透明の「扉」を開けて

美黎

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5の扉 ラピスグラウンド

謎の少女と謎の猫について(黒の時間)

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昨日は本当に、生きた心地がしない日だった。


普段からあまり感情を揺らす事がないよう育てられたが、流石に妻の忘れ形見の1人娘が拐われた時には気が動転していた。

闇雲に辺りを探し回って、危険に気が付いたのが暗くなり始めてからだった。
しかし、少しでも手掛かりが欲しいと野営をする事に決めた。

戦闘訓練もした事が無い自分には無謀だが、いざとなれば石の力でなんとかするしかないだろう。
暴力は苦手だが、料理に使うために火の石は持っている。
やられる前に、火ダルマにするくらいならできるだろう。

やれるかどうかは、別だがティラナの為ならな…。


何故目を離してしまったのか、周囲の気配にもっと気を配れなかったのか。
近頃森が物騒になっている話は方々から聞いていた。
所詮、他人事だったのか…。

神父という仕事柄、他人に寄り添う事は得意だと思っていたが、まだまだ未熟な事に気がつく。

まだまだ修行が足りないな………。

守りの石を働かせながら、ウトウトしているうちに白の時間になる。


焚き火を消して立ち上がると、守りの石の範囲を大きく広げる。

薄く、広く、広く広げていく。

ティラナの石は反応しないが、赤茶の色が感じられる方向へ、進んだ。


なんだか木々が騒ついている…。

いつもと違う朝の森に、不安が増す。
少しずつ、ティラナの石の気配がするようになってきた。
森の中央の方向だ。
そのまま、注意深く進んで行った。



遠くに見えるそれは、不思議な光景だった。

朝靄の中、ティラナの石の気配の近くに「何か」が立っているのが、見える。
ティラナは石の気配しかしないのに、「それ」は人の形をしていて、立ってこちらを見ているのが判るのだ。

少し怖しい気配と清浄な空気、青の雰囲気が混ざった、なんとも不思議な存在感。

負の気配が全く感じられないので、そのまま近づいて行くと「それ」の後ろにティラナが見える。

良かった…!無事だ。

寝ているようだが、大きな怪我などの乱れた気配がないので、ホッと一息ついた。

もしティラナが戻らなかったら、生きていられる気がしない。
それを強く感じた夜だった。


更に近づいて行くと、私がティラナを呼んだ声を聞いて「それ」がティラナをつついて起こしている。
そうして、ティラナが私のところに飛び込んできた。



再会を噛みしめながら、顔を上げて見ると「それ」は少女だった。

何故認識できなかったのか解らないが、少女だと判るともう少女にしか見えない。
そして少女は私達が抱き合っているのを、微笑ましく見守っている。
年の頃は14~16くらいだろうか。

雰囲気から、落ち着いて見えるがもっと幼いのかもしれない、と肌や髪の様子から感じた。


お礼を言って、改めて至近距離で見るととても美しい子だ。
ブルーグレーの髪が艶めいているのが印象的で、珍しく同じ色味の青が濃い瞳をしている。

ラピスグラウンドでは青は尊ばれる色だし、髪と瞳の色味が同じなのはとても珍しい。
しかもこのくらいの歳の子には珍しいくらいの髪の色。
ティラナはまだ7歳なので髪の色は濃い。

14~16くらいで変化があるとしても、今現在この位の薄さでもしこれ以上になったなら……………。

チラリと将来を想像して、重い気分になる。

そして更に困った事に、少女の腕には恐ろしい程の品質の腕輪が、見えた。


あれは……本物か?

思わずオモチャかと思う程の透明度の石が付いた腕輪。
ヨークが作ったうちの窓ガラスだって、あんなに透明度が高くない。

そして、それを隠すそぶりも見せない少女。

危険過ぎる。

娘を助けてくれた事は、ティラナが1人一生懸命話している事からも、分かる。
何より、石からは良い波動しか感じられないし、守りの気配がする。

これだけの石たちに守られている少女が只者ではないのは理解できるし、何よりこのままだとまた拐われるのは時間の問題だ。

「宜しければ、うちへ………。」

すぐに誘いに乗った事から見ても、保護しなければならない子だ。
警戒心が無さすぎる。


少女に不審に思われないよう、腕輪を隠す布を巻き、家に案内する事にした。



ティラナは動物が好きだ。
多分少女の猫なのだろう、道中話しかけている。
まるで、会話でもする様に。

ティラナは道で会った猫と日常的にそんな様子だが、少女もまた猫と話をしている(様に見える)。
これまた絶妙に猫が返事をするものだから、本当に通じている様に見えるのだ。

街の様子を説明しながら猫とのやり取りを見ていると、いつの間にか猫は何処かに行った様だった。



街を歩く様子を見て、やはりな、と確信する。
少女は「扉の外の者」だろう。

もしかしたら………………。

自分の予感が当たらないで欲しい、と思いつつも確信に似たものが不安と共に過ぎる。

予言に対して、知ってはいたものの現実感を持っている者など誰1人としていないだろう。
自分もその1人だったが、それに繋がる要素に似過ぎている。


今のうちに………。

打算とも、保身とも取れる気持ちと少女を純粋に保護したい気持ちが無い混ぜで、ため息をつく。

少女と話すティラナを見て、なによりも自分が守りたい存在を確認すると、それ以上は考えるのを止めて家のドアを開けた。



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