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そして回る
《46》
しおりを挟む皇輝には手下が学校に沢山いた。その手下を使えば匠の一挙手一投足を監視して、事件を未然に防げたはずだ。その負い目が合った。緋縁の顔はすぐに冷やしたことが功を奏し腫れはしなかったが、切れてカサブタになった唇と痣がある痛々しい感じになっていた。捻挫をした足では踏ん張りが効かず、何時でもひょこひょこ歩いている。時々、打ち付けた箇所が痛むのか、眉間に皺を寄せて顔を歪めていることがある。そんな緋縁にとてもじゃ無いが手は出せず、キスをするだけの連休だった。
(こんなに近くにいるのに…キツイ……)
最初こそ夜中にうなされている事もあった緋縁だが、それも休みが明けようかという時には落ち着いてきた。
「そろそろ、学校始まるし自分の部屋に帰ろうかと思うんだ。怪我もだいぶ良くなってきたし…」
「……帰したくない」
「駄目だよ……。これ、制服ありがとう、助かったよ。後さ……あの…付き合ってるって、内緒にしたいんだけど…」
無言で目付きがキツくなる皇輝。
「今回のこともあったし、ちょっとまだ…」
「くそっ……それ出されると何も言えない。……分かったよ、少しの間は様子見だ。仕方ない…」
「良かった…じゃあ、またね」
そう言うと、あっさりと部屋を出て行ってしまった。
(緋縁は寂しいとか、無いのかよ…)
一度逃げられた経験のある皇輝は、強引に出来なくなっていた。
休み明け、何事も無かったかのように平和な日々が過ぎていった。ただ、毎朝の恒例行事が見られなくなっていた。数名の生徒と親衛隊の隊長がいなくなっていた事は憶測を呼んでいたが、何か問題を起こした事だけ噂で出回り、詳細は知られることは無かった。
「井上くん、もうすぐテストだよね?」
「そうだよ、連休の少し後にあるよ。多咲くんずっとバタバタしてて大丈夫?」
「あはは、なんとか…」
武通学園は進学校の面もあるので、度々テストがあった。放課後、中庭で緋縁は里葉に改めてお礼を言っていた。
「ここで里葉さんと知り合えて良かったです」
「大袈裟だよ。元気そうで良かった。怪我も、もういいの?」
「はい、休みの間でほとんど治りました」
「そっか、良かった……。はぁ……もうすぐテストだね……僕、本当に気が重いんだ」
「そうなんですか?里葉さんって勝手にS組だと思ってたんですけど…」
「あー違う違う、僕はギリギリA組。必死にやってもギリギリなんだ……これ以上は落とせないから」
「俺も、入試の時は今までにないくらい勉強したからな…」
「最近、会長とはどう?風紀室に一緒にいたの見たけど、上手くまとまったんでしょ?」
「あーはい、そう、なんですけど…」
「何?またぐちゃぐちゃ考えるのが好きなの?」
「うっ里葉さんってズバズバきますよね…」
「好きだから付き合ってるんでしょ?なんか問題でもあるの?強引過ぎて困ってるとか?」
「それが、優しいです。俺の事気遣ってくれて、そこが問題じゃなくて……問題は俺自身です」
「緋縁くんって……悩むのが趣味なの?」
「何ですかその趣味!俺だってグチグチ悩むのは嫌なんですよ。でも、どうしても…こう…グルグル考えちゃって…恋をしてる好きって、今の俺の好きって想いで合ってるのかな、とか。コウの想いにちゃんと答えられてるのかな、とか…」
里葉が呆れた顔で口を開けている。
「ピュア過ぎるのも……問題なんだね」
「これ、失礼じゃないのかな…って不安です」
「はぁ~…緋縁くん…はぁ~…」
「そんなにため息つきます?」
「だってさ……僕は勘違いしてたのかも…緋縁くんは生徒会長って大変な相手に好かれちゃってって思ってたんだけど…実は、大変な相手を会長の方が、好きになっちゃったんだ…会長も不憫だ…」
(あ、これ……イチにも言われた……)
「緋縁くん、悪いけどさ……僕お手上げ」
「え、えぇ!?そんなぁ里葉さん……」
「気持ちを切り取って、形を見比べるなんて出来ないんだから、もぅそこら辺は主観っていうか…ニュアンス?受け取り方の違いっていうか……あぁ! もう僕も分かんないよ」
「すみません……」
「頑張って悩んで納得できると良いね……」
「はい……」
「学校の雰囲気を悪くしない程度に会長と話し合ったら?」
「難しいこと言いますね……」
「僕は退散するよ、それじゃ満足いく答えが出たら教えてね」
(僕って冷たい奴なのかも…)
里葉は、去って行った。最後は若干、面倒くさそうだった。
(ヤバい、俺、ヤバいよな…ウザイよ。恋に恋する乙女を更にややこしくして悩んでいる奴…酷い…)
「どうにかしなくちゃ」
緋縁は葛藤と迷走の日々を過ごしていたが時間は過ぎていき、取り敢えずテストに集中しようと抜群の言い訳を見つけて問題を先送りにしていた。
そんなモヤモヤした気持ちだと、皇輝と会うことがあってもギクシャクとした気まずい雰囲気が漂ってしまうのだった。
(最近、緋縁の様子が変だ…)
それは波紋のように皇輝にも伝わり悶々とした気持ちで、いつ爆発してもおかしくない、我慢の限界が近づいていた。
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