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第2

37話

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(きっと今しか話せない。明日になったらまた怖気付いちゃうよ)

ナノは思いっ切り息を吸い込んで深く息を吐き出す。そして1回頷くと四人の騎士の顔を順番に見てから話し出した。最初から全部話した。
王子二人が屋敷に来た事、道案内のはずが一緒に探す事になって一人になってしまった事、奴隷に会った事、見つかってしまい捕まった事。そして、痛い話はざっくりと話した。正直所々曖昧な記憶となっている。辛いことを早く忘れようとしているのか、断片的にしか思い出せないようになっていた。
魔物の特徴も話した。外に逃げ出した時の事は本当に覚えていない。気が付いたら道に倒れていたのだ。
話の途中でラシューが肩に乗ってきたが、やはりナノ以外には見えていないようだった。

一通り話し終えると肩の力を抜いた。知らず知らずガチガチに固くなっていたみたいだ。四人の騎士の顔を見たのも最初だけ。いつから自分の膝ばかり見ていたか覚えていない。

(引かれてしまっただろうか……何か…告げ口みたいになってないよね…。事実を報告してるだけだよね…)

やっぱり不安になったナノはチラリとラシューに視線を走らせる。ラシューは羽をパタパタさせてナノの頬を撫でてくれる。褒められたみたいで嬉しいが、ちょっとくすぐったい。肩を竦めてラシューに触られた所を指先でポリポリっとした。
ナノは話せた事で満足していたが四人の騎士は唖然としていた。シュシュルはある程度予想はしていたが彼の場合、ナノの痛々しい話しは怒りの衝動を抑えるのが大変だった。

「あー……ゲスくて……吐きそうだな。あ、失礼致しました」

モンジはティーヌとビニモンドの行いに拒否反応が出ていた。そして犯罪組織の要注意度が上がった。貴族などを攫って、魔物で脅し奴隷として扱う。出来上がった組織だ。

「キャス、ちょっと2、3発殴らせろ。むかっ腹が暴れ出しそうだ」

「何ですかそれ、嫌ですよ。俺だって王子様の話聞いてイライラしてますし。むかっ腹って、暴れるんですか?」

「うるせぇなぁ……良いから俺の発散に付き合えよ。その無駄にワイルドな顔を色男にしてやるよ。フワームだってそっちのが良いってよ」

「え"、巻き込まないで下さいよ」

ナノはオロオロしてしまう。

(え、え、話したの……駄目だったのかな…気分悪くしちゃったのかな…)

「ナノニス様、この者たちのことは気にしなくて大丈夫ですよ。腹が立っているのは犯罪者と、ナノニス様に偽りを仰ったティーヌ王子とビニモンド王子にです」

強めの言葉と柔らかな表情が合っていないが、ことさら穏やかに言われてしまった。

「そう…ですか……」

(兄上達に?それって……不敬なのでは……?)

「ナノニス王子!私のことは覚えておいでですか?私は第2隊隊長フワーム・ツツーです。何度かこの副団長と一緒にお会いしました。フドー食堂にも何度も来ています。私では、王子の事を見抜くことは出来ませんでした。流石副団長、愛の力ですね…。ナノニス王子、私もこれまで以上にお手伝い致します。魔法士を必ず見つけます!」

グイッと前に出てきたフワームは若干涙目になっていた。ナノの話に心を痛めたのだ。
ナノは前に出てきた騎士を見て思う、そう言われてみれば見た事のある騎士だった。この四人の騎士の仲で一番優しそうで人当たりが良さそうだ。

「お初にお目に掛かります。私は第4隊副隊長キャス・ズシジンと申します。以後お見知りおきを…私も、微力ながら精一杯尽力致します」

「あ……ありがとう…ございます」

ナノは感動してしまう。シュシュルの言ったことは本当だ。ナノはこれから心を許せる人と出会うのだったのだ。なんて心優しい人ばかりなのだろう。自分は幸せ者なのかもしれない。そう思えたナノはホワッと笑えた。

「!?」

(な、何て……何て……可愛く笑うのだろうか……あぁコイツらに見せるのが勿体ない……しかし…自慢したい気もする……くっ可愛い…そして俺に笑いかけて欲しい…)

急にムッとしたシュシュルにナノは直ぐに気がついて、ちょっと調子に乗りすぎたかもと思ってしまった。

「あの……ところで……」

言いにくそうにキャスが口を開く。

「ここの女将が持ってきた……スープが……冷めてしまっているのですが……」

「ごちゃごちゃ言ってねぇで黙って食えよ」

モンジに冷たく言われてしまう。

「いやだって隊長……凄く美味しそうじゃないですか…せっかくご好意で持ってきて下さった物はより美味しく頂かないと」

キャスの視線は机の上に置かれたままのスープ。真剣に話を聞いていた時は良いが、ひと段落ついてしまえば腹が騒ぎだす。キャスはそれは残念そうに言った。

「おい、そこの副隊長。お前は魔法がちっとも使えないのか?」

フワームがやけに見下して言ってきた。

「魔法?」

「しょーがないなぁ……俺が温めてやるよ」

「ふ、ふ、フワーム……何をいきなり言い出すんだ?いや、俺は嬉しい……嬉しいが……ここでは…」

「……何言ってんのはお前だ馬鹿」

無表情になったフワームは無言でスープに手をかざす。するとスープから湯気が立ってきた。

「え、凄いですね」

いち早く反応したのはナノだった。魔法をこんなにまじかで見たのは初めてだった。

「ありがとうございます。でもこれしか出来ないんですよ……活躍の場がほぼ無いんです…」

フワームは恥ずかしそうに言ってスープを差し出す。キャスはグチグチと文句を言いながら部屋の隅においてあったテーブルを出していた。

腹を満たし情報も得た、後は魔法士の選定だけだ。モンジの話によれば隊員の傷痕の変色はもっと進んでいたのだという。長い時間はないが、少しの猶予はありそうだ。魔法士は新人のキコヌ・ノーロと問題児のスオ・テウリの二人に絞って進めて行こうとまとまった。
ナノは感心し切りだった。こんなに話しが早く進むのかと、自分もサッサと王子でしたーと認めればよかったのかもしれない。とそんな事まで思ってしまっていた。
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