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始まりの部屋 2

小休止と反省会

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「………ふぅ。」

やっと戻ってきた、いつもの白い部屋。

戻って来れて、嬉しい様な、なんだか寂しい様な。
複雑な気分だ。

くるりと振り返って、4の扉を見る。
この部屋と同じ、白い、不思議な森。

結局あそこは何だったんだろう?
他の扉は、色があるよね…………?


そんな事を考えながら、私は手に入れた仲間達を眺めるべく、その場に座り込んだ。

いや、ちょっと疲れていたのかも、しれない。

リュックを下ろし、ナズナがいないと寂しいな、と思いつつもゆっくりと足を投げ出した。


「やっぱり素敵……………。」

新しく仲間に入ったクルシファーと、銀の靴。

まずはじっくり眺めなくては………。

フラフラと動かしていた足を止め靴を脱ごうとしていると、どうやら気焔がご機嫌斜めである。

「おい、依る。」

「どうしたの?」
「お主、まずシンラ様にご挨拶じゃろ。」

あ。

私は、シンラの事をすっかり忘れていたのに気が付いた。
というか、扉の中では1度も思い出さなかった事に気付き「その事実」に自分で驚いたのだ。


え………私、めっちゃ薄情じゃない??

大体考えている事が分かるのだろう。
気焔が慰める様に、こう言った。

「仕方がない、依る。扉の中ではシンラ様の存在は無い事になっている。勿論、吾輩は覚えているが………と言うか、お主の中だけに「いない」のだ。」

え?私の中にだけ?………いない?


腕を上げ、石を見る。

キラリと光る、黄色の石。
気焔は私がシンラの事を覚えているまま扉の中に行くと、何かと不都合があると言う。

何となく、奥歯に物の挟まった様な、言い方。

そういえばあの白い女の子と話している時、何か大事な事忘れてる…と思ったよね?
きっと、シンラの事だったんだ。

「ねぇ、でもそこは忘れちゃいけないとこじゃないの??」
「まぁそうなんだが、そこを省いてこその試練というか………うん、まあ。」

またなんか隠してる……………。

ジットリとした目で気焔を睨んでみたけれど、やはり言う気は無い様だ。
その様子を見て、小さく溜息を吐く。

「まぁ、いいけど。出来るだけ協力はしてよね。」
「あいわかった。」


そんなこんなで私達は合意し、シンラの側へ向かう事にした。
彼は、少し離れた所に座っていたから。


時間が経っているので様子を確認したが、どうやら見た目の変化は無い。
また表情は無になって、何も無い所を見つめている、赤い瞳。

シンラに変化が無い事を確認すると、安心して少し離れた所に置いてあるケータイを取りに行く。
時間の経過を確認する為、4の扉に入る前、日時を確認してこの白い部屋に置いて行ったのだ。

時間を確認すると、日付は流石に変わっていない。
時間は、扉に入ってからなんと10分しか経っていなかった。

「え。ウソ。」

朝にも確認する。
猫の感覚でも、かなり時間は経っていると感じていた様だ。


白い森では、寝ちゃったりしたし多分朝、学校に行って夕方帰る、くらいの感覚だったんだよね。それが授業中の居眠りくらいだとは………。

まさか10分とは思わなかった。
ま、短縮される分には問題ないから、いっか………?


気を取り直して座ると、シンラの様子を見ていた朝もやってきて私の隣に座った。

「さて、休憩しながら反省会ね。」

持って行ったのに出番がなかった、お茶とおやつがリュックにある事を思い出し、いそいそと準備をする。
反省会なんて不穏な響き、甘い物でも食べながら聞くしかない。

そうしてそれは、当然の様に朝のお小言から始まった。

「本当に依るはもう、人の話を聞いてないのよね」
(花の話ね、ププッ)
「全くだ。心配したのに寝こけていたもんだから、開いた口が塞がらなかったぞ。」
(口は無いんだけど、………プッ)
「私もまさかあそこまで色が付くと思わなかったわ。」
(アレも不思議だったよねぇ。綺麗だったなあ~)


「………………。」

「「ちょっと依る!!!聞いてないでしょ!!!」」
「…!ゴホッ、ゴ、ごめん、聞いてるよ。」

お菓子を喉に詰まらせながら謝っても、全く説得力が無い。

「ホント大丈夫かしら、この子は………。」

朝に呆れられながら、私も真面目に参加する。

「とりあえず、クルシファーと、姫様の靴が手に入ったんだから滑り出しは上々じゃない?」
「まぁ、そうね。」

腕と足を上げながら、話題を逸らそうと2人に成果をアピールする。

これまでの予想から、1つの扉に1つの石はあると思っていたけど。
衣装や指輪は全く予想がつかなかったので、1つ目の扉で靴が見つかったのは、かなりの幸運ではないだろうか。


でも衣装って言ってたから服だけだと思ってたら、靴もだったね。
これ、先に服見つかってたら多分私、靴探してないよ………。
でもこれだけ豪華な靴なら、服もかなり期待できるんじゃない??

1人でニンマリしていると、また朝に怒られた。

「コラ!また聞いてない!」
「え?なに?」

とりあえず10分しか経ってないので、5の扉に入る事にしたらしい。
私が少し疲れただろうという事で、ここで休憩してそのまま向かう事になった。

良かった、この見た目じゃお母さん卒倒しちゃうかもだしね…。
かと言って5の扉から帰ってきても、髪が戻るか、分かんないけど…。




「寝袋使わなかったから、置いてっていーい?」

出来るだけ軽い方がいいんだけど、と言うと気焔がまた反対した。

「いや、いざとなったらお金に変えられるよう持って行った方がいい。」
「………………………。」


いざと、なったら………?

お金に、変える………?


そういえば気焔は「5の扉から出てきた」と言っていた。
多分どんな世界か、知っているのだろう。

でも今までの対応からして、私に教えてくれないに違いない。
そう思った私はそのままさり気なく続ける。

「そうだよね。食べ物とか買えないと困るし、ずっと野宿は嫌だしね。」
「左様。丁度良いところに出れば御の字だが、街から遠かったり、危険な所に出ないとも限らん。」
「えー、危険って言われてもやっぱりナイフじゃどうにもならないよね?」
「まぁそこまでの危険な場所に出てしまったら、依るでは………………あっ。」

手が出てるわけじゃないんだけど。
宙に止められたのが、分かった。

私がニヤニヤしているのを見て「お主、やるな。」と気焔が悔しそうだ。

「それにしたって、危険がある場所なら少しはヒントくれないと困るよ。さすがに。」

すると、蓮が言う。

「とりあえず、いざとなったら気焔を呼びなさい。今のところはそれしかないわ。」

え。
不安………。

私の不満気な顔を見て気焔が「失敬な。吾輩やる時はやるぞ。」なんて言ってるけど。

ホントかな??



結局それ以上の情報は石たちが黙秘したので、諦めて朝とリュックの中身を確認した。

基本的に今持っているものは、全部持っていく。いらないなら、売ればいいしお金が存在するなら絶対に必要になるはずだ。

事前情報ほぼ無しって、コワッ。



出発前にシンラの前に座る。

変わらずキラキラした髪を見て、ホッとした私は一応、靴を手に入れた事を報告してみた。

「カエル長老がね、靴を持ってたよ。すごく綺麗な靴だね。今は私が借りてるけど、姫様を見つけたら履かせて帰ってくるからね。」
「あとほら、これ見て。クルシファーだよ。ちょっと美味しそうだね?食べ物じゃないって怒られたよ。ホント舐めたら味しそ………」

独り言報告をしていたら、シンラが少し微笑んだ気がしたので注意深く顔を見る。

うーん。気のせいかな。

そのままとりとめのない話をしながら、シンラと靴を交互に見ていたら、なんだか疲れが取れる気がした。




「さて、そろそろ出発せねば。」

それとなく、気焔に急かされる。

「だよね…。」

わかる。
行かなきゃいけないのは解るけど、今度はハードルが高い。
さっきのセリフ、めっちゃ気になるし。

「行きましょう。」

朝も立ち上がって、グレーの毛を立ててフルフルしている。

それを見て私も覚悟を決め、リュックの中から出したゴムで髪を結ぶ。
気合いを入れてポニーテールにした。

「よし。」

またしゃがんで、シンラの顔を覗き込む。
まだ「無」のまま、一点を見つめている彼。

今日は開いている美しい赤の瞳、白い髪と肌、繊細なレースの服を目に刻みつけて一つ頷いた。

大丈夫。さあ、行こう。

「行ってきます。」

私はそう言って、振り向かずに5の扉へ向かった。




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