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第2

39話

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 「ちはー」

やる気の無い声で1軒の店に客が入って行った。その店は外見から何の店だかよく分からない。そもそも、そこが店かどうか分かる者が少ない。

「その声はモンジ隊長ですね。いらっしゃい」

殺風景なその店内の奥から出てきた人物はいかにも魔法士といった裾の長いローブを着てヘラヘラと出てきた。

「相変わらずヘラヘラしやがって」

「俺のトレードマークです」

減らず口をたたいてモンジの睨みを受け流す。

「仕事の依頼だよ」

「おや、またですか?第4隊も弱くなったんですねぇ。どうせ怪我を治せでしょ?」

「うるせぇ!新人なんだよ、また毒をくらいやがった。傷だらけだし今回は綺麗にしてくれよ」

モンジはナノの事を新人の隊員とする事にした。要は顔を見せなければ良いと考えていた。この目の前でヘラついている魔法士の男はモンジと同じく面倒事が嫌いだ。詳しい話をしなくても治してもらってしまえば、コッチのもんだと思っていた。

「……へー……モンジ隊長、随分と優しいですね……何ですか?もしかして…特別な子なんですか?」

「はぁ?」

(めんどくせぇな)

「この間、毒の治療したばっかですよね……何でその時に一緒に言わなかったんですか?」

「……知らねぇよ。新人なんだから、言い出しにくかったんじゃねぇの?余計な手間掛けさせやがって…」

「……で?隊長直々に?新人の毒を治せって?俺の所まで足を運んだんですか??」

モンジは嫌な予感がした。矢継ぎ早に聞いてくる時のこの魔法士は大抵モンジの思い通りに動いてくれない。

「執拗いぞ、スオ・テウリ」

「えぇ??……だぁって……怪しくないですか?」

「あ?」

「キャス副隊長じゃなくて、モンジ隊長が俺の所に来るなんて……余っ程の事じゃないですか?しかも爪の傷痕の毒でしょ?1回やってんじゃん。二度目のお使いに、隊長が?どうなんですかぁ?それ……疑えって言われてるみたいなんですけどぉ」

「いちいち、グチグチとうるせぇなぁ。俺が丁度、手が空いてたんだよ。キャスはどっかのケツ追っかけてるよ」

「え!まだ!?キャス副隊長ってば一途だったんですねぇ…」

モンジはジトーと魔法士スオ・テウリを見る。意図して話を進めようとしていない。のらりくらりと、依頼をかわされている気がする。

「で?いつ来るんだよ」

「……まだ受けるって、言ってませんよ?俺」

「ウダウダ言ってねぇで、第4隊の駐屯地に来て、サクッと治せば良いだろ!前みたいに」

「モンジ隊長……俺の事、面倒事に巻き込もうとしてません?」

「何だよ、面倒事って。そんなの俺だって嫌だっつの」

わざと興味無さそうに言い放つ。

「……その新人の隊員、名前は何と?」

「あ"?……覚えてねぇよ」

「ふーん……本当に隊員ですかぁ?」

「はぁあ?何?なんな訳」

スオが目を細めてモンジを観察してくる。

「やめた!その依頼、受けません。他の魔法士に当たって下さい。駐屯地に来いって言わなければ大体の魔法士はやりますよ。毒にやられた新人隊員を魔法士の店まで運んでやって下さい。以上です」

「おま、お前!何勝手に話を終わらせてんだよ!じゃあ何か?ここに連れてくればやるのか?駐屯地に来いっつーのが気に入らねぇのか?」

「えー…だって……なんか怪しいんですもん。俺は細く長く生きたいので。」

(くそっだから勘のいい奴は扱いずらいんだよ)

「……面倒臭い。お前がやれ」

モンジはイライラとして来たので開き直って言う。

「今から他当たれって?クソ面倒臭ぇわ。お前魔法士何だろ?やれよ。御託はいい」

「はあ?御託って……こっちのセリフ何ですけど…自分勝手で偉そうなのは隊長でしょ?俺はただ仕事を断っただけですよ」

「魔法士なら客の言う事黙って従えよ」

尚もふんぞり返って続けるモンジ。

「横暴過ぎでしょ。なんですか?店側はお客さんのどんな要望にも応えないといけないと?奴隷かっ!そんなに偉いのかあんたはっ」

スオがプリプリと怒りながら言い返す。

「偉いんだよ。俺は隊長様だからな」

「……………………閉店です」

一気に無表情になったスオはくるりと体の向きを変えて奥に引っ込んで行こうとする。

「くそっ待てよ!」

去って行くスオに声を掛けても戻って来てはくれない。ガシガシと頭を掻いてやってしまった、と天井を見る。シュシュル達がやけに神経質に魔法士への話の進め方を難しい顔で言っていたのを思い出した。何を小難しく考えてんだと軽く馬鹿にしていたが、まんまと自分がドツボにハマった。魔法士とはひねくれ者だ。特にスオ・テウリは読めない。今までは単純な仕事の依頼だったから受けてくれていただけだったのだ。そして、第4隊を気に入ってくれていたから。

(勘ずいてんじゃねーよ。無駄に頭働かせやがって。あいつの腕は悔しいがピカイチ何だよ!)

チラリと見えたナノの火傷の痕、傷痕はあれだけでは無いと聞いた。不遇の王子様が傷付いている、しかもまだ少年がだ。粗野な考え方のモンジもどうにかしてやりたいと思ってしまった。

(あんな…泣き方すんの……目の前で見せられたらよ…シュシュルとは違ぇけど、守りたいじゃねぇか…王子様は死ぬために生まれたんじゃ無い。まるで使い捨てみたいに扱いやがって…人の好意を手酷く裏切るなんてゲス野郎だ。お綺麗な外面ばっかでミリー城の奴ら、爆発しろ)

「俺がお前に依頼すんのは、お前の腕を信じてるからだよ。また来るからな」

モンジは姿が見えなくなったスオに一声かけると店を出た。
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