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第2
27話
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「こんにちは!ようこそ」
店のドアを開くと元気な声が聞こえた。この店は魔法士の店。新人魔法士らしく綺麗な内装だが狭い店だった。ドアを開けるとカウンターが目に入り、その手前には小さなテーブルと対面に置かれた二脚の椅子。魔法士は治療のみをする訳では無いので、カウンターの後ろには様々な商品が置いてあった。薬も種類が沢山置いてある。
「本日はどの様な御用で?」
ニコニコと愛想良く聞いてくる魔法士。ここの店主である新人魔法士キコヌ・ノーロ。人好きのする顔で邪気が無い。素直そうな彼はキラキラとした瞳をしていた。店に入ったシュシュルとフワームはそんな彼を見てそのまま変わらないでくれと願ってしまった。
「少し相談があってな…いいか?」
「はい、是非どうぞ!あ、そちらのテーブルに椅子がありますので、そちらにお掛け下さい…。そうだ、椅子が足りませんね今お持ちします」
テーブルに誘導されシュシュルとフワームは並んで座り、向かいにキコヌ・ノーロが座る。仄かに顔を赤くしたキコヌが興奮気味に聞いてくる。
「あ、あの…騎士団の方…ですよね?嬉しいです。僕のような新人の店に足を運んで下さいまして…。あ、すみません…思わず、嬉しくて。ご要件を伺います」
ハキハキと話出したキコヌを見てフワームはそっと目頭を抑える。すり減った気持ちには染みた純真な心だった。
「おい、フワーム…」
「はぁ…大丈夫。ちょっと素直な心に打たれただけだから」
「……何か…深刻な話でしょうか…僕でお役に立てるか分かりませんが…お話を聞くくらいなら」
「シュシュル、大丈夫か?この子…この先やって行けるか?このままでいて欲しいなぁ」
「へ?」
「気にしないでくれ、相談…というか聞きたいことがあって。傷跡ってのは…どのくらい治せるんだ?」
「傷跡ですか…そうですね……あまり経験がないんですが…程度にもよるかと思います。僕の場合は怪我を治せます。綺麗さっぱりとです。古い傷跡を…こう、ぼやぁって感じに治すことも出来ます。後、範囲がどれ位かどうかっていうのも問題ですね…全身とか言われてしまうと…自信がありません。僕の専門は薬なんですよ…」
「そうか…種類的には?傷跡の…種類」
「種類……切り傷以外にってことですよね…あ!骨の変形とかですか!?騎士団だと骨折する事も有りますよね…それで上手くくっつかなくてとか……あ!切断されたものはちょっと…僕には無理ですよ」
「……火傷は?」
「あ!爆発ですか……なるほど……火傷かぁ。うーん…どうだろう。見せて頂いてからの判断に…なってしまうかもしれません。すみません」
思っていたよりずっと腕が悪そうだった。綺麗に治してやりたい思いが強いシュシュルはキコヌの腕前に物足りなさを感じてしまう。
「魔物の爪痕は…どうだろうか」
「魔物……ゴク……魔物ですか…」
キコヌは一気に青ざめて唾を飲み込む音まで聞こえてきてしまった。
「僕、攻撃魔法はちょっと……壊滅的にそっちの才能がなくて…あ!傷跡か……びっくりしました。え!魔物の傷跡!?不吉ですね…お祈りして頂いた方が…」
「……マザメスの人選は間違ってないんだよな?」
「顔、顔、落ち着いて!」
魔物の爪痕、それは不吉なものとされていた。そもそも魔物自体が嫌煙され、人間に害なす生物だとされている。襲ってきて、体も大きく、中には炎を吐くものまでいる。そんな魔物と触れ合ったとされる爪痕。良くない物だと自然と広がっていった根拠の無い噂話だった。
(こいつ…新人だからって…ナノニス様のお顔が不吉だと?ふざけるなよ…)
「お、怒らないで下さい…。すみません……ただですね…その、最近聞くようになったんですが……魔物の中には毒を有する爪を持つヤツがいる、と。」
「毒?だったら薬を飲むか、患部に薬をぶっかければいいんじゃ?」
フワームが話に入ってきた。騎士団には第4隊という王都の外を警備する部隊がいる。彼らは壁に阻まれて王都の中に入って来れない魔物たちを退治する仕事もあった。第4隊に入ったら、魔物と遭遇する。これは騎士団の中では当たり前の事だった。
「それが、最近…やっと認められたんです。魔物の爪痕からジワジワと広がる毒があるって…」
「な、んだと?」
「多分、第4隊の方には話がいっていると思います。魔物の特徴とか、何時ぐらいから毒の効果が出てくるか、その毒の症状。もしかしたら…魔物の爪痕が不吉だと言われる元々の原因なのかもしれませんね」
「どん、どんな症状が出る?」
「えーと、詳しくは分からないんですが…高熱が出るって聞いたかなぁ。定期的に熱を出しちゃうんですよ…だからおかしいなあって我々魔法士に相談が来る。その症状が……そえそう!騎士団の方に出てきたからって調べ直したみたいですよ」
シュシュルは真っ青になった。
「ほ、他の特徴は?」
「んーと…よく分からないです。すみません…第4隊の方なら詳しいかもしれません。なにせ僕はまだ新人でして…情報が降りてこないんです」
(なんて事だっ!!)
「フワーム、すぐに第4隊の駐屯地に向かう。魔法士殿、すまんな」
そう言うが早速椅子を鳴らして立ち上がりドアに向かって行ってしまう
「ちょちょ…ちょっと待って」
「え!お帰りですか?あ、あぁ~魔物関係でしたかぁ…お力になれず、すみません」
丁寧に謝ってくるキコヌにフワームが慌てて言う。
「今は、まだってだけで…頼むかもしれません。ちょっと待ってシュシュル!あの、また来ます。すみません本当にうちの副団長が…」
ヘコヘコと頭を下げて急いでシュシュルを追う。その二人の後ろ姿を見て固まるキコヌ。ドアから出ていった後にぽつりと呟く。
「ふ、ふふ……副団長様?……う、嘘ぉ……僕の店なんかに…なんで…」
店のドアを開くと元気な声が聞こえた。この店は魔法士の店。新人魔法士らしく綺麗な内装だが狭い店だった。ドアを開けるとカウンターが目に入り、その手前には小さなテーブルと対面に置かれた二脚の椅子。魔法士は治療のみをする訳では無いので、カウンターの後ろには様々な商品が置いてあった。薬も種類が沢山置いてある。
「本日はどの様な御用で?」
ニコニコと愛想良く聞いてくる魔法士。ここの店主である新人魔法士キコヌ・ノーロ。人好きのする顔で邪気が無い。素直そうな彼はキラキラとした瞳をしていた。店に入ったシュシュルとフワームはそんな彼を見てそのまま変わらないでくれと願ってしまった。
「少し相談があってな…いいか?」
「はい、是非どうぞ!あ、そちらのテーブルに椅子がありますので、そちらにお掛け下さい…。そうだ、椅子が足りませんね今お持ちします」
テーブルに誘導されシュシュルとフワームは並んで座り、向かいにキコヌ・ノーロが座る。仄かに顔を赤くしたキコヌが興奮気味に聞いてくる。
「あ、あの…騎士団の方…ですよね?嬉しいです。僕のような新人の店に足を運んで下さいまして…。あ、すみません…思わず、嬉しくて。ご要件を伺います」
ハキハキと話出したキコヌを見てフワームはそっと目頭を抑える。すり減った気持ちには染みた純真な心だった。
「おい、フワーム…」
「はぁ…大丈夫。ちょっと素直な心に打たれただけだから」
「……何か…深刻な話でしょうか…僕でお役に立てるか分かりませんが…お話を聞くくらいなら」
「シュシュル、大丈夫か?この子…この先やって行けるか?このままでいて欲しいなぁ」
「へ?」
「気にしないでくれ、相談…というか聞きたいことがあって。傷跡ってのは…どのくらい治せるんだ?」
「傷跡ですか…そうですね……あまり経験がないんですが…程度にもよるかと思います。僕の場合は怪我を治せます。綺麗さっぱりとです。古い傷跡を…こう、ぼやぁって感じに治すことも出来ます。後、範囲がどれ位かどうかっていうのも問題ですね…全身とか言われてしまうと…自信がありません。僕の専門は薬なんですよ…」
「そうか…種類的には?傷跡の…種類」
「種類……切り傷以外にってことですよね…あ!骨の変形とかですか!?騎士団だと骨折する事も有りますよね…それで上手くくっつかなくてとか……あ!切断されたものはちょっと…僕には無理ですよ」
「……火傷は?」
「あ!爆発ですか……なるほど……火傷かぁ。うーん…どうだろう。見せて頂いてからの判断に…なってしまうかもしれません。すみません」
思っていたよりずっと腕が悪そうだった。綺麗に治してやりたい思いが強いシュシュルはキコヌの腕前に物足りなさを感じてしまう。
「魔物の爪痕は…どうだろうか」
「魔物……ゴク……魔物ですか…」
キコヌは一気に青ざめて唾を飲み込む音まで聞こえてきてしまった。
「僕、攻撃魔法はちょっと……壊滅的にそっちの才能がなくて…あ!傷跡か……びっくりしました。え!魔物の傷跡!?不吉ですね…お祈りして頂いた方が…」
「……マザメスの人選は間違ってないんだよな?」
「顔、顔、落ち着いて!」
魔物の爪痕、それは不吉なものとされていた。そもそも魔物自体が嫌煙され、人間に害なす生物だとされている。襲ってきて、体も大きく、中には炎を吐くものまでいる。そんな魔物と触れ合ったとされる爪痕。良くない物だと自然と広がっていった根拠の無い噂話だった。
(こいつ…新人だからって…ナノニス様のお顔が不吉だと?ふざけるなよ…)
「お、怒らないで下さい…。すみません……ただですね…その、最近聞くようになったんですが……魔物の中には毒を有する爪を持つヤツがいる、と。」
「毒?だったら薬を飲むか、患部に薬をぶっかければいいんじゃ?」
フワームが話に入ってきた。騎士団には第4隊という王都の外を警備する部隊がいる。彼らは壁に阻まれて王都の中に入って来れない魔物たちを退治する仕事もあった。第4隊に入ったら、魔物と遭遇する。これは騎士団の中では当たり前の事だった。
「それが、最近…やっと認められたんです。魔物の爪痕からジワジワと広がる毒があるって…」
「な、んだと?」
「多分、第4隊の方には話がいっていると思います。魔物の特徴とか、何時ぐらいから毒の効果が出てくるか、その毒の症状。もしかしたら…魔物の爪痕が不吉だと言われる元々の原因なのかもしれませんね」
「どん、どんな症状が出る?」
「えーと、詳しくは分からないんですが…高熱が出るって聞いたかなぁ。定期的に熱を出しちゃうんですよ…だからおかしいなあって我々魔法士に相談が来る。その症状が……そえそう!騎士団の方に出てきたからって調べ直したみたいですよ」
シュシュルは真っ青になった。
「ほ、他の特徴は?」
「んーと…よく分からないです。すみません…第4隊の方なら詳しいかもしれません。なにせ僕はまだ新人でして…情報が降りてこないんです」
(なんて事だっ!!)
「フワーム、すぐに第4隊の駐屯地に向かう。魔法士殿、すまんな」
そう言うが早速椅子を鳴らして立ち上がりドアに向かって行ってしまう
「ちょちょ…ちょっと待って」
「え!お帰りですか?あ、あぁ~魔物関係でしたかぁ…お力になれず、すみません」
丁寧に謝ってくるキコヌにフワームが慌てて言う。
「今は、まだってだけで…頼むかもしれません。ちょっと待ってシュシュル!あの、また来ます。すみません本当にうちの副団長が…」
ヘコヘコと頭を下げて急いでシュシュルを追う。その二人の後ろ姿を見て固まるキコヌ。ドアから出ていった後にぽつりと呟く。
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