだす。

「ちょ、ちょっと静かにしなさい!」

あ。……………。

ヤバッと思うのと、緊迫した空気が張り詰めるのは、同時だった。 

誤魔化すように、口を開く。
何もなかった様に、「駄目です」と言ってみたけど、………ダメだった。


「えっと。ヨル。ちゃんと答えてくれ。大事な事だから。」

はい。すいません。

「君は石の想いが分かるんだね??」

想いってか、喋ってますから。


私の肩に手を置いてハーシェルは聞く。
一瞬、誤魔化した方がいいのかどうしようかぐるぐるしたけど、真剣な瞳の中に心配の色が濃いのを見て取り、腹を括ることにした。

まぁどうせ、迂闊な私がずっと内緒にしてる事も出来ないだろうし。


ウイントフークに手を離してもらって、椅子に座り直す。
朝を見ると「仕方が無いわね。ハーシェルなら大丈夫だと思うわ。」と言ってくれた。

朝が言うなら大丈夫。心を決めて向き直ると、仕切り直す様にウイントフークがお茶の準備をしてくれていた。



おおぅ………。

見るからに怪しそうなお茶の材料を調合?しながらウイントフークは「で?どうなんだ?」と私に話を促す。
それよりもお茶に私が気を取られている事に気が付いたのか、きちんとお茶を入れて座ってから、目線を送ってきた。

ちょっと一口、飲ませて。でもコレ、お茶………だよね?

「大丈夫だよ、味は保証する。」

私のこの世界での食事風景に慣れているハーシェルは、何を考えているか分かったのだろう、そう言って先に飲んで見せる。
カップを持ち上げたハーシェルからフワッといい香りがして、見た目とのギャップに驚いたけど、確かに美味しい。
動物のふんの塊を解したような見た目をしているくせに、味はダージリンの様な爽やかな味わいなのだ。

えー。これからダージリン飲みたかったらアレから入れるのかぁ~。

「何を考えるてるのか知らんが、どうなんだ」とウイントフークが催促してきて、「このふんのことです」と言いたくなったが、口を噤んでおこう。

それで、何を答えるんだっけ?

「先程からお2人が話をしている内容がイマイチよく分からないんですけど………」と私が正直に言うと、ウイントフークがため息をついた。

「まず、君はこの石の想いが分かるのか?」

それを1番に聞く、という事はそれが一番ヤバイポイントなんですね?

「はい」
「瞳が金がかってきたのは最近?」
「はい」
「この石は君のか?」
「はい」

「外れない、と。」
「はい」

「君は………外から来たね?」
「……………はい。」


段々重苦しくなってきた部屋の中で、緊張を断ち切る様に朝が作業台の上に、乗った。

「で?アンタ達は味方な訳?」

「ちょっと、朝駄目だよ………。」


「「え?!?」」

飼い猫の粗相を叱る様に、台の上の朝を抱いて下ろそうとしたら大の男2人が、目を見開いて固まった。

ん?どうしたコレ??



多分1分くらい待ったと思う。

最初に動いたのは流石、ウイントフークだった。

好奇心が勝ったのだろう、私に抱かれている朝に今度は視線が釘付けだ。

私も始めは何が起こったのか分からなかったが、2人の様子を見て私には1分考える時間があったので朝の声が聞こえたのだと気がついた。話しかけてもいいか、背中をトントンして、朝と目を合わせる。
OKサインが出たので、私はいつも通り朝に話しかける。

「なんか………ありがとう。」
「なんかじゃないでしょ。大分ありがとうよ。」

「ちょっと怖かったしね。大分場が和んだよ。」
「和んだと思ってるのはあんただけよ。」


そんな私たちのやりとりを見て、ウイントフークはニヤニヤし始めた。
完全に、獲物を見つけた楽しそうな顔になっている。ハーシェルはまだちょっと固まっているけど、さっきよりは良いだろう。
とりあえず、立ち上がっている2人に座ってもらう。

ウイントフークがハーシェルに落ち着く薬を渡していた。ごめんなさい、ちょっと微笑ましいと思いました。
はい。仲良し。


「えっと。見ての通り、朝は話せます。」

そう言って私はゆっくり話し出す。正直どこまで話していいか全く分からないので、とりあえずさっき聞かれた内容に簡潔に答える事にした。


「石は私のもの、ですし石たちと意思の疎通は出来ます。腕輪は外せなくて、………確かに私は外から、来ました。」

これだけ話して、じっと相手の出方を待つ。


ハーシェルは腕組みをして難しい顔をして、ウイントフークはまだ笑顔だ。
話出したのはウイントフークの方だった。

「よし、じゃあヨル。まぁ1コ1コ教えていこう。何はともあれ、このままじゃ完全にまずいからな。」

その言葉を聞いて我に帰ったのかハーシェルも、うんうん頷いている。

そうして私たちはやっと、話し合いとまじない力測定をスタートさせた。




「じゃあこれ持って。」

さっきの時計のようなものを渡される。

ヒヤリとした感触が気持ちいい。中に入っている液体はキラキラ光ってとても綺麗だ。気持ちのいい重みのあるその盤を中身の液体がよく見えるように、ゆっくり傾ける。
キラキラがスパンコールのようでとても美しく、楽しくなってゆらゆら回していた。

時計のように見えたのは、針があるからだ。針も液体と一緒にゆらゆらと回っている。置いてあるのを見た時は、光っていなかったし針も止まっていたので手にする事でキラキラするのだろう。
ちょっと欲しい、コレ。

楽しんでいる私を見ながらウイントフークは棚から本を出して来てめくっているし、ハーシェルは考える人のポーズになっている。
とりあえず結果が出るまで揺らして遊ぶ。

液体は水ではないようで、ゆっくりと揺れ、中のキラキラを運んでいる。キラキラはどうやら何かが入っている訳ではなく、液体が光っているみたいだ。止めると、光らない。

遊んでいるとパタンと本を閉じる音がした。
お目当ての記述が無かったらしく、「これはまた今度調べる」とハーシェルに言っている。

「どうだったんですか?」

勿論結果は気になる。

「いや………。」

ハーシェルはなんとも歯切れが悪く、ウイントフークは「もう少し調べないと分からないな。」と言った。
ウイントフークがそのまま説明してくれる。

「これはまじない力を測るもので、まずまじないの持つ性質によってこの液体の色が変わる。青が水、土が茶、赤が火、黄が風だ。基本はこの4つに分類される。あとは針の振れで見るんだが………。」


どうやら私の色は透明で何やらキラキラしているし、針も私が揺らすのに合わせてくるくる回っているしで、全く例が無かったらしい。

もう少し他の本も見て、調べたいそうだ。私が外から来たからなのか、石たちのせいなのか、まじない力のせいなのか。
私が考えても分かる事じゃないので、お任せするしかないだろう。

石たちの事に関しては、昔そういう事があったという記述をどこかで見た事がある、とウイントフークは言う。

「でもここだったか、あっちだったか………あっちだったら厄介だが内容的には石との意思疎通ができた、という事だったと思う。とりあえずはここを調べてみる。」

ウイントフークはもう本の方に気が向いているらしく、今にも本の山を漁り出しそうだ。そんな彼を放っておいてハーシェルは私に注意点を述べ始めた。

でも今までと言われている事は、そう大差無い。私が気をつけれるかどうかは、別なのだけど。

「とりあえず君は大人しくしていなさい」

私と朝に向かって言う。

「「そうよ。」」

私達がハモるとやっと、ハーシェルが笑った。

ずっと眉間にシワが寄っていたのでホッとする。

いつもは割と表情の読めない優しい顔をしているが、今日は随分と考え込んでいた。
心配かけないように頑張ります、と言っているとウイントフークがまた道具を持ってきた様だ。箱に何か入っている。

彼が持ってきたのは眼鏡とシンプルな指輪だ。

「まずこれかな。」
と眼鏡を台に置く。

「何はなくともこれがないとこれからは危険だ。ちょっとかけてみて。」

眼鏡を渡された私は、かけてみる。

うん、普通の眼鏡だ。これで私も眼鏡っ子か。

「大丈夫そうだね」と2人とも頷いている。


2人が心配しているのは金色がかった瞳もだ。この眼鏡はまじない道具で、瞳の色が変えられる。
リクエストも聞いてくれて、ここで1番多い色と言ったら茶色に決定した。

聞いて驚いたけれど、瞳に金が入っているのは2人が知る限りたった1人しか居なく、(しかもウイントフークは会った事はないらしい)噂が広まると面倒なんだそうだ。金の瞳だからと、すぐはどうこうならなくても、そのたった1人がものすごく偉い人らしくて争い事に巻き込まれる可能性が高いらしい。

確かにそれはごめんだ。


「じゃあ、次はこれを。」

もう一つは指輪だ。これを付けると石が発動しない、制御用の石が付いた指輪。
今の段階ではどの程度、何のタイミングで石たちが応えるか分からないので、着けた方が無難だという事らしい。

「じゃあ………」

私が指輪手に取ろうとした、その時。

腕輪から黄色い炎に包まれたような手が出てきて、ブワリとその指輪を握り込んだ。


あら。………熱血の腕?






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