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第2

35話

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「生きることを諦めないで下さい!」

ナノをキツく抱きしめて後ろにいるモンジに怒鳴りつける。

「お前はっ!何を考えているんだ!俺は今すぐお前を殴ってやりたい!言葉の重みを考えろ」

モンジも分かっていた、完全に失敗した。今のナノには言ってはダメだった。普段はしない後悔をするモンジはガシガシと頭をかき混ぜる。

(あーー…ここまで死にたがってたのか…いつもなら死にたいやつは死ねって思うけど…こんな風に泣かれちゃあなぁ……。王子様のはずが…どうしたらこういう考えに至るまで……はぁ……どんな生活して、どんな事されたんだよ……)

モンジは膝を着いて頭を垂れる。

「申し訳ございませんでした。今のは卑怯な言い方でした」

「ナノ…様…全部俺が悪いのです。俺を責めてください。貴方の心は……心こそ、深い傷を負っておられます。それなのに…俺は…浅はかな考えでした。傷を癒して差し上げたいと思っているのは俺のエゴです。この男を連れてくるのは早すぎました。貴方の心を守るのを迷ってしまった俺が悪いのです」

(すげぇ悪者じゃん……俺……)

ここまで繊細な子を相手にすることがないモンジは参ってしまう。初めて王都内も王都内なりに大変なのかもしれないと思った。
そんなちょっと異様な光景を繰り出している三人に声が掛る。

「あんた達、出禁にするよ」

裏口から顔を出したシュガーレが怖い顔で睨みつけている。声も陽気さの欠けらも無い。

「なに騒いでんのかと思ったら…泣かしたのかい?この子のこと…」

ナノは小さくしゃくり上げている。パニックに近い状態のナノは泣くことしか出来ない。

「とりあえず、中入んな…外で何やってんだか…後ろの騎士様たちも関係者かい?まとめて入んなさい」

低くドスの効いたシュガーレには誰も逆らえない。第4隊を束ね、恐れられている隊長でさえも。ナノはシュガーレに引き取られ、四人の騎士は母親に叱られた子供のように肩を落とし店の裏口から中に入っていく。

「あーあーこんなに泣いて…目が腫れちゃうよ。ほらこれで拭いて、今冷えたタオルを持って来るから2階に上がんな」

「うっ……ひくっ……すみ、すみまぜぇ……」

「いいからいいから気にすんじゃないよ。可哀想に、デカい男共に虐められたのかい?こんな子供に寄ってたかって……騎士だっつんなら優しさの一つでも見せてみろってんだよねぇ?」

シュガーレに追い立てられてナノと四人の騎士は2階に上がる。先頭を行くナノは顔をタオルでゴシゴシと拭いてトボトボと階段を上る。ゾロゾロと2階に上がるとナノの部屋へと入る。シュシュルは一瞬、他の三人をキツい目で見てため息をつく。

(俺だってこの間、初めて入ったナノニス様のお部屋なのに…)

軽く嫉妬していた。

「改めてまして、申し訳ございませんでした」

部屋に入るなりモンジが深々と頭を下げた。それに習ってキャスとフワームも慌てて頭を下げる。つられたこの二人は、実はよく分かっていない。馬を繋げて戻って来たら揉めていたのだ。しかし、察するに口の悪いモンジが何か言って、ナノが傷付きシュシュルが激怒。こういった経緯だろうと予想出来た。

「ここは人目もございません。王子、古城での詳しい話を伺っても宜しいでしょうか?」

「…………ひくっ……」

「モンジ、性急すぎだ。傷跡を見せて頂こう」

「…………そうだな。王子、宜しいですか?」

ナノはモゾモゾ動いてタオルで顔を隠し前髪を上げる。額だけ出して後は隠した。既に意味が無いような気がするが、最後の抵抗だ。

「ありがとうございます。失礼します」

モンジはグッと近付きよく観察する。

「……王子、ご自分で傷痕を確認していますか?」

「…………王子じゃありません…………。ぐす……見てないです」

「……残念ながら……変色が始まっています」

「!?」

ナノよりシュシュルの方が驚愕していた。

「な、な、ナノニス様!苦しくは無いですか?辛くは……あぁ…早く魔法士に診せなくては」

「お前は落ち着け!まったく…」

モンジは慌てだしたシュシュルの頭を軽く叩き、一拍置いて何かを決意した表情に変わった。そして片膝をつき片手を胸、片手を背中にあててかしこまって口を開く。

「失礼を承知で進言致します。ナノニス王子、ここに居る騎士は性格はともかく身を預けるという意味では信用に値します。ご自身の生をお認めになって、どうか我々にそのお手伝いをさせて下さい。ナノニス王子が命を諦める必要などありません」

後ろのキャスとフワームもワタワタとモンジと同じ格好になる。シュシュルも恭しく片膝をつき頭を下げる。

「ナノニス様、私に、我々に…そのお身体とお心を守らせて下さい」

四人が動いた気配がしたので、ナノはタオルをズラして覗き見る。目の前には綺麗な姿勢で片膝をつく騎士の姿。大分心も落ち着いてきたナノは慌てる。今までもこんなふうに扱われたことなど無い。ミリー城での祭事では、催し物に携わるその他の一人と感じていたし、屋敷ではこういった恭しい雰囲気など無い。そもそも騎士と関わりすら殆ど無い。

「や、やめて下さい。頭を上げてください」

ナノも膝をついてシュシュルの肩に手を当てる。

「副団長さん、顔を上げて下さい…他の皆様も」

シュシュルは肩に置かれたナノの手を取ると両手でしっかり握る。ゆっくり顔を上げて、潤む目で切なそうに話しかけてくる。

「ナノニス様……生きて下さい」

収まったはずの涙がジワジワと瞳に溜まっていく

「僕…僕が……本当に……生きてても……良いの?」
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