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第2
20話
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王室騎士団第1隊、副隊長マザメス・ドームは頭を抱えていた。夕刻、まだ早い時間から部屋に押し入ってきた同期二人が居座っているのだ。一人は第2隊、隊長フワーム・ツツー。そしてもう一人が問題の騎士団副団長であり、精鋭部隊エーを率いる男シュシュル・フレイザーである。彼らは酒を手にやって来て、部屋の主にお構い無しとばかりに呑み始めた。大抵の場合、マザメスの部屋に酒を持ってやって来る時は面倒な話が始まる。嫌な予感に頭を抱えていたマザメスだった。
「マザメス、呑まないのか?美味いぞ?これ」
顔の良いこの男、シュシュルは身内の前では意外とざっくばらんな奴だった。狙った女性の前では格好をつけるのだが男だけだとこの通り、大きな口を開けて笑い、だらしの無い姿勢で呑んでいる。
「その姿を巷でキャーキャー騒いでるお前のファンに見せてやれよ」
「俺は夢を売ってんのさ」
「馬鹿じゃねぇの?おめでたいヤツめ、お前は騎士だろうが、何が夢だ」
嫌味っぽく言ってやれば得意げに返してくる。食えない奴でカチンと来るので馬鹿だと言ってやる。
「まぁまぁ、マザメス。そろそろシュシュルの話を聞いてやろうよ」
ほろ酔いのフワームがいつものように二人の仲を取り持つ。
「どうせ、俺の家で呑む時なんて…クソ面倒な話しだけじゃねぇか。口外禁止だろ?」
「さっすがぁ…分かってるね、マザメスくん!」
「うるさい、とっとと話してさっさと帰れ」
「うぅーんこの話を聞いたら…すぐ帰るのは無理なんじゃないかなぁ?」
「勿体つけるね、なんだい?」
フワームも興味深そうに聞く。
「お前たち…俺はさ、お前たち二人を信じてるんだよね~。裏切らないでしょ?裏切らないよね?王室に肩入れ…しないでしょ?」
「どうした……」
「今から話す事はお前たち二人にしか話さない。もし仮に裏切られたとしても…まぁお前たちだしなぁ……いっそ諦めてあの方と一緒に行くかな…あの世に……ってくらいの話なわけなんだよね。いい?」
「嫌だと言っても話すだろ、お前は」
マザメスの部屋に持ち込んだ上等な酒をクイッと飲む。そしておもむろに口を開く。協力者を得るために。
「ナノニス王子が生きていた」
「…………は?」「…………へ?」
どんな話かと気持ち緊張しながら待っていた二人は、思ってもみなかった角度から話のボールが来て、上手くキャッチ出来なかった。
「え?な、何?……シュシュル、とうとう頭が」
「違うから。俺の頭は正常だよ」
「だって、俺だってあの古城に行ったよ?王都の警備が仕事の第2隊が、捕縛された人達を引取りに行ったんだから…。だから、半壊した古城をまじかで見てるんだって…あれは…あの中に居たのなら…厳しいなって……分かるくらいだった。まだ、火薬の匂いが残っててさ…騎士団の被害が随分少ないなって思ったの、覚えてるってば。その後だろ、お前がナノニス王子を血眼で探し回り出したのって…」
「あの時は助かったよ。王子のワガママだったのを…上手いこと収められた。ナノニス様に関して以外は……」
「………………本物なのか?」
戸惑うフワームと違い、マザメスは厳しい顔で問いかけてくる。マザメスの在籍している第1隊はミリー城内部、外部の警護が主だった。
「あぁ、本物だ。しかも本人は認めていない、頑ななほどに…それが益々怪しいだろ」
「認めていない?何…記憶が無いとか?」
「いや違う、ナノニス様のお顔でナノニス王子では無いと言い張るんだ……そして……お怪我をされている……」
「……成程、ナノニス王子の態度が明らかに変なんだな………お怪我?あの事件から半年だぞ?」
マザメスはまだ治らない怪我が有るのか、と聞いている顔だった。
「…………酷いんだ、酷いんだよ……」
「だから?だから…表に出てこなかった、って言うのか?でも自分の葬儀を出されているんだぞ…まだ若い少年じゃないか」
「だからだろ、まだ若く、力のない少年。しかも第5王子は…王子であって王子では無い。ミリー城で生活する事さえ許されていない。生きてましたって出てみろ、王家を欺いたって偽物扱いされて、投獄の後極刑だろうよ。ミリー城とはそういう所だ」
マザメスが淡々と話す。
「それで?シュシュルはどうしたいと?ナノニス王子が生きていた。それで?お前がお執心の王子様の権力奪還か?」
「違う、本人がそれを望まれていない…俺はただ……ナノニス様の怪我を治して差し上げたいだけだ…あの方は、王子で無くなった方が…長生き出来るだろうから」
「だから、怪我が酷いって…どれ程?」
「…………火傷のあとに、刺傷、魔物の爪痕……鞭のあとだ……なんとか…魔法士に診せたい。周りにバレずに」
「待て待て、鞭?鞭のあと?……まさか、拷問されたのか!?」
「…………おそらく……」
「か、仮にも……王子様だってのに…拷問?あの犯人共はそんなにイカれた奴等だったのか…」
予想より酷い状態に言葉が無くなるマザメスとフワーム。
「はぁ……そりゃ……死んだ事にしたいかもな…」
「古城での事件は事実と大分違う話しとして終結されてしまった。ナノニス様の事にしても、事件そのものの事としても…あの事件はまだ終わっていない。本物の首謀者が逃げたままだ……それに…どうしても許せない…ティーヌ王子とビニモンド王子…エイリカ王子も……彼らはナノニス様を見殺しに、いや身代わりにしたんだ…エイリカ王子の…」
エイリカがこの件と関わりがある事は最大級の禁止事項であった。流石に目を見開いて驚く二人。
「許せない…ナノニス様を絶望させ、体と心に深い傷を残し笑顔まで奪った彼らが…あんな暗い瞳をさせるなんて……けど…ナノニス様は事を荒立てて欲しくないんだ…だから…俺は、俺は」
ガックリ項垂れるシュシュルの肩を軽く叩いてやる。いくら同期の二人でもシュシュルのこんな姿は初めて見た。
「マザメス、呑まないのか?美味いぞ?これ」
顔の良いこの男、シュシュルは身内の前では意外とざっくばらんな奴だった。狙った女性の前では格好をつけるのだが男だけだとこの通り、大きな口を開けて笑い、だらしの無い姿勢で呑んでいる。
「その姿を巷でキャーキャー騒いでるお前のファンに見せてやれよ」
「俺は夢を売ってんのさ」
「馬鹿じゃねぇの?おめでたいヤツめ、お前は騎士だろうが、何が夢だ」
嫌味っぽく言ってやれば得意げに返してくる。食えない奴でカチンと来るので馬鹿だと言ってやる。
「まぁまぁ、マザメス。そろそろシュシュルの話を聞いてやろうよ」
ほろ酔いのフワームがいつものように二人の仲を取り持つ。
「どうせ、俺の家で呑む時なんて…クソ面倒な話しだけじゃねぇか。口外禁止だろ?」
「さっすがぁ…分かってるね、マザメスくん!」
「うるさい、とっとと話してさっさと帰れ」
「うぅーんこの話を聞いたら…すぐ帰るのは無理なんじゃないかなぁ?」
「勿体つけるね、なんだい?」
フワームも興味深そうに聞く。
「お前たち…俺はさ、お前たち二人を信じてるんだよね~。裏切らないでしょ?裏切らないよね?王室に肩入れ…しないでしょ?」
「どうした……」
「今から話す事はお前たち二人にしか話さない。もし仮に裏切られたとしても…まぁお前たちだしなぁ……いっそ諦めてあの方と一緒に行くかな…あの世に……ってくらいの話なわけなんだよね。いい?」
「嫌だと言っても話すだろ、お前は」
マザメスの部屋に持ち込んだ上等な酒をクイッと飲む。そしておもむろに口を開く。協力者を得るために。
「ナノニス王子が生きていた」
「…………は?」「…………へ?」
どんな話かと気持ち緊張しながら待っていた二人は、思ってもみなかった角度から話のボールが来て、上手くキャッチ出来なかった。
「え?な、何?……シュシュル、とうとう頭が」
「違うから。俺の頭は正常だよ」
「だって、俺だってあの古城に行ったよ?王都の警備が仕事の第2隊が、捕縛された人達を引取りに行ったんだから…。だから、半壊した古城をまじかで見てるんだって…あれは…あの中に居たのなら…厳しいなって……分かるくらいだった。まだ、火薬の匂いが残っててさ…騎士団の被害が随分少ないなって思ったの、覚えてるってば。その後だろ、お前がナノニス王子を血眼で探し回り出したのって…」
「あの時は助かったよ。王子のワガママだったのを…上手いこと収められた。ナノニス様に関して以外は……」
「………………本物なのか?」
戸惑うフワームと違い、マザメスは厳しい顔で問いかけてくる。マザメスの在籍している第1隊はミリー城内部、外部の警護が主だった。
「あぁ、本物だ。しかも本人は認めていない、頑ななほどに…それが益々怪しいだろ」
「認めていない?何…記憶が無いとか?」
「いや違う、ナノニス様のお顔でナノニス王子では無いと言い張るんだ……そして……お怪我をされている……」
「……成程、ナノニス王子の態度が明らかに変なんだな………お怪我?あの事件から半年だぞ?」
マザメスはまだ治らない怪我が有るのか、と聞いている顔だった。
「…………酷いんだ、酷いんだよ……」
「だから?だから…表に出てこなかった、って言うのか?でも自分の葬儀を出されているんだぞ…まだ若い少年じゃないか」
「だからだろ、まだ若く、力のない少年。しかも第5王子は…王子であって王子では無い。ミリー城で生活する事さえ許されていない。生きてましたって出てみろ、王家を欺いたって偽物扱いされて、投獄の後極刑だろうよ。ミリー城とはそういう所だ」
マザメスが淡々と話す。
「それで?シュシュルはどうしたいと?ナノニス王子が生きていた。それで?お前がお執心の王子様の権力奪還か?」
「違う、本人がそれを望まれていない…俺はただ……ナノニス様の怪我を治して差し上げたいだけだ…あの方は、王子で無くなった方が…長生き出来るだろうから」
「だから、怪我が酷いって…どれ程?」
「…………火傷のあとに、刺傷、魔物の爪痕……鞭のあとだ……なんとか…魔法士に診せたい。周りにバレずに」
「待て待て、鞭?鞭のあと?……まさか、拷問されたのか!?」
「…………おそらく……」
「か、仮にも……王子様だってのに…拷問?あの犯人共はそんなにイカれた奴等だったのか…」
予想より酷い状態に言葉が無くなるマザメスとフワーム。
「はぁ……そりゃ……死んだ事にしたいかもな…」
「古城での事件は事実と大分違う話しとして終結されてしまった。ナノニス様の事にしても、事件そのものの事としても…あの事件はまだ終わっていない。本物の首謀者が逃げたままだ……それに…どうしても許せない…ティーヌ王子とビニモンド王子…エイリカ王子も……彼らはナノニス様を見殺しに、いや身代わりにしたんだ…エイリカ王子の…」
エイリカがこの件と関わりがある事は最大級の禁止事項であった。流石に目を見開いて驚く二人。
「許せない…ナノニス様を絶望させ、体と心に深い傷を残し笑顔まで奪った彼らが…あんな暗い瞳をさせるなんて……けど…ナノニス様は事を荒立てて欲しくないんだ…だから…俺は、俺は」
ガックリ項垂れるシュシュルの肩を軽く叩いてやる。いくら同期の二人でもシュシュルのこんな姿は初めて見た。
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