透明の「扉」を開けて

美黎

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始まりの部屋 1

気焔の話 

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「まず、ちょっと始めに整理させて。」

姫様のものを探しに行くのは、いい。

でも、分からない事が多過ぎるのだ。
腕輪のくせに、やる気でジタジタしている気焔に呆れた視線を向けながらも、疑問点をぶつけて行く。

 まず、何を探すのか。
 それぞれの詳細を。
 探し物は、どの扉の中にあるのか。
 扉の中には、何があるのか。
 等々。

しかし案の定。
私が期待する様な、明確な答えは返ってこなかった。

「扉の中に何があるかは依るが開けなければ分からないのである。」
「どの扉にもあるとも言えるし、ないとも言える」
「探し物は扉の中で達成した後に見つかるであろう」

 「………。」

流石にちょっと、どうかと思うけど………。

もっとモチベーション上げるような事、言って。これじゃ行きたくないよ………。

その予想通りの答えを聞いて、項垂れていると朝が助け舟を出してくれた。

「乗り掛かった船ですもの。お伴するわよ。」
「ホント??!良かったぁー。」

流石に、やる気だけしかない腕輪気焔がお供なんて。
不安過ぎる。

そうして私達は一緒に気焔に質問しながら、大体の行動予定を立てた。


1、まず姫様の持ち物を探す事

持ち物とは主に指輪と衣装、後はこの腕輪に嵌るはずの他の石らしい。
確かに、まだ凹みが5個ある。
気焔の他は既に、赤と青、緑の小さい石が嵌っている。
気焔が1番大きい。

あとは何色の石が嵌るのかな?

そう考えながら見ていたら、やっぱり他の石たちも喋り始めた。

「宙と申します、姫様」
「藍です」
「蓮よ」

 自己紹介は1人ずつお願いします…。

「これからよろしくね。えーと宙、藍、蓮?宙、私は姫様を探しに行く依るというの。姫様じゃないのよ。」

「姫様は姫様。それでよいのです。」

何か1人で納得している様な、茶ががった緑の宙はそう言った。
ここで押し問答しても仕方が無い。
とりあえずは、流しておく。

そして、落ち着いた緑だけあって宙はなんだか執事っぽい感じだ。
まぁ見た目は石だから、雰囲気だけど。

少しピンクっぽい、赤の子が蓮。
赤だから女の子かな~と思ったけど、性別あるのかな。綺麗な赤。
なんだか、ツンとした感じが可愛い。

水色が藍。
綺麗な癒される水色で、見ていると何だか落ち着いてきた。
焦っていた心が少し癒される。
蓮がキラキラした形なのに対して、藍はツルッと丸い形だからかな?

「他の石もこんなカラフルキラキラなのかなぁ。」

「だと思いますな。」
「そうねぇ。私はあの子が1番好きなんだけど、どこに行っちゃったのか…」
「全ては流れの赴くままに。」


私の独り言にほぼ独り言で返している石たちを見て、朝が言う。

「もしかして、あの番号の色なんじゃないかしら?」

朝が尻尾で指していたのは、扉の上に振ってある番号だ。
確かにいろんな色がある。

私達が入ってきた家の扉が1。
1はピンクっぽい赤。蓮の色とそっくりだ。

2は水色。藍と同じ。
3は宙。番号の方が明るいけど、緑だ。
塗料の違いかな?

「ホントだ………朝、すごいね。名推理。だとすると気焔は5の扉って事?でもまだ5は開けてないけど。」

「まぁ吾輩は大分前に扉から出たからな。仕方あるまい。」
「え?覚えてるの??」
「いや、何だか女人に連れられていた事しか分からんが、それが惣介の伴侶だろう。」

?確かにおばあちゃんの所にあったけど、おばあちゃんが扉から出てきてるわけ???
なんだかよく分からなくなってきたぞ?

はてな顔で朝を見ると、朝は横に首を振った。

「さすがに私もそこは知らないわ。後で依子にに聞いてみるといいわね。でも気焔からは、糸とは違う匂いがするわよ。」

「えー、おじいちゃん??」

何だか知りたくない家族関係が暴かれそうで、ちょっとブルーになったけど。
とりあえずその問題は横に置いて、話を進める。


「じゃあ気焔はもういるから、とりあえず今ドアノッカーがついてる4と6の扉を開ければいいのかな?」

「いや、依る。依るが自分で開けたのは3の扉までだ。4から順に開けていかねばならぬだろう。多分。」
「ちょっと気焔~、多分って何。しっかりしてよ~。」

自信がありそうに「多分。」と言っている気焔に不安が増して、更にモチベーションが下がる。

「はいはい、2人とも。真面目に。」

グダグタになり出した私達二人を、何故か纏める朝。
猫が一番しっかりしているのは、どういう事だろうか。

そうしてなんだかんだと、三人で要点を纏めていった。


まず、扉は順番に開けていく事。
多分扉の上にある番号の色がみんな違うので、9番まで開けると腕輪の石が揃いそうな事。
指輪と衣装はどこにあるのか、行かなければ分からない事。

 

 2、姫様を探す事

「で、姫様って誰?」

「姫様は姫様じゃ。」

 だから、それ聞いた。
 堂々巡りかーい!

「どんな人を探せばいいのか、説明してくれない?年齢とか、髪の長さとか………。」

私が聞きたい特徴をつらつらと述べていると、気焔は当たり前の様に、言った。

「姫様は人形神様であるぞ。」
「!え?じゃあシンラと同じような、人形って事??」
「左様であろう。」

………人形探すのかぁ~。
当たり前のように言うけどさぁ……………。
なんか人探すより、難易度高くない??

私がまたやる気を無くしていると、代わりに朝が質問してくれる。


「ねえ?シンラ様と同じ人形神様って事は、どうして衣装も探すのかしら?着ていらっしゃるわよね??」
「ナイス質問、朝!」

私達が盛り上がっていると、気焔の気配が泳いでいる。
いや、泳いでいる様な、気がする。

目がないから分かんないけど。

「ちょっと。隠してる事、あるでしょう。」
「なんの事やら~。ピュッピュ~♪(汗)」
「ちょっと。どうやって口笛吹いてるのよ!ていうか誤魔化されないからね!」

しかししばらく問い詰めても、石のように口を閉ざして(本来の姿だけど)石のフリをしているので、諦めて話を進める事にした。

とりあえず姫様は、石と衣装を探してる途中で会えたらラッキーくらいにしておこう。
まぁこんな人形目立つから、あったらすぐ分かるでしょ。

これまた問題を先送りにして進める。


「じゃあとりあえず、姫様グッズと姫様を探す旅に出る、って事でお間違いございませんか?」

石のフリをしている気焔に、わざと丁寧に聞いた。

「お間違いございません。ではいざ行かん!!」


なんか誤魔化されてるけど、ちょっと待って。
訊きたいことがある。

「てか、この扉入ったら今日中に帰ってこれるわけ?お母さんが帰ってきた時、家に居なかったら怒られそうなんだけど。」


これは素朴な、でも基本的な疑問だ。

扉は10番まである。
1個1時間でも10時間かかる。
そして、始めに気になるセリフを気焔は言っていた。探し物をして、なんか達成するとかなんとか……………。

嫌な予感しかしない……………。


「4の扉はそんなにかからないと思うぞ。」
「4の扉はぁ?他の扉は?」
「まぁ早くて2、3日?長くても数ヶ月じゃないか?」

とりあえず何も言う気が無くなって、頭を抱えていると、朝がこう言った。

「依る、多分扉の中は時間の流れが違う筈だから、あまりあなたに不都合にはならない筈よ。とりあえず、1度家に戻って様子を見てから4の扉に入りましょうか。
最悪2、3日なら何とかなるんじゃない?それで時間の流れを確認してみましょう。」


2、3日いなくても中々の雷が落ちそうだけど(猫じゃないんだからそりゃそうだ)、それ以外にいい方法が思いつかない。
とりあえずは朝の言う通り、1度支度に戻る事にした。

めっちゃデカいリュックとか持ってかなきゃダメかな?
冒険にはアイテムボックスとか無いの??
現実はそんなに甘く無いって事かしら。

とりあえず、誰もそんな物は出してくれそうな雰囲気は、無い。

そうして話が纏まった所で、立ち上がり白い部屋をぐるりと見渡した。


振り返ると、シンラはまだ座ったまま。
始めの場所に、また人形に戻ったかの様に鎮座している。

また彼を置いていく事に不安を感じつつ、そっと近づいてこう言った。

「また、来るね。」

閉じられた瞳、少しだけ顔のそばに寄り聴こえる様に、呟く。

何の反応も示さなくなった彼を、振り返りつつ。

朝と私と気焔達腕輪組は、白い部屋を後にした。






「どうしたの、急にそんな事聞いて。」

帰ってきたお母さんに、まず1番気になっていた事を訊いたらそんな返事が返ってきた。

そりゃそうだろう。
仕事から帰ったら、娘がおじいちゃんが浮気してたかどうか、聞くんだから。

急になんの話、ってなるよね。わかる。うん。


「え~、ちょっと昔の事を調べるっていう自由研究やっててさぁ。ほら、お父さんとかちょっと外国の人っぽい感じあるじゃん?おばあちゃんは純日本人だし、おじいちゃんもでしょ??」

怪しげな言い訳をしながら、お母さんの顔を窺う。

「そうねぇ。言ってなかったかしら?」

そう言いながら、お母さんは驚きの事実を話し始めた。


実は、お父さんはハーフだった。

別に隠していた訳では無いらしいが、特に聞かれなかったので、言ってなかった、と言う。
確かに明らかにハーフと言うよりは「濃い」という程度なので、私も特に疑問には思っていなかったのだ。

私もたまに、初対面の人に「ハーフ?」って聞かれる事はあったけど、純日本人ですって答えてたわ。嘘ついてごめんなさい。
知らなかったんです…。


かなり前に、おじいちゃんは奥さんを亡くしており、おばあちゃんと再婚したのだそうだ。

お父さんは連れ子って事ね。
お父さんとおばあちゃん、仲良いから普通に親子だと思ってたわ。
大分昔の話なので、お母さんはそのくらいしか知らないらしい。


「お父さん帰ってきたら、聞いてみたら?でも生まれてすぐ亡くなったみたいだから覚えては無いと思うけどね。」

「うん。分かった。ありがとう。」

お父さん帰ってくるまで起きてられるかなぁ。

「あ、ちなみに私、夏休み中2、3日泊まりに行ってもいい?」
「2、3日って何よ。どこの誰の家?人様の家にお世話になるなら1泊まででしょう。迷惑になるでしょ。」

 やっぱダメか……………。

「はーい。また決まったら言うわ。」




夕食後、部屋に戻って作戦会議だ。
もし時間の経過が同じ早さなら、長旅は難しいと思うけれど。

「やっぱり無理そうじゃない?扉周るとか。」

「いや、しかし行かねばこの家が潰れる。」

 あ、そうだった。忘れてた。

「依る、扉に入ったのは何時頃だったか覚えてる?帰ってきたのは依子が帰る前だから、そんなに時間経ってないんじゃないかしら。」

朝が時間の経過に関して「悪い様にはならない」と言っていたのには、理由がある様だ。

私が小さい頃から扉の中に消えていくのを見ていた朝は、始めは心配して扉の前で待っていたらしい。
でも、すぐに出てきたので、安心したそうだ。

「出てきた時はちょっと半分寝ぼけてるような感じだったから、中での時間を依るがどう感じていたのかは判らないけど。」

そんなに前から見守っててくれたなんて、何だかポワッとあったかい気持ちになる。

私が覚えている時は、中に入って絵を見たり人形を観察したり扉を見て廻ったりと、体感的には1~2時間くらいだった気がする。
そうすると、時間の流れが違うのは確実っぽい。

そして改めて今回の扉の中にいた時間を計算してみると、どうやら1時間ちょっとだ。
体感的にはブランチを食べた後に行って帰って来たら夕方かと思っていたけど、意外に短かったのだ。

「じゃあその辺は大丈夫なのかなぁ~。」

「その時は吾輩も一緒に怒られるので、心配するで無い。いざ行かん!!」

いやいや、石は一緒に怒られないし、まだ何の準備もしてないよ。

そうして「はいはい。」と、気焔を流しつつ。
こんなファンタジー展開なのにアイテムボックスとか無いんかーい!と1人でブツクサ言いながら、お兄ちゃんの部屋にリュックを探しに行った。




「ねぇ。何が要ると思う?」

「寝床と水と少し食べ物もあるといいかもね。」
「おやつは?」

朝とお兄ちゃんの部屋を漁りながら、手早くリュック、寝袋を準備する。

それにしても全く情報が無いのも困りものだ。
何を持って行くべきか、全く想像がつかない。

「気焔、4の扉は時間かからないんだったら寝袋は要らないかな?おやつくらいでいい?」
「備えあれば憂いなし。」
「……………。」

 結局どっち。

そんなに時間はかからないという事が、本当ならば。
寝袋は必要ないと思うけど、この返答からして持っていける物は持って行けという事だと受け取る。

お兄ちゃんのゴチャゴチャした引き出しから小さいナイフと、ビニールシートとそれを入れる袋も用意する。
とりあえず他に思いつかなかったので、後は明日出る前までに思い付いたら入れよう。
そう思って、自分の部屋に戻った。

なんだかとっても疲れた気がする。


「出発は明日でいいよね……………。」

ウトウトと呟きながら、ストンと眠りに落ちた。






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