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第2
36話
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「当たり前です!」
「でも……僕は、大勢の人に……いなくなった方が良いって思われてる……か、か……家族…にも」
「ナノニス様!血の繋がりだけがご家族ではありません!!ここの方々は?フドー食堂のご夫婦は?」
瞬きをしたナノの瞳から涙がポロリと落ちる。
「私も、ミリー城でお住まいの方々よりナノニス様を大切に思っています」
「僕は…僕を棄てないと…いけないって…だって…だって…兄上達が……」
いっそう強く握るシュシュルの両手。
「大変失礼ですが…王家という繋がりのみのティーヌ王子とビニモンド王子とは…心の距離が希薄ではないでしょうか?ナノニス様は親身になって、慈しんで下さる方々と出会うのが少し遅かっただけです。なので、ナノニス様……生きて下さい。これからもずっと」
「い、良いのかなぁ……うっ…でも……怖いよ」
ナノは裏切られる怖さを知ってしまった。深く傷付く怖さを知ってしまった。心が痛くて、辛くて、どうすることも出来ないあの感覚。自己否定する事で何とか守ってきた己の心をこの騎士たちに預けても大丈夫だろうか。不安は尽きないが、最終的には命が終わるだけだ。命を諦めたくせに心を守ると言う事は、口先だけで本当は命をも諦めていなかった。本当の意味で虚無になれば、命だろうが心だろうがどうでもよかっただろう。
(本当は…僕……生きたかったんだ……)
「裏切らないで……もう嫌なんだ……」
「勿論です!私はナノニス様に命を捧げます。この命、貴方のものです」
「僕、僕は……ナノニスで……良いの?」
か細く震える少年の肩にその場にいる大人は心を掴まれる。勇気を出して一歩前に進む瞬間に立ち会えたのだ。例え僅かな一歩だとしても、それは確かに前に進めた。
「あんた達に…食事なんて……持ってこなけりゃ良かったかね…」
いつの間にか開いていた部屋のドアからシュガーレが顔を覗かせていた。
「何度泣かせりゃいぃんだい……」
シュガーレはナノのすすり泣くような様子に静かに怒りを燃え上がらせている。
「揃いも揃って、床に這いつくばって何やってんだい!」
「あっ…シュガーレさん…ちが、違うんです」
「ナノは目がとけちまうよっ!ほら冷えてるからこのタオル」
シュガーレは机の上にお皿の乗ったトレーをガシャンと置いてナノの肩を抱き込んだ。そしてナノの手を掴んでいるシュシュルの手首をギュっと握りこんで睨む。
「どんな理由があろうとね、この子が泣くのは許せないんだよ。騎士団だろうが許さないよ」
その姿は紛うことなき母親の姿だった。
(あったかい……)
この状況でもナノは柔らかな感触に抱き締められて嬉しさを感じていた。母からこんな暖かなことをされたことは無い。単純に嬉しかった。自分が泣いていたら心配してくれた。
「あの、シュガーレさん。違うんです……僕が勝手に泣いちゃって……あの……この方達は…僕の事、心配してくれてて、あの…傷痕のことを教えてくれてたんです」
ナノは必死に説明する。心配してくれたのは嬉しいが、誤解はとかなければいけない。
「……そうなのかい?」
それでもシュガーレは疑わしそうに四人の騎士を見る。
「女将!私が泣かせるわけないでしょう!?」
シュシュルも心外だと言う。
「……あんたが1番信用ならないねぇ……色んな意味で……」
ジロリと見られてしまう副団長シュシュル。
「くくっ……確かに……」
その時、シュシュルの後ろから笑い声が聞こえてきた。今まで黙って成り行きを見守っていたモンジが我慢できずに笑い出す。
「フドー食堂の女将さん、貴方はこの方がどなたかご存知なのですね?」
「……ふん……予想はつくが……ナノはナノだよ」
(シュガーレさん……)
ナノはシュガーレの顔を見上げる。この人はどこまでも暖かい人だ。知ってて、知らないふりをずっと続けてくれていたのだ。手に持った冷たかったタオルも生暖かくなってきた。ナノは嬉しくてまた涙が溜まってきてしまう。
「また泣くのかい!?まったく……困った子だねぇ」
シュガーレは全く困ってなさそうに、そう言う。満足そうなため息をつくとシュガーは肘にかけていたカゴを揺らす。
「ここにパンが入ってる。あそこにはスープがある。込み入った話があんだろ?食べながらでも話しな。2階には暫く誰も来ないよ」
よいしょっと掛け声で立ち上がったシュガーレは部屋を出ていこうとする。急いでお礼を言うナノ。
「ありがとうございますシュガーレさん!」
「良いんだよ。ナノは子供のいない私たちに見守らせてくれて、心配させてくれた存在だよ。そんな体験は子供がいなきゃ出来ないからね!私たちこそ、ナノがいてくれて嬉しいのさ」
それだけ言うとサッサと部屋を出てドアを閉めてしまう。
「ちょっとここの女将、カッコよ過ぎませんか」
シュガーレの後ろ姿を見送って、ぽやっとしながら思わず呟いてしまったフワーム。
「ありゃ適わないな……」
モンジも苦笑混じりに言う。器の違いを見せつけられたようだった。
「ナノニス様はとても良い方に助けて頂いたのですね。女将の事は前から知っていましたが、改めて再認識させられました」
柔らかい笑顔で言われ、ナノはまるで自分が褒められたかのように嬉しかった。
「はい。ここの方達と出会えて良かったです」
「では王子、お食事を頂きながらお話を……」
「……分かりました。古城での事……話します。ナノニスとして…」
涙で赤くなった瞳だが、その眼差しはしっかりと前を見ていた。
「でも……僕は、大勢の人に……いなくなった方が良いって思われてる……か、か……家族…にも」
「ナノニス様!血の繋がりだけがご家族ではありません!!ここの方々は?フドー食堂のご夫婦は?」
瞬きをしたナノの瞳から涙がポロリと落ちる。
「私も、ミリー城でお住まいの方々よりナノニス様を大切に思っています」
「僕は…僕を棄てないと…いけないって…だって…だって…兄上達が……」
いっそう強く握るシュシュルの両手。
「大変失礼ですが…王家という繋がりのみのティーヌ王子とビニモンド王子とは…心の距離が希薄ではないでしょうか?ナノニス様は親身になって、慈しんで下さる方々と出会うのが少し遅かっただけです。なので、ナノニス様……生きて下さい。これからもずっと」
「い、良いのかなぁ……うっ…でも……怖いよ」
ナノは裏切られる怖さを知ってしまった。深く傷付く怖さを知ってしまった。心が痛くて、辛くて、どうすることも出来ないあの感覚。自己否定する事で何とか守ってきた己の心をこの騎士たちに預けても大丈夫だろうか。不安は尽きないが、最終的には命が終わるだけだ。命を諦めたくせに心を守ると言う事は、口先だけで本当は命をも諦めていなかった。本当の意味で虚無になれば、命だろうが心だろうがどうでもよかっただろう。
(本当は…僕……生きたかったんだ……)
「裏切らないで……もう嫌なんだ……」
「勿論です!私はナノニス様に命を捧げます。この命、貴方のものです」
「僕、僕は……ナノニスで……良いの?」
か細く震える少年の肩にその場にいる大人は心を掴まれる。勇気を出して一歩前に進む瞬間に立ち会えたのだ。例え僅かな一歩だとしても、それは確かに前に進めた。
「あんた達に…食事なんて……持ってこなけりゃ良かったかね…」
いつの間にか開いていた部屋のドアからシュガーレが顔を覗かせていた。
「何度泣かせりゃいぃんだい……」
シュガーレはナノのすすり泣くような様子に静かに怒りを燃え上がらせている。
「揃いも揃って、床に這いつくばって何やってんだい!」
「あっ…シュガーレさん…ちが、違うんです」
「ナノは目がとけちまうよっ!ほら冷えてるからこのタオル」
シュガーレは机の上にお皿の乗ったトレーをガシャンと置いてナノの肩を抱き込んだ。そしてナノの手を掴んでいるシュシュルの手首をギュっと握りこんで睨む。
「どんな理由があろうとね、この子が泣くのは許せないんだよ。騎士団だろうが許さないよ」
その姿は紛うことなき母親の姿だった。
(あったかい……)
この状況でもナノは柔らかな感触に抱き締められて嬉しさを感じていた。母からこんな暖かなことをされたことは無い。単純に嬉しかった。自分が泣いていたら心配してくれた。
「あの、シュガーレさん。違うんです……僕が勝手に泣いちゃって……あの……この方達は…僕の事、心配してくれてて、あの…傷痕のことを教えてくれてたんです」
ナノは必死に説明する。心配してくれたのは嬉しいが、誤解はとかなければいけない。
「……そうなのかい?」
それでもシュガーレは疑わしそうに四人の騎士を見る。
「女将!私が泣かせるわけないでしょう!?」
シュシュルも心外だと言う。
「……あんたが1番信用ならないねぇ……色んな意味で……」
ジロリと見られてしまう副団長シュシュル。
「くくっ……確かに……」
その時、シュシュルの後ろから笑い声が聞こえてきた。今まで黙って成り行きを見守っていたモンジが我慢できずに笑い出す。
「フドー食堂の女将さん、貴方はこの方がどなたかご存知なのですね?」
「……ふん……予想はつくが……ナノはナノだよ」
(シュガーレさん……)
ナノはシュガーレの顔を見上げる。この人はどこまでも暖かい人だ。知ってて、知らないふりをずっと続けてくれていたのだ。手に持った冷たかったタオルも生暖かくなってきた。ナノは嬉しくてまた涙が溜まってきてしまう。
「また泣くのかい!?まったく……困った子だねぇ」
シュガーレは全く困ってなさそうに、そう言う。満足そうなため息をつくとシュガーは肘にかけていたカゴを揺らす。
「ここにパンが入ってる。あそこにはスープがある。込み入った話があんだろ?食べながらでも話しな。2階には暫く誰も来ないよ」
よいしょっと掛け声で立ち上がったシュガーレは部屋を出ていこうとする。急いでお礼を言うナノ。
「ありがとうございますシュガーレさん!」
「良いんだよ。ナノは子供のいない私たちに見守らせてくれて、心配させてくれた存在だよ。そんな体験は子供がいなきゃ出来ないからね!私たちこそ、ナノがいてくれて嬉しいのさ」
それだけ言うとサッサと部屋を出てドアを閉めてしまう。
「ちょっとここの女将、カッコよ過ぎませんか」
シュガーレの後ろ姿を見送って、ぽやっとしながら思わず呟いてしまったフワーム。
「ありゃ適わないな……」
モンジも苦笑混じりに言う。器の違いを見せつけられたようだった。
「ナノニス様はとても良い方に助けて頂いたのですね。女将の事は前から知っていましたが、改めて再認識させられました」
柔らかい笑顔で言われ、ナノはまるで自分が褒められたかのように嬉しかった。
「はい。ここの方達と出会えて良かったです」
「では王子、お食事を頂きながらお話を……」
「……分かりました。古城での事……話します。ナノニスとして…」
涙で赤くなった瞳だが、その眼差しはしっかりと前を見ていた。
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