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第2
19話
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部屋から出たシュシュルは目を閉じて一息つく。怒りが己の中で暴れ回っている。屈託なく笑う幼いナノニスが頭をよぎって泣きたくなる。あんなに暗い瞳をした人では無かった。どれ程のことが彼の身にふりかかってしまったんだろうか。どれだけ痛くて怖い思いをした事か。なぜ自分はそれを防げなかったのか。傷つけた人間も魔物も、王子たちも自分も、何もかもが腹立たしい。
やはり、距離を置くべきではなかった。ナノニスの屋敷への連絡担当から外れて、それでも顔を出そうかと思ったが、自分は王都の騎士。ミリー城に住んでいない政治とは無縁の王子。このまま、魑魅魍魎共と離れたままが良いに違いない。自分が親しくしない方がナノニスのためには良いのではなかろうか。年に数回は祭事で姿を確認できる。自分が出世すればより近くでみれるだろう。彼の笑顔を守りたい。そう願っただけなのに、人の命を軽々しく考える王家によって彼は傷付き、笑顔も失ってしまった。
(くそっ……腹が立って仕方ない)
己の葛藤と向き合っていたら、ナノニスの部屋の前の壁に寄りかかり腕を組み、ドアを睨んで立っているシュガーレに気が付かなった。
「ちょいと、物思いに耽っている所悪いんだけどね、色男さん」
「あ、女将…ナノニス様は目覚められました」
「はぁ……あんたは…本当に信用出来るんだよね……万が一、あの子を傷付けたら二度とこの食堂で食事が出来るなんて思わない事だね」
「はい。大丈夫です…と言っても…難しいですよね…。なので、これから態度で納得して頂きます」
シュシュルは怒りを腹の奥底に追いやり、笑顔でシュガーレと向き合った。
「あ、それから…ナノニス様が回復されるまでは騎士団の宴会は延期、という事でお願いします。彼らは日頃の鬱憤が溜まっていますので…少々……大分、騒いでしまいますからね」
「分かったよ。じゃあ後は任せな。副団長様は仕事にお戻り下さい」
「はい、ではまた明日」
「……え、明日も来んのかい?……客として?」
「えぇまぁ……客としてでも良いんですが、ナノニス様のお顔を確認しに来ますので、これからは毎日」
「毎日?随分だねぇ…………まさかとは思うけど…副団長シュシュル・フレイザー殿は……本気であの子を狙ってるのかい?」
「狙う?………………えっ、あ!そ、そんな……俺なんかがおこがましい…ナノニス王子ですよ?」
「そうだけど……だってあんた、さっきから…随分あの子にご執心だからさ…恩人だとしても…私は口説くんじゃないかと…」
「え!えぇ!?俺ですか?……あーー…そんな風に女将に思われていたなんて…ナノニス様は俺の中で笑顔の可愛らしい王子様、記憶の中での幼い王子様です。口説くだなんて…そんな…嫌だなぁー女将ってば」
「そうかい?……悪いけど…あんたのそっち方面は…信用してないから」
「酷くないですか?」
「…………魔法士の方、頼んだよ」
「…はい」
過保護な親御さんから釘を刺されてしまった副団長。巷で派手な色男の異名を持つ彼は、女将から信じて貰えなかった。
シュシュルは食堂を後にし、即座に考える。
(信用出来る奴らをピックアップしなければ…エーの中では王家に寝返るものがいないと信じたいが…こればかりは分からない。フワームとマザメスに連絡取るか…)
騎士団の中もミリー城と同じく気心の知れる者が数少なかった。同期の二人を思い浮かべて今日か明日でも飲みに行こうと思った。
┉ ┉ ◆ ┉ ┉ ◆ ┉ ┉ ◆ ┉ ┉
一人部屋に残ったナノは飛び回るラシューを目で追う。心なしか、嬉しそうなのだ。
(なんで…ラシューが嬉しそうなんだろう…あの騎士団、副団長さんがカッコよかったからかな…え、妖精も色男が好きなのかな…)
「ねえラシュー…ラシューはその、副団長さんみたいな人が…いいの?」
ちょっと面白くない気分で聞いてみる。
ラシューが頭上から降りてきてナノの布団の上に座る。嬉しそうに腕をパタパタ振る、まるで羽みたいに。そしてナノに抱きついて来てスリスリして来た。そしてまた飛び立ってクルクル部屋中を飛び回る。
「……好きってこと?人間として?……その、見た目が?……カッコイイから?」
ラシューは両手を組んで胸元に持っていく。そしてナノの頭をポンポンとするとまた嬉しそうに飛び出す。
(え、何なんだよ…)
ナノは口を尖らせて布団を被る。
「へー良かったね」
バレてしまった、ナノがナノニス王子であると。あの苦手な副団長に。実は生きていたと。
あそこまで大々的にナノニスが死んだと御触れを出しておいて、生きてましたとは撤回できない王家。ナノが生きていると分かってしまったら、本当に命を取られるかもしれない。
(あの人…何なんだよ…もぅ……)
ナノは守ると言われて、素直に嬉しかった。探してくれていたと、味方だと言ってくれた。だが、副団長シュシュルの綺麗な顔を見ていると、自分の醜い傷跡が恥ずかしくて堪らなくなる。火傷のあと、上手く動きにくくなってしまった右足。酷い背中、顔にまで傷がある。しかも魔物にやられた不吉な傷だ。髪の色も幼い頃から綺麗じゃない。エイリカのような可愛らしい顔でもない。ミリー城に住むことを許されない形ばかりの王子。ナノは劣等感の塊だった。屋敷でも誰にも相手にされない、心はいつも寂しかった。それなのに、彼は副団長のシュシュルは綺麗な顔とカッコイイ背格好でナノを守ると。彼と自分を見比べてしまうと酷く惨めな気分になった。
(なんだよ、あの変な人…僕のことは、ほっといてよ)
拗ねたナノは熱も相まって、ふて寝をした。
やはり、距離を置くべきではなかった。ナノニスの屋敷への連絡担当から外れて、それでも顔を出そうかと思ったが、自分は王都の騎士。ミリー城に住んでいない政治とは無縁の王子。このまま、魑魅魍魎共と離れたままが良いに違いない。自分が親しくしない方がナノニスのためには良いのではなかろうか。年に数回は祭事で姿を確認できる。自分が出世すればより近くでみれるだろう。彼の笑顔を守りたい。そう願っただけなのに、人の命を軽々しく考える王家によって彼は傷付き、笑顔も失ってしまった。
(くそっ……腹が立って仕方ない)
己の葛藤と向き合っていたら、ナノニスの部屋の前の壁に寄りかかり腕を組み、ドアを睨んで立っているシュガーレに気が付かなった。
「ちょいと、物思いに耽っている所悪いんだけどね、色男さん」
「あ、女将…ナノニス様は目覚められました」
「はぁ……あんたは…本当に信用出来るんだよね……万が一、あの子を傷付けたら二度とこの食堂で食事が出来るなんて思わない事だね」
「はい。大丈夫です…と言っても…難しいですよね…。なので、これから態度で納得して頂きます」
シュシュルは怒りを腹の奥底に追いやり、笑顔でシュガーレと向き合った。
「あ、それから…ナノニス様が回復されるまでは騎士団の宴会は延期、という事でお願いします。彼らは日頃の鬱憤が溜まっていますので…少々……大分、騒いでしまいますからね」
「分かったよ。じゃあ後は任せな。副団長様は仕事にお戻り下さい」
「はい、ではまた明日」
「……え、明日も来んのかい?……客として?」
「えぇまぁ……客としてでも良いんですが、ナノニス様のお顔を確認しに来ますので、これからは毎日」
「毎日?随分だねぇ…………まさかとは思うけど…副団長シュシュル・フレイザー殿は……本気であの子を狙ってるのかい?」
「狙う?………………えっ、あ!そ、そんな……俺なんかがおこがましい…ナノニス王子ですよ?」
「そうだけど……だってあんた、さっきから…随分あの子にご執心だからさ…恩人だとしても…私は口説くんじゃないかと…」
「え!えぇ!?俺ですか?……あーー…そんな風に女将に思われていたなんて…ナノニス様は俺の中で笑顔の可愛らしい王子様、記憶の中での幼い王子様です。口説くだなんて…そんな…嫌だなぁー女将ってば」
「そうかい?……悪いけど…あんたのそっち方面は…信用してないから」
「酷くないですか?」
「…………魔法士の方、頼んだよ」
「…はい」
過保護な親御さんから釘を刺されてしまった副団長。巷で派手な色男の異名を持つ彼は、女将から信じて貰えなかった。
シュシュルは食堂を後にし、即座に考える。
(信用出来る奴らをピックアップしなければ…エーの中では王家に寝返るものがいないと信じたいが…こればかりは分からない。フワームとマザメスに連絡取るか…)
騎士団の中もミリー城と同じく気心の知れる者が数少なかった。同期の二人を思い浮かべて今日か明日でも飲みに行こうと思った。
┉ ┉ ◆ ┉ ┉ ◆ ┉ ┉ ◆ ┉ ┉
一人部屋に残ったナノは飛び回るラシューを目で追う。心なしか、嬉しそうなのだ。
(なんで…ラシューが嬉しそうなんだろう…あの騎士団、副団長さんがカッコよかったからかな…え、妖精も色男が好きなのかな…)
「ねえラシュー…ラシューはその、副団長さんみたいな人が…いいの?」
ちょっと面白くない気分で聞いてみる。
ラシューが頭上から降りてきてナノの布団の上に座る。嬉しそうに腕をパタパタ振る、まるで羽みたいに。そしてナノに抱きついて来てスリスリして来た。そしてまた飛び立ってクルクル部屋中を飛び回る。
「……好きってこと?人間として?……その、見た目が?……カッコイイから?」
ラシューは両手を組んで胸元に持っていく。そしてナノの頭をポンポンとするとまた嬉しそうに飛び出す。
(え、何なんだよ…)
ナノは口を尖らせて布団を被る。
「へー良かったね」
バレてしまった、ナノがナノニス王子であると。あの苦手な副団長に。実は生きていたと。
あそこまで大々的にナノニスが死んだと御触れを出しておいて、生きてましたとは撤回できない王家。ナノが生きていると分かってしまったら、本当に命を取られるかもしれない。
(あの人…何なんだよ…もぅ……)
ナノは守ると言われて、素直に嬉しかった。探してくれていたと、味方だと言ってくれた。だが、副団長シュシュルの綺麗な顔を見ていると、自分の醜い傷跡が恥ずかしくて堪らなくなる。火傷のあと、上手く動きにくくなってしまった右足。酷い背中、顔にまで傷がある。しかも魔物にやられた不吉な傷だ。髪の色も幼い頃から綺麗じゃない。エイリカのような可愛らしい顔でもない。ミリー城に住むことを許されない形ばかりの王子。ナノは劣等感の塊だった。屋敷でも誰にも相手にされない、心はいつも寂しかった。それなのに、彼は副団長のシュシュルは綺麗な顔とカッコイイ背格好でナノを守ると。彼と自分を見比べてしまうと酷く惨めな気分になった。
(なんだよ、あの変な人…僕のことは、ほっといてよ)
拗ねたナノは熱も相まって、ふて寝をした。
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