この気持ちに気づくまで

猫谷 一禾

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認めたくないきもち

《36》

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 休み明け、4月最後の週。連休に入る前に1年生歓迎会が行われる。1年生1クラス各5人、2年生1クラス各5人で合計10人が1グループとなり、1・2年合同グループ1クラスで8グループができる。S組からD組までの全てあわせて36グループになる。そのグループ対抗戦で一斉に問題を解いていくのが交流しながらの歓迎会になる。さらにサポートとして3年生に質問や助言を求められる。知力の高いS組が20名と少ないながら毎年優秀な成績を残していた。
この問題大会が終わったあとに食堂にて立食パーティーが行われる。この一連の流れで歓迎会となる。

 里葉はこの日に制裁が決行されると予想していた。相談し得る人たちも皆この日だと思っていた。親衛隊の中で情報がいきなり回らなくなっていた。場所や時間など、いつもなら情報共有をされるはずが、この時に限って隊長1人が握っていた。ほかの隊員を信用しなくなっていたのだ。

「もしもし、僕だけど…そう、隊長が黙りになっちゃって…いつ、どこで決行か分からないんだ…そう、困ってて…うん、注意してる」

里葉は焦っていた。

(緋縁くんから目を離しちゃダメだ)


 鈴井の采配により、1年A組のグループは出席番号順で別けられていた。実に鈴井らしい別け方である。緋縁は普段話さない人たちに囲まれて人見知りを発揮していた。

(苦手なんだって~…なんか皆めっちゃ見てくるし…もぅどうしたらいいんだよ……)

緋縁は髪を切ってから、同じ学年ばかりか、上級生からもジロジロ見られるようになっていた。特に今回のように話せる機会にはお近付きになろうと目論んでいる生徒がかなりの人数いた。しかし、実際に近くで見ると遠目からは分からない瞳の威力に声をかけずらくなってしまう。故に、ジロジロと見つめるばかりになってしまっていた。

『それでは、これから歓迎会を開催する』
『問題用意……スタート』

ピーーーっと笛の音で始まった。

ここ、体育館には全校生徒が集まりステージ側にメインの1・2年生が各グループでまとまっていて、それを取り囲むかのように周りに3年生が待機している。手には問題用紙が握られていた。
問題は雑学やなぞなぞ、発想力など多岐にわたる。それをグループごとにワイワイと解いていく、という趣旨だ。

「これ、多咲分かる?」
「え?俺?……うーん…何だろう…」

緋縁は突然声をかけられてびっくりしたが、グループに溶け込めそうで嬉しかった。手を顎に持っていき小首をかしげて少し眉間にシワを寄せて考える。その場にいたグループ全員が一瞬目を奪われてしまった。絶妙に可愛いのだ、しかも本人はいたって本気モードだから周りの目に気付いていない。

「ごめん…俺…わっかんない…」

前かがみで真剣に悩んでいた緋縁は、ふと目を上げると上目遣いになる。緋縁の上目遣いは魅力的な瞳を最大限に発揮する。

「た、多咲?っていうの?君…下の名前は?」
「え?……あ、緋縁…です」
『ひより~~』

数人の2年生の声が揃った。

(え?え?なになに?)

「名前まで可愛いのな」
「は?へ?……ど、どうも?」
「緋縁くんは、がい、外部生だよね?」
「はい……」
「どこの中学校だったの?家は近く?」
「え……」

勢い込んで聞かれて引いてしまう。

(なんか、めっちゃ興味持ってくれてるけど、馴れ馴れしいし怖いんだけど……)

「はぁーい、ここのグループは進んでるかなぁ?」

声をかけてきたのは、生徒会会計の将だった。

「交流のつもりでぇ話し込むのもいいけど、問題進めてねぇ。うちの会長様、せっかちだからぁ」

チラリと舞台の壇上を見ると、胸の前で腕を組んで睨みつける、いつもの仁王立ちだった。

「ひぇっなんか会長怒ってね?」
「やろやろ、問題なんだっけ?」

コソッと将が耳打ちをしてきた。

「会長様、不機嫌になっちゃうから交流は程々にしてちょうだい。よろしくね」

そう言い残して周りの様子を伺いながら行ってしまった。

(助かった……助けてくれた…のかな?まさかね)

もう一度皇輝を見るとじぃっと緋縁を見ているようだった。そして目が合ったかと思ったら、唇の端を軽く上げ、ニヒルに笑った。まるで[ふん、俺様はずっと見ているからな]とでも言われた気分になる。公私混同するなと、ふいっと視線をずらす緋縁。その顔は満更でもない感情が滲み出ていた。
それから、3年生に助けてもらうために質問しに行かされたりワタワタとしたが、問題大会は何事もなく無事に終わった。

「多咲ーおつかれ~問題難しかったよな~」

佐藤が疲れた顔で寄ってくる。

「隣のグループにさ、井上がいてさ、答え見せてもらおうとしたんだよ。そしたらめっちゃ怒られちゃったよ~」
「当たり前だ。何考えてるんだか…生徒会にバレてみろ、目を付けられるぞ」
「ヤバい、そうだった…すまん」

井上も合流して緋縁はいつもの面子にほっとする。
ゾロゾロと体育館から食堂に移動していく。肩にトンっと誰かがぶつかって来た。そして耳元に

「2人から離れちゃダメだよ。注意してね」

振り向くとニッコリ笑った里葉がいた。

「あ~ごめんねぇ人が多いからぶつかっちゃった」

てへっと効果音が聞こえてきそうな仕草をして、最後に一瞬笑ってない目が合った。腕にそっと触れてから里葉は離れていく。

(プロだ……)

緋縁は言われた意味を理解していたが、どうしても感心してそう思ってしまう。

「立食パーティーだって。絶対美味いもんでるよ」

佐藤が楽しそうに言う。緋縁は曖昧に返事をする。皇輝に相談するべきだと分かっているが、まだ出来ないでいた。今日は忙しそうだし気が引ける。連絡先を知らないことが痛手になろうとは思っていなかった。どう相談すれば良いのかも分からなかった。里葉に、ああ言われたが実際ピンと来るものがなく、自分が注目を浴びて制裁されるかもしれないと自意識過剰なセリフを言わなければいけないと思うと気が重かった。

(そうだ、パーティー終わりにでも井上くんにオレンジ頭の人の連絡先知ってるか聞いてみようかな)

生徒会との別ルートの接点を見出し、気持ちを落ち着かせた緋縁。重々しい視線を向けられているとも知らずに……
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