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さらされた素顔

《32》

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 教室に戻ると井上と佐藤が心配してくれた。

「大丈夫だった?あの人、親衛隊でしょ」
「怖いよな~目立つとすぐに牽制してくる」
「うん……」
「多咲~そんなにしょんぼりすんなよ~。俺達が一緒にいてやるから」
「多咲くん、相談できるならしたら?」

井上が言葉少なに会長に相談しろと言っている。しかしそれをしたくない緋縁。

(あぁ~もぅ俺、ぐちゃぐちゃだっ)

緋縁は少しずつ、確かに、追い詰められていた。



 校舎3階の外れ、親衛隊の活動場として教室が一室設けられていた。そこには生徒会親衛隊の隊長、手島匠(てじま たくみ)と1年から3年の隊員数名がいた。2年S組の匠は自信に溢れているタイプだった。整った容姿にS組に入れる家柄、チヤホヤされて育った我儘姫は生徒会長と夜の経験もあった。皇輝としては遊んだ相手の1人に過ぎなかったが、匠にしては威張れる事で、他の隊員を下に見る要因のひとつになっていた。

「森はちゃんと言えたかな?あの子、本当に使えないんだよね!」

森里葉のことは中学の頃から知っているが、あの頃は本当に地味で目立たなかった。それが最近子供っぽい少年から成長してきて気に入らない。出来たら親衛隊でいびって辞めさせたい。生徒会に近付けたくない。そんな時に今朝の1年だ。

「なんなのあの1年!わざとらしく本当は僕綺麗ですーって感じで入学からちょっと時間おいてイメチェンしてくるなんて!いやらしい!!」
「隊長の言う通りです」
「コウキ様に色目使ったら許さないんだから!」

匠は口ではこう言っていたが、実は制裁をしたくてたまらなかった。最近の生徒は大人しい子が多くなっていて余り文句を言えないでいた。それは匠が中学生の時、同じように色んな子に制裁をしていたからに他ならないのだが、我儘姫は物足りなく感じていた。

(最近、コウキ様も遊んでくれないし、刺激が少なくてつまんないんだよね~)

自分が一番だと疑ってもいないので少しでも人気者として頭角を現しだす生徒は、先手を打って徹底的に潰したいのであった。
匠は生徒会への心酔と共に邪な考えも持っていた。

「僕、ちょっと生徒会の皆様に用事ないか聞いてくるから、森が帰ってきたら待たせといて」
「はい、隊長。いってらっしゃいませ」

足取り軽く匠が出ていく。それを見守っていた隊員たちは隊長がいなくなると口々に不満が出てくる。

「ねぇ、隊長って最近全然僕達に生徒会室に行かせてくれないよね…」
「そうそう、自分ばっかり…」
「威張り方も酷くなってきた」
「制裁やりたいんだよ…いびるの好きじゃん」
「親衛隊の評判悪くなっちゃうね…やだな…」
「森先輩も、今回の1年も何もしてないよね」
「でも文句言ったら次は僕たちだよ~」

あーあ、と親衛隊の諦めのため息が教室に充満した。隊長が教室を出て言ってから程なくして里葉が帰ってきた。

「ただいまかえりましたぁ」
「あ、森ぃ隊長がここで待っててって」
「はぁい」
「あの1年生どうだった?高飛車な子?」
「えーと素直な子でしたぁ」
「そっかぁ……でも可哀想に…」

隊員たちの表情が一様に暗い気がした。本来、親衛隊は生徒会を応援、お手伝い、お近づきの為の組織である。制裁目的で入る生徒はほぼいない、望んで実行する生徒は隊長のみだった。

(これは…雲行きが怪しいな…多咲くん、なんとか手をうてるといいけどな)

緋縁の身を案じる里葉だった。


 一方、ルンルンとした気分で生徒会室まで来た親衛隊隊長の匠。気に入らない隊員、森里葉に当たり散らしているうちに、何だか自分がどんどん偉くなった様な気がしてきていた。前まではこんなに横柄な態度では無かったし、積極的に生徒会メンバーと接触していなかった。俗に言う勘違いをしている人、になっていた。

「失礼しまぁ~す。」

ドアをノックしてひょこりと顔を出す。

「何かぁお手伝いする事ありますかぁ?」

生徒会室では貴一と将、修次が打ち合わせをしていて、皇輝が自分の机で考え事をしていた。

(あ、コウキ様1人だっ話しかけに行っちゃお)

「会長~」

と言いながら部屋に入ろうとした匠の前に弥菜が立ち塞がる。

「隊長、こんにちは。今は大丈夫だから帰ってゆっくりしていてね」
「あ、ヤナ様~いつもお綺麗ですぅ…でもぉ僕…
皆様のお役に立ちたいんですぅ」
「……あー…うん。気持ちだけ貰ってくよ。ここさ、生徒会室って関係者以外立ち入り禁止でしょ?隊長は好意のつもりでも、あらぬ事言われたら申し訳ないから…急ぎの仕事もないし、今日は引き取ってもらえるかな?俺の顔を立てると思って、ね?」

笑顔の弥菜だが、雰囲気が異を唱えることを許さないと言っていた。

「はぁ~い……また御用の時はいつでも、いつでも仰ってください!僕に!!」
「うん、ありがとう。助かるよ」

(ちぇっ…おもしろくなぁい)

「失礼しましたぁ」

渋々帰っていく匠。

ドアが閉まり、離れたところから見ていた将が

「へぇ~弥菜もあしらうの上手いんだねぇ」
「俺はちょっと怖かったっす」
「可愛いんだけどさぁどーもあの手のタイプは得意じゃないんだよね…親衛隊の子たちみ~んなあのタイプだからさぁ…勿体ないよね…」

そんな会話の中、生徒会長は1人物思いにふけっていた。

(くそっ…あれで丸め込めると思ったんだけどな…思った通りに行かない…。緋縁、怒ってたな。びくびくしてる癖にあんなにハッキリ断りやがって…気に入らねぇ。やっぱり最初が不味かったか?)

皇輝の考えは当たり前だった。好きな子の首に腕をかけて意識を奪い連れ去ったのだ。それ以上にあれよあれよと緋縁の純潔を奪い散らせたのだ。

(最初こそ怖がってたけど、次の時は……可愛かったな…声とか、表情とか。甘かったな…)

思い出し、ニヤニヤとだらし無い顔になってしまう。手を口元に持っていきコホンと咳払いをする。
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