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第1
7話
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深い深い眠りに落ちていく。ナノは自分の意識が深く沈んでいく感覚をただ受け止めるしかなかった。
◆ ◆
ナノニス・ミリテジ、それがナノの正式な名前だった。アイーグ国、王家ミリテジ家は王都にあるミリー城で生活をする。国王マスク・ミリテジには正妻と側室が3人いた。側室は第1妃、第2妃、第3妃と呼ばれていた。第2妃のデシユーメント・ミリテジが病死してしまった事から第3妃のララン・ミリテジの身体が弱い事を心配した国王がミリー城ではなく、空気の良い森の近くの王都の外れにて暮らすよう取り計らった。表向きは…
残念ながら第3妃のララン・ミリテジは国王が見初めた庶民の出であった為、子を産んだら城外で暮らすように言われていた。更に、ラランの子は第5王子であった為王位継承権も低く疎まれ、母親の傍で生活した方が良いとされ第5王子もまた城外での暮らしとなった。
第5王子ナノニス・ミリテジは祭事の際以外はミリー城に近付くことなく、良い意味で伸び伸びと育つことが出来た。しかし母の身体が弱い事は本当で、幼い頃から寂しい思いをして育った。
「かあさま…また寝てるの?」
幼いナノニス王子はよく母の寝室を部屋のドアから覗いてションボリ帰り、自室や外で1人で遊ぶことが多かった。王子教育もソコソコしか学ぶ事が出来なかった。第3妃の住む家に関わる者達の認識として、明らかに王位を次が無い王子と見られていた。
「僕は騎士だぞっ王子騎士だ…やぁっ!」
家にいる使用人も少ないので誰も相手をしてくれない、王位継承権も見込めない王子は軽く見られる。ナノニス王子は必然的に1人で遊ぶことになる。その中で多く遊んでいたのはごっこ遊びだった。
ひとり遊びの傍ら、広めの庭から王城の屋根が見える。ナノニス王子はよく眺めていた。
(良いなぁ……王城…兄様たちもいるし…僕も一緒に遊びたいな…)
前に王城に行った時は兄王子達は怖かった。特には第1王子と第2王子はだいぶ年上だし冷たかった。唯一話せたのは同い年の第6王子だけだった。彼は正妻の子ですごく愛らしい容姿をしていて皆から愛されているようだった。
「エイリカは兄様たちにも優しくしてもらえてるんだろうなぁ……」
第6王子のエイリカは誰も彼もその愛らしさに目を細めてしまう程愛嬌があり、愛情をたっぷり浴びて育っているので、誰にでも優しかった。ナノニス王子はそんなエイリカ王子が羨ましく、そして優しくされたので兄弟の中で一番好きだった。
ナノニス王子は毎日寂しい心を殺して過ごしていた。
そんな寂しくも平和な毎日を過ごしていたナノニス王子だったが、14歳になった年に大事件が起きた。それは普段城で過ごす者が近付きもしないナノニス王子の住処にお忍びで第1王子と第2王子が訪問した事から知ることとなった。
「誰か!誰か居ないか!!」
門の前で大声で騒いでいる人がいた。ナノニスの住む屋敷は、王族が住む屋敷としては小さかったが、庭はそこそこの大きさがあった。いつでも人手不足のこの家は、滅多に来ない客人への対応も遅かった。
「誰だ?騒いでいるのは…」
ブツブツ文句を言いながら門まで行く使用人はその姿を目に映して驚く。護衛もつけず、門で第1王子のティーヌ・ミリテジと第2王子のビニモンド・ミリテジが門を開けろと騒いでいた。一気に屋敷中が騒がしくなり、ナノニスも急いでお出迎えに玄関まで行く。
「王都の外れまでお目見えして頂けるとは…私この屋敷にて執事長として勤めております……」
「よい、挨拶は省く!我々はこの屋敷に住まう王子に会いに来た。どこにいる!?」
「は、はい」
いきなりナノニスを指名してきて驚き過ぎて肩が跳ねる。一歩前に出ればジロリと見られ容姿を一瞥されたと感じる。その視線は不躾であった。
「わ、私が第5王子、ナノニス・ミリテジでございます。お久しゅうございます。ティーヌ兄上、ビニモンド兄上」
「ふん、第5…王子だな」
とても嫌な感じで言われる。急に尋ねてきたのはティーヌ王子とビニモンド王子であるのに傲慢な態度の二人だった。
「お前に頼みがある。時間が惜しい今すぐ出かける準備を」
「え!い、今すぐ…でございますか?」
「そうだと言っている!早くしろっ!時間が惜しいと言っているだろう!!」
「は、はい!申し訳ございません。ただ今すぐに準備してまいります」
追い立てられるように準備をし、外に出る。それにしてもこの王子二人がここに来るなんて、不可解だ。しかも護衛の姿が見られない、そんな事などあるのだろうか。ナノニスは首を傾げながら外に出る。
「いいか、我々がここに来たことは内密に!くれぐれも内密だぞ!」
ただ事では無い雰囲気を出し、使用人達に口止めをする。二人の王子はナノニスを連れ屋敷を後にする。
「お前には案内してもらいたい場所がある。いいな?」
「どこでしょう…」
「王都の外れ、古城だ」
「古城……」
王都の外れにある古城、ナノニスの屋敷より更に北に馬を10分ほど走らせると小さな林があり、その奥に古城があった。古びた外見のその城は今では誰も近付かない。ナノニスも近付かないが、近くに住んでいると言うだけで白羽の矢がささった。
馬に乗る二人の王子、ナノニスは急かされ自分の馬に乗る暇も与えられず、ティーヌ王子の馬に一緒に乗せられた。道案内のために。
「あの、失礼ながら…あの古城は…今は誰も近付きません…私も…手前の林に数回行った程度ですが…」
「場所を知っているならそれで良い」
「あの…お聞きしても…」
「まどろっこしい!…………一大事なのだ…」
ナノニスの背に第1王子ティーヌの声が響く。
「我が愛しの弟…エイリカが何者かに攫われた。何とかあの古城を根城にしている者の仕業だと護衛が突き止めたのだ」
「え!?エイリカ王子が!!」
◆ ◆
ナノニス・ミリテジ、それがナノの正式な名前だった。アイーグ国、王家ミリテジ家は王都にあるミリー城で生活をする。国王マスク・ミリテジには正妻と側室が3人いた。側室は第1妃、第2妃、第3妃と呼ばれていた。第2妃のデシユーメント・ミリテジが病死してしまった事から第3妃のララン・ミリテジの身体が弱い事を心配した国王がミリー城ではなく、空気の良い森の近くの王都の外れにて暮らすよう取り計らった。表向きは…
残念ながら第3妃のララン・ミリテジは国王が見初めた庶民の出であった為、子を産んだら城外で暮らすように言われていた。更に、ラランの子は第5王子であった為王位継承権も低く疎まれ、母親の傍で生活した方が良いとされ第5王子もまた城外での暮らしとなった。
第5王子ナノニス・ミリテジは祭事の際以外はミリー城に近付くことなく、良い意味で伸び伸びと育つことが出来た。しかし母の身体が弱い事は本当で、幼い頃から寂しい思いをして育った。
「かあさま…また寝てるの?」
幼いナノニス王子はよく母の寝室を部屋のドアから覗いてションボリ帰り、自室や外で1人で遊ぶことが多かった。王子教育もソコソコしか学ぶ事が出来なかった。第3妃の住む家に関わる者達の認識として、明らかに王位を次が無い王子と見られていた。
「僕は騎士だぞっ王子騎士だ…やぁっ!」
家にいる使用人も少ないので誰も相手をしてくれない、王位継承権も見込めない王子は軽く見られる。ナノニス王子は必然的に1人で遊ぶことになる。その中で多く遊んでいたのはごっこ遊びだった。
ひとり遊びの傍ら、広めの庭から王城の屋根が見える。ナノニス王子はよく眺めていた。
(良いなぁ……王城…兄様たちもいるし…僕も一緒に遊びたいな…)
前に王城に行った時は兄王子達は怖かった。特には第1王子と第2王子はだいぶ年上だし冷たかった。唯一話せたのは同い年の第6王子だけだった。彼は正妻の子ですごく愛らしい容姿をしていて皆から愛されているようだった。
「エイリカは兄様たちにも優しくしてもらえてるんだろうなぁ……」
第6王子のエイリカは誰も彼もその愛らしさに目を細めてしまう程愛嬌があり、愛情をたっぷり浴びて育っているので、誰にでも優しかった。ナノニス王子はそんなエイリカ王子が羨ましく、そして優しくされたので兄弟の中で一番好きだった。
ナノニス王子は毎日寂しい心を殺して過ごしていた。
そんな寂しくも平和な毎日を過ごしていたナノニス王子だったが、14歳になった年に大事件が起きた。それは普段城で過ごす者が近付きもしないナノニス王子の住処にお忍びで第1王子と第2王子が訪問した事から知ることとなった。
「誰か!誰か居ないか!!」
門の前で大声で騒いでいる人がいた。ナノニスの住む屋敷は、王族が住む屋敷としては小さかったが、庭はそこそこの大きさがあった。いつでも人手不足のこの家は、滅多に来ない客人への対応も遅かった。
「誰だ?騒いでいるのは…」
ブツブツ文句を言いながら門まで行く使用人はその姿を目に映して驚く。護衛もつけず、門で第1王子のティーヌ・ミリテジと第2王子のビニモンド・ミリテジが門を開けろと騒いでいた。一気に屋敷中が騒がしくなり、ナノニスも急いでお出迎えに玄関まで行く。
「王都の外れまでお目見えして頂けるとは…私この屋敷にて執事長として勤めております……」
「よい、挨拶は省く!我々はこの屋敷に住まう王子に会いに来た。どこにいる!?」
「は、はい」
いきなりナノニスを指名してきて驚き過ぎて肩が跳ねる。一歩前に出ればジロリと見られ容姿を一瞥されたと感じる。その視線は不躾であった。
「わ、私が第5王子、ナノニス・ミリテジでございます。お久しゅうございます。ティーヌ兄上、ビニモンド兄上」
「ふん、第5…王子だな」
とても嫌な感じで言われる。急に尋ねてきたのはティーヌ王子とビニモンド王子であるのに傲慢な態度の二人だった。
「お前に頼みがある。時間が惜しい今すぐ出かける準備を」
「え!い、今すぐ…でございますか?」
「そうだと言っている!早くしろっ!時間が惜しいと言っているだろう!!」
「は、はい!申し訳ございません。ただ今すぐに準備してまいります」
追い立てられるように準備をし、外に出る。それにしてもこの王子二人がここに来るなんて、不可解だ。しかも護衛の姿が見られない、そんな事などあるのだろうか。ナノニスは首を傾げながら外に出る。
「いいか、我々がここに来たことは内密に!くれぐれも内密だぞ!」
ただ事では無い雰囲気を出し、使用人達に口止めをする。二人の王子はナノニスを連れ屋敷を後にする。
「お前には案内してもらいたい場所がある。いいな?」
「どこでしょう…」
「王都の外れ、古城だ」
「古城……」
王都の外れにある古城、ナノニスの屋敷より更に北に馬を10分ほど走らせると小さな林があり、その奥に古城があった。古びた外見のその城は今では誰も近付かない。ナノニスも近付かないが、近くに住んでいると言うだけで白羽の矢がささった。
馬に乗る二人の王子、ナノニスは急かされ自分の馬に乗る暇も与えられず、ティーヌ王子の馬に一緒に乗せられた。道案内のために。
「あの、失礼ながら…あの古城は…今は誰も近付きません…私も…手前の林に数回行った程度ですが…」
「場所を知っているならそれで良い」
「あの…お聞きしても…」
「まどろっこしい!…………一大事なのだ…」
ナノニスの背に第1王子ティーヌの声が響く。
「我が愛しの弟…エイリカが何者かに攫われた。何とかあの古城を根城にしている者の仕業だと護衛が突き止めたのだ」
「え!?エイリカ王子が!!」
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