この気持ちに気づくまで

猫谷 一禾

文字の大きさ
上 下
53 / 62
番外編

唯一と彗の物語 2

しおりを挟む


 黒龍の総長コウがやって来た日から唯一がゲームセンターに遊びに行くと必ずといっていいほどガードの総長ナナミが来た。

「こんばんは~ユイちゃん今日も可愛いね」
「こんばんは……ナナミさん……」
「今日もサキちゃん見ないね、どこに行っちゃったのかな~?」
「…………なんで、僕の所に来るって思うんですか…もぅ来ないかもしれません。ほかの友達と遊んでるかもしれないじゃないですか……」
「え~すっごい仲良しの友達がいるって聞いたけどなぁサキちゃんから」
「あ、僕のこと……ヨリが……そうなんだ……」
「あー……ユイちゃん……あっち見て。また来た」

言われた先には黒龍の総長コウがいた。じっと見てくるだけだが視線が疑ってると物語っていた。

「執拗いねぇ…そりゃサキちゃんも逃げたくなるかもね……」
「おい!片割れ」
「僕のことですか?」
「そうだ、サキから本当に連絡ないんだろうな」
「ないですよ……」

(実際プライベートなことって…お互い余り知らないんだよね…)

「ねぇコウ、何でそこまで追っかけるの?」
「あ?俺の恋人だからだ」
「え!?恋人……なんですか?」

(ヨリ……いつの間に……確かに、黒龍の総長に憧れちゃってたからなぁ)

「それさ、自然消滅狙ってんじゃないの?」
「そんなことは関係ない、居なくなったから見つけるだけだ」
「はいはい……」

手下を置いてコウは去って行った。

「あの、ナナミさん。僕もここに余り来なくなると思います。なのでヨリに会いたいって思っててもすみませんが……」
「なんで?なんで来なくなるの?」
「受験勉強に本腰入れようと思ってて、もし補導とかされたら内心に響くし……」
「そっかぁ……中3だっけ……そうか。ねぇあんまり逢えなくなるなら今日は俺に付き合ってよ。ね?一日だけ」
「う…えぇ……は、い……じ、じゃあ一日だけ」

その後、ナナミのおすすめだと言う夜景が綺麗に見えるスポットなるものに連れてきてもらった。

「あ、ほんとだ綺麗ですね……」
「写真、撮ってあげようか?」
「良いんですか?……お願いしようかな…」
「ほれ、スマホ貸して」

これがいけなかったんだと、後々になって気づく。

ガシャン

スマホを落とした、ナナミが。この景色を見るために登ってきた5階分くらいの高さから下に落とした。

「あ、ごめーん。手が滑っちゃって……拾ってくるね。壊れてないか確かめてくるよ」

口を開けて呆然とする唯一。

タタタっと軽快に拾ってきた、そして…

「ごめーん、何かさ、持ってた飲み物が掛かっちゃったみたいなんだ。これ水没しちゃっみたい」
「え、うそ……ですよね……」
「画面真っ黒」
「そんなっ僕の渚さんがっ」

ひしっと大事に両手に持って嘆く。

「ローウェイ様が…」
「……誰?」
「たとえそこが世界の果てでも、の渚さんとローウェイ様……ゲームです。え?待って……電源つかない、うそでしょ!?アプリ内のデータって……バックアップ…出来たっけ?あれ?まさか……初期化」

世にも恐ろしい単語を言ってしまった唯一。

「ってことは……あ!連絡先……うそ……」
「ごめんねユイちゃん、明日お店に一緒に持って行って弁償するから」
「弁償出来ないものも、あるじゃないですか!」
「明日まで、俺の2台目使う?」
「意味ないですよ、自分のじゃないと…」
「ごめんね?付き合ってる子とか連絡取れないと何か言われちゃうかな~って思ったんだけど…」
「そんなのいないので大丈夫です……連絡取れなくて困ること、あんまり無いから……でも、でも……僕、ナナミさんのこと…恨むかも」
「えー」
「ヨリと連絡取れなくなっちゃいました……それに、それに……一からやり直すって、心折れます」
「あーゲーム?ごめんごめん」

(軽い、しかもなんで少し嬉しそうにしてるんだよ……)

「もぅ……いいです……親と一緒じゃないとお店行けないし……でも…渚さんが……」
「ごめんごめん~って……そんな可愛いキャラなの?」
「違います。渚さんはかっこいい勇者です」
「かっこいい人がタイプなの?」
「はい、かっこいい人が好きです」
「ほぅほぅ…では俺なんてどうだい?」
「は?ナナミさんは……勇者って感じより……勇者のライバルですね……」
「テンション低いな、ライバルじゃ駄目?」

ナナミをじっと見つめる。ナナミはこげ茶の髪で首元はスッキリしているが前髪が重めで、ちょっとだけつり目がいたずらっ子の雰囲気を出している。背も高く、コウといい勝負のスタイルだった。

(総長って、容姿の基準とかあるのかな……)

「別に良いんじゃないですか?」
「俺はユイちゃんのタイプにハマってる?付き合ってみる?」
「何言ってるんですか?僕、今はらわた煮えくり返ってるんで、冗談通じませんよ」
「冗談じゃなくてさ、特定の人いないなら付き合わない?」
「ちょっと、理解できないですけど…僕はそこら辺に転がってるただのオタクですので、ほっといて下さい」
「意味分かんない?俺が、ユイちゃんの彼氏になるよって話なんだけど…」
「だから、冗談辞めてください。僕は誰とも付き合わないし、こんなでも男なんで」
「もぅ……信じないのかぁ。いいからさ、ちょっと付き合ってみようよ。タイプでしょ?俺」
「いや、タイプって……無い物ねだりしてるだけなんで、多分ナナミさんと僕のタイプの意味が違うと思います」

唯一の心はどこか遠くを思っていて、叩いても響いていないようだった。
その夜を境に唯一も姿を現さなくなった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

BlueRose

雨衣
BL
学園の人気者が集まる生徒会 しかし、その会計である直紘は前髪が長くメガネをかけており、あまり目立つとは言えない容姿をしていた。 その直紘には色々なウワサがあり…? アンチ王道気味です。 加筆&修正しました。 話思いついたら追加します。

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

さがしもの

猫谷 一禾
BL
策士な風紀副委員長✕意地っ張り親衛隊員 (山岡 央歌)✕(森 里葉) 〖この気持ちに気づくまで〗のスピンオフ作品です 読んでいなくても大丈夫です。 家庭の事情でお金持ちに引き取られることになった少年時代。今までの環境と異なり困惑する日々…… そんな中で出会った彼…… 切なさを目指して書きたいです。 予定ではR18要素は少ないです。

処理中です...