この気持ちに気づくまで

猫谷 一禾

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番外編

唯一と彗の物語 2

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 黒龍の総長コウがやって来た日から唯一がゲームセンターに遊びに行くと必ずといっていいほどガードの総長ナナミが来た。

「こんばんは~ユイちゃん今日も可愛いね」
「こんばんは……ナナミさん……」
「今日もサキちゃん見ないね、どこに行っちゃったのかな~?」
「…………なんで、僕の所に来るって思うんですか…もぅ来ないかもしれません。ほかの友達と遊んでるかもしれないじゃないですか……」
「え~すっごい仲良しの友達がいるって聞いたけどなぁサキちゃんから」
「あ、僕のこと……ヨリが……そうなんだ……」
「あー……ユイちゃん……あっち見て。また来た」

言われた先には黒龍の総長コウがいた。じっと見てくるだけだが視線が疑ってると物語っていた。

「執拗いねぇ…そりゃサキちゃんも逃げたくなるかもね……」
「おい!片割れ」
「僕のことですか?」
「そうだ、サキから本当に連絡ないんだろうな」
「ないですよ……」

(実際プライベートなことって…お互い余り知らないんだよね…)

「ねぇコウ、何でそこまで追っかけるの?」
「あ?俺の恋人だからだ」
「え!?恋人……なんですか?」

(ヨリ……いつの間に……確かに、黒龍の総長に憧れちゃってたからなぁ)

「それさ、自然消滅狙ってんじゃないの?」
「そんなことは関係ない、居なくなったから見つけるだけだ」
「はいはい……」

手下を置いてコウは去って行った。

「あの、ナナミさん。僕もここに余り来なくなると思います。なのでヨリに会いたいって思っててもすみませんが……」
「なんで?なんで来なくなるの?」
「受験勉強に本腰入れようと思ってて、もし補導とかされたら内心に響くし……」
「そっかぁ……中3だっけ……そうか。ねぇあんまり逢えなくなるなら今日は俺に付き合ってよ。ね?一日だけ」
「う…えぇ……は、い……じ、じゃあ一日だけ」

その後、ナナミのおすすめだと言う夜景が綺麗に見えるスポットなるものに連れてきてもらった。

「あ、ほんとだ綺麗ですね……」
「写真、撮ってあげようか?」
「良いんですか?……お願いしようかな…」
「ほれ、スマホ貸して」

これがいけなかったんだと、後々になって気づく。

ガシャン

スマホを落とした、ナナミが。この景色を見るために登ってきた5階分くらいの高さから下に落とした。

「あ、ごめーん。手が滑っちゃって……拾ってくるね。壊れてないか確かめてくるよ」

口を開けて呆然とする唯一。

タタタっと軽快に拾ってきた、そして…

「ごめーん、何かさ、持ってた飲み物が掛かっちゃったみたいなんだ。これ水没しちゃっみたい」
「え、うそ……ですよね……」
「画面真っ黒」
「そんなっ僕の渚さんがっ」

ひしっと大事に両手に持って嘆く。

「ローウェイ様が…」
「……誰?」
「たとえそこが世界の果てでも、の渚さんとローウェイ様……ゲームです。え?待って……電源つかない、うそでしょ!?アプリ内のデータって……バックアップ…出来たっけ?あれ?まさか……初期化」

世にも恐ろしい単語を言ってしまった唯一。

「ってことは……あ!連絡先……うそ……」
「ごめんねユイちゃん、明日お店に一緒に持って行って弁償するから」
「弁償出来ないものも、あるじゃないですか!」
「明日まで、俺の2台目使う?」
「意味ないですよ、自分のじゃないと…」
「ごめんね?付き合ってる子とか連絡取れないと何か言われちゃうかな~って思ったんだけど…」
「そんなのいないので大丈夫です……連絡取れなくて困ること、あんまり無いから……でも、でも……僕、ナナミさんのこと…恨むかも」
「えー」
「ヨリと連絡取れなくなっちゃいました……それに、それに……一からやり直すって、心折れます」
「あーゲーム?ごめんごめん」

(軽い、しかもなんで少し嬉しそうにしてるんだよ……)

「もぅ……いいです……親と一緒じゃないとお店行けないし……でも…渚さんが……」
「ごめんごめん~って……そんな可愛いキャラなの?」
「違います。渚さんはかっこいい勇者です」
「かっこいい人がタイプなの?」
「はい、かっこいい人が好きです」
「ほぅほぅ…では俺なんてどうだい?」
「は?ナナミさんは……勇者って感じより……勇者のライバルですね……」
「テンション低いな、ライバルじゃ駄目?」

ナナミをじっと見つめる。ナナミはこげ茶の髪で首元はスッキリしているが前髪が重めで、ちょっとだけつり目がいたずらっ子の雰囲気を出している。背も高く、コウといい勝負のスタイルだった。

(総長って、容姿の基準とかあるのかな……)

「別に良いんじゃないですか?」
「俺はユイちゃんのタイプにハマってる?付き合ってみる?」
「何言ってるんですか?僕、今はらわた煮えくり返ってるんで、冗談通じませんよ」
「冗談じゃなくてさ、特定の人いないなら付き合わない?」
「ちょっと、理解できないですけど…僕はそこら辺に転がってるただのオタクですので、ほっといて下さい」
「意味分かんない?俺が、ユイちゃんの彼氏になるよって話なんだけど…」
「だから、冗談辞めてください。僕は誰とも付き合わないし、こんなでも男なんで」
「もぅ……信じないのかぁ。いいからさ、ちょっと付き合ってみようよ。タイプでしょ?俺」
「いや、タイプって……無い物ねだりしてるだけなんで、多分ナナミさんと僕のタイプの意味が違うと思います」

唯一の心はどこか遠くを思っていて、叩いても響いていないようだった。
その夜を境に唯一も姿を現さなくなった。
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