透明の「扉」を開けて

美黎

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5の扉 ラピスグラウンド

人質の少女

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気が付いたら、真っ暗闇だった。

なんだか身体のあちらこちらが、痛い気がする。


「ん………。」

身体を起こそうとすると、聞こえて来た「しーっ」という、声。

ん?ここはどこ?私は………依る。
うん、わかる。
いやいや、ていうか扉開けた後どうなったんだっけ??

多分、さっき「しーっ」って言ったのは朝だと思う。

真っ暗で、静かにしなきゃいけない状況??
何が起こってるんだろ?

とりあえず、朝の言った通り静かに状況を伺う。
暗闇に、少し目が慣れてきた。


どうやら夜の様だ。
灯のない、小屋の様な場所。

打ち付けられた窓から、月明かりらしき光が細く差しこんでいる。

薄明かりの中、そっと自分の状況を確認する。
何だか肌寒いと思ったら、板張りの床に寝ているのだ。
道理で身体が痛い。

どうも動けないと思ったら、手が後ろで縛られてるんだ…。
これが後ろ手に縛られるだね………。
まさか、実際体験する事になろうとは。


そんな呑気な事を考えていると、少し離れた場所にある人影に気付いて、思わず声が出そうになった。

もう1人いる………。

少し離れた所に、同じ様に縛られている子供が見える。

女の子だ。
私より小さい子供。
髪を後ろで1つに縛っていて、身体を丸めるように寝転がっている。
向こう側を向いているので、顔は見えない。


「………(朝)っ。」

どうにかならないものかと、とりあえず朝を呼ぶ。

足の方にある、薪の様な木が積んである所の陰から尻尾が見えるのだ。
返事をする様に動いた尻尾を見て、朝は大丈夫な事を確認する。

「(気焔?)」

こちらも小声で腕を動かす。
何しろ腕輪は後ろ側なので、聞こえているか微妙だ。

「吾輩は無事だ。」

「(オイーーーーー!!)」

なんで普通に応えるんだよーーーー!!
もーーーーー!!!

声を出さずに悶えていると、小さな声が聞こえた。

「…だれ?」

………多分、あの子の声だよね?

少し離れた場所とはいえ、そんなに大きな小屋ではない。
聞こえたのだろう、少し女の子が動いた。

私は女の子が生きている事に安堵して(いきなり死体とか勘弁、)小声で朝を呼ぶ。

「朝、手、外せる?」

それと同時に、手首の辺りがくすぐったくなった。

ひ、ひげが……………っ。

サワサワするひげに耐えながら、「さすが猫、近くに来たの全然気付かなかった」と感心する。

肉球、万歳。 


そうこうしているうちに、手首の縛りが解けた。
そのままの体勢で、身体が動くか静かに確認する。
とりあえずあちこち痛いけど、大きな怪我は無さそうだ。

朝に、目でお礼を言って女の子の方を目配せする。
朝が頷いたので、そーっと近づいてみる事にした。

如何せん、朝や気焔と話すにもこの子に丸聞こえだからだ。
まず、恐らく同じように捕まっているこの子を確認する必要がある。

低い姿勢でゆっくりと立ち上がり、ソロリソロリと近づいて行った。


「(大丈夫?)」

いきなり姿を見せたら驚くだろうと、先ずは小声で声をかける。
女の子はビクッと身体を震わせた後、小さく頷いた。

そっとその子の前にまわると、人差し指を口に当てたまま姿を見せる。

まず、安心してもらう為だ。
同じ女の、子供だという事を見せたら安心するだろう。


目が合うと、少し驚いた様な顔をされたが、安心はした様子である。
身振りで縄を外すよ、と教えてからくるりと振り返った。

さて、ナイフは?

辺りを見渡すとリュックが、無い。

ない!お金!私のリュック!一文無し!?

とっさに思いついたのがお金なんて、残念な女子だけど縄を切るのは朝でもなんとかなる。

でもお金………涙。
どこ行った。許せん。


いざとなったらお金に変える予定の荷物が無くなって、怖いよりも「許せん。」が大きくなる。
ギュッと拳を握り手の感覚を確かめ、縄を解こうとするがやはり無理だ。

朝に目配せして、縄を切ってもらう。

そうして自由になった女の子のケガが無いか確認すると、探索を始める事にした。


「ちょっと宙。宙って気付きの石なんでしょ。なんか気付いた事ないの?」

「そういう使い方ではございませんな。」


え?じゃあどういう使い方?

私が考えながら唸っていると、女の子が訝しそうにこちらを見ている。

「!」

ヤバい。
私これ腕輪に話しかけてるヤバい人じゃん。
そもそも、石の声が聞こえるのかっていう問題が、あった。

とりあえずは今、説明している状況ではない。
ニッコリと笑ってごまかしておいたけれど。

誤魔化せてるかな…。


朝が小屋の中をぐるりと調べてくれている。
私の所へ来て、薪の方に出口があるけど、人がいるかもしれないと言った。

ていうか、これって誘拐?

人がいるなら、外に出られない可能性がある。
縛られていた事を考えると、誘拐の可能性が高い。
しかも、美少女2人。

自分で言ったが、私の事は置いておくとしても、もう1人捕まっていた女の子は確かに可愛らしい女の子だ。

暗くてよく見えないが、多分茶色の髪に瞳の色も明るい。
くるりとした可愛いらしい瞳が愛らしく、小動物の様な雰囲気だ。
くるくるした髪の毛は、癖毛だろうか、程良く波打っていて触りたくなるフワフワに見える。
多分、年の頃は小学校入ってるか、入ってないか………。

そんな事を考えていると、外から声が聞こえてきた。

「………だけだ。明日、出発する。」
「分かった。少し寝たら、交代しろよ。」

どうやら見張りの男だろう。
何やら話しているが、多分声だけで判断すれば2人の筈だ。

「(朝、この2人以外、誰かいそう?)」

朝は首を横にフルフルする。

2人か………………。

2人と言っても交代するらしいので、実質は1人だろう。
しかし、近くに仲間がいるかもしれない。


「なんで扉開けて早々、誘拐されてんだろ??」

納得いかないが、このまま攫われるわけにはいかない。

冒険はしたいと思ったけど、早々に売られるとか、嫌だからね………。


声が聞こえない様、入り口から遠い場所へ移動する。

女の子を手招きして、そばに座らせると朝も目の前にちょこんと座った。

「ねぇ、勿論夜のうちに逃げないとヤバいよね。」
「そうね。朝になったら移動するみたいだし、見張りも2人になるわ。もし仲間がいて、合流されるともっと厄介だし。今はあなた達が縛られていて、女の子だから油断してるだけよ。」

私達の会話を見ていた女の子が言う。

「お姉ちゃん、猫ちゃんとお話ししてるの??」

あ。
そういや、ここ(5の扉)では猫って喋るかな………?

ついいつも通りに会話していた事に気付かなかった私は、冷や汗が出てきた。

もしここで変人確定したら、それはそれでヤバくない?

「いいなぁ。ティラナもお話ししたいなぁ。」

しかし子供は純粋である。
そう言った女の子に感心しながら、話してみるよう勧めてみた。

「いいよ?話してみる?」

しかし、彼女曰く「猫語が分からない」との事だ。

なんだか「ニャーニャー」言ってるらしいんだけど、何を言っているのかは分からないらしい。
見ていると、私と朝が会話してるのは間違い無いので羨ましくて、大きくなったら猫語が分かるのか聞かれてしまった。

「うーん。大きくなったら…お姉ちゃんもね、猫語が分かるようになったの最近なんだよ。お父さんとかお母さんは、猫ちゃんと話せるの?」

「話せないと思う。見た事ない。」

小声で色々聞いてみると、まず動物と会話してる人はいないそうだ。
飼っている動物に話しかける事はあっても、言葉は分からないのが普通らしい。

まぁ、私の世界でもそれが普通だしね………。

朝だけが喋るのかとも思ったけど、今聞いていて分からないなら、「私だけが分かる」のが正解だろう。
ついでにちょっと聞いてみる。

「ねぇ、さっきコレが喋ったのも聞いてた?」

腕輪が嵌っている手を見せて、聞く。

「??手が喋るの?」

「ううん、なんでもない。」

誤魔化したけれど、やはり石も喋らない様だ。

何があるか分からないし、この世界の常識もまだ分からない。
とりあえず「お姉ちゃんが猫とお話できるのは内緒ね。」とだけ言っておく。
小さな女の子がどこまで守れるか分からないけど、口止めしないよりはいいだろう。

ゆっくり頷くと、彼女はどうして自分がここに居るのかを小さな声で話し始めた。



朝からティラナはお父さんと森へ、食料調達に来ていた。
木の実やキノコを採って、お父さんは小さい動物を獲っていた様だ。

ある程度採れたので、お昼を食べてから帰ろうかと準備をしていた。
お父さんは獲れた動物の処理をして、ティラナはご飯の用意をしてたらしい。

「そんなに離れてなかったのに、お父さんが後ろを向いているうちに、近付いてたんだと思う。」

急に後ろから口を塞がれ、抱き上げられてあっという間に森の奥に連れて行かれたらしい。
少し離れた所に隠してあった大きな袋に入れられ、気付いた時にはもうこの小屋だった。


「森の中ね…。人攫いって、よく出るの?」

「最近増えたってお父さんが言ってた。でも、うちはお母さんがいないから、1人でお留守番もダメだから………お父さん、心配してる、きっと。」

ティラナの大きな目がウルウルしてきた。

泣かれるとまずい。
気付かれるかもしれない。
可哀想だが、ここで気付かれる訳にはいかないのだ。

ハンカチすら持っていない私は、何かいいものがないかと小屋の中を見渡す。

すると「ふふっ」と小さく笑う声が聞こえた。
朝が、ティラナにすり寄ってしっぽをフリフリしているのだ。

ナイス、朝………!

朝による癒しタイムが行われてるうちに、後ろを向いて秘密の作戦タイムだ。


「作戦ある人、挙手。」

「あまり私たちは役に立てなそうね。」
「わたくしもですな。」
「ピンチになったら吾輩を呼ぶがいい。」

いや、今ピンチなんですけど。

当てにしたのが間違いか………と額に手を当てていると、微かに蝶番が軋む音がした。


「………!」

瞬時にティラナを抑え込み、自分も寝転がる。


……………ヤバい。気付かれたかな…てかそもそも移動してるし………。


ドアが開いて、差し込む月明かり。

ハッキリとしたその影は、人一人分の大きさがある。
入ってくる様子はないが、中の様子を確認しているのだろう、見られている感じはする。

息を殺して、じっとしていた。


「2人一緒にしたっけな?」

まずい。近づいてくる。

大ピーンチ!!どうしようどうしようどうしよう!!


自分の心臓の音がもの凄く大きくなっているのが分かる。

床に差し込む月明かりをじっと見つめたまま、頭をフル回転させようとするが、焦りだけで全く何も考えられない。

絶体絶命!
そう、思った時声が、した。


「ニャーン」


足音が、止まる。

朝!引き付けてくれてる!
あっちいけ!可愛い猫ちゃんだよ~見に行って~!
ん?でも朝が襲われると困るな…。

「なんだ猫か。」

男は一瞬振り返った様だが、そう呟くと足音はまたこちらへ進んでいる。


おうおう、全然止まらなーい!!

嫌な汗が頬を伝うのが、分かる。

息は殺してるけど、汗で気付かれたらどうしよう!

そんなお門違いな事を、ぐるぐる考えていた。


開けていた薄目を閉じて、ひたすら息を殺す。

男が私達のすぐそばに立ち止まった事が、分かった。


「コイツ、起きてんじゃねぇだろうな。」

「ドスッ」と鈍い音がして、ビクッとティラナの身体が動いた、瞬間。

瞬時に身体中に血が上るのが、分かる。

そのまま勢いだけで何も考えず、男とティラナの間に立った。

「やめて!」

威嚇の為、出来る限りの大きな声を出したつもりだったが、掠れた声が出る。
手足はブルブル震えているが、どうしようもない怒りがこみ上げてきて、怖さを上回った。

「なんだ。ガキより丁度いい。売り物にキズはつけない主義だかなんだか知らねぇが、気分次第だよなぁ?なに、優しくしてやるよ。」

男が手を伸ばしてきた瞬間、全身に鳥肌が立つ。


怒りが恐怖に変わった、瞬間。

「気焔!!!!!」

ありったけの声で、叫んだ。


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