10 / 1,751
始まりの部屋 2
小休止と反省会
しおりを挟む「………ふぅ。」
やっと戻ってきた、いつもの白い部屋。
戻って来れて、嬉しい様な、なんだか寂しい様な。
複雑な気分だ。
くるりと振り返って、4の扉を見る。
この部屋と同じ、白い、不思議な森。
結局あそこは何だったんだろう?
他の扉は、色があるよね…………?
そんな事を考えながら、私は手に入れた仲間達を眺めるべく、その場に座り込んだ。
いや、ちょっと疲れていたのかも、しれない。
リュックを下ろし、ナズナがいないと寂しいな、と思いつつもゆっくりと足を投げ出した。
「やっぱり素敵……………。」
新しく仲間に入ったクルシファーと、銀の靴。
まずはじっくり眺めなくては………。
フラフラと動かしていた足を止め靴を脱ごうとしていると、どうやら気焔がご機嫌斜めである。
「おい、依る。」
「どうしたの?」
「お主、まずシンラ様にご挨拶じゃろ。」
あ。
私は、シンラの事をすっかり忘れていたのに気が付いた。
というか、扉の中では1度も思い出さなかった事に気付き「その事実」に自分で驚いたのだ。
え………私、めっちゃ薄情じゃない??
大体考えている事が分かるのだろう。
気焔が慰める様に、こう言った。
「仕方がない、依る。扉の中ではシンラ様の存在は無い事になっている。勿論、吾輩は覚えているが………と言うか、お主の中だけに「いない」のだ。」
え?私の中にだけ?………いない?
腕を上げ、石を見る。
キラリと光る、黄色の石。
気焔は私がシンラの事を覚えているまま扉の中に行くと、何かと不都合があると言う。
何となく、奥歯に物の挟まった様な、言い方。
そういえばあの白い女の子と話している時、何か大事な事忘れてる…と思ったよね?
きっと、シンラの事だったんだ。
「ねぇ、でもそこは忘れちゃいけないとこじゃないの??」
「まぁそうなんだが、そこを省いてこその試練というか………うん、まあ。」
またなんか隠してる……………。
ジットリとした目で気焔を睨んでみたけれど、やはり言う気は無い様だ。
その様子を見て、小さく溜息を吐く。
「まぁ、いいけど。出来るだけ協力はしてよね。」
「あいわかった。」
そんなこんなで私達は合意し、シンラの側へ向かう事にした。
彼は、少し離れた所に座っていたから。
時間が経っているので様子を確認したが、どうやら見た目の変化は無い。
また表情は無になって、何も無い所を見つめている、赤い瞳。
シンラに変化が無い事を確認すると、安心して少し離れた所に置いてあるケータイを取りに行く。
時間の経過を確認する為、4の扉に入る前、日時を確認してこの白い部屋に置いて行ったのだ。
時間を確認すると、日付は流石に変わっていない。
時間は、扉に入ってからなんと10分しか経っていなかった。
「え。ウソ。」
朝にも確認する。
猫の感覚でも、かなり時間は経っていると感じていた様だ。
白い森では、寝ちゃったりしたし多分朝、学校に行って夕方帰る、くらいの感覚だったんだよね。それが授業中の居眠りくらいだとは………。
まさか10分とは思わなかった。
ま、短縮される分には問題ないから、いっか………?
気を取り直して座ると、シンラの様子を見ていた朝もやってきて私の隣に座った。
「さて、休憩しながら反省会ね。」
持って行ったのに出番がなかった、お茶とおやつがリュックにある事を思い出し、いそいそと準備をする。
反省会なんて不穏な響き、甘い物でも食べながら聞くしかない。
そうしてそれは、当然の様に朝のお小言から始まった。
「本当に依るはもう、人の話を聞いてないのよね」
(花の話ね、ププッ)
「全くだ。心配したのに寝こけていたもんだから、開いた口が塞がらなかったぞ。」
(口は無いんだけど、………プッ)
「私もまさかあそこまで色が付くと思わなかったわ。」
(アレも不思議だったよねぇ。綺麗だったなあ~)
「………………。」
「「ちょっと依る!!!聞いてないでしょ!!!」」
「…!ゴホッ、ゴ、ごめん、聞いてるよ。」
お菓子を喉に詰まらせながら謝っても、全く説得力が無い。
「ホント大丈夫かしら、この子は………。」
朝に呆れられながら、私も真面目に参加する。
「とりあえず、クルシファーと、姫様の靴が手に入ったんだから滑り出しは上々じゃない?」
「まぁ、そうね。」
腕と足を上げながら、話題を逸らそうと2人に成果をアピールする。
これまでの予想から、1つの扉に1つの石はあると思っていたけど。
衣装や指輪は全く予想がつかなかったので、1つ目の扉で靴が見つかったのは、かなりの幸運ではないだろうか。
でも衣装って言ってたから服だけだと思ってたら、靴もだったね。
これ、先に服見つかってたら多分私、靴探してないよ………。
でもこれだけ豪華な靴なら、服もかなり期待できるんじゃない??
1人でニンマリしていると、また朝に怒られた。
「コラ!また聞いてない!」
「え?なに?」
とりあえず10分しか経ってないので、5の扉に入る事にしたらしい。
私が少し疲れただろうという事で、ここで休憩してそのまま向かう事になった。
良かった、この見た目じゃお母さん卒倒しちゃうかもだしね…。
かと言って5の扉から帰ってきても、髪が戻るか、分かんないけど…。
「寝袋使わなかったから、置いてっていーい?」
出来るだけ軽い方がいいんだけど、と言うと気焔がまた反対した。
「いや、いざとなったらお金に変えられるよう持って行った方がいい。」
「………………………。」
いざと、なったら………?
お金に、変える………?
そういえば気焔は「5の扉から出てきた」と言っていた。
多分どんな世界か、知っているのだろう。
でも今までの対応からして、私に教えてくれないに違いない。
そう思った私はそのままさり気なく続ける。
「そうだよね。食べ物とか買えないと困るし、ずっと野宿は嫌だしね。」
「左様。丁度良いところに出れば御の字だが、街から遠かったり、危険な所に出ないとも限らん。」
「えー、危険って言われてもやっぱりナイフじゃどうにもならないよね?」
「まぁそこまでの危険な場所に出てしまったら、依るでは………………あっ。」
手が出てるわけじゃないんだけど。
宙に止められたのが、分かった。
私がニヤニヤしているのを見て「お主、やるな。」と気焔が悔しそうだ。
「それにしたって、危険がある場所なら少しはヒントくれないと困るよ。さすがに。」
すると、蓮が言う。
「とりあえず、いざとなったら気焔を呼びなさい。今のところはそれしかないわ。」
え。
不安………。
私の不満気な顔を見て気焔が「失敬な。吾輩やる時はやるぞ。」なんて言ってるけど。
ホントかな??
結局それ以上の情報は石たちが黙秘したので、諦めて朝とリュックの中身を確認した。
基本的に今持っているものは、全部持っていく。いらないなら、売ればいいしお金が存在するなら絶対に必要になるはずだ。
事前情報ほぼ無しって、コワッ。
出発前にシンラの前に座る。
変わらずキラキラした髪を見て、ホッとした私は一応、靴を手に入れた事を報告してみた。
「カエル長老がね、靴を持ってたよ。すごく綺麗な靴だね。今は私が借りてるけど、姫様を見つけたら履かせて帰ってくるからね。」
「あとほら、これ見て。クルシファーだよ。ちょっと美味しそうだね?食べ物じゃないって怒られたよ。ホント舐めたら味しそ………」
独り言報告をしていたら、シンラが少し微笑んだ気がしたので注意深く顔を見る。
うーん。気のせいかな。
そのままとりとめのない話をしながら、シンラと靴を交互に見ていたら、なんだか疲れが取れる気がした。
「さて、そろそろ出発せねば。」
それとなく、気焔に急かされる。
「だよね…。」
わかる。
行かなきゃいけないのは解るけど、今度はハードルが高い。
さっきのセリフ、めっちゃ気になるし。
「行きましょう。」
朝も立ち上がって、グレーの毛を立ててフルフルしている。
それを見て私も覚悟を決め、リュックの中から出したゴムで髪を結ぶ。
気合いを入れてポニーテールにした。
「よし。」
またしゃがんで、シンラの顔を覗き込む。
まだ「無」のまま、一点を見つめている彼。
今日は開いている美しい赤の瞳、白い髪と肌、繊細なレースの服を目に刻みつけて一つ頷いた。
大丈夫。さあ、行こう。
「行ってきます。」
私はそう言って、振り向かずに5の扉へ向かった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜
まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。
ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。
父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。
それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。
両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。
そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。
そんなお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。
☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。
☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。
楽しんでいただけると幸いです。

裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる