上 下
7 / 40
第1

6話

しおりを挟む
 その日はフドー食堂の定休日、前の定休日から一回りして来た7日後だった。
 この世界は月の日、火の日、水の日、木の日、金の日、土の日、太陽の日と7日を一回りとしていた。フドー食堂は月の日を定休日としいたので、今日は月の日だ。客がいないはずのこの日、ナノは自分の部屋にいたが一階から話声が聞こえてきた。丁度、今日も例のジュースを飲みに行こうかどうしようか考えいた時だった。実は最近、緊張状態が続いているせいか朝から体が怠かった。

(休みの日にまったく体を動かさないのはどうかな……話し声も気になるし、少し下に覗きに行ってみようかな)

「ラシュー、ちょっと下の階に行ってくるね」

妖精のラシューにそう声を掛けると緑の人型がナノの顔の周りを飛び回った。

「どうしたの?ラシューは休んでていいよ」

何か言いたげな様子のラシューを置いて部屋から出た。部屋を出ると話し声はよく聞こえるようになった。一人はシュガーレさんだがもう一人は最近よく聞く声だった。休みの日に何故いるんだと思わず覗いてしまった。しまったと思った途端、副団長シュシュル・フレイザーに見つかってしまった。

「やぁナノ、元気?いい日だね」

シュガーレと話しているであろうに、ナノを目聡く見つけて手を軽く振ってくる。

「……こんにちは…」

「今ね、今度の騎士団の打ち上げにここを使わせて欲しいって打ち合わせをしているんだよ」

「まったく副団長さんがそんな仕事もするのかい?精鋭部隊だっけか?全部で何人だい」

「これは俺の趣味みたいな物ですよ、エーは20人です。しかもここにくればナノに会えると思ってね。やっぱり会えた」

「うちのナノは軽い男にはやらないよ」

「えっ!女将の許しが必要なの!?」

「当たり前だよ、私だけじゃなくて旦那の許しも必要だからね!」

「ありゃりゃ…これは手強いな…」

ねぇ…困ったなとナノを振り返ると、ナノがフラフラとしていた。怪訝に思いシュシュルはナノに近付く。

「大丈夫?具合が悪いの?」

ナノは段々とボンヤリして来て、シュシュルの言葉もどこか遠くで聞こえて来るように感じ始めた。

(あれー?これ、ちょっとダメかも…)

ラシューが飛び回っていたのはナノを心配していたからだったのか、と納得しながらナノの体は傾き始めた。焦ったシュシュルは急いでナノを支えた。

「ちょちょ、これ休まなきゃダメでしょ。女将、ナノが具合悪そうだよ」

「あぁ…まただね…熱が出ると思う。可哀想に…しょうがないから副団長、そのままナノを運んでくれやしないか?」

「それは当然ですよ!」

シュシュルはナノを抱き上げて小柄な体を抱え直す。背中と膝裏にしっかり腕をまわして、ナノが楽な体制をとってやる。力が抜けてうつらうつらするナノは頭もグッタリとシュシュルの胸に預ける。シュシュルはナノを心配気に様子を見るために顔を見た。

「っ!!………」

ギクリと体を固めて驚きの表情をするシュシュル。
その様子を見て苦い顔したシュガーレが口を開く。

「何も言うんじゃないよ」

弾かれたようにシュガーレの顔を見たシュシュルの表情はいつもと打って変わって真剣な顔だった。

「女将……」

「今は…ナノを部屋に……」

「はい………」

無言のまま2階へと上がりナノを自室のベットにそっと置く。

「傷が……」

ナノの顔を見て痛々しそうにソッと前髪を横にはらう。そしてナノの手を取ってギュッと両手で握りしめる。ナノの手を自分の額につけ苦しそうな顔をするシュシュル。

(生きて………生きておられたのですね……王子)

「何故、この方が……こんな傷を負って…」

ポツリポツリと言葉を発するシュシュル・フレイザー

「私が見つけた時は……既に……傷だらけだったんだよ…」

「そんな……俺たちは……この方を見つけに……」

「ふんっ顔を知っているのかい?精鋭部隊ってやつが、第5王子様のお顔を…王城で暮らしたことが無いんだろ?この子はさ……」

「……確かに…俺は知っていたが…中には……」

「……何やってんだよ、騎士様達は!この子……この子の見つけたの時の姿がっ……」

「……あの事件の時ですね…話して下さい女将」

「血だらけで、酷い火傷で……生きてるのかどうか…分からなかったんだよ!」

「そんなっ……に…あぁ…ナノニス様…」

眠るナノは眉間に皺がより苦しそうにしだす。

「熱が出るときは、いつも苦しそうにするんだよ…私は…見てられないよっ……この子ばかり苦しんで…あんまりじゃないかっ」

「どうしても、気になって仕方なかったんです…まさか、ナノニス様だとは…もしかしたら、ナノニス様は俺の事を覚えておいでで無いかもしれませんが…俺は……陽だまりのように無邪気に笑うこの方が気掛かりでした…キチンとお会いしたのは…まだ幼い頃で…むしろ、王城に居ない方が宜しいかと…思っていました…」

「こう言っちゃ何だけど…私ら庶民からしたら……王族なんて…クソだね」

「女将、ここだけの話で…それ以上は……女将は…ナノニス様だとご存知で?」

「ハッキリとじゃ無いけど、あの大騒ぎの事件の時にこんな傷だらけの子、しかも意識が戻ってからの様子…その名を出さずともこの子の懇願する様な視線で察したさ……」

「良い方に救って頂いた…」

「良か無いよ…こんなオンボロ食堂…王子様にはさ……それなのにこの子は……健気すぎるんだよっどうなってんだよ、王族ってやつは」

「第5王子様は……少し特別で……」

「だろうねっ!!悪い意味でねっ!!あんたに言ってもしょうが無いのは重々承知してるよっけどね……本当に……まったく……冗談じゃないよ……」

「……………………はい…」

「この子は生きてるんだよっ!葬式なんて……冗談じゃないよっ!」

シュシュル・フレイザーは奥歯をかみ締めて眠るナノの顔を見た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さむいよ、さみしいよ、

moka
BL
僕は誰にも愛されない、、、 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 人を信じることをやめた奏が学園で色々な人と出会い信じること、愛を知る物語です。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

BLドラマの主演同士で写真を上げたら匂わせ判定されたけど、断じて俺たちは付き合ってない!

京香
BL
ダンサー×子役上がり俳優 初めてBLドラマに出演することになり張り切っている上渡梨央。ダブル主演の初演技挑戦な三吉修斗とも仲良くなりたいけど、何やら冷たい対応。 そんな中、主演同士で撮った写真や三吉の自宅でのオフショットが匂わせだとファンの間で持ち切りに。 さらに梨央が幼い頃に会った少女だという相馬も現れて──。 しゅうりおがトレンドに上がる平和な世界のハッピー現代BLです。

前世である母国の召喚に巻き込まれた俺

るい
BL
 国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

処理中です...