この気持ちに気づくまで

猫谷 一禾

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新たな出会いと再会

《26》

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 緋縁は先程言われたことを頭の中で思い出していた。恋人宣言をした方が良いと生徒会の親衛隊に言われてしまった。相手を知らないから言えることである。このキスマークを付けたのが生徒会長だと知ったら自分は制裁されてしまうのか、とぼんやり想像する。

(怖っ…痛めつけるってあの色っぽい人の口から言ってたよな…怖っ)

ゾクリとする緋縁。皇輝から殴られる様なことは無さそうだと分かったけど、親衛隊からはとんでもない目に合わせられそうだとガクリと肩を落とす。

(不思議な人だったな…他人に興味無さそうなのに、親衛隊やってるんだよな…)

緋縁は食べかけのパンをしまって寮の部屋に帰る支度をする。流石に2度も注意を受けているので、素直に聞くことにする。頭の中を整理して心の準備をするはずが、要らぬ情報を得てしまった。ますます見つかる訳にはいかなくなった。

(この学校、疲れる…)


 月曜日、登校してもどこかボンヤリとしていた緋縁は開いている窓の窓枠に肘をつき手のひらに顎を乗せて外を見ていた。

「おはよう」
「あー井上くん、おはよう」
「寝不足?ぼーっとしてる」
「うーん…ちゃんと寝てるよ」
「珍しいね、朝に外見てるなんて、良いの?」
「えー?何が?」
「もうすぐ始まるよ毎朝の恒例行事」
「おはよー!多咲、井上!」

朝から元気に佐藤が声を掛けてくる。3人で窓の外を覗く。外がザワザワと騒がしくなり、人が集まっている。

「あれ?何が始まるの?」
「えぇ!?今さら?多咲知らないの??」
「多咲くんいつもは避けてたでしょ生徒会から。今から生徒会の皆さんが登校するって行事だよ」
「相変わらず井上は突っかかるねぇ生徒会に」
「別に」

緋縁達3人はこの2階から下を見ていた。井上の言い方に少し引っ掛かりを感じた。井上は洞察力が有るのだ。緋縁が必要以上に生徒会を避けているのを気付いているようだった。


『きゃーー!』『いらっしゃったよ!!』
『コウキ様~』『今日も素敵でーす』
『おはようございまーす!』


 凄い歓声でクラクラする。確かにいつもは教室の中で窓から離れた所にいる為、漏れ聞こえてくる声だけだった。しかし今は窓から顔を出しているので直接聞こえてくる。まさに黄色い声だった。

「生徒会も毎朝これ聞いてんの?」
「そうだよ、毎朝飽きもせずよく騒げるよね」
「井上は生徒会が嫌いなの?親衛隊が嫌いなの?」

佐藤がやけに聞いてくる。

「馬鹿らしいのが嫌いなだけ」
「お前それ、生徒会が馬鹿らしいって言ってね?」
「そんな事は言ってないよ」
「あ、あの人……」

緋縁は騒ぐ親衛隊の中から知っている人を見つけた。昨日のあの色っぽい人だ。

「多咲、知り合い居た?」
「親衛隊に知ってる人居るの?」

2人一緒に聞いてくる。

「あ、見かけた人がいた…だけで…親衛隊だったんだなぁって…」

咄嗟に嘘をついた。念押しされているのだ、昨日の今日でポロリと話してしまう訳にはいかない。

(あれ?なんか……雰囲気が違う…色っぽく無い)

昨日話した里葉は無表情だったのに、今は生徒会の前だからだろうかニコニコと笑顔で軽く握った手を口元に添えてきゃあきゃあ言っている。その姿はまさしく親衛隊だった。

(可愛い姿…なのかなぁ…昨日の方が印象良いのに…なんか、勿体ない…)

じーっと里葉を見てしまう。

「あんなに騒がれてるのに素っ気ない態度だなぁ」
「行ったね」
「あ、え?あ!もう居なくなってる生徒会の人達」
「多咲ー大丈夫?何見てたの?」
「ずっとぼーっとしてるよね、何かあったの?」
「へ?いや…久しぶりに、中学の時の友達に会いに行ったんだよね、疲れたのかなぁ…」

ボンヤリし過ぎだ、心の準備の為に今朝は遠目から皇輝の様子を見ようと思っていたのに、自分は何をやっているのか。<制裁>という言葉が思いのほか緋縁の心を重くしていた。

『あーぁーもぅ行っちゃったぁ~』
『でもでも、今日も近くで見れたね』
『僕はキイチ様のキリッとした姿が素敵だった~』
『コウキ様、ご機嫌だったよね!』

生徒会が校舎に入ってもなお、きゃあきゃあと騒いでいる親衛隊。

(本当に女子高みたい…)

親衛隊が浮き足立っている、そんな時に。

『森!言ったことちゃんと出来てなかったよ!』
『……ごめんなさぁい……』

名指しされた生徒が一歩前に出る。そして笑顔は絶やさずぺこりとお辞儀をする。

(あ、昨日の人だ…)

『ちゃんとしてって何時も言ってるでしょ!』
『はい、すみません…』
『もう2年なんだからしっかりしてよ!ふんっ』

「うぉ…親衛隊の中でもこぇ~。何がダメだったか俺には分からん」

注意をしている声が2階までハッキリ聞こえてくる。佐藤は素直な感想だ。
注意をした生徒が校舎に入って行くのをその場にいた親衛隊が全員で見送る。そしてバラバラと解散して行った。何となく2階から見ていた緋縁達もそのまま事の顛末を見守ってしまった。

『ね、ね、なんで隊長ってあんなに森先輩に厳しいの?森先輩何かしてた?』
『違うよ……ここだけの話、隊長って森先輩のこと気に入らないんだよ~。森先輩、地味だけど、可愛いじゃん。隊長に睨まれちゃうと親衛隊の中で当たりがキツくなるんだよ』
『あーだから、いつも1番後ろに並ばせられてるんだぁ…』
『1年は特に目立っちゃダメなんだよ』
『えぇ~気を付けよぅ』

ピーチクパーチクと陰口を聞いてしまった。3人は無言で彼らの姿が消えるまで目で追ってしまった。

「噂話を盗み聞きした気分だなぁ」
「下で話す声って上に上がるんだね…かなりハッキリ聞こえちゃったね」
「うん……」

緋縁は里葉が心配になってしまった。

(話しかけるなって言ってたよね…俺のこと心配してくれたのに…こんな事聞いちゃうと…)

余り親しくないが、何故か悔しい気分になった。


カラーンカラーン


鐘の音が聞こえ、担任が入ってくる。今日も鈴井のいい加減なホームルームが始まる。

「はーい、おはよう。欠席は……いないな。今日の連絡事項は…特に無いな、この後はー教室移動だから遅れんなよ…あ、後プリントの提出期限守るように、以上」

ガヤガヤと既に慣れたクラスの雰囲気。移動を始める者、喋りだす者、授業開始まで自由に過ごす。
職員室に帰りかけた鈴井が思い出したかのように緋縁の元までやって来た。

「多咲、昼休み前に職員室に寄ってくれ、4時間目が終わってからで良いから、頼むな」
「はい」

珍しい、緋縁に直接話しかけてくるなんて初めてだった。

(用事でもあるのかな…俺なんか間違って提出したちゃったのかも…)

「多咲、井上ー行こうぜ、次移動~」

たいして気に止めることなく佐藤の元に行く。
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